「まっ、まさか、親父…」

俺は一つ思い出した事がある。



そう、あれは確か五ヶ月前……。



(回想中)

『祐一、お前またソレやってんのか』

『何言ってんだ。父さんだって暇さえあればやりたがろうだろうが』

『まぁ、な。男はこういうモノに憧れるものだ』

父さんと二人で、TVゲームの画面を見ながら会話をした。

そのゲームは『バ○オ○ザ○ド』

『実際には、こんなもん街中で発砲したら掴まっちまうからな』

『いや、そりゃそうだろうが』

『だがよ、ほら。毎年高校入るまで行ってたじゃねぇか、じいさんの所』

『あぁ…。別荘な』

『あそこじゃガンガン撃ってたしな』

『俺は撃ってたというより撃たされてたという感が強いんだがな』

ソンビをわざとパイソンではなくベレッタでパンパン撃って倒していく。

この、弾数を多くして撃つ爽快感が俺は好きだ。

『はっはっはっ、あの時はお前も楽しそうだったじゃねぇか』

『あぁ…。血反吐吐きながら特殊訓練まがいの事をされてな』

実際、じいさんの別荘へ行って楽しく過ごした覚えはあまり無かった。

『山ごもりだー!』と横のオッサンとじいさんに突然言われて銃とナイフをカバンに詰めて一ヶ月さ迷い歩いた記憶がある。

あの時は、ショットガンやら短機関銃を使って熊や鹿を撃ち殺し、ヘビやカエルをナイフで切り殺して食べていたような。

どんどん野生児のようになる俺を見てじいさんと父さんは『年々逞しくなっていくなー』なんて爽やかに笑っていやがった。

あぁ、思い出すと凄く殺意の波動に目覚めたくなる。

『しかし、まぁいい経験だっただろ?あれはあれで』

『まぁ、普通じゃできねぇ体験だったろうしな…』

この年で銃ぶっ放しながら熊狩って生活してた人間なんてそういないだろ。

『実際、こんだけ好き放題撃てたらいいだろうな』

『そうだなぁ。なんかこういう銃とかって、映画とかでも見るがすげぇかっこいいしな。欲しいよなぁ、銃』

(回想終了)









