ゴソゴソゴソゴソ、ガサッ
「はい、これでゴミは全て回収いたしました。」
翡翠の号令と共に、みんなは部屋の中央にゴミ袋を集めた。
その数は3つ。カン、ビン、燃えるゴミときちんと分別してある。
「さて、秋葉さま、少し問題があるのですが。」
翡翠が秋葉にそう切り出した。
「翡翠、問題ってなんの事?」
「はい、このゴミなのですが、普段通りに出せるのは燃えるゴミだけかと思います。
カン、ビンそれぞれ明らかにアルコール類と思われるものばかりですから、いかがいたしましょう。」
「あ、そういえばそうね…。普段だったら少量なんですが、今回は人数も多かったから結構買ったものね。
…そうね、外に捨てに行きましょう。コンビニなどのゴミ箱に捨ててしまえば問題は…。」
「…秋葉さま、それは十分問題かと思われますが。」
翡翠が常識で非常識を打ち破った。
「…そうね、遠野家当主がそんな姑息な事できないわね…。」
多分、大いに間違ってると思うぞ、秋葉。
着眼点はそこじゃない。
「あ、じゃー私の部屋に持っていこうか?」
アルクェイドが手を挙げて言う。
確かに、アルクェイドが後日そのビンやカンをゴミとして出してくれれば問題はない。
「そうだな、その手でいこうか。」
「そうですね、あーぱー女に頼るのは嫌ですが、今回は仕方ありません。よろしくお願いします。」
「む、妹って本当素直じゃないよねー。」
「余計なお世話ですっ。」
秋葉とアルクェイドがにらみ合いを始める。
お互いうー、うーと唸って牽制しあっているのかしていないのか。
「あ、すいません、それにも問題がありますが。」
続いて手を挙げたのはシエル先輩だった。
「問題って? なにか問題ある?」
「えぇ、ありますね。この真昼間にこんないかにも重たいゴミ袋2個も担いだ金髪外人が寮内の生徒に発見されるのも問題ですし、
アパートへの道程の途中一般人がいるのも平気でピョンピョン飛び回られては更に困った事になってしまいます。
アルクェイドの場合、ただでさえ目立つ上に、気配や身を隠す手段を持ち合わせていない、まぁ今までその必要が無かったんでしょうけど。
ですから、道中アルクェイドが発見される事は私達にとって大変好ましくない展開となってしまいます。」
こんなくだらない問題を、真顔で真面目に指摘するシエル先輩。
先輩って、説明好きのポジションから抜け出せるのかな…。
「じゃー、シエルが運んでくれる? 貴女なら気配を殺したりできるでしょ。」
「なに言ってるんですか、私は貴女のアパートなんて知りませんよ。」
「あっ、そりゃそっか。うーん、じゃぁどうしよう…。」
先輩の指摘した問題点をみんなで思いっきり悩む。
くだらない事で悩めるのって、幸せな証拠だなぁ…。
と、その時アルクェイドが思い出したように言った。
「あ、そういえば志貴は私のアパート知ってるじゃん。」
「げっ!! バカッ!!」
アルクェイドの爆弾発言に私はつい反応してしまった。
それでみんなの視線が一気に私に集まる。
「…アルクェイドさん、三崎町のアパートの事を言っているんですか?」
「えっ? 違うよ。この町のアパート。この間志貴が遊びに来たから多分道分かると思うんだよね、そんなに離れてないし。」
アルクェイドに顔を向けて質問をした秋葉の顔が、キリキリキリキリ、と音が出そうな具合にこちらを向いた。
「…姉さん、一体なんのお話なんでしょうか?」
「あ、ははは…、なんの、話でしょうね…。」
「そうですか…、あくまでシラを切るおつもりですか…。」
「いや、秋葉…、ちょっと、落ち着け…。」
「遠野君、まさかこのあーぱーと一夜を過ごした訳ではないでしょうね…。」
「いや、せ、先輩っ! ちょっと背中、黒鍵刺さってる!」
「はい、ですから大人しくお話してください。」
「いや、ただあれはレンを預かってもらってて、それで迎えにいっただけだから…。」
「む、なによー。私と遊ぶのが目的じゃなくてレンが目的だったわけ?」
「いや、別にそんな事言ってないだろ! ていうかややこしくなるからお前は喋るな!」
「むー、なによそれー。」
「ま、まぁそういう事だからさ、本当に。だから二人とも落ち着いてくれ。」
「…まぁ、いいでしょう。今回は他の問題がありますからね。」
「そうですね、その話はまた後でじっくり聞く事にしましょうか。」
そう言って、黒鍵と髪が私の身体から離れた。
とりあえず気を取り直し、話を元に戻す。
「…で、アルクェイド。別に私が持っていってもいいんだが、鍵は開いてるのか?」
「あー、うん。開いてないけど、これ渡しとくよ。」
そう言って、アルクェイドは一つの鍵を私に手渡した。
「あ、これお前の部屋の鍵?」
「うん、合鍵作っといたから、いつでも入っていいよ。」
「あ…、うん、ありがと…。」
