いつも通り夜中抜け出して、林に入る。
いつもと同じ場所へいこうと思い、不意に嫌な気配を感じた。
その気配の先には、やはりイヤなモノがいた。
(こいつ…、この間の不良か…。)
目の前のソレは、確かにこの間絡まれた不良の一人だった。
そいつは今、喉が半分以上千切られ、肩も骨が見え隠れしている。
上着なんてものは着ていない。
顔の半分は骨が見えている。
(これは…、アイツじゃなさそうだな…。)
今日会ったメレム・ソロモン…『王冠』を思い出し、即座にその考えを否定する。
ヤツは好きではないが、こんな事をする馬鹿だとは到底思えない。
(しかし…、タイミングが良すぎないか?)
そう、タイミングが良すぎるんだ。
私が女の子になって未だ一ヶ月経っていない。
そして今日メレム・ソロモンがやって来た。
明日には協会からの使者も来るかもしれない。
そのタイミングで、この有様だ。
いくらなんでも自分が犯人だと明らかに分かる事を『王冠』がする訳がない。
そんな事をすれば『処分』されてしまう。
(だが…、明らかにタイミングが良すぎる。)
対峙しているモノを視る。
明らかに死んでいるモノ。
それは『死者』という人形になっていた。
(なにか…、違和感がありすぎる。)
対峙している死者を睨みながら考える。
その間に、死者は私に近づいてくる。
(そうか…、そういうことか。)
死者が腕を振ってきた所を避けて、体に走る点を突く。
それだけで、事は終わった。
次に来たのは、獣のニオイ。
「…また会ったな、メレム・ソロモン。」
「本当に、お会いしてしまいましたね。」
木の上から様子を見ていたヤツが、私の前に降りる。
「…コイツ、一体なんだ?」
私は塵になっていくソイツを見て呟く。
「さぁ…、それは私にも分かりません。『死者』だという事だけは分かりますが、そんな答えを求めている訳ではないでしょう?」
どうやら、『王冠』は本当に知らないようだ。
「…そうか、あんたが知らないという事は。」
「はい、これは『死徒』のモノではありません。それでしたら、私達に情報が回ってくるはずですから。」
「そうか…。」
「はい。ですが…、この『死者』は、ネクロマンシーによるものかと思われます。
最も、普通の傀儡まわしでしたら物理的な媒介が必要なのですが、この死者は術者の想念と…。」
「あぁ…、この地、が媒介になっている可能性が高いだろうな。」
「…その通りです。」
メレムは私の意見に同意を示す。
だが、そうなるとますます厄介な話になる。
「…そうなると、術者は…。」
「はい、この地に血も肉も溶けている、だが想念だけは延々生きながらえているという厄介な状況でしょうね。
術者の想念を発見できても、物理的な攻撃は当然、魔術、魔法ですら対応できるモノは限られてくる。
姫君の空想具現化、弓の黒鍵、そして私の魔獣と固有結界も無理でしょう。
だが、私達では無理ですが、できるとしたら…。」
「…俺の『魔眼』か。」
「はい…、前に貴女は『ロア』の魂のみを殺しています。
そして『ネロ』の666の魂も殺している。
魂という存在するが視えないモノ、それを殺せる事が実証されています。
それでしたら想念も同じ事。存在するが視えないモノですから、貴女の魔眼でしたら殺せる、という訳です。」
確かに、私の魔眼は存在するモノは全て殺せる。
『ロア』の魂もそうだった。秋葉の『檻髪』もそうだった。
存在するが視えない、それを私は殺せた。その理屈だと私だけがそれに対応できる事になる。
「…全く、本当にやっかいなのを惹きつけてくれる。」
私は一人、苦笑した。
「それでは、私は帰らせて頂きます。」
『王冠』が、その場から去ろうとする。
「なぁ、俺に用があるんじゃないのか?」
私は素直に思ったことを口にした。
「…ふ、あははは。今日言ったでしょう。貴女を処断するのは諦めたと。」
「そうか…、わかった、忘れてくれ。」
「いや、忘れませんよ…。こんな愉快な事は久しぶりですから。」
「…まぁいいや。それじゃぁ、元気でな。」
「…あははははははっ!!」
『王冠』は大声を出して笑い出した。
「…なんだよ。そこまで笑うなよ。」
「くくくくっ、失礼。貴女の物言いがあまりにもおかしくてね。
死徒に対して『元気でな』とは、本当に愉快な人だ。
だが、悪くない。」
そこまで言うとメレムは背を向け、林の奥へと歩いていく。
最後に一言、メレムは私に残していった。
「そうですね、それでは『お元気で』。」
「あぁ、お互いにな。」
「…ぷっ、くくく…。」
「…笑いながら歩いてると怪しい人だと思われるぞ。」
「…くくくくくくっ、くはははははっ。」
メレムは本当に愉快そうに笑いながら林の奥へと消えていった。
「さて、と…。いるんだろ、先輩とアルクェイド、あと弓塚かな。」
木の上に向かって声をかける。
すると、三つの影が上から降りてきた。
