「コラッ!そこっ!煩いぞっ!」

思いっきり吼えたため、副担任から思いっきり注意されてしまった。

「うにゃ〜、煩いよ〜、そこ〜…、あれ?」

思いっきり吼えたため、当然目立つわけで。

「…おぉっ?」

「あぁっ!?」

「おぉ〜っ!」

早々に、交換交流の生徒どもにもバレました、ハイ。










「うにゃぁ〜っ!?おにいちゃ〜んっ!?」

こちらに気付いた新担任が、思いっきり笑顔でこちらに走ってくる…


グイッ


…のを、横に立っていた女子生徒に首根っこ掴まれて止められた。

「芳野先生、ちゃ〜んと私達の紹介しないとダメじゃないですか〜」

「えぇ〜っ!いいじゃん音夢ちゃんっ!?お兄ちゃんだよっ!お兄ちゃんがいるんだよっ!」

「先生、いいから早く私達の紹介をしてくださいね?」

笑顔で首根っこひっ掴まえながら凄む。かなり怖い。

「うぅっ、音夢ちゃん…。わ、わかったから放して」

「はい、それではお願いします」

一転して男ならコロッと落ちてしまいそうな笑顔で微笑む女子生徒。

「じゃ、まずは音夢ちゃんからっ!?」

やたらちっちゃい新担任は、そう言って自分を捕まえていた女子生徒に回した。



「はい。え〜っ、コホン。初めまして、交換交流で来ました、朝倉音夢です。卒業まで、よろしくおねがい致します」



鈴のなるような声で挨拶をして、しずしずと頭を下げてから先ほども発揮されたコロッといきそうな笑顔を向ける。

当然、


『ウオォォォォォォッ!』


こうなるわけで。

「じゃぁ次っ!ことりちゃんっ!」

続いて、その隣の女子生徒へと回す。


「えっと、初めまして。同じく交換交流で来ました、白河ことりです。一生懸命、頑張るっす」

なんていうか、綺麗な声で自己紹介をして、見た目でも綺麗さが発揮された笑顔を振り撒きながら、フランクな挨拶。

これも当然


『ウオォォォォォォォッ!』


こうなる。

「じゃぁ次っ!お兄ちゃ…、じゃなくって、純一君っ!」

最後を飾るのはやる気なさそ〜な男子生徒。

逆に、女子の目が少しばかり輝いている気がする。



「あ〜、朝倉純一です。そっちの音夢とは双子の兄妹です。よろしく」

なんつ〜か、普通だった。


「というわけで、よろしくおねがいしま〜すっ!」

最後は新担任が笑顔で締める。


『ウオォォォォォォォッ!』


なんだ、このクラスの男は女ならなんでもいいのか?

ていうかアレはどう考えてもしょうが・・・


ギラッ!


