カチッ

チャッ

ジャコッ!

カチャッ

「一応、初弾は空砲にしておくのがいいだろ」

ベレッタ92FS(以下ベレッタ)の薬室に空砲を入れてから、再び弾倉に弾を込める。

元々ベレッタに入っていた空の弾倉が入っており、合計8つの弾倉に弾を込めなければいけない。

グロックやワルサーの弾倉にも一応詰めておく。

しかし、それぞれ二挺ずつなんて、お手入れが大変じゃないか!

「まぁ、使うつもりないからいいけどさ」

こんなに自動小銃があったって一人じゃ使えんし。

気分でコロコロと変えるわけにもいかんし。

そんな事を考えながら、全ての弾倉に9ミリパラベラムを詰めた。

弾の込められた弾倉を一応クリップでまとめておいて、引出しに仕舞う。

ベレッタの弾倉一つだけは先ほど空砲を入れておいたベレッタに。

一応、グロックの一挺にも入れておく。

こちらは空砲無し。

もしベレッタが手元に無い場合に使えるようにしておく。

そんな状況の時には空砲なんか入れておいたって無駄だからな。

まぁベレッタもそうなんだけどさ…。

安全装置をかけて、三つ目のワードロープからサムブレイクタイプと呼ばれる、親指一つで固定してある器具を外せるホルスターに入れておく。

グロックのほうはそのサイズの小ささもありアンクルホルスターに入れる。

こちらもサムブレイクタイプだ。

他にもショルダーホルスターやズボンのベルトにかけるベルトスライドホルスターなんてのもある。

ベルトスライドにもサイドタイプやバックタイプなんてのもあったりする。





「ったく、始めっからケースに入れておけっつぅの」

MP5やらM16をマガジンと一緒に専用ケースに入れておく。

もしもの時なんかはこれで安心。

ついでに棚に入っていた9パラなんかもワードロープに入っていた『いかにも』なバックに全て詰めておく。

一応『弾』『防具』『その他』と書いたタグをつけておく。

これで安心度さらにアップだ。

「って、この準備って『もしも』が起こった時の事を完全に想定してるよな…」

同じようにカバンにレーションを詰めながら独りごちる。

これで『非常用』と書かれたカバンは全て詰め込まれた。

一応『弾』のカバンは5つに分けられていて、中にはそれぞれミッションナイフとフラッシュライトが入っている。

凄い準備万端だ。

「もうどこからでもかかってこいって感じだな…」

全ての作業工程を終え、ベレッタを入れたホルスターのサムストラップをパチパチ外してつけてを繰り返す。

と、一つ重要な事を忘れていた。

「通学用のカバンにも、一応入れておかないとな」

そう思い立ってからの行動は早かった。

カバンの中にゴソゴソと棚から9パラの箱を二つ取り出して詰める。

その後フラッシュライトとグロックを一挺入れておく。

これで完成。

思ったより重量も増えず、ほっと一安心。

弾や銃ってのは実際結構重量があり、長く走ったりする時とかは気になるものだ。

通学用のカバンにつめた分は、まぁ9パラは置いておいてグロックは恐ろしく軽い。

だから足につけられるホルスターがあったりするわけだが。

ベレッタが単純計算で1kgだとするとグロック29は600g。

両方未装弾状態での簡単すぎるデータだが、そんなもん。

英和辞典のほうが実際重いわけだ。


「さて、これでOKかな」

腰に手を当ててベットに戻る。

で、やっぱりベレッタのサムストラップをパチパチと弄ぶ。

すると、突然ドンガチャ!と扉が開く音がした。

パチッ!

