「…で、何故お前はこの教室に居る、杉並」

「何、我が同志朝倉を迎えに来てみれば同じく我が同志相沢がいるではないかっ!これぞ運命!」

「いつからお前は非公式新聞部に入ったんだ?純一」

「いや、お前こそ入ってるんだろ、祐一」

「何、再び同志三人が集まった所で、新たな計画を発動させようではないかっ!だが、その前に一応大佐に報告を」

「その計画に俺を組み込むな、というか大佐に報告するな!」

「ふっ、そう恥かしがるな相沢。大佐もお喜びになる」

「っていうか大佐は俺の事知ってるのかっ!」

「無論、ちなみに朝倉の事も把握済みだ」

「俺もかよっ!」

「我が同胞として、大佐は快く迎え入れてくれるそうだ。滅多に無い光栄な事だぞ」

俺達二人は大佐に痛く気に入られているようだ。




「…で、この人は誰なの?祐一」

いきなりのハイテンションな杉並を無視して、名雪が声をかけてくる。

「なにっ!祐一となっ!…相沢、とうとうお前にも年貢の納め時が」

「来てない来てない、ていうか使い方間違えてるだろ。こいつは唯の俺の従姉妹だ」

知ってていやらしく言う杉並に、俺は手をプラプラ振って返事を返す。

何故か名雪が不機嫌にう〜う〜唸りだしたが気にすると限が無いのでスルー。

「で、だ。こいつは杉並。風見学園の学年主席にして盗聴、盗難なんでもござれの大悪党だ」

「勘違いするな、相沢。俺は盗みなんてものは働かないぞ」

「非公式新聞部が試験期間に張り出す問題用紙は一体なんだ」

「あれは潜入してコピーしただけだ。盗難などではない」

「どちらにしても、れっきとした犯罪行為じゃないですか」

「俺がやったという証拠はあるのか?朝倉妹よ」

「くぅっ・・・」

してやったりとした杉並の笑顔に、音夢が苦渋の声を漏らす。

「あ〜、はいはい。もうそれはいいから。まぁ、こういう奴だ」

「…なんとなく、分かったわ」

香里が苦笑を浮べながらそんな事を言った。

「だがまぁ、これで同志三人が集まったんだ。折角だからいろいろと企画を行おうではないか、昨年のように」

「その時は、断固阻止させて頂きますので」

杉並の言葉に、音夢はこちらに笑顔を向けながら凄んだ。

「…そこで俺達を見るなよ」

「クリスマスパーティーの時、杉並君と画策したのはどこの兄さんでしたっけ?」

「…アレは半分巻き込まれたようなもんだ、と思う。なぁ祐一」

「まぁ…、多分、な」

二人して面白がっていたのは本当だし、作戦に参加した実行犯だったのも本当だが、な。

「あの時、どれだけの人間が被害を被ったか…」

薄暗い笑顔を浮べながら、音夢はぶつぶつと呟いた。

「あ、ははは…」

その被害者の一人、白河ことり嬢も苦笑いを浮べていた。





ガラッ

「失礼、風見学園の生徒さんが、こちらの教室にも居ると伺ったのだが…」

唐突に教室の扉が開かれたと思ったら、廊下から現生徒会・会長、久瀬が教室に入って来た。

「おい…、誰だ?あいつ」

「あぁ、あいつは生徒会長の久瀬だ」

俺がこの学校で顔を見たくない人間NO.1だ。

未だに舞の事や佐祐理さんの事で生徒会との確執は続いていたりする。

「ほぅ、アレがこの学校の生徒会長か。なんとなくイヤ〜な感じではあるな」

杉並の指摘に、純一が同意する。

まぁ、俺もあいつは好きじゃないけどな。

何て言うか、支配欲が強すぎるんだよな、あいつ。

「あっ、はい。こちらですが、何か?」

俺達三人の小声でのやり取りを聞いていなかった音夢が、久瀬へ呼びかける。

すると、久瀬はお供の役員二名を連れて教室の中へと入ってくる。

廊下では、召集されたであろう、風見学園の生徒がこちらを眺めている。