「あぁ…。『かっこいい』とか『欲しい』とか言ってるよ、俺…」

五ヶ月前を回想して当時の自分の発言を思いっきり悔んだ。

なんてバカな事を言ったんだ俺。

相手はバカなんだから、そんな不用意な発言しちゃダメだろ、俺…。

「――と、とにかく。今はこれをどうするか」

手に持った黒光りする自動拳銃を元の場所に戻しながら改めて中を見る。

「…おっ、これはグロックの26じゃないか」

名前の書かれたプレートを読みながら再び手に取る。

これもいろんな映画やゲームに出てる自動拳銃だ。

「おぉ、こっちはワルサーのP99…」

何か、全部ゲームやら映画で見たことあるような自動拳銃ばかりだった。

「しかし、なぜ全て二挺あるんだ?」

まぁ、細かい事は余り気にしないようにしよう。

「しかしこれ、全部ホンモノかよ…」

壁にかかっている存在感のあるもの達を眺めながら呟く。

と、ワードロープの下を見ると、引き出しになっているのが判った。

少ししゃがみこんでその引出しを見る。

「…こっちには、何が入ってるのかな」

怖さ半分、ワクワク感半分で引き出しを開ける。

スーッ

と音を立てて出たモノは、流石じいさんと呼べるモノだった。

「なんつったっけ、これ…。『9ミリパラベラム』だったか?」

過去に身体に染み込まされた知識の糸を紐解く。

確かこれは、一般的な自動小銃でよく使われる大きさの弾だ。

弾にも種類があって、この引出しに入っていたのは『フルメタルジャケット』と呼ばれる貫通力に優れるが殺傷能力は低いタイプだ。

他にもホローポイント弾なんてのもあるが、これは国際法だかで紛争やらに使用するのは禁止らしい。

そういう事もあって、ポピュラーな9ミリパラベラムの中でもフルメタルジャケットの弾丸が最もポピュラーな弾丸と言える、らしい。

「え〜っと、マガジンは、っと」

9ミリパラベラムの入った引出しの下に、マガジンはあっさりと見つかった。

それぞれ名前の書かれたクリアケースの中に6つずつ。

「…テロでも起こせっていうのか?じいさんは」

一つ一つクリアケースを確認してから引出しを戻す。

続いて、一番下の引き出しを開ける。

「?…なんだこれ?」

そこにあったのは、何冊かの本。

本の中身は自動拳銃の分解方法やお手入れの方法やらがびっしりと書いてあった。

また、弾が切れた時の連絡先やら何やらも一緒に書いてあった。

「…こんだけ弾あんのに切れる心配あんのかよ」

この部屋が火事になったら間違いなく吹っ飛ぶと思われる数の弾薬がある。

それを全て使い切るような事態にはならないだろ、日本じゃ。

「ここを紛争地帯か何かと勘違いしてるんじゃないだろうな」

パラッと斜め読みをして本を閉じて引き出しを閉める。

「…隣には、何が入ってるのかね」

自分で言って戦々恐々としながら、隣のワードロープを見据えた。








「スー…、ハァー…。うし、いくぞ」

深呼吸して気合を入れて、金属パネルに指を置く。

『ピッ』と音が鳴った後で暗証コードを入力。

「CODE:べんべろべろにか」

再び『ピッ』と機械音が鳴った後、先ほどと同じようにプシューとエアーを吐き出しながらワードロープが開いた。

「……他の言葉でもいいんじゃねぇかよ」

ちょっとしたじいさんのおちゃめにゲンナリしながら中を覗き見る。



「………本格的な、戦争準備ですか」



そこに並び、立てかけられていたのは短機関銃。

「これ、確か○イオで出てたよな…」

ラックに立てかけられたやつを一つ取り出し、手に持つ。

プレートには『H&K MP5A5』と書かれていた。

その横には『H&K MP5K』と書かれた小さな短機関銃。

「こいつは、最近映画で見たな…」

多分じいさんは、俺がどっかで見たことあるようなものしか送ってきてないんだろう。

名前は知らないがどこかで見たことだけは確かにある。

「こ、これ…、スポーンて下から出てドカーンてなるやつじゃねぇか…」

震えながら見た先には、『M16A2とM203セット』と書かれたモノがあった。

よく映画でガガガガッと乱射した後に下のをガコンを引くとスポーンと何かが下から出てドッカーンと大爆発を起こすアレだ。

こういうのを『大量殺戮兵器』って言うんじゃないのか?