…なんか、新担任のちびっこいのに凄く睨まれた気がするわけだが。

というか、真横と斜め後ろと真後ろの人間にも凄く見られているような気がしないでもないんだが。

「あ〜、では、このままLHRに移行します。では後は、芳野先生、お願いします」

「はいっ、任せてくださいっ!」

笑顔で言うちびっこいのの言葉を受けて、副担任のオッサンは教室を去っていった。











「では〜、LHRなんですけど〜」

「先生、質問…」

「あっ、そうそう。ボクは一応、みなさんと同い年なので、よろしくお願いしますにゃ〜♪」

「先生、あの…」

「あっ、そうだ。先に音夢ちゃん達を席に」



「聞いてるのかさくらんぼぉ〜〜〜〜っ!!」



俺の再びの怒声に、教室中はまたもやシーンとなった。

だが、こいつの図太い神経はこんな事では動じなかった。

「うるさい生徒ですね〜」

さらりと言いやがった。

「・・・・・・・」

思いっきり半目で睨む。

「なんてね。冗談に決まってるじゃないか〜、おにいちゃ〜んっ!」

突然、今までの態度を一転させて、こちらに駆け寄ってくる。

「あっ、こらっ!先生っ!」

横に立っていた音夢を尻目に、さくらはもの凄い速さで俺の居る席まで走ってきた。

そしてそのまま


ぴょ〜ん


スタッ


「にゃぁ〜」

…人の頭の上で不思議な生物が鳴いた。

「あっ!うたまる〜!抜け駆けはダメだよぉ〜!」

「…おい、何故俺の頭に飛び乗る、こけし」

「にゃっ!」

ぺしぺしと、尻尾で後頭部を叩かれる。

「いいから降りろ、こけし」

「にゃにゃ!」

またもやぺしぺしと叩く。

「…お前、降りられないんじゃないだろうな?」

「………にゃ〜」

「今の間はなんだ、さくら」

「ん?久し振りだから見晴らし良いらしいよ?」

「答えになってねぇじゃねぇかっ!」

ベシッ、とさくらの額を一発叩いた。

「うにゃっ!なにをする兄じゃっ!」

「兄じゃじゃねぇよ、ったく…」

あー、ここまで一杯一杯になるのも久し振りだ。

「「…かったる」」

その呟きと共に、目の前のさくらが姿を消す。

「うにゃ!お兄ちゃん離してよぉっ!」

「うるさい…、かったるいから騒ぐな、マジで」

頭を思いっきり鷲掴みにされたさくらが横で抗議の声をあげる。

その鷲掴みにした相手は、さくらを一瞥してからこちらに向き直った。

「…よぅ、祐一」

「あぁ、久し振りだな、純一」

お互い他愛もない挨拶をして、お互いの拳をゴツンと当てる。

「連絡ぐらいしろ、バカ。みんな心配してたぞ」

「一度でも連絡入れたら杉並に逆探知されてしまうかもしれんからな」

「あいつだったら、電波に乗って飛んで…、なんだ?」

純一はそこまでいいかけると、横から突付いてきた相手を見る。

「…あの、兄さん」

「どうした、音夢」

いつの間にか、横には音夢が立っていた。

「とりあえず、今の状況を良く認識したほうがよろしいかと思いますけど…」

そう言って、教室内を見渡す。


見事に、教室中の視線が俺達に集まっていた。


教壇の上で、一人残されたことりが苦笑いを浮べている。

…そういえば、今はLHRだったな。

「…かったる」

「純一、どうにかしろ」

「断わる。こういう時にこそ、教師の出番だろ」

そう言って、鷲掴みにされてジタバタ暴れているさくらを引き摺って純一は教壇の上へと戻っていった。

「にゃ〜」

…コイツが居るの、忘れてたわ。








「…でだ、さくら」

「うにょ〜、頭痛いよ〜お兄ちゃん」

純一はさくらに話し掛けるが、余りまともな返事は返ってこなかった。

「…進行、音夢よろしく」

「えぇっ!いきなり言われても無理だよ〜」

突然振られた音夢は、両手をわたわたさせて慌てだす。

「…ことり」

「う〜ん、この空気の中、司会役を務めたい人間は杉並君かお姉ちゃんぐらいしかいないよねぇ〜」

またもや突然振られたことりは、遠まわしに拒否の姿勢を取った。

「…かったりぃな。あー、何か質問は?」

「唐突すぎるだろうお前」

やる気のなさすぎる教壇の純一に思わず突っ込みを入れた。

「だがなぁ…」

「とりあえず、私達は席についたほうがよろしいのでは?」

「ナイスだ、音夢」