「どうも、初めまして。私は生徒会長の久瀬です。こちらは書記の西野君と橘田君です。
 
 それで、我々は生徒会として交換交流生である風見学園の方々に学内の案内をしようと思ったのですが」

そう言って、久瀬はチラリと周りを見る。

「おっ、美坂さん。もう風見学園の生徒さんとお友達に?」

「…えぇ、一応ね」

香里はそう言うとプイ、と顔を背ける。

現状、学年主席であり、公私共に人気の高い香里を先に押さえようとするやり方は賢いだろう。

やり方が好きではないが。

「どうですか?ご一緒にお友達に学内の案内を」

「いえ、遠慮するわ。もうすぐ部活に行かなきゃいけないのよ」

香里の素っ気無い態度に、久瀬は苦笑を浮べる。

すると、そのまま音夢に向き直った。

「では、学内の案内としますので、ご一緒頂けますか?」

善意の無料奉仕のような偽善者チックな笑顔で久瀬は笑いかけた。

「そうですね…、そうしましょうか?兄さん」

音夢は一瞬思案に入ってから、純一へと視線を向ける。

「いや、別に生徒会の案内は必要ないだろ、かったるい」

その半分ぐらい分かっていたであろう返事に、音夢とことりが苦笑を浮べる。

「ですが兄さん。折角のご好意ですし」

偽善者モード全開の音夢が、久瀬を立てようと再び純一に声をかける。

「いや、かったるいもんはかったるいんだ。それに案内役なら、ここにコイツがいる」

そう言って、純一はおもむろに俺の肩に手を置いた。

「…俺を巻き込むな純一」

「いや、実際生徒会なんていうのに案内されるよりお前に案内されたほうが遥かにマシだ。

 風見で言えば、中央委員会、もしくは風紀委員会の人間に囲まれて案内される事になる」

……なるほど、確かに嫌だ。

「それは、勘弁願いたいものだな」

正しく想像できた杉並も、俺と同意見のようだ。

「…それは、どういう事でしょうか?兄さん達?」

「ちょっと、聞き捨てならない所があるんじゃないかな〜?朝倉君」

元・風紀委員会、中央委員会のお嬢様方両名が笑顔で凄む。

「…いや、お前等が、という事じゃなくてだな。その、両委員会の人間が、だな」

「ふふ、冗談ですよ。という訳で、申し訳ありませんが、私達は不参加、という事でよろしくお願いします」

「…そうですか。残念ですが、仕方がありませんね」

久瀬はそう言ってから、一瞬俺をチラッと見る。

「ところで、みなさん相沢君とは面識が?」

「えぇ。相沢君はこちらに転校してくる前は、風見学園に通っていたんですよ」

「まぁ、いろいろな意味で有名でしたね、祐兄さんも」

ことりの言葉に、音夢がいろいろな意味での追い討ちをかける。

「そうでしたか…。では、失礼します」

久瀬は一旦礼をして、俺を睨んでから教室を去っていった。

「あぁ、アレはダメだな。支配欲が強すぎる。なれても精々中ボスだ」

去っていく久瀬に、杉並が辛酸な言葉を吐いた。

まぁ、確かにそうかもな。

「うにゃ〜、あの人なんか嫌な感じだったね〜」

「…お前、あいつのクラスの授業も受け持つんだろうが」

「そういえばそうだったね〜。うみゅ〜、ちょっと心配かな」

全然心配そうじゃない顔で言われても、何の説得力も無いな。



ガラッ

「音夢〜、生徒会の案内、行かないの?」

久瀬と入れ替わるように、一人の女子生徒が教室に入って来た。

「ちょ、ちょっと眞子ちゃん。声が大きいですよ…」

その後ろに、もう一人女子生徒がついて入ってくる。

「あっ、眞子。うん、いろいろとあってね」

音夢はそう言いながら、入って来た眞子に苦笑を返す。

「ふ〜ん、あっ、杉並。あんたこんな所に居たのっ!?いきなり教室抜け出してどこいったか…」