「こ、こえぇ…」

映画で車がボッカンボッカン爆発してるシーンを思い出し勝手に震える。

こんなもん家にあったら落ち着けないじゃないか。

その横には『レミントン M870P』と書かれた散弾銃。

これもバ○オで見たなぁ。

そのまま震える指でワードロープの下の引き出しを開ける。

こっちのワードロープの引き出しは二つだけのようだ。

下の段が何となく大きいのが気になるが。

とりあえず、上の段を開ける。

スーッ

開けて出てきたのは、やはり薬莢付きの弾。

これもホンモノの銃でした。

こっちの場合は二種類の弾が入っていた。

一つはさっきのワードロープにも入っていた9ミリパラベラム。

もう一つは.223と呼ばれる弾丸。

これは9ミリパラベラムよりも重量が2gから3g程度軽い弾だ。

確かこっちはM16の弾だったはず。

まぁ、だからなんだという話なんだが。

「…さて、下の棚には、っと」

弾薬の入っていた引き出しを閉め、下の棚の扉を開ける。

カチャ

「…えぇっと、これは散弾か」

まず見えたのが、ショットガンの弾。

確かコイツの弾は12番と呼ばれるものだ。

ショットガンの場合、口径を表す数が大きければ大きいほど小さくなる、と思った。

このレミントンの場合は12番で、最もポピュラーな散弾銃になる。

まぁ、映画やら何やらでよく使われているし、有名なのは間違いない。

中には散弾が入っていると思われる箱が大体12箱。

ふつ〜に紙のケースに入ってる。

「しかし、こんなにあったって使わないだろ、マジで…」

俺は狩猟とかで生計を立てているワケじゃないし、そんな趣味もない。

「まぁ、じいさんだから」

あっさりと言い放って次を見る。

隣にあったのはマガジン。

MP5、MP5K、M16で使うバナナのように反りが入っているマガジンが三つずつ。

「いや、だから…。戦争でもしろってか?」

この三つともマガジンには30発まで装填可能なシロモノだ。

これ全部持って、全部に弾込めれば合計270発の弾を撃てる事になる。

その奥には、M16にくっついていたグレネード用の弾。

こっちには和紙が貼ってあって、『全てゴム弾』と達筆で書かれている。

「ギリギリのラインで良識を弁えていたんだな、じいさん」

ホンモノのグレネード弾が入ってなくて安心した。

これももし本物だったらと思うとゾッとする。

パタンと弾薬とマガジンの入っていた棚を閉めて立ち上がる。

「……まさか、隣はこれ以上の殺戮兵器じゃねぇだろうなぁ」

額に脂汗を滲ませながら、一番最後のワードロープに歩み寄った。






『ピッ』と鳴った機械音の後に暗証を言う。

「CODE:『俺のこの手が真っ赤に萌える!勝利を掴めと轟き叫ぶ!くらえぇ!ひっさぁぁつ!ばぁぁぁくねぇぇ』」

ピッ

プシュー

モーションに入って後は手をガバッと前に突き出すだけだったのだが、それを待たずに扉は開いてしまった。

「………北川のモノマネでも開くのか」

ヤツは先日俺にこれをやろうとして、アイアンクローを極める前に俺の熱い拳で葬ってやった。

「…あの時のお前の気持ち、なんとなく判ったよ」

クローゼットの天上を見上げながら、今は亡き北川を思い涙する。

死んでないけどな、北川。

「さて、こっちの中身はなんでしょか」

一人で勝手に盛り上がって物語を自己完結してから中を覗き見る。

「おぉっ!これはマトモじゃないか!」

中を見て、もの凄く安心した。

中に入っているのは、防弾・防刃ベストに防弾ヘルメット、ゴーグル、迷彩色のツナギ。

あと革の手袋やら硬そうなブーツにポケットが一杯あるベストにホルスターetc…。

『これでアナタも特殊戦闘員♪セット』と名前を付けて売り出したいほどあった。

「こりゃ凄いな…」

中を改めて見て呟く。

「おっ、このグローブかっこいい」

手にとったのは手の甲に当たる部分にバックルがついている革のグローブ。

それを早速手にはめてみる。

パチンッ

手首の手前で止められるようになっており、手首を固定されない。

指も外に出るようになっていて、何の支障もない。

はめてから手を開いたり閉じたり。

「……ヤバイ、かっこいいなこれ」

こいつは持ち歩くようにしよう、なんとなく。

「上はこんなもんかな」

グローブをはめたまま下の引き出しを開ける。

スーッ

「なんだこれ、プラスチックケース」

