「……なんだあの人だかり?」
自分の部屋から一階へ降り、交友室の前を通ると一つの机を取り囲むような黒山の人だかりが出来ていた。
…それこそ、寮内の人間全てが集まっているのではないかというような人だかりだ。
「…なにかあるんだろうか? ちょっと見に行こう、レン。」
「・・・・・・」
私が交友室へと入ろうとすると、後ろから声がかけられた。
「あー、志貴ーおっはよー。」
…朝から活動的な吸血鬼だった。
ちなみに吸血鬼は吸血鬼でも弓塚は今は寝ている。
「おはようアルクェイド、ていうかお前なんでここにいるんだ?」
「うん、なんか見張り番だってさ。私物チェックとかもしないといけないんだって。」
「そうか、お前も大変だな、折角の休日なのに。」
「まぁねぇ、でもこうやって志貴と逢えるから別にいいかなー。」
えへへー、と笑いながら腕を組んでくるアルクェイド。
実際そんな事言われたら嬉しいのだが、恥かしいので顔に出ないように注意する。
「あ、なぁ、それよりお前、あれ何か知ってるか?」
私はさっきからある黒山の人だかりを指差す。
「さぁ、私は今来たばっかりだからわかんないよ。」
「あぁ、そうか。お前後ろから声かけてきたもんな。」
「うん。ねね、見に行こうよ。」
「ん? あぁ、元々そのつもりだったし。じゃぁレン、頭の上に乗ってくれる?」
「・・・・・・・」
私の服の中からレンがゴソゴソと出てきて、私の頭の上に移動して丸まった。
「む、レンいたのね。全く、元預かり主がいるっていうのに冷たいんだから。」
「・・・・・・・」
「まぁ、お前ただ預かったってだけでなんもしてないだろう。」
「う、まぁそうだけどさー。」
「そういう事だ。それじゃぁちょっと見に行こう。」
「うん、なにやってるのかなー。」
そういってアルクェイドと二人で人だかりへと近づいていく。
「………見えない。」
私は身長が低くなっているので人だかりに阻まれてその中心が見えない。
「えへへー、志貴身長低いもんね。私見えるよー。」
「本当かっ! で、何が見えるんだ?」
「うーん、妹と双子。」
「…は? 秋葉と翡翠、琥珀さんか?」
「あー、あとシエルもいた。おーい、デカ尻えるー。」
「わっ!! バカかお前っ!!」
「なっ!! なにやってるんですかこんな所でっ!!」
「うるさいなー二人して。私は教師なんだから寮の見回りとかに来たのよー。」
「二人、と言いましたよね? …恐らく大本命かと思いますが、今どなたと一緒にいらっしゃいますか?」
私からは表情が見えないが、シエル先輩の声が真剣になっていた。
「えっ? そりゃー私と一緒にいるって言ったら志貴しかいないじゃない。」
「なっ!! 遠野君と一緒にいるんですかっ!!」
「あー、先輩、なにかようー?」
先輩の声が本気なので、顔が見えないが私は先輩に声をかけた。
「あっ、遠野君…、えっと、顔が見えないんですけどー?」
「うんー、私からも見えないー。」
「志貴身長低いからさー、だから私がこの人だかりの中心を見てあげてたの。そしたら妹とシエルがいるじゃん。」
「それではアルクェイドさん、姉さんをこの机まで連れてきて頂けませんか?」
秋葉がアルクェイドへ喋る。…なんか本気の声だ。
「秋葉ー、なんかあったのー?」
「あ、姉さーん、とりあえずこちらまで来て頂けますかー?」
「うーん、わかったー。じゃぁアルクェイド、とりあえず中心はどこだ?」
「うん、じゃぁ私も一緒にいくよ。」
そういって、私達は人だかりに突入した。