頭をポリポリ掻きながらめんどくさそうにしている兄をフォローする妹に、俺は賞賛を送った。

「じゃぁ、俺達はどの席につけばいいんだ?さくら」

「ふみょ?そんなの私に聞かれてもわかんないよ〜、来たばかりなんだし」

さくらはそう言って、俺の顔を見る。

「ねぇお兄ちゃん。どの席につけばいいのかな?」

「こっちに振るなよ…。香里の後ろの席二つと、その隣が空いてるだろ。そこに座れ」

「香里ってダレ?」

唐突に出たクラスメイトの名前に、さくらが首をかしげる。

「ったく、コイ…、この方でございます」

斜め後ろの香里を振り返って見た時、思いっきり睨まれたので思い切り敬語になってしまった。

「うにょ〜、じゃぁ音夢ちゃんとことりちゃんは、その香里ちゃんの後ろの席、お兄ちゃんはその隣の席にいど〜しちゃって」

さくらは適当に進行して、三人を席に移動させる。

「…かったる」

「よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします」

思い思いに周りの席の人間に声をかけてから、三人は席についた。


ガガガガガガッ


カタンッ

「…かったる」

「何気なく机の位置を動かしてるんじゃねぇ」

「俺は窓際がいいんだ」

真中にあった空いてる机を俺達の列の最後尾まで移動させて、純一は腰を降ろした。

自然、真中の列が一人少ない状況になるわけで。

「…まぁ、いいか」

なぁなぁでこのまま進行していく事になった。





「でわでわ、改めまして、みなさんよろしくお願いしまーす」

さくらは三人が着席したのを見計らって、笑顔でペコリと挨拶をした。

生徒の反応は様々、どのようなかは余り言いたくない。

…ウチの学校も、妹属性大好きな奴が多いようだ。

「うおぉぉっ!あの小ささ、犯罪だろうっ!」

俺の真後ろにも一名、そんな奴が居た。

「…北川、席変われ」

俺は後ろで悶えている変質者に声をかける。

「あん?なんでだ?」

「お前の後ろのこわ〜いお兄さんがお前を射殺せんばかりに睨んでいるからだ」

「誰も睨んでねぇよ…」

「という訳だ、変われ」

「聞けよ、オイッ!」

「あ、あぁ、分かった」

なんだかよく分からないといった風に、北川は俺と席の交換をした。

途中、名雪の「うぅ〜」という恨めしそうな声がかけられたがあえて無視。

俺は北川の後ろ、純一の前というベストポジションについた。

ちなみに斜め前が名雪、横は香里、斜め後ろに音夢とことりだ。

「という訳で、よろしく」

「…まぁ、後でいいわ」

なんとなく厳しい視線を向けながら、香里は俺を一瞥してから視線を教壇へ戻した。

「…お前、何かしたのか?」

「いや…、どうだろ」

まぁ、いろいろ聞きたい事があるだろうという事は分かっている。







「でわ〜、恒例の質問ターイムッ!何か質問がある人は、手を挙げてくださ〜いっ!」

さくらがそう言うと、一斉に教室中の生徒の手が挙がった。

「うにゃ〜、一杯手が挙がったねぇ〜」

教壇の上のさくらは少し困り顔のようだ。

全然困っているように見えないのがポイント。

その質問の内容はさくらの年齢だったり、さくらが何故教師をしているのかだったり、さくらのスリーサイズだったり。

スリーサイズを質問した某アンテナ野郎にはきっちりとリバーブロウの洗礼を浴びせておいたが。

そこへ来て、とうとう俺との関係なんぞの質問なんかが出てきた。

「相沢君と先生達は、どういった関係なんでしょうか?」

「…お前が質問するか、香里」

「あら、結構重要な事よ?これって」

涼しい顔で、香里はそんな事をのたまう。

重要も何も、お前が知りたいだけなんじゃないかと・・・。

「うみょ〜、ボクとお兄ちゃんの関係?どんな関係なんだろうね〜」

「ただの幼馴染だろうが」

楽しそうにこっちを向いて聞いてくるさくらに、普通に返事を返す。

「そうなの?ボクはてっきり兄弟杯を交わした義兄弟だと思ってたよ〜」

「任侠映画、まだ観てるのかお前は」

「時代劇も見てるぞ、未だに」

「あっ、後ろのお兄ちゃんとも兄弟杯を交わしたんだよね〜」

「交わしてないだろうが、そんなもん」

「というか、御前等は血の繋がった従姉妹同士だろう」

