「…あの、琥珀さん?」
「はい、なんでしょうかー。」
「…ちょっと、くっつき過ぎだと思いません?」
「あら、そうですかー?」
「…そうだと思いますよ。」
「別にいいじゃないですかー。カップルには見えないかもしれませんけどね。」
「…まぁ、ある意味カップルに見えるんじゃないでしょうか。」
「あら、そうですか? 別に私はそれでもいいんですけど。」
「…というかですね、さっきから後ろの視線が凄く痛いんですけど。」
「あはー、気にしたら負けですよー。」
繁華街の中を、琥珀さんと腕組んで歩いていく。

さっきから通り過ぎる人がこっちを見ながら歩いていくのはそういう関係に見えるからだろうか。
これで私が男の姿だったらまぁ良かったかもしれないけど、今は女の子だ。
なんていうか、凄い複雑。
しかも背中には殺気丸出しの視線が一杯突き刺さってくる。
私達を見ながらすれ違う人はその後ろの壁際の5人を見て毎回「うわっ!」と驚いている。
その度に後ろでバキッ、とかボコッ、とか嫌な音が聞こえるのも無視。
監視されているのは判っているが、無視しないと私の身が持たない。
しかし、秋葉やアルクェイド、シエル先輩はともかく、翡翠や弓塚までとは…。

「結局、みんなで出かけてるのと変わらないですね。」
「うーん、でもそろそろ二人っきりになりたいですねー。」
琥珀さんが突然そんな事を言い出した。

「えぇっ…、撒くんですか…?」
「はい、まぁ後で怒られる事はないと思いますけど。」
「え? なんで怒られないの?」
「それはですね、後ろから覗いてる方々は志貴さんに秘密で覗いてると思っているでしょう?」
「はい、まぁそうですよね。」
「ですから、『私覗いてました』とか堂々とは言えないじゃないですか。
撒かれたのを怒ったら自分が覗いてたっていうのが志貴さんにバレてしまいますよね?
そうすると、志貴さんは当然怒るとお思いでしょう。
ですから、志貴さんに怒られない為にはここで撒かれたのを怒ってはいけないんですよ。」
「…なるほど、でもなぁ、なんか悪いような気がして…。」
「むっ、ダメですよそんなの。今日はデートなんですから。」
「はぁ…、デートですか…。端から見たらまるっきり女同士ですよね…。」
「まぁ、それはしょうがないんじゃないでしょうかー。」
「はぁ、そりゃそうなんだけどね…。」
「ふふ…、じゃぁこういう事しちゃいましょうかー。」
そういって、琥珀さんは街中にもかかわらずいきなり私の首に腕を巻きつけてきた。
自然、私に抱きつく形になり、琥珀さんの顔が私のすぐ側にある。

「なっ!!」
後ろのビルの隙間から誰かのそんな声が聞こえたが、琥珀さんは気にしない。

「ちょ、ちょっと琥珀さ…。」
「このまま、そこのビルの隙間に入っちゃってください。」
「えっ…、あ、はい…。」
狼狽する私をよそに、琥珀さんは冷静な声で私にそう告げると、私は頷くしかできなかった。
そのままの格好で私達はビルの隙間に入っていく。

ビルの隙間に入ると、凄い殺気が近づいてくるのがわかった。

「あぁ…、みんなやけに殺気立ってるんですけど…。」
まだ抱き合っている格好で、私は琥珀さんの耳元で呟く。

「あはっ、それじゃぁみなさん来ないうちに逃げちゃいましょう。」
「…そういう事ですか…。わかりました…。」
琥珀さんはイタズラっ子のような笑顔で私に言って来た。
確かに、あそこまで殺気立ってるとなにされるか分からないので私も同意した。

「それじゃぁ、ちょっとごめんね…。」
「えっ? きゃっ! あ、志貴さん?」
私はそう言うと琥珀さんを両手で思い切り抱き締めた。
そして、そのまま『力』を解放。
ビルの隙間を三角跳びしながら上に上がっていく。

「きゃーっ! きゃーっ! すごいーっ!」
「…琥珀さん、少し静かにしてくださいよ。」
琥珀さんは楽しいのか驚いてるのかわかんない悲鳴を上げている。
私はそのままビルの隙間を跳び上がり、屋上に出る。

「あーっ! 凄いですねーっ!」
「まぁ…、でも、こっから離れないといけないでしょ? だからもうちょっと我慢してくださいね。」
「えっ? 我慢って…、きゃぁっ!」
琥珀さんの言葉を待たず、私は『お姫様だっこ』で琥珀さんを抱えた。

「あっ! 志貴さん、スカートが…。」
「…申し訳ないですが、自分で抑えてください。」
「あっ、はいー。」
そうして、琥珀さんは自分の手を足に挟みスカートを抑える。

