「志貴さま、朝食のお時間です。」

いつも通り、翡翠の声で目が醒めた。

「…ん、おはよう…翡翠。」
「はい、おはようございます、志貴さま。」
「ん…、朝食だよね…。」
「はい、そろそろお時間ですのでお着替えください。」
時刻はいつも通り6時半に差し掛かる。
私は翡翠の言葉に頷きベットを降りる。

「…それでは、また後ほどお伺いいたします。」
翡翠は深々とお辞儀をして部屋を出て行った。

「はぁ…、あれ、晶ちゃんいないな…。」
カーテンを開けて晶ちゃんのベットを見ると蛻の空だった。
まぁどうせ先に食堂へ行っているんだろう。
私はクローゼットを開けて制服に着替えだした。










「………これは…。」
着替えが終わり、翡翠、琥珀さん、弓塚と一緒に食堂へ入ると、突然魔の気配に襲われた。

「…志貴ちゃん、これ、どういう事?」
「…わかんないけど……、変なのがいるのは確かみたい…。」
「あら、なにかありましたかー?」
「志貴さま? 具合でも悪いのでしょうか?」
翡翠と琥珀さんは食堂の気配を感じ取れないで、私達を不思議な顔で見る。

「…いや、なんでもない。とりあえず席に着こう。」
私は三人をそう促し、先に来ていたみんなの席へと移動した。

「あら、おはようございます姉さん。」
「あぁ、おはよう秋葉。」
「…どうかなさいましたか?」
「ん…、まぁな。」
みんなへの挨拶もそこそこに、私は秋葉の隣の席へと着く。

「…ねぇ、姉さん。なんか今日はいつもと違いませんか?」
「…なにが?」
「えぇ、それがうまく分からないのですが…、なんというか、違和感ですね。」
「あぁ…、多分その感覚は当たりだ。」
確かに感知とかに対して疎い秋葉でもなんとなく分かる程この気配は濃い。
先ほどから気配の発生源を探してはいるが、なぜかそこまで強い気配は感じられなかった。
(ここで一番強い気配は秋葉…、あとは弓塚か…。)
やはり魔を内包している二人の気配は強いが、今食堂を覆っている気配とは明らかに異質だった。

「遠野君、おはようございます。」
「あぁ、先輩おはようございます。」
シエル先輩が食堂にやって来て、私の前の席に腰かけた。
私はみんなには聴こえないよう注意して話し掛ける。

「先輩、この気配は…。」
「はい、気付いてましたかやっぱり。それで、出所は?」
「それが…、さっぱりなんですけど。」
「…そうですか。魔に対しての探知能力にずば抜けている遠野君が探せないんじゃ私では無理ですね…。」
はぁ、と溜息をついて箸でご飯をつつく先輩。
手にはどこから出したのかカレー粉がある。

「…カレー先輩、どういう事ですか?」
まぁ、となりにいるから聴こえてるのは当然なんだけどな。
事情を知らない秋葉が昨日と同じように『教えなさい』と言った目つきで先輩を見る。
その時、シエル先輩の顔がニヤッ、と琥珀さ…、子悪魔の微笑みになった。

「秋葉さん、昨日言いましたよね、カレー先輩はやめてください。このブラコンお嬢様。」
…やるとは思ってたけど、ここまで言うか…。

「なっ、なんですってぇっっっ!!!」
ガターン、と大きな音を立てて立ち上がる秋葉。
食堂の注目が私達の机に集まるが、シエル先輩は構わず続ける。

「あら、そこまで怒るとは自分でも自覚なさっていたんですね、その異常なブラコンぶりを。
こんな妹に執着されているお兄さんも可哀相ですねぇ。」
そう言うと、ニヤリと笑って私を見る。
…先輩、ここぞとばかりに好き放題ですか。