引き出しを開けると、80cm四方のプラスチックケースが出てきた。

それを取り出しパカッと開ける。

「ゲッ!でっけぇナイフ…」

中に入っていたのは、ナックルガードというか、メリケンサックというか、そういうのが柄の部分についた大型のファイティングナイフ。

刃渡り40cmほどはある。

「っと、手紙か」

蓋を開けてパラッと落ちた紙を開く。



『夢の特殊金属オリ○ル○ンとの合金で作ったなんでも切れちゃうナイフ!専用ケースに入れて携帯してね♪ アー○ム財団』



なんて書いてあった。

とりあえずビリビリに破く。

「まさか、可愛い孫をス○リ○ンにさせるつもりじゃねぇだろうな、じいさん」

それだったら、昔のサバイバル生活や戦闘訓練も納得できるが。

「って納得できちゃダメじゃねぇかよっ!」

一人悶えながら吼える。

まぁ、そうなったらそうなったでここにある火器を使ってどうにかするしか…。

「なんか、アブナイ思考になってるな、俺…」

どんどん思考が鈍ってきてもうどうしようもない。

ファイティングナイフをとりあえず取り出す。

刃物部分には既に専用ケースが被さっていて、安全だ。

「これ、とりあえず入れとくか」

一度取り出してからまた元のプラスチックケースに閉まって引き出しを閉める。

「さて、次、次っと」

気を取り直すように口に出しながら、二段目を開ける。

スーッ

「…なんだこの紙?」

中には一枚の紙だけが入っていた。

それを取り出して読む。



『心ある者たちよ、過去からの伝言を伝えたい。この惑星には多種の文明があった… だがそれはまもなく全て滅び』



「やっぱりス○リ○ンなのかっ!?そうなのかじいさんっ!?」

途中まで読んで再びビリビリに破く。

足元は二枚の紙の残骸だらけだ。

後で掃除しなきゃなぁ…。

「はぁ…、次の段はどうかまともでありますように」

最後の段を開ける。

スーッ

「ん?…9ミリパラベラム?」

中に入っていたのは9パラと似たような弾丸。

だが、ケースを見てみると『ペイント弾』と書いてあった。

「…実銃でペイント弾撃ったって痛いだろ」

まぁ怪我はしないかもしれないが、内出血は確実に起こすだろうな。

目なんかに当たったら失明間違いなしだ。

「まぁ、あれか。安全配慮なのか?一応」

その他には空砲になっているものが数発入っていた。

「空砲か。ここらへんは一応感謝しておくか」

とりあえず、なにかの時には日本だったら何とかなるだろ。

ここは銃社会じゃないし。

「あとは…、また手紙か」

はぁ〜と深い溜息をつきながら手紙を読む。


『祐一、元気か。じいちゃんだ。』


自分でじいちゃんとか言うなよ。


『今回送ったのは、お前のリクエストとじいちゃんとバカ息子の趣味満載の品々だ。』


「…確かに、趣味満載だな」


『実際に、あんなゲームみたいな状況になったら日本じゃどうにもできんからな。どうにかできるようにしてやったわけだ。』


「ならねぇよ」


『それに最近は俺とバカ息子を狙う人間も出てきておる。まぁ親族関係の人間が雇ったやつだったり、黒社会の人間だったりと、様々だが。』


「おいおい…、そんな話聞いた事無いぞ」


『お前には昔から訓練を積ませたわけだから、多少はなんとかなると思う。』


「…なにそれ?俺も狙われるって事?」


『自分の身は自分で守れ。まぁなんとかなるだろう。』


「てきと〜だな、じいさんよ…」


『来月、俺の友達のアー○ム財団からA・Mスーツというのが送られるから、それさえ来ればお前は人間大量破壊兵器。』


「どういう意味だおいっ!」


『という訳で、頑張れよ。』


「…頑張れよ、じゃねぇだろ」


『P.S 夏休みにはじいちゃんの別荘に来い。これは命令だ。』


「…てきと〜すぎんだろ、じいさん」


読みながら歩いてベットに寝転がって考える。

じいさんや親父が実は命を狙われている事が判明した。

内容だけ読むと、財産が欲しい親族関係の人間や、仕事の邪魔をされた黒社会、マフィアやら何やらの人間だと言う。

「…殺し屋とか、実際に居るのかねぇ」

見たことも会った事もないからわからんが、実際命を狙われたと言っているじいさんが言うんなら居るんだろう。

「現実感に乏しい話だ、全く」

そんな事を考えながら、ベットから立ち上がり再びクローゼットに歩み寄る。



「…とりあえず、マガジンに弾込めとくか」




ねくすと。