「それで、乾先輩。なぜこの方は姉さんのご面会に?」
「…そうか。」
秋葉の発言を聞いて、イチゴさんは呟いた。
「どうかしたんすか?」
「いや、お前の妹似てないな。」
イチゴさんはさらりと爆弾を投げつけた。
「…姉さん、申し訳ありませんがご紹介して頂けますか?」
「あ、あぁ…、この人は有彦のお姉さんの一子さん。イチゴさん、こっちは俺の妹の秋葉です。」
「どうも、一子だ。」
「よろしくおねがいします、妹の秋葉です。」
一子さんはタバコを吸いながら挨拶をして、秋葉は頭を下げる。
そのこめかみに青筋が立っているのは気のせいだろう。
「おい、有彦…。」
「なんだ、遠野。」
私は小声で他の人に聴こえないよう話し掛けた。
「なんで、昨日の今日でこんな事になってんだ…。」
「知らん。しいて言えば一子がこんなに早く実力行使に出るとは思わなかった。俺の浅はかさを恨んでくれ。」
「…マジでか。」
「あぁ、昨日はそりゃ酷い目に合った。」
「…もういい、判った。聞いた俺が悪かった。」
「あぁ、俺も昨日の事は思い出したくない…。」
有彦と二人、肩を揃えて溜息をつく。
だが、状況の好転はそんな事では望めないのは判っていた。
「それで、一子さん、なぜ姉さんにご面会に?」
「あぁ、逢いたかったから。それでは問題があるか?」
秋葉の質問に、イチゴさんはあっさりと答えを返す。
さすがにこの場にいる私と有彦以外はイチゴさんがあっさり返した答えに動揺している。
「なぁ、有間。」
「なんですか? イチゴさん。」
「お前の妹は判ったんだが、他の子達はなんなんだ?」
イチゴさんは聞いて当然といった感じで私に聞いてくる。
そんな質問、私に振らないでくれ…。
とりあえず私はみんなの紹介をするしかないと思い、それを実行する。
「え、えと…、まず遠野家で使用人をやってくれている翡翠と琥珀さん。
それと、この学校で教師をしてる前から友達のアルクェイドと前の学校では有彦共々良くして貰ったシエル先輩。」
「翡翠と申します。」
「琥珀です、よろしくおねがいします。」
「うーん、アルクェイド・ブリュンスタッドよ、よろしく。」
「遠野君の先輩に当る、シエルです。よろしくお願いします。」
四者四様の挨拶を交す。
「あぁ、一子だ。よろしく。」
あくまでマイペースなイチゴさん。
「それで、イチゴさん。どうしてここに?」
とりあえず場が凍らないように私はイチゴさんに話しを向けた。
「あぁ、さっき言っただろう。お前を見に来たんだ。」
「いや…、それだけ?」
「そうだが、何か問題あったか?」
いや、何かなんてもんじゃない問題はありすぎます。
でも、そんな事は言えない。
「いえ、別にそういう訳じゃないんですけど。」
「ならいいだろう。それに、もう一人連れてきたんだがな、まだ多分便所じゃないかな。」
「…イチゴさん、もう一人ってまさか。」
私の悪い予感は恐らく正しいのだろうが、一応確めてみる。
「あぁ、想像どおり朱鷺恵を連れてきた。」
「…勘弁してくださいよ…。」
「ん? なにか問題あったか?」
「いや、そういう訳じゃないんですけどね…。」
私はこの先の展開が恐ろしくて想像もしたくない…。
「あ、やっと見つけた。ここ帰ってくるまでに迷っちゃった。」
また、懐かしい声が後ろから聞こえてきた。
「あ…、お久しぶりです、朱鷺恵さん。」
「え、あっ、志貴くん? 本当に女の子になっちゃったんだねぇ。」
「あぁ、私も見たときは正直驚いたよ。」
「…あれで驚いてたんすか、イチゴさん。」
「あぁ、騒ぎはしないが驚いてたよ。」
はぁ、と深い溜息をついて、私は翡翠が用意した紅茶に口をつける。
「それで、朱鷺恵さん、どうしたんですか? 今日は。」
「ええ、志貴くんの様子を見にね。お父さんも心配してるから。」
「あぁ、時南先生はそろそろ隠居ですか?」
「それだったらいいんだけどねぇ、まだ元気すぎるのよ。」
「はは、大変ですね朱鷺恵さんも。」
「あ、琥珀ちゃん、志貴くんの最近の体調はどうなの?」
唐突に、朱鷺恵さんは琥珀さんに話を振りながら私の隣に腰掛けた。
「はい、別にこれといって異常はありません。」
いや、女の子になった時点で異常でしょう、琥珀さん。
「そっか。わかったわ、それじゃぁ琥珀ちゃん、後で診断書書いてくれる?