「す、すいませーん、もうちょっと通して…。」
狭い道をギュウギュウ押されながら割って歩いていく。
「…ぃよっと。ふぅ、やっと抜けた。」
「あー、なんかこう、疲れたねー。」
後ろから凄い目線を浴びせ掛けてくる人だかり。
とりあえず発言に問題があったので
「ごめんなさい。」
と謝っといた。
「あ、姉さんこちらです。」
声のした方を振り返ると、そこにはシエル先輩と翡翠、琥珀さん、秋葉と……。
「…なんでお前がここにいんだよ。」
「…まぁ、来たくて来た訳じゃねぇんだよこれが。」
我が親友が憮然とした態度で座っていた。
「はぁ、なんでまたここにいんだ? 有彦。」
私は椅子に腰をかけると、有彦に聞いた。
「あ、アルクさーん、おひさしぶりですー。」
「あー、前に会った子だー志貴。」
「…お前、覚えてないんだな。」
「くっ、遠野、俺はこんぐらいじゃめげないからなっ!!」
「…俺に言うなよ。」
「姉さん! 言葉遣いは『私』です。他の生徒の前でそのような言葉遣いはおやめください。」
キリッ、とした秋葉の目に睨まれた。
そういえば周りには沢山の生徒がいる。
私と有彦が話をしているのを見て、なんとなくザワザワしはじめたようだ。
「…あー、なんだ。アルクェイド、教師権限で他の生徒を追い出してくれ。」
「あら、そんな事しなくても私が暗示で近寄らないようにしますよ。」
そう言うと、生徒達に向けてシエル先輩が暗示を始めたようだ。
周りにいた生徒はみんな交友室から出て行ってしまった。
「…先輩、便利だな。」
「乾君、転生批判されたいですか?」
「…ごめんなさい。」
「あぁ、そうだ有彦。お前ななこちゃんはどうした?」
私がななこちゃんの事を聞くと、秋葉達がこちらを睨みつけてきた。
「姉さん、ななこさん、とはどなたですか?」
なかなか凄みのある声で問い掛けてくる我が妹。
「あぁ、ななこちゃんっていうのは有彦の彼女。」
「ふざけんあぁぁっ!! なんであの駄馬が俺の女なんだぁぁっ!!」
私の発言に秋葉はホッとしたような表情を浮かべ、
有彦はこめかみに血管を浮き立たせている。
「えっ、違うのか?」
「違うっ!! 断じて違うっ!! 俺はあんなシュミはねぇぇっ!!」
「うぅ…、ひどいです、有彦さん…。」
声がした方向を見ると、交友室の扉の前からななこちゃんが歩いてきた。
「…姉さん、あれって。」
「あぁ、ななこちゃんは第七聖典の精霊で、有彦の…。」
「だから違うっつってんだろぉぉぉっ!!」
「ううぅ…、有彦さん、昨日はあんなに優しかったのに…。」
「お前も変な事を言うんじゃねぇこの駄馬あぁぁぁぁっ!!」
「…有彦、お前やっぱり…。」
「乾君、責任は取らないとダメですよ…。私もセブンと離れるのは寂しいですが…。」
「だからぁぁっ!! 冤罪だぁぁぁぁっ!!」
有彦が頭を抱えながら叫ぶ。
その姿を見ながら私達は笑った。
そこでふと、大事な事に気付いた。
「あぁ、それで秋葉。私が呼ばれたのと有彦がここにいるのは何故?」
私はとりあえず本題に入ろうとした。
「あぁ、それがですね…。」
秋葉が困ったような顔をして私を見てくるが、横からの声に私の意識は集中した。
「なんで便所にいくだけでこんなに時間がかかんなきゃいけないんかな。」
そんな久しぶりに聞いた声が聴こえた。
私は勢いよく振り返る。
そこにはイメージ通りの人がいた。
「え………、イチゴ…さん…?」
「ん?…お前、有間か?」
タバコを吸いながら歩いてくる赤髪の女性。
紛れもなく有彦の姉である、乾一子さんだった。