「…認めたくはないがな」

「うにゃ、そう言えばそうだったね〜」

どうでもいいような事のように、さくらはのたまう。

「まぁ、そういう訳だよ。わかったかな?香里ちゃん」

「…わ、わかったわ」

「香里、相手は仮にも教師なんだから、敬語を使わなければいかんだろう」

俺の突っ込みに、香里が思いっきりこちらを睨む。

…なんだか今日は怖いぞ、香里。

「でしたら、祐兄さんも敬語を使わなければいけませんよね?」

「…無理言うなよ音夢」

にっこり微笑んで突っ込んでくる。

相変わらず、偽善者モード全開のようだ。








キーンコーンカーンコーン

「うにゃ〜、じゃぁ今日はこのままSHRにはいりま〜す」


宣言通り、さくらはそのままSHRを行って、放下となった。


「…さて、いろいろと説明して貰いましょうか?相沢君」

放下になった途端、俺はいろいろと囲まれた。

「そうですね、私達もいろいろと聞きたい事もありますし」

「お兄ちゃん、すぐに吐けば後は楽になるよ〜」

何故か、音夢やさくらにまで取り囲まれる。

その笑顔の裏の本性がやたらと怖い。

「…純一」

「かったるいから俺は何もせん」

そう言って、純一は素知らぬ振りを決め込みやがった。


「うぐぅ、とりあえず、自己紹介からしたほうがいいのかな?」

なんとなく、あゆがまともな事を言った。

「そうね、とりあえず。私は美坂香里よ、よろしくね」

「うぐぅ、ボクは月宮あゆだよっ。祐一君とは七年前からの幼馴染なんだっ」

「え〜っと、水瀬名雪です。私は祐一とは従姉妹なんだよ〜」

「俺は北川潤だ。よろしくな」

美坂チームのそれぞれの自己紹介に、風見学園の面々は笑顔で返す。

「へぇ〜、女性のお友達が多いんですねぇ、祐兄さん」

かなり偽善者チックな音夢が、笑顔で凄む。

「い、いや…、別に問題ないだろうが」

「ふぅ…、別に、私には関係無いんですけれどね」

関係無いのだったら、鞄の中に忍ばせているであろう広辞苑から手を離して頂きたい。




「じゃぁ次はボクたちだね。ボクはさっき言ったけど、お兄ちゃんの幼馴染で芳乃さくら」

「IQ180の天才小学生だ」

「人の身体的特徴で貶すの嫌い。でもお兄ちゃんは好き♪」

そう言って、人の腰にギュってしがみついてくる。

「いいから、離れろ」

周りの男子や女子からの「羨ましい」などの声が鬱陶しいので離す。

「うみゅ〜、ま、後でいっかぁ」

「後でもだめだっ!」

「ふにゃ〜、お兄ちゃんのイジワル」

上目遣いで睨んでから、さくらは静かに身を引く。

……少しだけ、心の中で涙を流した。

「では、次は私ですね」

笑顔でそう言いながら、音夢が1歩前に出る。

「私は、朝倉音夢です。祐兄さんとはさくらと一緒で幼馴染なんです。よろしくおねがいしますね」

「コイツの頭の触覚は電波の受信が出来るぞ」

「何か言いました?に・い・さ・ん」

またもや笑顔で鞄の中に手を突っ込む。

「さ、次はことりだ」

額に汗を浮べながら、笑顔で次へと促す。

「あっ、私は白河ことりです。相沢君とは風見学園での同級生なんです」

「風見学園のアイドルだからなぁ、ことりは。大変だっただろ、こっちに来るって決まった時は」

「あ、あはは、そんな事ないっすよ」

苦笑を貼り付けながら言われても全く説得力が無かった。

「んで、俺の横に突っ立ってるのが朝倉純一。一応、音夢と双子で俺と幼馴染だ」

「まぁ、そういう事で、よろしく」

手をプラプラさせて、純一は挨拶する。





「と、いう事で、何か質問は?」

「ふむ、俺としては月刊ヌーが売っている本屋を教えて欲しいのだが」

「んなもん読んでないから知らんわっ!って、お前…」

怪しげな声のした方向を見ると、飄々とした男子生徒が立っていた。

「よう、相沢祐一。いや、同志よ!」

「…聞いてないぞ、純一」

「あぁ、言ってないからな」

「そうか、そんなに喜んでくれるか。俺は嬉しいぞっ!」

「……何故お前もいるんだ、杉並」

「なに、学年主席の哀しい定めという奴だ、気にするな」

そう言って、杉並は肩をバンバンと叩く。




……今後の学園生活、平穏は遥か彼方に吹っ飛んでしまった。


ねくすと。