お父さんに渡しておくから。」
普通に会話を進めて大丈夫なんですか? 朱鷺恵さん。
「相変わらずマイペースっすね、朱鷺恵さんは。」
「そう? 結構慎重に生きてきてると思ってるんだけど。」
「有間、天然て言うのは自分じゃ判らないから天然て言うんだ。」
「はは、そうですね…。」
「それで志貴くん、別にその身体異常はないの?」
「いや、女の子になった時点で異常だと思うんですけどね…。」
「まぁ、そりゃそうよねぇ。」
なんでこの人はこんなにマイペースなんだろうか…。
「でも志貴くん、女の子でも可愛いんだねぇ。」
いきなり朱鷺恵さんがミサイルを投下してきた。
「いっ、いきなりなに言ってるんですか朱鷺恵さんっ。」
私は思わず顔が赤くなってしまった。
「うん、なんか中学の時の志貴くんみたい。あの時は本当に可愛かったなぁ。」
朱鷺恵さんが核ミサイルのスイッチに手を添えた。
「と、朱鷺恵さんっ!! い、いきなり何の話をっ!!」
「うん、ほら覚えてる? 志貴くんが中学の時に私と…。」
「うわーっ!! わーっ! わーっ! わーっ!」
私はこれ以上朱鷺恵さんの声がみんなに聴こえないように大声で騒いだ。
「もう、いきなりどうしたのよ志貴くん。」
「そうか、有間の初めてってのは朱鷺恵だったのか。」
核スイッチを押したのはイチゴさんだった。
「なんですってぇぇぇぇっ!!」
瞬間、話を苦々しい顔で聞いていた他のみんなが勢いよく立ち上がった。
「うん、まぁあれは若気の至りって感じだったんじゃないかな? 私は結構本気だったんだけどね。」
「いやいやいやいやっ!! 朱鷺恵さんそんな話はいいですからっ!!」
「そうか、遠野。初めてからこんな美女だったのか。裏切り者め…。」
「有彦、お前の初めてはななこちゃんか?」
「一子っ!! だからそれは冤罪だって言ってるだろうがぁぁっ!!」
マイペースな三人に対して、他の面々は燃えるような目つきで朱鷺恵さんを睨んでいる。
「そうか、じゃぁ私は二番目だったのか、残念だな。」
本当に残念そうな顔でイチゴさんはまた核スイッチを押した。
「なんだとぉぉぉぉぉっ!!」
もはや周囲の目が私を殺してやろうと睨んでくる。
「あら、一子ちゃんが二番目だったんだ。どうだった?」
「いや、まぁなかなかだったぞ。最も私の場合ほとんど襲ったのに近かったがな。」
「てめぇぇ遠野っ!! お前一子にまで手を出してたのかっ!!」
「ま、待て、落ち着け有彦っ!! これには深い事情がだな…。」
「有彦、お前がなぜ私の男性遍歴で怒り出すんだ。」
「だ、だからっ!! あの時は俺からじゃなくてだな、その。」
「なんだ、一子に襲われたのか。それじゃぁしょうがねぇかもしれないな。」
「いや、最後のほうは有間もやる気だったんだけどな。若かったな、お互い。」
「あ、私の時もそうだったんだよね。あの時から志貴くんは男になったんだよね。」
「てめぇぇ遠野っ!!」
「いやっ、待て待てっ!! それは誤解だ有彦っ!!」
「ほう、有間、あれを誤解と言うのか。」
「いやっ!! イチゴさんもう勘弁してくださいっ!!」
「ふふふ…、さてな、どうしてやろうか。」
「じゃぁ志貴くん、この後もう一回ぐらいしてみる? 私は別にOKなんだけど。」
「いやいやいやっ!! マジでシャレになってないですから朱鷺恵さんっ!!」
場の混乱は、それから30分経ってから収拾された。