あまりにも意識してない素振りのアルクェイドに、私は少し顔が熱くなるのを感じた。
「でっ!! それで姉さんが持っていくという事でいいですかっ!?」
イライラした表情で、いきなり大声で言い出す秋葉。
「あ、あぁ。別に問題は無いけど。」
「はい、それではお願いしますね志貴さん。」
そういって、私は琥珀さんから二つのゴミ袋を手渡された。
私はそれを両手で受け取り、靴をクローゼットから出して窓へと向かう。
「あ、あの…志貴さま? 出口はあちらですが…。」
翡翠が、当然の疑問を投げかける。
「うん、まぁ、いくら気配消せても出口から出るのは目立つし。
そういう訳だから、こっから出る。」
そう言って、靴を履いて窓に足をかける。
「…まさか姉さん、毎晩こうやって部屋を抜け出してるんじゃないでしょうね…。」
「…秘密。それじゃぁ、すぐ帰ってくるから。」
そう言い残して、私は窓から一番近い木に飛び移り、アルクェイドの部屋へと向かった。
「…おかしいな。」
私はアルクェイドの部屋へと入り、ゴミ袋を置いた。
部屋へと入る前から、部屋にある異様な気配には気付いていた。
「…魔の気配はアルクェイドのものだとしても…、獣と魔術…、それと先輩みたいな気配が混ざってる…。」
先輩はこの部屋を知らないから来ている訳がない。
それに先輩だとしてもこの獣の気配を出すはずがない。
「…帰ったら聞けばいいか。」
そうして、私はアルクェイドの部屋を出た。
途中、背中に視線を感じたが、着けてくる気配も、殺気も感じなかったので無視する事にしたが、念のため迂回して帰った。
「ただいま…。」
私は今までの事を考えながら部屋へと入った。
「おかえりー、志貴。…なにかあった?」
アルクェイドが抱きつこうとして動きを止め、真顔になり聞いてくる。
「…あぁ、お前の部屋にな、獣の気配と、魔術の気配。それと先輩の法衣みたいな残り香があった。」
それを聞いた途端、アルクェイドとシエルは苦い顔をした。
「…あのいたずらっ子が、ほんと中身だけは子供なんだから。」
「全く…、そんな悪趣味する人はアレしかいませんね…。」
二人とも判っているようだが、私には全く判らない。
「なぁ、二人とも。なんの事を言ってるんだ?」
「その気配の正体よ。その気配全部に当てはまる奴は私一人しか知らないし、そいつの事はシエルのほうが詳しいんじゃないかしらね。」
「あら、貴女だって詳しいはずです。飛行機の乗り方とかお金の換金方法とかは彼から教わったんでしょ?」
「でもシエル、なんであの『王冠』がこんな極東の地に来るわけ?」
「そんなの私に聞かないで下さいよ。別に埋葬機関の召集がかかった訳ではないですし、貴女の事追いかけてきたんじゃないんですか?」
「ふーん、まぁいいや。別に彼に興味ないし。」
「あら、冷たいですね、アルクェイド。彼は貴女のファンなのに。」
「やめてよそれ。全然嬉しくないんだから。」
「ふふ、それは私も同感ですね。」
二人はなんなく嫌そうな顔で笑っている。
だが、状況を判っていない私としては二人の会話は理解不能。
「そんな事どうでもいいからさー。志貴遊ぼうよー。」
私がまだ考え事をしていると、アルクェイドが腕を組んできた。
「く、くっつくなアルクェイド!!」
「そうですよアルクェイドさま、今日志貴さんは私とお出かけするんです。」
「……え…?」
唐突に出た琥珀さんの言葉に、みんなは当然驚いた。
「な、なに言ってるんですか姉さん。そんな事突然志貴様に言ったって…。」
翡翠が困惑した表情で琥珀さんに言うが
「あらっ、翡翠ちゃん。前もって志貴さんには言ってありますよー。」
と、余裕の表情で琥珀さんは返した。
すると琥珀さんはこちらへ振り返る。
「ですよねー、志貴さん。」
…なんていうか、凄い楽しそうな笑顔だ。
ここはあの映像の件もあるので素直に従っておいたほうがいいと判断。
だって、拒否したらまず間違いなくこの場であんな映像が公開される…。
それだけは断固阻止したいっ。
「あ、あぁ…。うん、今日はこの後琥珀さんと…。」
「デートなんですよねー。」
「う、うんそう…、えぇっ!!」
唐突にそんな事を言われ思わず驚いてしまった。
…というか、この場でこんな事言うって事は周りを煽って楽しんでると私は思う。
実際、琥珀さんの笑顔は凄く楽しそうだ。
「さぁさ、そういう事ですからいきましょう。今の内に出ないとみなさんに追い掛け回されちゃいますからねー。」
「あ、わ、わかったわかった。だから引っ張らないでください。」
「じゃぁ急いでください。みなさんが呆けてる内じゃないと監禁されちゃいますよ、志貴さん。」
「う…、それは嫌だな…。」
「でしょ? ですから早くいきましょー。」
そうして、私は腕をグイグイ引っ張る琥珀さんと共に繁華街へと足を運んだ。