「じゃぁ、いきますよ…。」
言うやいなや、私はビルの間を跳んだ。

「きゃぁっ! は、速いですよーっ!」
「秋葉ならともかく、シエル先輩やアルクェイドは追跡してくる可能性がありますからね。
もうちょっと飛ばしますよ。」
そして私は更にスピードを上げる。

「きゃーっ! お、落さないでくださいねーっ!」
「大丈夫ですから、じっとしててください…。」
「きゃぁ! く、くるまよりはやいーっ!」
「…アルクェイドやシエル先輩も普段こんなです…。」
そうしてビルの屋上を伝って住宅街へ出る。
ビルから民家の家に飛び移ろうとする前に、

「琥珀さん、ちょっと怖いかもしれないけど…。」
とだけ言っておく。

「えっ? ちょっと志貴さん? なに…。」
琥珀さんが全て言い終える前に、私は下に飛び降りた。

「っ! きゃーーーーっ!! おちてますよーーーーっ!!」
「そりゃ落ちてるんですから…。」
「きゃーっ! た、たすけ…。」
「もう着くから大丈夫ですよ。」

―――――――ストッ

民家の屋根にできるだけ音を立てずに着地する。
でも琥珀さんが思いっきり叫んでいたので周りの民家に聴こえている可能性は非常に高い。
しょうがないのでそのまま民家の屋根を伝って離れた。





「――――――ん、あ、あら…?」
「あ、琥珀さん気がついた? ごめんね琥珀さん、怖がらせちゃって。」
「…あ、志貴さん。大丈夫ですよー。」
途中琥珀さんが腕の中でぐったりしてるのに気付き、私は駅前から反対側の公園で休むことにした。
寮からは駅を跨いだ位置にあるから途中どう間違ってもみんなはこの公園に来ないはずだ。
最も、アルクェイドや先輩、弓塚が本気出して捜索しているなら話は別だが…。

「はい、これ。市販の紅茶だから、口に合わないかもしれないけど。」
そう言って、私はレモンティーのPETボトルを琥珀さんに渡した。

「あ、はいー。ありがとうございます志貴さん。」
「いや、別にお礼なんて…。」
笑顔でお礼を言ってくる琥珀さんに、私は顔を背けてポリポリと頬を掻きながら返事した。

「はぁ、それにしても志貴さん、すごいですねー。」
「いや…、まぁアルクェイドや先輩と一緒にいるとこんぐらいはできないとね…。」
「あはっ、そうですねー。お二人とも普通じゃないですから。」
「まぁ、簡単に言うとそういう事かな…。」
そんな話をしながら、二人でお茶を飲んで休んでいた。


「あっ、やっぱり志貴さんと琥珀さんですねー。」
二人で他愛もない話をしていると、不意に誰かが私達に声をかけてきた。
私はその声がさっきの追跡隊の面々でない事にホッとして、その方向を見る。
琥珀さんも私に倣い、同じようにその方向を見た。

「あっ、晶ちゃんじゃないか。おかえり。」
「あらあら、瀬尾さんおかえりなさい。」
「はい、ただいまです志貴さん、琥珀さん。」
声の正体は実家に帰っていた晶ちゃんだった。

「やけに早いね晶ちゃん…、あれ、でもなんでこんな所に? 寮は…。」
「はい、実は昨日実家にいる時に視えたんです。それで…。」
「あぁー、未来視かぁ…。そっか、だから普段来るはず無いここまで…。」
「はい、そういうわけです。」
「それじゃ、瀬尾さんも一緒にどうですか?」
そういうと、琥珀さんは自分の隣のスペースをポンポンと叩いて座るよう促した。

「あ、は、はい。それじゃぁ失礼します…。」
晶ちゃんはその場所におずおずと座る。

「それで、お二人はなにをしてたんですか…?」
微妙な上目遣いで晶ちゃんが私達に聞いてきた。

「はい、デートしてたんですよー。」
「…まぁ、そういう事らしいです。」
琥珀さんの言葉にとりあえず同意する。
すると晶ちゃんは目を大きく見開いて驚いた。

「あっ! あわ、わ私それじゃぁお邪魔…。」
「あぁ、そうじゃないんだけど。厳密に言うと今日一日私は琥珀さんに行動の自由を奪われているんだ…。」
「あはー、まぁ実はそういう事なんですけどねー。」
「あっ、そ、そういう事なんですか…。でも、行動の自由って…。」
「まぁ、弱みを握られたというか何と言うか…。」
そう言いながら、今朝の自分の映像を思い出し赤面する。

「あらら、志貴さん顔が赤くなってますよー?」
と、琥珀さんに言われ、私は更に赤面してしまった。
それをまた琥珀さんにからかわれるというのを繰り返している。




突然、私達の周りから獣の気配がした。