「……んんっ……んにゅ…。」
「………………。」
「ふぁぁ……あ………っと。」
欠伸をかみ殺し、身体を起こす。
部屋に差し込む淡い光は、夜が明けてさほど時間が経っていない事をボクに告げた。
ベットの脇には、口をあんぐりと開けた琥珀ちゃんが座っていた。

「……ん?」
「………………。」
「……おはよう、琥珀ちゃん。」
「っ! ………し、志貴さんっ!!」
琥珀ちゃんはボクを呆然と見つめた後、笑っているのか泣いているのか分からない顔をしてボクに抱きついてきた。

ドンッ!

「ぐぉ…。」
「志貴さんっ! 志貴さぁぁんっ!!」
ギュウギュウと背中に腕を回して抱きついている琥珀ちゃん。
ボクは胸に響いた衝撃を受け流せず呼吸が一瞬詰まった。

「こっ、琥珀ちゃん…。く、苦しい…。」
「えっ! 志貴さんどこか痛いですかっ! 具合悪いですかっ!?」
琥珀ちゃんは一転してボクから離れ、心配そうな顔でボクの体を見る。

「いや…、そうじゃなくってさ…。ほら、いきなり、その…。」
ボクはさっきまでの状況を思い出し、急に恥かしくなってしまってボソボソと喋る。
途端、琥珀ちゃんは顔を真っ赤にしてしまった。

「あっ、す、すいません…。その、嬉しかったもので…。」
「ん…、あぁ。いや、ごめんね琥珀ちゃん。」
「い、いえいえ、別に志貴さんは…。」
琥珀ちゃんがそう言いながら顔の前で両手を振っていると、扉をノックする音が響いた。

コンコン

ガチャ

「姉さん、志貴さ…。」
扉を開けて入って来た翡翠ちゃんは、起きているボクの顔を見て固まった。

「おはよう、翡翠ちゃん。」
「…し、志貴ちゃんっ!」
翡翠ちゃんは目に涙を溜めて駆け寄り、ボクに抱きつ…、っていうかヘッドダイビング。

ゴスッ!

「ぐあぁぁ…。」
「志貴ちゃん、志貴ちゃんっ! もう大丈夫だよねっ!」
「ひ、翡翠ちゃん…。ちょ、ちょっと…。」
後頭部を壁にぶつけた。
ボクの首に腕を巻きつけ、重心が完全に首にかかる。
何とか体勢を維持して、ミシミシ言う首を気にしながら、身体の上に覆い被さる翡翠ちゃんを引き剥がしにかかる。

「ひ、翡翠ちゃん…、く、ぐるじ…。」
「志貴ちゃんっ! もう元気だよねっ! 大丈夫だよねっ!」
「ひ、翡翠ちゃん…。志貴さんが、死んじゃいますよ…。」
ボクと琥珀ちゃんの言葉を聞き、ハッとした顔をした後即座にベットを下り、衣服を正して琥珀ちゃんの後ろに立つ。
流石はメイドさん、なのかな…。

「た、大変失礼いたしました…。」
「いや、別にそんな…。」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃんびっくりしちゃったかな〜。」
翡翠ちゃんは琥珀ちゃんに言われ、顔を赤くして俯く。
とりあえずボクは現状を把握すべく切り出した。

「それで…。今はどういう…。」
「は、はい…。志貴さまは、その…。瀕死の状態でアルクェイド様に抱えられて戻られ、処置を受けて今まで寝ていたという状況です。」
翡翠ちゃんはキビキビとした口調で返事をする。

「そっか…。それで、どんぐらい寝てたの?」
「そうですねー、あの日から考えますと、一日とちょっとですかね。」
「一日って…。丸一日寝てたの?」
あんぐりと口を開けて聞くと、コクリと二人して頷く。

「そっか…。学校さぼっちゃったなぁ…。」
「何を言ってるんですかっ! 今まで死ぬか死なないかっていう状況だったんですよ!」
琥珀ちゃんはそう言うと、顔の前で人差し指をピンと立て、怒ったような顔つきでボクを睨む。

