「秋葉、とりあえず私はトイレに行って来るから、彼女、よろしくね。」
「…はい、かしこまりました姉さん。」
「あ、それでは私も同行いたします。」
「そっか、じゃぁいこう翡翠。」
今は休み時間。
私は席を立ち、翡翠と一緒にトイレへと向かった。

あれから今まで彼女、四条さんを見ていたが、取り立てておかしな所はない。
他の生徒と一緒で普通に振舞っていた。
だが、今日食堂で感じた気配は確かに四条さんから発せられていた。
食堂から出る際には複数の視線を背中に感じた。
確かに、四条さんが絡んでいるのには間違いが無いと思う。
だが、なぜ、普通の人である彼女が想念の依り代となっているのか。
それがまず出てくる疑問点だった。

次に不思議なのがこの地一帯の気配。
確かに魔の気配は強い。
だが、そこに少しだけ魔術の気配がする。
これはもしかしたら想念の貼ったものだけではないのかもしれない。

そして何より一番の疑問は目的だ。
この地にいる想念は一体なんの目的でこんな事をしているのかが判らない。
今全力でアルクェイド達が調べているだろうが、創立が古い学院なだけに調べるのも一苦労だと言っていた。
ただ、学院の歴史、存在目的が判ってもそれが想念の目的とイコールだとは言えない。
まぁできれば、想念の目的が単純なものであったら楽なのだか。





「志貴さま、お悩み事でしょうか?」
教室へと帰る途中、
私が考え事をしていると、翡翠が心配そうな顔で話し掛けてきた。

「…いや、なんでもないよ翡翠。大丈夫だから心配しないで。」
「そうですか…、できればお話しして頂きたいのですが…。」
翡翠は本当に心配そうな顔で私を見つめてくる。
私はそんな顔をしている翡翠の頭を撫でながら笑った。

「はは、大丈夫だよ。翡翠が心配する事じゃないからさ。」
「…はい、わかりました。」
翡翠は顔を赤らめて俯きながら返事をした。

私たちが教室前の廊下に差し掛かり、角を曲がろうとすると、

―――――――トスッ

という軽い衝撃が私の体に当たった。

「―――――――えっ?」
「―――――――あっ?」
「――――――――――。」
私の前にはいつの間にいたのか、晶ちゃんが立っていた。
晶ちゃんは私に抱きついているような状態。
突然の事に私と翡翠は変な声をあげてしまった。

「―――――ど、した、の、あ、きらちゃ、ん。」
おかしい。
うまく言葉がでない。

「―――あっ、あっ、あっ。」
翡翠が何か目を見開いて口をパクパクさせている。
その視線の先は私の前にいる晶ちゃんにあった。
私は自分の視線を晶ちゃんへと向ける。



「――――――えっ?」
晶ちゃんの手には、ナイフ。

私の胸に深々と刺さっていた。

「―――なに、これ…。」
私の服には、赤いモノが流れ出す。

翡翠は顔を青くして倒れていた。

「――――――あ、きら、ちゃ…。」

晶ちゃんを見る。

いつもとは違う無表情な顔で、涙を流していた。

「―――――――な、かな、い…。」
晶ちゃんの涙を拭こうと思い、手を伸ばす。

だが、手は思惑とは違いどんどん離れていった。

晶ちゃんの姿もどんどんと離れていく。

私の意識が、ドンドン離れていく。

私の意識が、深い闇に吸い込まれた。













「…………なんだ、ここ。」
私は古い屋敷の中で寝ていた。

「………どっかで、見たことあるんだけどな…。」
そう、そこはひどく懐かしくて、哀しい場所。

「…そっか、七夜の里、か。」
そう、そこには見覚えがある。
私が昔、遠野にくる前に住んでいた屋敷だった。

「…あー、死にそうなのかな、私。」
とりあえず私は起き上がり、あの森へと行く事にした。



森へ着いた。
どうやって来たのかは判らないけど、森へ着いた。

「……やぁ、こんばんは。」
「…こんばんは、七夜志貴。」
そこには、幼い頃の私がいた。
胸に傷なんてものはない、七夜であった頃の私。

「君は今、死にかけているんだ。」

「そうか、やっぱりな。」

「あぁ、肉体は今の所シエルとアルクェイドが頑張っている。」

「…そうか。」

「あぁ、あとは、僕と君、その意識の問題だよ。」

「そうか、私と君の問題か。」

「…うん。君は、僕を受け入れられるかい?」

「…今更何を言ってるんだ。元々君は私。受け入れられない訳がない。」

「…そうか。君は既に七夜の力を操れる。だか、それだけじゃぁ足りないんだ。」

「そうなの?」

「うん。だから、本来の七夜の力を、今の君、遠野志貴の力にするなら、僕を受け入れないといけない。」

「…そうなんだ。それは、どうすればいいんだ?」

「簡単だよ。僕と君が握手をする。そうすれば君は僕を受け入れる。だけどね…。」

「…だけど?」

「僕を受け入れれば、僕と君の死のイメージで、最悪のモノが現われる。それを打ち倒さないと君の精神は死ぬ。」

「…そうか、だからこの場所なんだな。」

「…そういう事なんだけど、大丈夫?」

「…なんとかやってみるよ。とにかく早く目を覚まさないとね。」

「…そうか、安心した。それじゃぁ、よろしくね、志貴。」

「あぁ、よろしくな、志貴。」

二人は握手する。

二人は消えて、一人になる。

周りが変わり、森は暗く、赤く変化した。

「…やっぱりお前かよ、軋間紅摩。」

目の前には、隻眼の紅赤朱、斬魔が立っていた。

斬魔は腕を大きく振りかぶる。

俺は七夜を握り、斬魔に向かう。

「……お前とは、やっぱり決着つけないとな。」

「…………………。」

お互いが近づいていく。

斬魔はその腕を轟音よりも早く突き出す。

俺は七夜を構え、深く踏み込む。

―――――――ブウォォォンッ

耳のすぐ横を轟音が通過した。

踏み込みを更に深く取り、背筋を大きく反らす。

「………………終わりだ。」

そこから、七夜を走らせる。

線や点は薄い。

だから、全ての線、点を七夜で走らせる。

それで、全ては終わった。

斬魔の姿は消え、自分が立っていた場所も消えた。


ただ、眩しい光があたりに降り注いだ。