「っ!! 訂正しなさいっ!!」
「あらあら、そんなに怒ると無い胸の脂肪まで全て燃焼してしまいますよ?
ただでさえ少ないんですからもう少し大事に扱ったほうがいいですよ。その胸の脂肪を。」
ぷっちーん、と、何かがキレる音がした。
それに合わせてドンドン高まる秋葉の魔の気配。
それに合わせて、もう一つの魔の気配が感じられた。
(っ!! …この気配、どこだ…。)
感覚を頼りに目を配る。
すると、目線の先に明らかに周囲とは異質の気配を放つ人を確認した。

「…もういいですよ、先輩。」
「あら、そうですか…、ちょっと残念ですねぇ。」
先輩は本当に残念そうな顔で呟く。

「…先輩、殺して差し上げます。」
一方、怒り狂う我が妹君。

「あ、秋葉…、とりあえず落ち着いてくれ。」
「姉さんは黙っててっ!!」
秋葉が凄い形相で睨んでくる。
だが、今回は私も引くわけにはいかなかった。

「…秋葉、落ち着け。その…、悪いとは思ったんだけどな、先輩はわざと秋葉を挑発したんだよ。」
「はい、そういう事です。まぁただ普段思っている事を口に出しただけのような気もしますけど。」
…先輩、また挑発しないでくれ。

「…どういう事ですか? 姉さん。」
ムスッ、としながら私に聞いてくる秋葉。

「あぁ、とりあえずこれから答えるから、座ってくれ。」
「…わかりました。」
今の自分の状況に気付いたのか、渋々と秋葉は自分の席に着いた。

「…さっき、秋葉いってただろ、違和感を感じるって。」
「…はい、確かに言いました。」
「その出所を探る為に、秋葉の魔の気配を利用させて貰ったんだ。」
「…つまり、わざと私を挑発して遠野の血を強めたと?」
うわぁ…、やっぱり秋葉は怒ってますよ、先輩。

「…それに関しては本当に悪かった。ごめんな秋葉。」
私はとりあえず素直に謝る事にした。

「…まぁ、そういう事でしたらしょうがありませんけど。」
納得してくれたのか、拗ねた顔をしながら秋葉は私を見る。

「それで、さっき秋葉が遠野寄りになった時、もう一つ魔の気配が上がっていったんだよ。」
「…それは、どなただったんですか?」
秋葉が回りをきょろきょろとしだした。

「秋葉、そんなにキョロキョロしてたら相手にバレるだろ。」
「あ…、申し訳ありません、姉さん。」
素直に謝ってくる秋葉。
珍しく素直だ。

「…それで、遠野君、一体どこだったんですか?」
「あぁ…、とりあえず、秋葉、態度には出すなよ。」
「…判っています。」
「確かあの人は、うちのクラスの四条つかささんだったと思う。」
彼女の名前を言った途端、秋葉が息を飲む。

「…なるほど、遠野君達と同じクラスの方でしたか。」
「ですが、彼女が想念の依り代になっているとは断定できませんね。
あの程度の気配だと、もしかしたら他にも依り代がいるかもしれませんし。」
「…そうですか、それでしたらやはり学校で少し調査をしなくてはダメですね。」
「はい、ですからとりあえず今日私は彼女の様子を見ています。」
「わかりました、それでは私はアルクェイドや弓塚さんと調査しますね。
過去に遡って調べれば浅神の事が何かわかるかもしれません。」
「はい、よろしくお願いしますね、先輩。」
先輩はそう言うと席を立ち、自分の部屋へと戻っていった。

「…秋葉、四条さんの事を見張るとは言ったが、あからさまにジロジロと見たりするなよ?」
「はい、それは心得ていますよ。」
「あと…、蒼香ちゃん達にもそんな事言っちゃダメだぞ。」
「はい…、気をつけます。」
秋葉に同意を得てから、私は食事を再開した。
後はいつも通りみんなと会話をして、食事が終わったら席を立つ。

食堂を出るまでの間、背中には複数の視線が集まっていた。