「あぁ、そっか…。ごめんね、迷惑かけちゃって。」
「し、志貴さまはそのような事を懸念する事はありません。」
「そうですよ。それより皆様に早く元気なお顔を見せてあげてください。」
琥珀ちゃんと翡翠ちゃんはにっこり笑ってボクに言う。

「そうだね…。それじゃぁ着替えるから、ロビーで待っててくれないかな。」
「はい、それでは皆様をロビーへお呼び致します。」
「うん、ありがとう翡翠ちゃん。」
「それでは、失礼しますねー。」
「失礼致します。」
翡翠ちゃんと琥珀ちゃんは扉の前でお辞儀をして、廊下へと出て行った。
ボクはそれを見送った後、ベットを降りて制服に着替えた。










「一応、さっきまで死に掛けだったらしいんですけど………。」

「「「「「ごめんなさい。」」」」」

居間に入った瞬間、突然居間で待っていた秋葉、アルクェイド、セブンちゃん、レン、弓塚に圧し掛かられ、つい永眠しそうになった。

「まぁ、仕方ありませんよそれは。死にかけていた遠野くんが悪いんです。」
一人優雅に紅茶を飲むシエル先輩。

「いや…、そんな事言われても…。」
「えぇ、そりゃ遠野くんはただ寝ていただけですから、分からないでしょうけど。
あの後は傷口がなかなか塞がらなかったり意識戻らなかったりみんな錯乱したりで大変だったんですよ。」
「…ごめんなさい。」
今度はボクが謝る番だったようだ。

「そ、それで兄さん。お体の具合のほうは…。」
床に正座『させていた』秋葉が立ち上がり、ボクを心配そうな目で見る。
その問い、ボクは笑顔で答えた。

「うん、別になんともないよ。心配しないで。」
「そ、そうですか…。」
ほっとしたのか、秋葉は胸を押えて溜息をついた。

「それでですね、遠野くん。お話が二つほどありまして…。」
先輩はそう言うと、ボクを自分の前のソファーへと促した。
ボクは促されたソファーに座り、他のみんなも各自バラバラに席に着く。

「…先輩、それでお話っていうのは。」
「はい、一つ目は弓塚さんです。」
「えっ、私?」
突然名前を呼ばれて、キョトンとした顔で自分を指差す弓塚。
ボクにはなんとなく理由が分かっていたのでさほど驚かなかった。

「はい。現在の弓塚さんは、ネロから知識や経験、ある程度の力を受け継ぎ、自身の魔術回路と魔力の制御に成功しています。
しかし、同時に弓塚さんは人間、とは言い切れない存在になってしまいました。まぁ死徒ではないのは間違いないですが。」
「…はぁ、そっか。でも生活とかは普通に……。」
「はい、今までどおりの生活が可能です。ですがまぁ、何かの間違いで人を殺したりだとかした場合は教会から追われる事になるでしょう。」
「わ、私そんな事しませんよっ!!」
弓塚は慌てたように両手を顔の前でブンブン振る。
ボクとシエル先輩はそれを見て苦笑した。

「まぁ、もしもですから。貴女がそんな事できる人じゃないのは判ってます。」
「あっ、そ、そうですか…。」
「そうだねぇ。弓塚には血生臭いのは似合わないなぁ。」
「う、うん…。っていうか、血生臭いのが似合う人っているの…?」
弓塚の言葉に、思わずシエル先輩の顔を見そうになったが、生命の危機を感じてなんとか顔を向けずに済んだ。

「それでですね、弓塚さんはある意味『魔』の存在ですから、いろいろな理由があってこの屋敷で暮らす事になったようです。」
「ふーん、そうなんだ。一緒に屋敷で…………って、えぇぇっ!」
「あっ、もちろんご両親の承諾は得ていますし、学費や生活費なども心配いりません。」
「兄さんの懸念も判りますが、弓塚さんがこうなったのも責任の一端は遠野家にありますから…。」
「あ…、まぁ、秋葉がそれで納得してるならそれでいいけど…。」
ボクはそう言ってチラリと弓塚を見る。
弓塚はボクの視線に気付いて俯きながらもチラチラとボクの顔を見る。