眞子は杉並に詰め寄りながら言葉を続け、俺の顔を見ると動かなくなった。

「眞子ちゃん…?どうかしたの…、あぁっ」

後ろから眞子を追ってきたもう一人の生徒も、俺の顔を見て驚く。

というか、彼女までここに居るのは正直驚いた。

「…よう、眞子、鷺澤さん」

俺はこちらを見て驚いている二人に、シュタっと手を挙げて挨拶をする。

「あっえっと…。久し振りですね、相沢君」

「おう、鷺澤さんも、元気そうだな」

「えぇっ、お陰さまで元気ですよ。元気じゃないとついていけませんから」

そう言って、俺の隣に居る純一をいたずらっ子のような目で見る。

「ぐあっ。俺と一緒だとそんなに疲れるか、美咲」

「えぇ、純一君は元気すぎますからね」

ちょっと拗ねた純一の口調に、鷺澤さんはクスッと笑って返す。

良家のお嬢様らしい、可愛らしい笑い方だ。

だが…。

「はぁ…、なんだか暑くないですか?ことり」

「えぇ、そういえば気温が一気に上昇したみたいですね、さくらちゃん」

「ホントだね〜。はぁ〜、暑いよぉ〜お兄ちゃん」

「まぁ、三人の意見には同意だ、な?杉並」

「うむ、全くだ。月刊ヌーでも読んでクールダウンしなければ」

二人のやり取りに、思いっきり冷や水を浴びせる。

「ぐぅっ、おい、美咲。何か言ってやってくれ…」

「えぇっ、そんな、私に言わないでくださいよぉ〜」

そのやり取りが周囲の気温を上昇させる原因となっているのに、コイツらときたら…。

「はぁ、ほっときましょう?祐兄さん」

「そうだな。それより…、お〜い、眞子?」

「あっ、あんたなんでここにいるのっ!?」

今までツチノコ大発見とばかりに目を丸くしてフリーズしていた眞子が、俺の呼びかけにやっと還ってきた。

「おぉ、生きてたか。萌先輩のように寝たまま立っているのかと思ったぞ」

「お姉ちゃんのアレは特異能力なのよ。…で、なんで相沢がいるわけ?」

「それは違うぞ眞子。俺が居るここにお前達が来たんだ」

「どっちでもいいから答えなさいよ」

俺の口八丁も、眞子には通じなかった。

「…流石、水越眞子、だな」

「うるさい、杉並」

「ぶべはっ!?」

俺が杉並の言葉に同意しようとした所へ、眞子が痛烈な一撃を加えた。

一瞬拳に炎が燈ったように見えたのは気のせいだろう。

「いや、だからな。俺が去年風見から転校してきて、その転入先の学校がここだったわけだ」

「なんだ、それならそうと言いなさいよ」

「はい、すいませんでした」

半目で睨む眞子に、俺は軽く謝罪を述べる。

こうなると、後が怖いからな…。

「ふ〜ん、なるほどなるほど。相沢がいるんだったら、音夢達が生徒会の案内に付いていかないわけだ。

 じゃ、ちょっと待ってて、他の子達も連れてきちゃっていいよね」

「えっ?えっと…、どうします?祐兄さん」

眞子の言葉に音夢が俺に意見を求める。

「ん…、まぁ、そうだなぁ。いいんじゃないか?どうせ案内するの俺だし」

「だ、そうですよ、眞子」

「うん、じゃぁ呼んでくるから、ちょっと待ってて」

そう言って、眞子は廊下へと飛び出していった。

「相変わらず、シャキシャキしてるなぁ眞子は」

「うむ、とてもあの水越姉嬢の妹とは思えんな」

「相沢君はともかく、杉並君のはちょっと誉めてないよねぇ」

「何をっ!水越姉はあのボケボケっぷりがたまらんと、一部のコアなファンを独占しているんだぞっ!」

「まぁ、その気持ちはなんとなく分かるがな」

「おや、純一君は萌先輩も萌えポイントなんですか。どうしますか?鷺澤さん」

「えっ、いや、どうしますって言われても…」

