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「志貴さま、夕食の時間ですがいかが致しますか?」
秋葉の後ろに立っていた翡翠が私に聞いてくる。
「あ、もうそんな時間か。それじゃ行くかな。」
よっ、と体を起こして私はベットから降りる。
「あ、あの…、姉さん。」
「ん? …なんだよ秋葉。」
心配そうな顔をして、秋葉が私に声をかける。
「あの…、本当にごめんなさい。」
「あ、あぁ…。まぁいいよ、もう。それに私も悪かったしな。」
そう言って、私は秋葉に笑いかけた。
「あ、はい、それはそうです。」
「だろ? じゃぁもう謝らないでいいよ。それじゃぁ食堂いこう。」
「…そうですね、それではいきましょう。」
秋葉はそれから笑顔になり、翡翠と三人で食堂へ向かった。
「あぁ、遠野君、探しましたよ。」
「あ、シエル先輩。どうかしましたか?」
私達が食事をしていると、その机にシエル先輩がやって来た。
そういえばシエル先輩はみんなが集まっている時にも公園にはいなかった。
「先輩、そういえば公園に来てませんでしたよね。」
「はい、その事でお話が…。」
そう言うと、シエル先輩はチラッ、と机にいるメンバーを見る。
そういえば羽居ちゃんと蒼香ちゃんはまだ帰ってきてないんだな…。
「先輩、とりあえず座りなよ。」
「あ、はい…。それでは失礼しますね。」
とりあえず私は先輩に座るよう促し、先輩は私の正面に座った。
先輩は私の前に座ると、真剣な眼差しを私に向けてきた。
「それで、遠野君。」
「はい、なんでしょうか?」
「…『王冠』に、会いましたよね?」
やっぱりか、まず始めにそう思った。
まぁ確かにヤツは『弓』…つまりシエル先輩に用があると言っていたから私達が公園にいる間に会っていたんだろうとは予想していた。
そして、『王冠』と聞いて晶ちゃんと琥珀さんが顔を蒼くするのも予想できていた。
「…はい、会いましたよ。晶ちゃんと琥珀さんを泣かせて帰っていきました。」
「なっっ!! それは本当ですかっ!!」
シエル先輩は目を見開いて琥珀さんと晶ちゃんを見る。
「いえ、あれは勝手に私達が泣いただけでして…、ね? 瀬尾さん。」
「は、はい…。ちょっと、怖くて…。」
そういって、二人とも顔を青くして食事を一旦止める。
「ちょっと、カレー先輩。一体どういう事ですか?」
秋葉は二人の変化に戸惑い、原因を知っていそうな先輩に突っかかった。
「秋葉さん、とりあえずカレー先輩はやめてください。
それと、その原因は私は知りませんよ。こうして二人が無事なんですから。」
…逆を言うと、無事じゃなかった場合の原因は判る、という事になる。
それを聞いて、秋葉は思わず先輩を睨みつける。
「…先輩。それはもしかしたら無事じゃ済まなかった、という事なんでしょうか?」
「いえ、まぁ確かにそうとも取れますが、遠野君と一緒でしたから、無事なのは判ってました。
ただ、遠野君の力が弱かった場合は、遠野君共々『処断』されていたでしょうね。
そうなった場合の原因は判る、という意味ですよ。」
確かに、ヤツは私の力を見定めて『処断』するかしないかを決めたような口ぶりだった。
「そ、それって…。し、志貴さんがあの時弱かったら…。」
不意に、琥珀さんが震える声で問い掛けた。
晶ちゃんはただ震えるだけだ。
「…申し訳ありませんが、間違いなく遠野君共々、彼の魔獣の餌になっていたでしょうね。」
『餌』という言葉を聞いた時、二人の肩がビクッ、と揺れた。
餌になる、という事はイコール殺されて、食べられるという事になる。