「う、うん…。こ、これからよろしくね、志貴くん。」
途端、周りの空気がピキッ、と凍った気がした。
ボクはなんとなくこの空気を変えたくて、もう一つの話をするべく先輩に促した。

「そ、それで、もう一つのお話っていうのは…。」
「あ、そ、そのですね…。もう一つのお話っていうのはセブ…、ななこの事なんですけど。」
「…ななこ?」
「は〜い、わたしですよ〜。」
ボクは声のした方を見ると、手を上げて笑っているセブンちゃんがいた。

「あぁ、セブンちゃ…、て、手がっ!」
セブンちゃんの腕は蹄じゃなくてちゃんとした手になっていた。

「えへへ〜、そうなんですよ〜。志貴さんの責任ですからね〜。」
「へ? なんでボクの責任なの…?」
ボクは意味がわからないので、とりあえず先輩の顔色を伺った。
だが、その先輩も頭を抱えて苦々しくしていた。

「…そのですね、遠野くんは以前、その、精霊と仮契約をしたんですよ……。」
「…いつ? なんで? どうやって?」
ボクは全く身に覚えがないので、セブンちゃんに直接聞いてみた。
するとセブンちゃんは、顔を赤くして両手で自分の顔を押えてクネクネしだした。

「その〜、一昨日ですかね〜。朝志貴さんが目覚めたら〜。こう、いきなりされまして〜、
もう私初めてだったのに、でもすごく気持ち良くって、きゃ〜、もういいじゃないですか〜。」
セブンちゃんは更に顔を赤くして激しくクネクネと身体を動かす。
勿論、ボクにそんな覚えはない。

「いや、ちょっとま…。」
「いえ、その、精霊との仮契約っていうのは、その相手の体液交換なんですけど、遠野くんが一昨日目覚めた時、
寝惚けてセブンとその、ディープなキスをですね、してしまいまして…。」
「…マジデスカ。」
ボクは周りのみんなから同意を得ようと見渡すが、非難するような目を向けてコクリと黙って頷かれた。

「そ、それでですね。この先日のロアの時に、第七聖典を使用しましたよね?
その時にまぁ、怪我をした場所からの出血で遠野くんの血がドバーッとベットリかかっちゃいまして。
それでかどうかはわかりませんけど、なんだか一角馬の精霊と人の霊体が活性化しまして、
それでまたよくわからないんですが武器としての第七聖典と同化して、それで今度は身体がどうにかなっちゃって…。」
「せ、先輩…。ごめん、よく判らない。」
正直に言うと、先輩は何かセブンちゃんに合図を送り、それを受けてセブンちゃんが立ち上がる。

「まぁ、こういう事らしいですよ。」
「そぉ〜れっ!」

ガチャッ

ドスンッ

セブンちゃんが大きく腕を振ると、第七聖典がその腕から出てきた。

「という事らしいです。後正式な契約者は遠野くんのようです。」
「……ボクですか?」
「えぇ…。恐らく、精霊であるセブンがそれを望んだ形かと思いますけどね…。」
先輩はそう言うと、ギロリとセブンちゃんを睨んだ。
セブンちゃんはその絶対零度の視線を受けてガクガクと震えている。

「まぁ、そういう訳で、彼女もこの屋敷でお世話になるという訳です。」
「私の食事はにんじんと志貴さんのs…。」
「ニンジンだけで十分ですよね? セブン。」
「………はい。」
セブンちゃんは『はうう〜』と嗚咽を漏らしながら頷いた。

「さて、一通り説明は終わりました。」
「はい、ありがとうございます。」
先輩はそう言うと立ち上がり、こちらを見る。

「遠野くん、早くご飯食べないと学校遅刻ですよ?」
「………あ。」
先輩の言葉に気付き居間の時計を見る。
時刻は7時15分を少し過ぎていた。

「それでは、また学校で。」
先輩は爽やかに言うと、玄関から出て行った。
恐らく一旦家で着替えてから登校するんだろう…。

「琥珀ちゃん、ご飯はある?」
「はい、既にご用意できてますよー。」
「えー、志貴学校いくのー?」
「当たり前だバカ。お前もやる事無いんだったら一旦家帰れ。」
「むー、わかったわよ。志貴のけちー。」
「ケチは余計だケチは。」
アルクェイドはこちらを拗ねた顔で睨んで、玄関から飛び出していった。