チャッ


「誰だっ!」


音に反応して振り返りながらホルスターから銃を抜き、振り返った先の目標に標準を合わせて安全装置を親指で外し、トリガーガードに人差し指をかける。

この間、実に1秒。

うむ、我ながら昔の訓練が生きているなんて素晴らしい。


「あっ、あうぅぅぅぅ〜〜〜〜」


目の前では、両手を挙げた真琴があうぅと唸って銃口とにらめっこしていた。

「なんだ、真琴か…。脅かすなっての」

再び安全装置をかけ、左手に掴んでいたホルスターに銃を仕舞う。

「おっ、驚いたのはこっちよっ!なんなのよソレはっ!」

閉まった所を見計らって、真琴が俺を怒鳴りつける。

「いや、まぁ悪かったな、真琴。今度肉まん買って来てやるから」

そう言って笑顔で真琴の頭を撫でる。

まだこの時期だったらどこのコンビニでも肉まんはあったはずだ。

「あ、あうぅ〜。…って、そ、そうじゃなくって!」

「チッ!誤魔化せなかったか…」

最近真琴にははぐらかすという手が使えなくなってきた。

恐らく天野の教えだろう。

全く、厄介な事をしてくれたものだ…。

「それでっ!一体ソレはなんなのよぅ!」

「これか?銃、ピストルだ」

真琴がいきり立って聞いてきたので簡潔に答える。

「あっ、そう」

「おう、そうだぞ」

「へぇ〜。これがピストルなんだぁ〜」

真琴は純粋な子供のような目で俺の手の中にある銃をしげしげと見る。

まぁ、この家にはモデルガンとかそういったものはないからな。

俺もそういったものを収集する趣味は無いし。

まさか本物をこんな大量に手に入れるとは思わなかったが。

「ていっ!」

「あっ!てめぇっ!」

真琴は掛け声と共に気を抜いていた俺の手からホルスターごとベレッタを奪う。

「へへ〜っ!祐一だけこれで遊ぼうと思ったって、甘いわよぅ!」

「バカッ!やめろ真琴っ!」

真琴はそんな事を言いながらホルスターごとベレッタを弄ぶ。

間違えて落したりして、もし銃口が曲がったりしたらどうする…。

「あっ、そういや試し撃ちしてないや」

この状況下でこんな事を喋ってしまった。

「へぇ〜、じゃぁ真琴が試し撃ちしてあげるわよぅ!」

「へっ?わっ、バカ野郎っ!」

俺の呟きを聞いた真琴がホルスターのサムストラップを弾き、銃を構える。

俺に向けて。

「や、やめろ真琴っ!俺を殺す気かっ!!」

「なに言ってるのよ〜っ。ど〜せこれ、商店街のオモチャ屋で買ったやつでしょ?同じのが飾ってあったわよーっ!」

「い、いや、それ本物なんだって!」

「ふんっ!ど〜せまた真琴を騙そうとしてるんでしょ!引っかからないわよ〜っ!」

真琴はそう言いながら人差し指をトリガーにかける。

「いや、だから本当に本物なんだってのっ!」

「だから騙されないって言ってるでしょ!祐一は狼少年だから騙されちゃダメよって美汐が言ってたもんっ!」

「あぁ、俺のバカ…」

普段から真琴をからかってるからこんな事態になっちゃったわけか。

確かに俺が常日頃真琴をからかわなければ真琴は俺の言うことを聞いたかもしれない。

そんな事を考えながら真琴がトリガーを絞る。

が。

「…あれ?これ引けない?」

「あ、あぁ…。それ、今は安全装置がかかってるんだ」

「あんぜんそうち〜?」

俺の説明に真琴がハテナ顔で首を傾ける。

「ほら、銃の左側にさ、親指がかけられそうな場所があるだろ?それだよ」

「あう〜?これの事?」

「あぁ、それそれ」

何も知らない真琴にとりあえず安全装置の場所を教える。

「それが上に上がっていると頭がスライドしなくて発砲できないんだ。だからそれを下に降ろすんだ。結構硬いからな」

「う、うん…。えっと、こうかな?」

カチッと音がして、ベレッタの安全装置が解除された。

「これでいいの?」

「おう、それでいつでも発砲できるぞ」

「そっか〜、ありがと〜」

真琴はそう言いながら改めて銃口をこちらに向ける。

「ゆ〜いち、かくご〜っ!」

「あぁっ!なにやってるんだ俺っ!」

「あう〜っ!そんなの知らないわよぅ〜っ!」

ついハテナ顔の真琴が可愛かったからってご丁寧に安全装置の解除の仕方を教えるとわっ!

なんてこったい!

「いっくよぉ〜っ!」

「うわぁっ!マジでやめろってっ!」

俺はどんどんとトリガーにかける指に力を込める真琴を尻目に耳を塞ぐ。

「えいっ!」

そんなお気楽な声と共に、


パーンッ!


