――――――もう目が醒めるな。


「――さんっ!! 志貴さんっ!! 志貴さんっ!!」
「志貴、早く起きなさいよっ!!」
「起きてください遠野君っ!! 今大変なんですからねっ!!」


――――――なにが大変なのかわかんないけど、起きとくか。



うっすらと、目を開ける。

「―――おはよう、みんな。」
私はいつも通りの挨拶を交す。

「あ、ああああ…。し、志貴さぁぁぁぁんっ!!」
目一杯に涙を浮かべた晶ちゃんが私の胸に飛びこんでくる。

「あぁぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃっ。」
泣きながら一生懸命謝る晶ちゃん。
私は晶ちゃんの頭に手を置いて撫でた。

「あぁ、大丈夫だから。そんなに泣かないで、晶ちゃん。」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん…。」
「いいから、もう泣かないでいいからさ。私はもう大丈夫だし、ね。」
「全く、やっと起きたわね志貴。」
「本当、迷惑をかけすぎですよ遠野君は。」
晶ちゃんの後ろに立つ二人から非難の声が飛ぶ。
だが、言葉とは違って二人とも優しい笑顔を浮かべていた。

「あぁ、迷惑かけてごめん、アルクェイド、シエル先輩。」
「ううん、志貴が助かったんだから、それでいいよ。」
「はい、遠野君があのまま死んじゃってたら見境なくしてましたけどねー。」
晶ちゃんの頭を撫でながら、二人と会話をしていて、回りの違和感に気付いた。

「…ここ、私の部屋だね。」
私は、寮の自分の部屋で寝ていた。

「えぇ…、結界のお陰で、みなさん遠野君が倒れたのに気付かなかったみたいで。」
「私達が見つけた時なんかほとんど死んでる状態だったんだよ。その子はぼーっと志貴の前に突っ立って泣いてるし。本当初め見た時は混乱したよ。」
「はは…、ごめんな。晶ちゃんを責めないでくれ。」
「もう、志貴はそう言うと思ったよ。自分が殺されそうになったってのにやっぱり庇うんだからさ。」
「まぁ、それが遠野君のいい所なんですけどねぇ。」
「うぅ…、本当にごめんなさい、みなさん…。」
泣いていた晶ちゃんは顔を上げ、後ろの二人にも謝る。

「ううん、もういいよ。あの状況下じゃしょうがなかった。まだ妹やあの双子が操られなかっただけマシだし。」
その言葉で、いつもと違う所に気付いた。

「あ…、そういえば、秋葉と翡翠、琥珀さんは?」
私が二人に聴くと、二人の顔が同時に曇った。

「…ごめん、志貴。双子が攫われたみたいなんだよ。」
「はい…、恐らく、二人は今も学校にいると思います。結界の濃い場所に監禁されているかと…。」
「…そうか。」
予想できていた答えに、私は無表情で返した。

「妹は今さっちんと二人で頑張ってる。」
「…頑張ってるって、なに?」
私はその意味が判らなくて、二人に聴き返した。

「遠野君、今はもう夜、12時に近いんですよ。つまり魔の時間です。この時間を狙って先ほど死者が林に大量に出現しました。」
「まぁ死者って言うよりも亡霊のほうが判りやすいかも。この地に眠ってた亡者が想念のネクロマンシーで動きだしたんだ。
それと最近死者にされた人間とかも合わせて、いっぱい林に出てきちゃってさ。」
「一応、この寮には結界を貼りましたが、あの死者が一片に来たらさすがに耐えられません。ですから、弓塚さんと秋葉さんで処理してもらっているんです。」
「…そうか、それで先輩とアルクェイドは私の治療…。二人の捜索と想念の始末までは無理、か。」
「はい…、メレムが昨日帰っていなければもっと楽だったんでしょうけど…。」
「まぁ、過ぎた事言ってもしょうがない。」
そう言って、私はベットから降りた。
すると、軽い立ち眩みに襲われるが、意識はきちんとしてきた。

「…ふぅ、それじゃぁ、二人を探そう。ついでに想念も。」
「…全く、本当に無茶なんですから、遠野君は。」
「よーし、じゃぁいこっか。」
三人で顔を見合わせてから、晶ちゃんへと向き直る。