「…スマン、忘れてくれ」

「うむ、今のは少し人選を誤ったようだな、相沢。ここは朝倉妹に回すべき所だった」

「あの…、いい加減、私達も会話に参加させてくれないかしら?」

気付けば、香里が俺の事を睨んでいた。

…ヤバイ、すっかり忘れてた。







「で、とりあえず。そちらの方は?」

香里が鷺澤さんを見て、俺に説明を求めた。

というか、ちょっと目が怖いぞ、香里さん。

「えっ…、あ、あの…。わ、私何か悪い事でも…」

「あっ!いや、何でもないんだ鷺澤さん。ほら、香里。あんま人を睨むな。鷺澤さんは人見知りする人なんだよ」

「えっ、あ、ごめんなさい。私が悪かったわ」

香里を見てすっかり脅えてしまった鷺澤さんに、香里が頭を下げた。

「いえ、こちらこそ、すいません。その…、私、人付き合いというか、なんとなくそういうのが不慣れで…」

鷺澤さんはそう言うと、自分も頭を下げてから、自己紹介を始めた。

「私は、鷺澤美咲と申します。その、朝倉純一君とは、えっと…」

自分で言い出しながら、鷺澤さんは一人で顔を赤くさせていく。

なんつ〜か、こういう所が好きなんだろうな、純一は。

俺も好きだけど。

「まぁ、鷺澤さんは純一の彼女って事だ。な?純一」

「そ、そこで俺に振るのか、お前…」

「うむ、今のは見事な振り方だったな、相沢」

「フッ、伊達にこの道で臭い飯食ってないぞ」

「臭い飯って、刑務所で食べるご飯の事だよ?お兄ちゃん」

俺のボケに、さくらが素ボケで返しやがった。

「…くっ、杉並!何とか言ってやってくれっ!」

「いや、芳乃嬢は俺でも抑えられん、イレギュラーだ。諦めろ」

「杉並にここまで言わせるとは、さくらんぼ、侮りがたし!」

「はいはい、コントはもういいですから」

「くぅっ!ことりぃ!音夢が冷たいぞぉっ!」

「わわっ!こっちに振らないでくださいよぉ〜!」

「おぉ、今のは鮮やかだ、相沢」

「祐兄さんも、杉並君も、いい加減にしましょうねぇ?」

音夢が俺達を見て、思いっきり凄んできた。

俺達がこんな事している間に、あちらの美坂チームは既に自己紹介を終わらせていたようだ。

と、こんないいタイミングで。


ガラッ


と、教室のドアが開いた。


「相沢っ!とりあえず二年生だけだけど、連れてきちゃった」

五、六人の生徒を引き連れて、眞子が廊下から声をかけてきた。

「んじゃ、ま。行きますか」

「えぇ、そうしましょうか」

教室の後ろでダベっていた俺達は、とりあえず廊下で出る事にした。

と、その前に。

「なぁ、名雪達は、どうする?」

そう言って、俺は名雪達に声をかける。

「えっ、う〜ん。今日は部活があるんだよぉ〜」

「スマン、俺も今日はこれからバイトだ」

「そっか…、北川と名雪はダメ、と。香里も確か部活なんだよな?」

「あら、私そんな事言ったっけ?」

しれっと、香里はそんな事を言って来た。

「香里、お前…」

「当然の手段よ。私も行くわ、一応相沢君よりこの学校には詳しいはずだから。

 ついでに、あゆちゃんにも案内しないといけないからね」

「あー、そっか。あゆも編入したてなんだよな」

「うんっ。正確にはこの間の登校日だったけどねっ」

「あぁ、みんなゴタついてて案内できなかったんだっけ」

「そういう事で、私はあゆちゃんの案内を引き受けたのよ」

「んじゃ、二人は一緒に行くって事で。名雪、北川、またな」

「うん、また家でね〜」

「おう、また明日な」

「あゆちゃん、行きましょう」

「うん、バイバイ、名雪さん、北川君」



名雪と北川に別れを告げてから、俺達は廊下へと出て行った。




ねくすと。