「しきー、メレムになんかされたー?」
「…メレムのあの顔、逆になんか怖かったですね…。」
「志貴ちゃん、なんで私だけ疑問詞なの〜?」
三人は三人とも思いのまま私に話し掛けてくる。
「あ、あのさぁ、一片に話し掛けられても答えられないんだけど…。」
「なんで私だけ疑問詞なの〜?」
「吸血鬼としての存在が希薄だからアルクェイドの気配が強くてわかりずらいんだよ。」
「メレムになにもされなかったー?」
「なにもされてねぇよ、ていうか何かされそうだったら今ごろ戦ってる。」
「そっかー。そりゃそうだよねー。」
「遠野君、メレムの顔が怖かったです。」
「…私に言わないでくださいよ、先輩…。」
なんでこの状況でみんながみんなズレた質問をしてくるんだろう…。
とりあえず気を取り直して私は三人に言う。
「で、さっきの話は聞いてた?」
「はい、大体は聞いていました。死者が存在しているのはわかったんですが、その根源までは想像できませんでしたね。」
「根源が想念ていうのは、ある意味『ワラキアの夜』と同じだけど、あれはほとんど事象みたいなものだったしね、根本が違うか。」
「うぅ…、私には意味がわからないよぅ…。」
「…弓塚、無理はするな…。」
「ぅぅ…。」
「それで、想念はこの地のどこかにもう存在しているだろう。媒介はこの地一帯だからそれをどうにかするのは難しいしな…。」
「そうね、流石にここらへん一帯吹っ飛ばすなんて事したらマズいだろうしね。」
「…遠野君、それじゃぁ。」
「…うん、先輩。とりあえずその想念を探すしかできないみたいだね。」
「そうですね…。恐らく普通の人間に憑いているはずですし…。」
「先輩、なんで人間に憑くんですか〜? ていうかその想念の目的は〜?」
「弓塚さん、いい質問です。そうですね、簡単に言うと実体があるから死者がいた、という事です。
流石に想念という精神的概念ではモノや人に触れる事はできません。
ですからまず人に憑いて一人でも二人でもいいから死者にする。
それからその死者を操りどんどんと増やしていく、というのが死徒のセオリーです。
まぁ今回の場合、死徒ではないので何の目的か、というのは全く謎ですがね…。」
先輩は一気にまくし立てて喋る。
「先輩、私、多分想念の出所はあそこだと思うんだけど…。」
私の言葉に先輩は無言で頷く。
「…浅上、浅神女学院、ですね。」
「はい、元々退魔の一族が建てた女学院ですからね…。何か理由はあると思ったんですが…。」
「…もしかしたら、『生贄』選抜の為の場所だったのかもしれませんね。」
「い、生贄ですか…?」
弓塚がギョッ、として先輩を見る。
「はい…、日本の神道では、古くから生贄を使う儀式がある事は聞いていました。
勿論、それは日本だけでは無く、世界の宗教といったモノには必ず付いて回る噂というか、考えですね。
魂を神に捧げるかわりに、神からのお告げや神への祈りに変える。そういう考えは宗教にはある程度ついて回るものですから。
まぁ今の理事や運営をしている方々は知らないでしょうけど、浅神は退魔の一族においても神道で退魔をしていた一族ですから。
今はもう滅びて血筋は途絶えたようですが、その一族の想念がこの地に留まっているとしたら、このような事態になる事も有りえますね。」
先輩が言う事も一理ある…。
だが、どっかが根本的に間違っているような気がする…。
「ねぇ、シエル。それっておかしくない? なんで退魔が護るべき人間を犠牲にするのよ。」
アルクェイドが私の考えていた事を言った。
「…そうですね、確かに特殊な退魔の一族であっても、人である事には変わり無いですし。
護るべき対象の人間を生贄にして自身の力を強くするなんて事をするはずがありませんね…。」
「そうだね、七夜だとそんな事は過去に無かったみたいだし。」
「だとすると…。ここを建てた理由は、なんなんでしょう…。」
シエル先輩の言う通り、そうなると建てた理由が分からない。
「…とりあえず、今日の所は寮に帰りましょう。
今なんの情報も無い状況で学院にいくのは危険だと思います。
それに、学院の調査でしたら明日の昼に行ったほうが向こうも大きな行動には出ないでしょうし。」
確かに、シエル先輩の言う通り魔の時間帯である今より昼間のほうが調査には適している。
私は先輩の言葉に頷いた。
「そうですね…。それじゃぁとりあえず帰りましょうか。」
「はい、そうしましょう遠野君。」
「む、そうね…。じゃぁおやすみ志貴。また明日ね。」
「あぁ、おやすみアルクェイド。」
「おやすみなさい、アルクェイドさん。」
「うん、おやすみーさっちん。」
相変わらず先輩には挨拶せずにアルクェイドは帰っていった。
「それじゃぁ、帰ろうか。」
「そうですね、いきましょう遠野君。」
「そうだね〜、一緒に帰ろう志貴ちゃん。」
何故か両脇を固められ、二人と共に寮へと引きづられて私達は帰っていった。