「じゃぁ弓塚、学校先行ってていいよ。」
「えっ、いや、待ってるよ、志貴くん。」
「そうか、悪いな。すぐご飯食べてくるから。あと秋葉もちゃんと学校いけよ。」
「わっ、わかってますよっ! 琥珀っ!」
「はい、それではカバンをお持ちしますのでお車でお待ちください。」
琥珀さんはそう言うとトテトテと階段を上がっていく。
秋葉はそのまま車へと向かっていった。
ボクはその様子を見送りながら、食堂のほうへとかけていく。

















「志貴く〜ん、全速力で走っちゃダメなんだよねぇ〜」
「うん。さすがにそんな事したらまずいから、人並みに…」
結局、食事前の長話が効いたのか、結構切羽詰った時間の登校となってしまった。
弓塚と二人、なるべく人並みの速度で道を駆け抜ける。

「でもでも、人いないよ?」
まぁ、そりゃそうだろう。
かなり時間は圧している、遅刻ギリギリなんだから。

「私、遅刻ってした事ないんだけど〜」
「…もう何度か休んでるからいいだろう。」
「え〜、それとは違うよぉ〜。」
弓塚はぶーぶー言いながらボクに合わせて走っている。
こういう所なんか、可愛いと思う。
ボクは頭を掻きながら、しょうがないと諦めた。

「…人がいない時だけだからな。」
「うん。わかってるよ。じゃぁいそご〜」
弓塚はそう言うと、『全速力』で駆け出した。
それはもう、砂埃を撒き散らしながら。

「…もっと静かに走る方法を教えないとな。」
ドドドドドと音を立てながら走る弓塚の後を追いながら、そんな事を呟いた。









キーンコーンカーンコーン

ガララララッ

「おはよ〜。」
「…はぁ、おはよう。」
ボクは弓塚と一緒に教室へと入る。
丁度予鈴が鳴り終わった頃だった。
そのまま席へと向かい、弓塚と分かれて席へと座る。

担任がやって来て、朝のHRが終わると、すぐに弓塚とヤツがやって来た。

「いよう、サボリ魔。二日もサボるなんてなにしてやがったんだよ。」
「うるせぇ、別にお前に報告する必要ないだろ。」
「遠野って、やっぱり俺にだけ冷たいよなぁ。」
「よく分かってるじゃないか。」
有彦はボクと軽口を叩きながら、近づいてきた弓塚へ声をかける。

「よう、弓塚。お前もこの二日間なにしてたんだよ。遠野と二人でイチャイチャしてたのか?」
「えっ! ち、違うよっ!! そ、そんな事あるわけ…」
「バカ、なんで弓塚さんがボクとイチャイチャするんだよ。そんなの弓塚さんに迷惑だろ。」
そうボクが言った瞬間、クラス中から「はぁ〜」という声が聴こえたような気がした。

「…それで、結局どうしたんだ? 二人とも。」
有彦は呆れた様子でボクを見て、そんな事を言い出した。
なんだかんだでコイツは鋭いから、ちゃんとはぐらかさないといつまでも聴いてくるだろう。

「あ〜、それは…。」
「あのね、いろいろあって私遠野君のお屋敷でお世話になる事になったの。」
ボクがなんとかはぐらかそうと思ったのに、あっさりと弓塚がそんな事を言ってしまった…。

瞬間、『うぉぉ〜!!』という声がそこら中から上がった。
無論、有彦からもだ。

「…弓塚、よく考えて話をしようよ……。」
「えっ? でもでも、どうせすぐばれちゃうよ?」
…確かに、弓塚の言う通りだとは思う。
だとは思うけど…。

「ぎゃはははは、とうとう遠野も年貢の納め時かぁー! いやぁ、長かったなぁー!」
こういう勘違いが出てくるからもうちょっと考えて欲しかった。

「バカ、なにを勘違いしてそういう話してんだよ。
弓塚さんは、両親が家を離れるからウチで居候する事になったんだよ。ね、弓塚さん。」
「えっ? あ、うん。そ、そうなんだよ乾君。」
ボクは有彦の言葉に取り繕った話で無理矢理否定する。
弓塚もその意図を汲んでくれて、ボクに話を合わせてくれた。

