「いや、好きと言えば好きなんだけど…。好きとかそういう以前の問題かな…。
朱鷺恵さんの場合は、多分私の初恋の人で、イチゴさんの場合は、昔から私の事を知ってる、憧れっていう感じかな…。
あ、でも朱鷺恵さんにも憧れてたし、でも今も二人には憧れてはいるんだけど、でもそういうんじゃないんだよな…。
なんていうのかな、親友っていう訳でもないけど、自分にとって特別な人、って感じかな。
実際、その、関係を持った後でもお互いの間っていうのは変わらないし、でもお互い大事にしてるのかな…。
恋愛とか、そういう感情じゃないんだよ。そういう気持ちはもう通り過ぎた感じかな。」
そこまで言って一息つく。
「でも、まぁ二人とも私にとって大切な人、かな。いい姉であり、憧れの人。二人とも昔から知ってるからね。そんな感じだよ、今の私達の関係って。」
そう言って、ワインを口に流し込む。
「…ふぅ、そういう事だ。わかった?」
みんなを見回すが、みんな俯きながら無言でいる。
「……どうしたの? みんな。」
なんだか知らないけれどみんな考え事をしているようだ。
「…なんか、ムカついてきました。」
一言、秋葉が言う。
「お、おい…、秋葉?」
「…なによ、そんなのずるいじゃない。私がいない間に兄さんの心の中に入り込んで、ずるいじゃない…。」
そういって、コップに注いであるウイスキーを一気飲みする。
「お、おい秋葉。一気飲みはちょっと…。」
「兄さんは黙っててっ!!」
「…はい。」
「兄さんも兄さんです…。そんな、昔の想いを幸せそうに喋って。」
「いや、それはお前等がしつこく聞いてくるから…。」
「言い訳はいいんですっ!!」
「いや、言い訳ってお前…。」
「だって、私は有間の頃兄さんに逢いたかったけど逢えなくって、それなのにあの人達はその時に一緒に過ごして兄さんの心に今でも住んでいて…。
そんなの、ずるいじゃないですか…。私だって…。」
「…それは違うよ、秋葉。」
「…違うって、なにがですか。」
「そうだな…、秋葉や翡翠、琥珀さんとは確かに有間にいる時は一緒に過ごせなかった、琥珀さんに至っては屋敷にいる時だって一緒に遊んだ記憶なんか無いよ。
それでも、俺は有間にいても三人の事は気にかけてたし、忘れなかった。だから屋敷に帰ってきたんだし。
それに、琥珀さんとは約束もあったしね…。」
「…志貴、さん。」
「それに、弓塚は中学の時から一緒で、今も一緒にいる。アルクェイドやシエル先輩、レンとは非常識だけど普通の人では味わえない時間を一緒に戦ってきた。
だから、みんなそれぞれ、私にとっては特別な想い出があるし、みんな私にとっては特別で、大切なんだ。
だから、さ。私の昔の事でみんなが落ち込んだりとかして欲しくない。昔は昔なんだし、今は今なんだよ。
そりゃ朱鷺恵さんやイチゴさんも特別だけど、みんなとは違うんだ。それだけは覚えといてくれよな。」
そう言うと、自分で恥かしい事を言ったと気付き、隠すようにワイングラスを傾ける。
と、不意に背中に重みがかかった。
「ねぇ、志貴。」
「なんだよ、アルクェイド。」
「今のって、本当?」
「…あぁ、みんな、特別で大切だって事か?」
「…うん。」
「まぁ、そうだよ…。みんなそれぞれ、特別で、大切なんだよ。」
「…えへへー、志貴ー。」
背中から、ギュゥ、と抱き締めてくる。
「こ、こらっ!! 放せこのバカッ!!」
「むー、いじわる。」
「いじわるとかじゃなくてだな…。」
「そうですっ!! 離れなさいあーぱー吸血鬼っ!!」
シエル先輩が横から殴りにかかる。
それを私から離れて避けるアルクェイド。
「む、なによ。邪魔しないでよね。」
「許しません。いくらでも邪魔してあげます。」
「ま、まぁとりあえず二人とも落ち着いてくれ。」
「そうです、折角のお酒が不味くなってしまうでしょう。」
「あはっ、それでは秋葉さま、もう一杯どうぞ。」
「志貴様、どうぞ。」
そういって私にお酌をしてくれる翡翠の顔は、心なしか嬉しそうだった。
見れば、いつのまにかみんな楽しそうにお酒を飲んでいる。
「…なんか、みんなさっきまで暗かったのに、どうしたんだ?」
「志貴ちゃんは鈍感だからわかんないよ〜、きっと。」
そういいながらヒョイヒョイとスモークサーモンを口に運ぶ弓塚。
「いや、お前言い方がひどいぞちょっと。」
「ですから、弓塚さん。スモークサーモン一人で食べ過ぎですっ!!」
「だったら先輩のカレー柿ピーくださいよ〜。」
「こ、これはダメです。私が琥珀さんに頼んでわざわざ買って頂いたんですから…。」
「さすがカレー先輩。そこまでカレーが好きなんでしたらインドへ行って一生をそこで過ごしてはいかがですか?」
「そうですね、その時は遠野君と一緒にインドでカレーショップを開きましょうか。」
「なっ!! 姉さんは遠野家を私と一緒に…。」
「ダメよ。志貴は私と千年城で暮らすんだから。」
「お、おい…。みんな、私の意思は無視ですか…?」
「志貴さん、今更そんな事を言っても遅いですよ。ですが、私と一緒なら七夜の里でゆっくり過ごせますよー。」
「姉さんっ!! し、志貴さまは、その…。」
「でもさ、志貴ちゃん。志貴ちゃんは平穏に過ごしたいよね〜。それだったらやっぱり、一番普通な…。」
「あら、弓塚さん、貴女は普通ではないでしょう? 魔女っ娘ですし。」
「はい、恐らくこの中で一番普通だと思われるのは私かと…。」
「あらっ、翡翠ちゃん、言うようになっちゃいましたねー。お姉ちゃんまけませんよー。」
「あ、あの…、やっぱり私の意思っていうのは…。」
私の話を聴かず、みんな私をどうするかで揉めている…。
やっぱり、私の意見は今後も聞き入れられないようだ…。