二人は完全に震えだし、食事も摂れないでいる。
「ですが、遠野君が一緒でしたから、今こうして一緒にご飯が食べられます。
もう彼は遠野君と回りの方に接触する事はないと思いますよ。ですから安心してください。」
にっこり笑うシエル先輩。
それを聞いて、震えていた二人はホッ、とした顔になり緊張していた肩を緩めた。
「ちょっと、先輩。一体どういう事なんですか?」
わからない事があると怒り出す秋葉。
やはり今回も判らないので怒った。
だが、シエル先輩はそ知らぬ顔でご飯を食べる。
「…秋葉、とりあえず秋葉には今の所関係無い話なんだよ。」
「あ…、ですが、姉さん…。」
「秋葉さん、今の所貴女には全く関係無いんですよ。ですから申し訳ありませんが私はお答えできません。
今、この場で関係あるのは私と遠野君だけです。
まぁその話を先ほどこの場でしようと思ったんですが、遠野君、どうしますか?」
そういって、チラリと私の顔を見る。
恐らく、これは『秋葉が可哀相だからこの場で会話をして間接的に聞かせてやろう』という事だろう。
その心遣いに感謝しつつ、先輩に笑顔を向ける。
「そうですね、この場でいいですよ。
でも口出しとかはなるべくされたくないなぁ…。」
そう言いながら、チラリと秋葉を見る。
「…わ、判っています。人の会話に口出しするような無粋な真似はしません。」
ちょっとスネながら、秋葉は自分の食事に目を戻した。
そんな秋葉を見て笑いながら、先輩に視線を戻す。
「それで、話の続きですけど、一応ヤツから具体的な事は聞きましたよ。」
「えぇ、私も彼…、メレム・ソロモンから聞きました。
最も私にとっては寝耳に水な話でしたから驚きましたが、現在の遠野君の状況を見るとそれも当然かと納得しちゃいました。」
「はは、俺もそれを改めて言われて、あぁ確かになぁ、とか納得しちゃいました。」
そう言い、私はあはは、と笑うが、先輩は呆れた顔で私を見る。
「…遠野君は本当に能天気ですねぇ。事の重大さを判ってるんですか?
教会と魔術師協会を下手すれば同時に敵に回す事になるんですよ?
そんな事になったらあのあーぱーだって消されちゃいますよ。」
「だから、敵に回さなければいいんですよね?」
そう言って、先輩に笑顔を向ける。
先輩はさらに呆れた顔で私を見た。
「…はぁ、そりゃそうなんですけどねぇ。
まぁメレム・ソロモンのほうは大丈夫だと思いますけど。
彼言ってましたよ。『あんな人間に会ったのは初めてだ。君が興味を持つのも判るよ。』って。
しかももの凄い満面の笑みですよ。気持ち悪いったらありゃしませんでした。」
そういって、シエル先輩は自分の肩を抱いて震える真似をする。
「それと、彼からの伝言です。『君のような人間には死んで欲しくないのでね、協会とは事を構えないように。教会側としては君を不安定要素だが危険因子ではないと報告させて貰う』
と言う事です。それと、ついでに『前は男だったが、今は美しい女性だ。君はそんなに可愛いんだから、俺などと言ってはいけない。』だそうですよ。良かったですねー遠野君。」
「…先輩、それは思いっきり嫌味ですよね。」
「はい、そりゃもう嫌味です。私は遠野君のお陰でネチネチと彼に愚痴を溢されましたから。」
「はい? なんで私の所為なんでしょうか?」
「それはですね、遠野君が彼の殺気に怯む事なく受け流し、なおかつ最後には彼を挑発、逆に殺気を叩きつけて彼は怯まされた、と言っていました。
それが原因で彼は凄い不機嫌になり機関内での愚痴や私に対してのお説教、更には日本の風土に対する愚痴まで飛び出してきましたから。
もう悲惨でしたよ。」
「は、はは…。それは災難でしたね…。」
