更新日 2004年 4月12日 20時26分











「えぇ〜、それでは。第一回、遠野家・関係者合同家族会議を開催致します。進行役は私、琥珀と」
「――――翡翠です」
「の二人で行わせて頂きます。時間は今から少し短い一時間半、お食事を摂りながら皆様ご参加下さい」
琥珀ちゃんの話を聞きながら、私は用意された朝食をみんなと一緒に食べている。
今朝の朝食はフレンチテイスト、と言うか。
トーストされたフランスパンにクラッカー、シリアルとサラダボールというなんだか映画に出てきそうな朝食だった。



「申し訳ありません志貴さん。今朝はいろいろと立て込みまして、こういった簡単なものしかご用意できなかったんです…」
「えっ! ううんっ、そんな事ないよっ! なんだか洋画に出て来る朝食だなぁ〜って、少し感動してたんだ」
マジマジと食卓を見ていたら琥珀ちゃんが申し訳なさそうに言うので、思わず思ったまま言ってしまった。
すると、横でフランスパンを食べながら弓塚がウンウンと首を動かして飲み込んでから笑顔で私に同意する。



「この家自体、映画に出て来そうな豪邸だもんねぇ〜」
「それはこの家は遠野家ですから、豪邸なのは当たり前です」
「か、かっこいぃ、秋葉さん」
弓塚が言うと、それを聞いた秋葉がさも当然、と言うようにミルクを飲んでから答える。
そんな秋葉を弓塚は瞳をキラキラ輝かせて見つめた。
それにしても、弓塚より秋葉のほうが年下のはずなんだけど…。



「あ、あのぉ〜、少しよろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょうか? メレム・ソロモン様」
律儀に挙手をして問いかけるメレムに、翡翠ちゃんが問い返す。
メレムは一つ、コホンと咳払いをして立ち上がると、私を眺めながら口を開いた。



「……今回の議題は、『いかにして志貴さんを元に戻すか』ですか?」
「はい、その通りです」
メレムの問いかけに、翡翠ちゃんは即答で答えた。
この答えに、私は挙手をして立ち上がる。





「はいは〜い、質問です。……元に戻すって、何の事よ? 私何かしたぁ?」





「うっ―――――という訳で、いかにして戻すか、皆様で考えましょう」
「翡翠ちゃぁん、私の質問に答えてよぉ〜」
「くっ……。こ、これは強烈ですね、翡翠ちゃん……」
「えっ、えぇ……、姉さん」
「ねぇ〜、聞いてるのぉ〜?」
私の質問をあっさりと流した翡翠ちゃんを少し睨むように問い質すと、二人は何故か仰け反りコソコソと話をする。
二人とも会話に集中して聞いていないので私は仕方なく席に座った。



「え〜、それでは、ですね〜。まずどのように志貴さんをみなさんで共有するかを話し合いましょう」
「姉さん、議題が大幅に摩り替わっています」
「甘いですね〜、翡翠ちゃん。時代はリアルタイムにシンギングですよ〜」
「意味が判りません。姉さん、貴女は何がしたいんですか?」
「私はただ志貴さんでエロエげふんげふんっ! 志貴さんとイロイロ遊びたいだけですよぉ〜」
「姉さん…、本音が隠しきれていません」
何かを言いよどんだ琥珀ちゃんに、翡翠ちゃんが白い目を向ける。
もの凄い冷たい表情に、琥珀ちゃんは冷や汗を掻き始めていた。
その様子を何とな〜く見ていると、弓塚が私の肩をチョンチョンと突付いてくる。



「ん〜? 何? 弓塚」
「うん、ほら。なんで二人ともいきなりコント始めたのかなぁ〜って」
「う〜ん、なんでだろうねぇ〜?」
「不思議だねぇ〜」
「そうだねぇ〜」
















「………はぁ〜、はぁ〜。……と、いうわけで本日はお時間となりましたのでこの辺で」
「結局、何も話せなかったような気がします……」
姉妹コントからどつき漫才、更に姉妹喧嘩に発展した二人はゼハゼハ息を吐きながらお互いを睨んで言う。
二人とも、普段は仲良すぎる程仲良いのに、なんで喧嘩しちゃったんだろう……。



「兄さん、気にしないで結構ですよ。あの二人はたまにあぁいう事になるんです」
私が訝しげに見ているのに気付いたのか、秋葉がやはりミルクを飲みながら言ってくる。
普段から凛として、弓塚の言う通りかっこいい秋葉がミルクを飲んでいるのは何となく不思議だ。



「要するに、じゃれあってるようなもの?」
「そうですね。二人とも双子ですし、分かり合ってますから。だから反発する所は反発してしまうんです」
「ふぅ〜ん。やっぱ二人と付き合い長いからよく判ってるんだね、秋葉は」
「ま、まぁそんな所ですかね……」
秋葉が聞かせてくれる私の知らない二人が何だか可笑しくて、私は二人を眺める。
何となく、チラチラとこちらを横目で見る秋葉を気にしながらだけど。



「……それで、本日は志貴さまはどのようにお過ごしになるのですか?」
と、唐突に翡翠ちゃんから声がかけられる。



「ふぇ? どうって、学校に行くけど?」
「そ、そのまま学校に行かれるんですか? 志貴さん」
「そうだけど、何か問題あるの? メレム」
「いっ、いえ。得に問題という問題ではないのですが……」
メレムは語尾を濁して、チラリとアルクェイドを見る。
すると、アルクェイドもチラリとメレムを見て、視線を合わせると頷く。
二人は何か示し合わせたようにカタリと椅子から立ち上がる。


「そ、それでは私達はこれで……」
「それじゃ、またね〜志貴」
「え? あ、あぁうん。またねぇ〜……」
何だか判らないが二人は立ち上がるとそそくさとどこかへ行ってしまった。
何となく、琥珀ちゃんの二人を見る目が一瞬光ったような気がするけれど、気のせいかな?



