とりあえず私は翡翠を抱いて先輩と秋葉に合流した。
私の腕で寝ている翡翠を見て秋葉は死んだのかと取り乱していたが、
寝ているとわかるとホッ、とした表情を浮かべた。
それで助けた状況などを説明すると、さっきの先輩の説明が飛び出したのだ。
「…それじゃぁ、私は琥珀さんを探しにいきますから。」
「はい、それではこちらもお客さんが来たようなので。」
「そうですね、とりあえずあの死者達を蹴散らして、続きのお茶を飲みましょう。」
そう言うと、二人は立ち上がり、外に向かって一斉射撃を開始した。
その姿は、まさに『セーラー服着て機関銃』って感じだ。
そのうちクセにでもなったらこっちが大変だ。
「っと、そんなくだらない事考えてる暇はないっての!」
私は自分に渇を入れて廊下を駆け出した。
「さっき翡翠は体育館っていってたよな…。」
先ほど翡翠から聞いた言葉を思い出した。
想念に取り憑かれていた翡翠が、『体育館に琥珀さんがいる』と言っていた。
この話がもし本当だったらそれでいいし、
想念が罠にはめようと思って言ったとしてもそこに何かがある事には違いない。
そう思い、私は体育館へと向かった。
体育館に着くと、一人の少女が立っていた。
「…四条、つかさ…?」
彼女は確かに同じクラスの四条つかさ。
食堂で秋葉と呼応して魔の気配が強くなった子だった。
その彼女の後ろには巨大な靄がかかっている。
「…おい、想念。琥珀さんはどこだ?」
「…フフフ、人間。お前が求むるは我か。」
四条つかさ、想念が彼女の口を借りて喋る。
彼女の手には日本刀が握られていた。
「一応、お前もそうなんだがな、それよりも攫っていった感応者の娘はどうした。一人は助けたけどな。」
「…なに? 我の影がたかが人間に滅ぼされたか。」
「あぁ、消滅させてやったよ。それで、質問に答えろ。」
「……………貴様、退魔の血族か。」
「うるせぇ、いいから質問に答えろ。」
「騒ぐな。貴様の求むる女は我が縛にある。
そして、その場所は我のみ知るもの。
我は女の力を使い、自身を強め、退魔の血族を根絶やしにする者ぞ。」
想念は、そこまで言うと強烈な殺気を向けてきた。
「…それで、まずは手始めに俺か?」
「…無論。貴様などあの感応を使わずとも事足りる。」
「へぇ…、大した自信だな、ただの想念のくせに。」
「ダマレ。この女の怨、主の身に刻み込もう。」
そう言うと、四条は尋常ではない速さで踏み込んできた。
「チィッ!」
――――キィン!
七夜で四条の刀を弾く。
「…こりゃぁ、手なんか抜いてられんな。」
私は体育館から廊下に出て、四条をおびき寄せた。
「我を始末しに来て逃げるかっ! 愚かな!」
四条はまた踏み込み、刀を振るう。
それを避け、階段を駆け上がる。
「ぬぅ! 小賢しい奴めっ!」
四条は更に追いすがり、階段を跳んできた。
私は更に階段を上がると、廊下に飛び出した。
「おのれっ! 逃げるだけが貴様の兵法かっ!」
想念は頭に来たのか、叫びながら刀を振りかぶって突っ込んでくる。
「…バカが。」
私は四条の刀を跳んで避け、天上に足をつけて彼女の後ろにある靄の点目掛けて跳んだ。
「くぅ! しまったぁ!」
四条は前に跳ぶが、私はそれを追尾する形で七夜を振るう。
四条が動いた分、点は突けなかったが線を何本か斬った。
「グウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
野獣のような叫び声が、校舎に轟いた。
「…お前、煩いんだよ。」
私は七夜を構えて、想念へと向かう。
「キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマ
キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマ
キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマ
キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマ
キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマ
キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマ
キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマ―――。」
「うるせぇよ、本当に。さっさと消えてしまえ。」
想念は同じ事をブツブツと繰り返し、刀を振るってきた。
だが、その力は先ほどのより遥かに遅く、弱い。
「…殺す。」
私は彼女の後ろへ回り込み、靄の点を今度こそ突く。
――――――――ト
「―――く。」
彼女は前に倒れこみ、動きを止めた。
だが、まだ想念は存在しているらしく、最後に一言私に告げた。
「――――クククク、月の近くで、待っているぞ退魔。」
そう私に告げて、想念の気配は途絶える。
「―――最後の悪あがきかよ、チクショウ。」
私は一人呟き、ヤツの言う場所へと向かった。
――――――バァァンッ
私は扉を開け、屋上に出る
そこには、予想通り一人の少女が立っていた。
「―――ククク、キタカ退魔。」
「―――琥珀さんから出ろ。」
最後の想念の悪あがき、それは予想通り最悪の形で俺に刃を向けた。
「―――我ハモウ消エル。」
「なら、とっとと消えちまえよ。」
ヤツはそう言うと、私に短刀を向け、下衆な笑いを浮かべる。
「―――――貴様モ消エルンダ、退魔ヨ。」
「―――それが、最後の悪あがきか。」
私はそう言うと、琥珀さんに近づいていく。
ゆっくりと歩き、私は琥珀さんの前へと立つ。
「―――ほら、やれよ。それともここから飛び降りてやろうか。」
私はそう言いながら、屋上の柵へと背中を寄り掛ける。
「―――――し、きさ…。ク、ククク。コノ女、我ヨリ今ハ強イ。」
「うるせぇ、いいからさっさとしろ。」
私が言うと、琥珀さんはゆっくりと私に近づいてきた。
「――――だ…。キ、キサマハ、ワレノテデ。」
琥珀さんは、ゆっくりと私に近づく。
「――――キ、キサマ、ワレガ、ワレノ、ワレガ…。」
琥珀さんは、ゆっくりと私の体に短刀を鎮める。
「っ!!!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…。」
体の中に、刃が差し込まれる。
私は琥珀さんを抱いて、その痛みに耐える。
「…き、えろ…。」
琥珀さんの後ろに手を回し、かろうじて力の入る右手で彼女の後ろにかかる希薄な靄の点を突いた。
「――――――ヌシノ、マケダ。」
一言、そう言って背中の靄が消えた。
それと同時に、琥珀さんが私に寄りかかってくる。
「―――こ、はくさ…。」
彼女を抱きとめ、そのまま柵に寄りかかり座り込む。
彼女の靄が消えたのと同時に、ここらへん一帯の異常な気配が消えた気がした。
顎を上げ、月を見上げた。
「―――――あ。」
月の前には、懐かしい人の顔があった。
「ちょっと、そんな所に座ってると死んじゃうわよ。」
「せ、んせ…。」
「えぇ、久しぶりね、志貴。再会を喜ぶのもいいけど、貴女そのままだと死んじゃうからもう喋らないでね。」
「は…、せ、んせ…グ、かわって…、ない、ね…。」
「いいから、ちょっと黙ってなさい。」
「…こ、は、くさん…。お、ねがい…。」
「ちょっと、志貴。今寝ちゃダメよ。」
「は、は…。むり、い、わな…、いで…。」
「ダメよっ! ちゃんと起きてなさいっ!!」
「…………こ、はくさ、ん。お、きて…。」
「志貴っ! 貴女寝ちゃダメよっ!! 志貴っ!!」
「…………………………こ、はくさ…。あ、さだ…、よ。」
「……………………………。」
「………………こ、はく、さ…。」
「あはっ、おはようございますー、志貴さん。」
「………………………お、はよ…。」
俺の意識は、白く包まれる。