という凄まじい炸裂音が部屋に響いた。

「あう〜っ!」

真琴は撃った衝撃で壁にドンッと背中からぶつかる。

その衝撃でベレッタを手放し、ソレは宙に浮いていた。

「やべぇっ!マジヤバイッ!」

俺は真琴よりもベレッタを優先して、床に落ちそうだったベレッタをキャッチする。

といっても、銃身は流石に触らないが。

「ったく、だからやめろと言ったんだ俺は」

キャッチした銃にセーフティロックをかけてから壁に背中を寄せている真琴を見ながらクローゼットの中に入る。

ピッ

「CODE:まこぴーのマヌケ」

「あう〜っ!一体なんなのよぅ!」

座り込んでいた真琴が立ち上がって近寄ってくる。

俺はそれを無視して三つ目のワードロープから整備用の軍手とグリスやら一式の入ったツールBOXを取り出した。

それを持って机に近づき椅子に座る。

パチッと机のライトをつけてからベレッタの分解を始めた。

「全く。多分じいさんや教官が買ってすぐ整備してくれたんだろうがな、いくら空砲だからってむやみやたらに撃つんじゃねぇっつぅの」

独りでブツブツと喋りながら全てバラす。

そして部品にヒビや汚れがないかチェックをして、オイルなどを塗り直して再び戻す。

カチャカチャ

「あっ、空砲入れないと」

組み立て終わったベレッタに再びセーフティをかけてから、空砲をカバンから取り、それをベレッタに詰める。



カシャン

「よし、これで終わりっと」

空砲が薬室に入ったのを確認してからセーフティをかけてホルスターへ仕舞う。

整備キットをまとめてワードロープに仕舞ってクローゼットから出てくると、机の上のベレッタを真琴がしげしげと見ていた。

「ハウスッ!」

ぽかっ

「あう〜っ!」

真琴は頭を押さえながらベットの上に駆け上がり座り込む。

「痛いじゃないのよぅ!」

「痛くしたんだから痛いに決まってるだろうが」

ベレッタを真琴に見つからないよう机の引出しに仕舞う。

「それで、お前何の用で部屋に来たんだよ」

「あうっ、忘れてた。秋子さんがご飯だって!」

「何っ、もうそんな時間かっ!」

真琴の言葉にガバッと机に振り返り、時計を見る。

時刻は17:30を少し過ぎた時間。

「まだこんな時間じゃないか…」

「今日はみんなのかんげいパーティーなのよぅ!」

俺が時計を見てぼやくと、真琴が目の前で立ち上がり人差し指でズビシッ、と俺を刺した。

「いてぇじゃねぇかよっ!そういうのはもっと離れてやれっ!」

頬に思い切り刺さる指を掴んで外して言う。

「あぁっ、ごめんっ。間違えた〜」

真琴は思いっきり反省の伺えない笑顔で俺に謝る。

「ほぉ〜、お前は反省してるのか?してるのかぁ!?」

「いひゃっ!いひゃいひゃないほよぉ〜っ!」

ほっぺたを思い切り両手で摘んでグリグリと動かす。

「あぁ〜ん?なにを言ってるのかわからんのぉ〜」

「いひゃいっ!いひゃいってゆっへふのほぉ〜っ!」

「あぁ〜ん?なんだってぇ〜?」

「ひゃはらっ!いひゃいっへぇ〜〜〜〜っ!!」

段々と涙目になっていく真琴を見ながら頬を摘んでグリグリと動かす。

ある程度いじめた所で許してやる事にした。

「で?なんだって?」

「あうーっ!痛いじゃないのよーっ!」

「あぁ〜ん?なんだってぇ〜?」

「ご…、ごめんなさい」

ジト目で睨んで問い質した俺から逃げるように身を引き、真琴は両頬を押さえながら謝った。

「うむ、お前もようやく反省という事を理解したか。やはり世の中平和的な話し合いが一番だなぁ」

「あうぅ、今のは話し合いじゃなかった…」

「まぁそう言うな。いいものやるから」

俺はそう言いながら真琴の頭をポンポンと叩く。

「い〜もの?なになにっ?」

真琴の機嫌はこれですぐに治った。

さすがはまこぴー。

「まぁ少し待ってろ」

俺はそう言いながらクローゼットへ入ってカバンの中を漁る。

ゴソゴソゴソ

「おっ、あったあった」

レーションが入ったカバンの中から、一つの缶を取り出す。

「ほれっ、受け取れ」

俺はポイッとそれを真琴に投げる。

真琴は多少慌てながらそれを両手でキャッチした。

「あう〜?なにこれ?」

「それはレーションと言ってな、携帯用の食事だ。その缶にはチョコレートが入っている」

ちなみに真琴に渡したのは某ゲームで出ていたレーションだ。

缶のタイトルがゲームのタイトルになっている。

多分シャレのつもりで入れたんだろうが。

中身はチョコレート四袋。

彼はこんなものを食べて体力回復を図っていたのかと思うと涙が出てくる。

「わーいっ!ちょこれ〜とぉ〜♪」

俺の彼を思う思考にも気付かず、真琴はカパッと缶を開ける。

「貴様ぁっ!ス○ークの辛さを知らないからそんな軽軽しく食べようとできるんだぁ〜っ!!」

「あう〜っ!何ワケのワカラナイ事言ってるのよぉーっ!」

彼を想い涙ながらに怒鳴った俺にビビリながら、真琴は缶を閉める。

「もうっ!後で食べるわよぅ!ご飯入らなくなっちゃうかもしれないしっ!」

「あぁ、そういやそうだな」

缶を片手にプンプンと頬を膨らませる真琴を無視して俺は部屋の出口へと向かった。

「あうぅ?どこいくの祐一」

「どこって、リビングだよ。今ご飯の準備してるんだろ?」

「あっ!忘れてたーっ!」



あっさりと忘れる真琴に頭を悩ませながら、俺は廊下へと出て行った。






ねくすと。