「…晶ちゃん、寮の中は安全だから、大人しく待っててね。」
「……はい、待ってますから、帰ってきてくださいね、志貴さん…。」
そういって、一度強く抱き締めてくる。
抱き締めてきた腕を緩めて、晶ちゃんは私から離れる。

「………それじゃぁ、いくか。」
俺は七夜を解放して、窓へと向かう。

「遠野君…、なにか、ありました?」
シエル先輩が凄いものでも見るような目で俺を見る。

「いや…、ただ、七夜を受け入れただけ。」
「凄い…、志貴の内包してる力、私の力とは異質だけど、同じぐらいのポテンシャルだよ…。」
「まぁ…、人の身の極限の力を持つ一族だしな。
それに、いろいろな相乗効果で力が上がったんだろ。」
「そうですか…。それでは、いきましょう。」
「あぁ、秋葉達も助けないとな。」
私達は晶ちゃんの視線を背中に感じながら、死者の林へと飛び込んだ。







「くっ…、なんなのよこいつらっ!!」
「秋葉ちゃん、『略奪』はダメだからねっ!!」
「わかってますっ!!」
「ていうか、全然減らないよぉ〜。」
「先輩っ!! 弱音吐く暇があったら早く処理してくださいっ!!」
「わ、わかってるけど〜。」

林の奥のほうから、やけにクリアな怒声が聞こえる。

「弓塚たち、本当に苦戦してるな…。」
「えぇ、彼女達の防衛線には大量に亡者と死者がいるんでしょう。」
「ねぇ、志貴。空想具現化でここらへんふっ飛ばしちゃだめなの?」
「いや、多分今のお前だとそれはできないだろ。ここらへんはマナとか、地球の力を吸い上げられないだろ?」
「うん、確かにそうだね。今はまだ大丈夫だけど、消耗戦になったら私やさっちんはまずいかな。」
「それでしたら、私もマズいですね。マナが汲み取れないと魔術は使えませんし。」
三人で林の中を駆け抜けながら会話をする。

「あれ、そういえばレンはどうしたんだ?」
私はふと、見当たらないもう一人を思い出した。

「レン? レンだったらさっきからシエルのカソックにぶら下がってるわよ。」
「えぇっ!! あ、いつの間にいたんですかレンちゃん!!」
シエル先輩が自分のカソックにぶら下がっているレン(猫)を見て驚く。
実際、私も驚いた。

「レンっ! とりあえず弓塚達と合流したら人型になってくれな。」
「にゃ〜。」
レンは私の言葉に鳴いて返事をした。

私達は走り、少し開けた場所に来た。
そこでは、秋葉と弓塚が亡者達に囲まれていた。

「くっ!! まったく、キリがないですねっ!!」
「秋葉ちゃん、後ろっ!!」
「っ!!」
感知能力の低い秋葉の後ろに、一匹の亡者が襲い掛かる。
ここまで暗いと秋葉の『檻髪』は反応速度が鈍っていつもより後手を踏む事になってしまう。
無防備な秋葉の背中に、亡者の爪が降りかかるその時、私が亡者に斬りかかった。

「秋葉伏せろっ!!」
「っ!! 姉さんっ!!」

――――――ガシュッ


亡者の点を突いたまま、亡者を蹴り飛ばして吹き飛ばした。

「志貴ちゃん、遅いよぉ〜!!」
「悪い、弓塚。迷惑かけたな。」
「ホントだよ、まぁいっか。約束また守って貰ったし。」
「あぁ、そういう事でチャラにしてくれ。」
弓塚と笑顔で会話をしながら、秋葉に向き直る。

「その、大丈夫か、秋葉。」
「あ…、はい、心配しました…。」
秋葉は目を潤ませながら私の顔を見る。
だが、この状況では姉妹の感動の再会もしてられないらしい。
また一匹亡者の牙が襲い掛かってきた。

「全く、再会の余韻にすら浸れないじゃないっ!!」
秋葉は憎憎しげに叫んで檻髪を振るう。
亡者たちの体は、秋葉に引き裂かれてバラバラになった。

「確かに、このままじゃマズいだろうな…。」
私は少し考えて、ある事を思い出した。