「はい、全くその通りです。」
そう言いながら先輩はムシャムシャと不機嫌そうな顔で食事を摂る。
「…それでですね、問題は『協会』からの使者ですよ。」
シエル先輩は箸を止めずに喋る。
「『教会』でしたら今回のように埋葬機関の人間が来ますから、私もいますし穏便に済みますが、
『協会』の人間になりますとそうはいきません。
何せ魔術師というのはある意味憑かれていますから、相手にするのは厄介ですよ。」
「はぁ…、そうなんですか。」
「まぁ、前に会った彼女はそういう意味では違いましたけどね。それでですね、恐らく明日には来ますよ? その使者は。」
「えぇっ!! 明日なんですかっ!!」
「はい、彼らは自身の研究がありますから、行動は早く行うんです。
最も、協会から依頼されて他の人間が来るかもしれませんが、それでも相手は誰なのか判りません。
ですから、できるだけ用心してください。戦闘になる事も考えられますから。」
「はぁ…、まぁ判りました。」
「はい、これで私の話は終わりです。なにか質問はありますか?」
そう言い、チラリと秋葉に目をやる先輩。
私は質問はないが、とりあえず秋葉へと目を配る。
「う…、あ、あの、先輩…。」
「はい? なんでしょうか秋葉さん。」
シエル先輩はニヤッ、と笑いながら秋葉へ聞き返す。
「そ、そのですね…。その、『王冠』という方の話をもう少し…。
ね、姉さんに殺気を叩きつけたとか、『処断』とか…。」
おずおずと、秋葉は喋る。
「それはですね…。」
「先輩、とりあえず私から話しますよ。」
「あ、はい。そうですね、その場にいた遠野君のお話は聞きたいですね。」
私は先輩が喋るのと止め、私からその話をする事にした。
「えっと、公園で私と琥珀さん、晶ちゃんの三人で話をしてたら、彼が来たんだ。
まぁその前から結界が張られたのは気配とかで気付いたんだけどね。
それで彼と話をする事になって、その途中で彼のほうから喧嘩を売ってきてね。
でもまぁ彼、死徒だから本気じゃなかったからずっと受け流してたんだ。
それでもネチネチと『殺人貴』だの何だの言ってくるから向こうの挑発に乗る事にしたんだ。
それで挑発して殺し合い寸前にまでいったんだよ。
でも先輩の直属の上司だからさ、マズイなぁと思ってやめた。」
「…はぁ、遠野君も無茶しますねぇ。」
「まぁ普段だったらそんな事しないけど、流石に処断するとか言われたらさ。それに私相当彼に嫌われてるみたいだし。」
「そうですねぇ。一度彼のアイドルを殺しちゃってますから。」
そう言って、シエル先輩は笑った。
質問をしてきた秋葉は唖然として見ている。
「でも、彼に面と向かって挑発するのなんて遠野君ぐらいでしょう。
私だったらそんなの無理ですし、秋葉さんだったら彼の殺気で怯んで動けなくなってしまうでしょうしね。」
「そ…、そんなに危険な方を挑発したんですか? 姉さんは。」
「えぇ、まぁ私から見たら確かに危険ですね。彼は死徒二十七祖であり埋葬機関の五。
実際かなりの実力の持ち主ですから、私じゃまともにやり合っても勝てる見込みは薄いです。
ですが、遠野君は過去二十七祖の内二人、番外のロアを含めて三人も倒しています。
そんな人過去にはいませんでしたから、目を付けられるのも当たり前なんですよ。」
「まぁ、困ったもんですね…。」
「何を他人事みたいに言っているんですか、自分の事じゃないですか。」
「まぁ、そうなんですけどね。あはは。」
秋葉は唖然としてそのまま動かない。
私はとりあえず食事を摂り、その後は帰ってきた羽居ちゃんや蒼香ちゃんを交えみんなと他愛も無い会話をして過ごした。