いつもとは違う帰り道を歩いていく。

昔、七夜の里からここへ連れてこられ、遠野家での生活が始まった。

初めは回りの環境の変化と、周囲にある『魔』の気配に、脅えていた時もあった。

それでも次第に、周りに打ち解ける事ができ、秋葉や翡翠ちゃん、琥珀ちゃん、それと…四季とも遊べるようになった。

そんな折、ボクは四季に殺された。

あの時、ボクは確かに四季の中に四季以外のモノがいるのを視た。

それは、七夜の力のせいなのか、わからない。

でも、確かに四季とも、四季にある『魔』とも違う、別のモノを視た。

別のモノに四季が取り込まれ、四季は秋葉に襲い掛かった。

それを、ボクが飛び出して庇うような形でボクは一度死んだ。

そこから生き返ったのは、多分七夜の血のお陰。

そうして、ボクは今生きている。

四季はあれからどうなったかは分からないけど、恐らくいる。

だが、一度死んで、病院から戻った時、四季は死んだ事にされた。

それが、今ボクが『遠野志貴』を名乗っている理由だろう。

一度遠野の衝動に負けた人間は、二度と戻れない。

それは、七夜で『紅赤朱』と呼ばれるモノだ。

もうそれは、人ではない。

でも、四季は遠野の血には負けていない。

恐らく遠野の血には負けないけど、別のモノに負けたんだ。

それが何かは、吸血鬼のお姫様に聞いた。

ミハイル・ロア・バンダムヨォン。

彼女がただ一人、血を吸ってしまい、死徒としてしまったモノ。

彼女や教会の人間は、『無限転生者』と呼ばれている。

彼女はその為にこの街に来た。

『無限転生者』に奪われた自分の力を取り戻す為。

だが、彼女が来た時には、既にロアはこの街にはいなかった。

もしかしたら、あの後槙久にどこかへ連れて行かれたのかもしれない。

だが、ここにいれば恐らくヤツに会える。

それを待って、彼女は今も待ちつづけている。

ボクは、彼女に自分の親友を殺させるつもりはない。

彼女は言った。『今代のは一つの体に二つの魂が在る状態』だと。

ボクの力ならば、その片方だけを『殺せる』。

その思惑を知っているのかわからないけど、彼女はボクとよく一緒にいる。







話が逸れた。

ボクが遠野の家から出て、一番大変な思いをしているのはあの三人だろう。

いつもボクの後ろを付いてきていた秋葉。

ボク達を庭に連れ出して、一緒に遊んだり、暖かく見守ってくれた翡翠ちゃん。

そして、お別れの時、リボンをくれた琥珀ちゃん。

ボクは琥珀ちゃんとは遊んだ事はないけど、翡翠ちゃんのお姉さんだと聞いた。

三人がいなかったら、今のボクはこうしていないだろう。

だから、三人を助けたい。

それに、ボクは『あの子』のその後がどうなったのか、気がかりで仕方が無かった。

協会、教会の両方から監視権限は貰っているが、直接遠野の中に入る訳にはいかないので、実際彼女がどうなっているのか心配だった。




















そうして、ボクは遠野の家に帰る事にした。

急に帰る事になったのは意外だったけど、これはこれでいいと思った。

槙久が死んだのは、毎日見ている有間家での新聞で知った。

それからすぐ、ボクの所に帰ってくるように通達が来た。

現在の遠野家当主、義理の妹である秋葉から。

恐らく秋葉はボクの記憶があるのを知らない。

そして、秋葉はボクを実の兄と同じように慕ってくれている。

それが、ボクは嬉しかった。

琥珀ちゃんとの約束も守りたかった。

翡翠ちゃんにもお礼を言いたかった。

でも、三人はボクの記憶がある事を知らない。

それは、隠さなければいけない事だ。

それが露呈した時点で、秋葉はボクの妹ではなくなる。

ボクは、遠野志貴ではなくなる。

だから、ボクはそれを隠す。

それが、みんなの為に、一番いい方法だから。












「でも、秋葉達はボクがボクだって分かるかな?」

それは、少し心配だ。

ボクはあの時は傍目から見ても十分男の子だった。

それが、中学に入って成長期になると、体が女の子になってきた。

自分の体のことは、よく調べた。

もちろん、先生とかにも手伝ってもらったけど。

ボクのような両性具有の特徴で、成長すると体の性別が少年期から変わってくる。

元々はどちらか片方なのだから、両方うまく成長するなんて事はまずありえない。

結果、今のボクは傍目から見れば普通の女の子だ。

だが、男性としても、女性としても完璧な生殖機能があるから、どちらとも言えない。

昔はそれで悩んだが、今は悩んだりしない。

それは、有彦のお陰だった。

『オマエは中身は変わらないんだから俺はオマエを男として扱うからな。』

当時、思春期で自分の体の変化に戸惑い、一人で悩んでいた時に言われたその一言が、嬉しかった。

有彦は、ボク以上にボクの事を知っている。

だから、有彦にいわれると、信じる事ができた。

ただ、最近はたまに女として見られる事もあるが。

それはそれで別にいい。

実際、洋服や制服、下着も全て女物だ。

それは体が女だからしょうがない。

あいつはあいつで気を使ってくれているから、あいつが女としてボクを見るんだったら別にそれでもいいと思う。

ただ、お互いの関係は恐らく変わらない。

それが、アイツとボクとの昔からの付き合い方だから。

また、話が逸れた。

秋葉や翡翠ちゃん、琥珀ちゃんは今のボクの姿を知らない。

恐らく、当時幼かったボクの記憶しかないだろう。

三人は恐らく、ボクの体については何もしらないはずだ。

それで、いきなり家に帰って『あの、どなたですか?』とか言われたら分かっていても少し落ち込むかもしれない。

いや、多分落ち込む。

髪の毛もあの時からこんなに伸びて、見た目は女なんだから、戸籍上男の人間だとは誰も思わないだろう。

ただ、昔の面影を覚えていてくれるなら、すぐに受け入れてくれるはずだ。






そう、願うしかない…。






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