「それでは兄さん。私も学校がありますのでこれで。余りゆっくり食べて遅刻なさらないように」
「もうっ、私はもうご飯食べ終わってるよ。弓塚を待ってるだけだから」
「そっ、そうですか。ではまた帰宅後に」
「うん、いってらっしゃ〜い」
「はい、兄さん。琥珀、用意を」
「かしこまりました、秋葉様」
秋葉も凛とした立ち居振舞いで洗面所へと向かう。
琥珀ちゃんは秋葉に声をかけられるとパタパタと2階への階段を昇っていく。
多分、秋葉の部屋から鞄とかその他もろもろを用意するんだろう。
2階に琥珀ちゃんが上がった所で視線を戻すと、じ〜っとこちらを見る翡翠ちゃん。



「…え、えと。な、何? 翡翠ちゃん」
「いえ。……志貴様、登校のご用意は?」
「……あっ、あ〜。そ、そうだね。お願いします翡翠ちゃん」
「かしこまりました、お任せください」
何だか物欲しげな、訴えるような視線に勘付き、登校の準備を翡翠ちゃんにお願いする。
と、翡翠ちゃんは握り拳にぐっ! と胸元で力を入れるとそそくさと2階へ上がっていった。
――多分、琥珀ちゃんと同じ事がしたかったんだと思う。



「……っと。ごちそうさまでした〜っ」
「あ〜っ、やっと食べ終わったの? 弓塚」
「うん、おいしかったから少しゆっくり食べちゃった」
二人っきりになった食堂に、弓塚のごちそうさまが響く。
すると、キッチンへ続く扉が開いた。



「……何やってんの、レン」
「き、聞かないで下さいマスター……」
「は〜い、食後の野菜ジュースをお持ちしましたー。これで栄養価バッチリですよ〜っ!」
扉から出てきたのは、口の周りが少しオレンジ色っぽくなっているななこちゃんと、何故かメイド服姿のレン(人型)。
ななこちゃんはトレーにオレンジ色の液体が入ったコップを数個乗せてこちらに向かう。
かたやレンは、翡翠ちゃんのメイド服をそのまま小さくしたような服装で、少し歩きにくそうにトレーをもってこちらへ近づく。
トレーには、にんじん。



「はい、お野菜たっぷりのにんじんジュースですよ〜っ!」
「……にんじん、だけ?」
「いえいえっ、にんじんだけではなくて、他にもイロイロと入ってますよぉ〜。……多分」
最後が少し気になったが、とりあえずななこちゃんから手渡されたジュースを口に含む。
横でも弓塚がななこちゃんに「ありがと〜」とお礼を言いつつ、ジュースを口に含む。
口に広がる、にんじんの味。
ほのかに甘い、なんとなく苦い味。



「にんじんしか入ってないよね? これ」
「…………さ、さぁお二人ともっ。学校に遅刻してしまいますから早く歯を磨いて宿題をしませんとっ!」
「まぁ、にんじんも野菜だし、間違ってはいないような気もするよね」
何だかわたわたと慌てだしたななこちゃんに弓塚は苦笑いを向ける。
ななこちゃんの横で、「洗脳失敗ですね」とななこちゃんに向けて呟くレンの声が聴こえた気がしたが無視する事に。



「そだね、早く歯を磨いて準備しないと」
「うんっ、じゃぁごちそうさま〜」
「あっ、食器はそのままで結構ですので」
椅子を立ち上がった私達に、メイドさんレンがとことこ近づいてそう声をかける。



「そう? それじゃぁよろしくね、二人とも」
「はい、お任せくださいですっ」
「頑張ってね、レンちゃん」
「……が、ガンバリマス」
何だか冷や汗をかいているように見えるレンに声をかける弓塚が楽しそうに見えた。



「……ねぇ、レンなんであんな服着てるの?」
「……今朝の事で、志貴さんが居ない間に少しありましてね」
会話している二人から遠ざかり、ななこちゃんの耳元に話し掛けるとそんな返事が返って来た。



「本日から一週間のお庭の掃除と、お買い物。お洗濯と食事のご用意はレンさんもする事になったんです、無償で」
「……わ、私の所為、かな?」
「いえいえ、レンさんが抜け駆げふんげふんっ! 志貴さんと羨げふんっ! とにかく、志貴さんは悪くないんですっ!」
「そっ、そう…? わ、判ったよ、ななこちゃん……」
「はい、判って頂ければけっこうですぅ」
所々濁された感は否めないけれど、なんだか一生懸命言うななこちゃんに私は納得の意を伝える。



「志貴ちゃ〜ん、早くしないと遅刻するよ〜?」
「あっ、ごめ〜ん。今いくね〜っ!」
いつの間にか話は終わったのか、弓塚の声が居間のほうから聴こえてくる。



「じゃ、行って来るね二人とも」
「はい、いってらっしゃいませマスター」
「いってらっしゃいです〜」
食堂からお見送りする二人に手を振りつつ、私は居間へと入っていった。








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