「そういった諸々の事で二日間休んでただけだ。」
本当は死にそうになってましたなんて言えないし。

「へぇ〜、なんだ、そういう事なのか。あっけない幕切れだな。」
「…お前、絶対そういう事じゃないって判ってて言ってるよな。」
「まぁな、だって遠野だからよ、たった二日やそこいらでそういう事にはならないだろ。」
「…はぁ、なんでこいつと友達なんだろ、ボク。」
本気で頭抱えて悩んでしまう。

「ねぇ、志貴くん。『そういう事』ってなに?」
意味が判っていない弓塚さんが、純粋な好奇心で聴いてくる。
だが、ボクは「う〜」とか「あ〜」でしか答えられなかった。
さすがに、「同棲」とか、そういう事は言いづらいのだ。

「あー、弓塚。まぁ、男と女が一緒に住むっていうのはだな、同棲と言えるものなのだよ。うむ。」
弓塚の質問に、有彦が腕を組みながら答える。
こういう事を普通に言えるからこいつは凄い。
それを聴いた途端、みるみる弓塚の顔が赤くなってきた。

「えっ! いやっ、でもそ、そんな事はないよっ! だ、だって志貴くん見た目女の子だしっ!」
うっ、ちょっと傷付くかも。

「そっ、それにっ! と、遠野の屋敷にはその、妹さんとかっ、綺麗な使用人さんとかも一緒に住んでるしっ!」
「へぇー、そうなのか。綺麗な使用人ってどんな人だ?」
「えっ? えとね、双子の人達でね、私達と同い年ぐらいで、とっても可愛いの。」
「ほぉ〜、なんでそんな事隠してたんでしょうかねぇー遠野君。」
…判ってて聴いてきやがる有彦。
というか、弓塚、余計な事喋りすぎだ…。

「…それは、お前にそんな事言ったらからかわれたり『紹介しろ〜』ってしつこく言われそうだからだ。」
「ぐさっ! 酷いなー遠野。この親友が信じられないって言うのかっ!」
「あぁ、もちろんだ。」
オーバーリアクション気味の有彦に、思いっきり不機嫌そうに返す。

「あ〜ぁ、俺達の仲ってのはそんなもんだったのか〜。」
「今更何言ってるんだお前は…。ていうかその発言は誤解を招くからやめろ。」
「何を言ってるんだ。俺とお前との噂なんて、もうとっく広まってるっての。しかも入学当初から。」
「………………マジ?」
そんな話一片も聞いた事無いし!
ボクは冷や汗をだらだら流しながら弓塚を見る。

「あ〜…、うん。未だに、だけどね。ほら、乾君と志貴くんってさ、端から見て凄い仲良いいし。」
「……あ〜、そういえばそうかも。こいつ金借りる時とか肩組んできたり抱きついてきたりするし。」
「うん。それに時々内緒話とかしてるじゃん? お互い見つめ合ったりとかもしてるし…」
「違うぞ弓塚、アレは俺と遠野の睨み合いって言うんだ。殺気を視線に込めて相手を睨んでるのさ!」
「でもね、それが見つめあってるように見えるんだよ。見た目男の子と女の子だし。二人はこの学校では一番有名なカップルだよ?」
「……………どう有名なんだ?」
「えっとね〜、…………び、美少女とケダモノカップル?」
有彦を見て、冷や汗を流しながら弓塚が言う。
その発言を聞いた瞬間、有彦が吼えた。

「な、なんでだっ! お、俺はケダモノかよっ! みんなわかってねぇな! 本当は遠野のほうがケ…。」
「有彦…、三万円返せ。」
「………ま、まぁその話はどうでもいいじゃないか親友。」
「懸命な判断だな、親友。」
はははははっ、と空笑いをお互い浮かべて、何も言わず自分の席に戻る。
弓塚は何が起こったのか判っていなかった。










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