「…んん…、ふ……。」

「…すー、…すー。」

「……………………。」

「………………ん…。」

鼻に息のかかる感触がする。
あー、あと首筋もだ。

そんな違和感を抱えながら、私は寝ていた。

「んー、………。」
「…うぅー、ん……。」
「…………ふぅ……。」
「ん……、んんっ……。」
突然、息が苦しくなった。
だが、息ができない訳ではないので私はまだ起きない。

「…ふぁ……ん。」
「…んー、…すー。」
「…んっ、…ぁ、あら。」
「んんっ…、………ふ、ん。」
「…ふぁ…、おはようございます、姉さん。」
「おはよう、翡翠ちゃん。」
「…ぁ、志貴さまは…?」
「ふふ…、えいっ!」

―――――ギュゥゥゥゥ

「んっ、んーっ!! んんーっ!!」
私は息が突然出来なくなり、思わず顔の前のものを押しのけようとした。

「あはっ、志貴さん朝からそんな、だめですよぅ。」
私のすぐ上から聴こえてくる琥珀さんの声に、私は目を開けた。
目を開けたが、目の前は真っ暗。
そして息が苦しい。

「んーっ! んんーっ!!」
私はなにがなんだかわからず、とりあえず目の前のモノを押しのけようとする。

「あぁっ、志貴さん。そんな乱暴にしないでくださいよー。」
「んんーっ!! ん−っ。」
私はとりあえず苦しいので身体を伸ばし、顔を上げて目の前を見る。
そこには、琥珀さんの顔があった。

「あはっ、おはようございます志貴さん。」
「あ、はい…、おはようございます、琥珀さん。」
「あ、し、志貴さま、おはようございます。」
「あ、おはよう翡翠。」
とりあえず挨拶されたので返す。
翡翠の顔が見えないのでどこにいるか分からないが、恐らく後ろにいるんだろう。
私はとりあえず布団の中でまだまどろんでいる。
私の抱いているクッションの柔らかい感触が私をまどろみから解放してくれない。
もう少しその感触を味わいたかったので、私はクッションを抱く手に少し力を入れて、目を閉じる。

「あっ、あん、志貴さん、そろそろお放しになったほうがよろしいかと思いますよ?」
「んー、…放すって、なにを?」
目の前から聞こえてくる琥珀さんの問いかけに、私はそのままの体勢で問い返す。

「あっ…、はい、その抱いている手を。」
「…手?」

私はとりあえず目を開け、自分の腕を見る。よし、OK。
続いて腕で抱いている琥珀さんを見る。うん、良好。
次に抱いているクッションを…。

私は目を開け、自分の腕を見る。よし、OK。
続いて腕で抱いている琥珀さんの顔を見る。うん、良好。
次に…。

私は目を開けて腕を見る。よし、OK。
次に腕で抱いているクッションを見る。琥珀さんだ。うん、良好。
…。


「良好じゃねえぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
ガバッ!! と勢いよく跳ね起きる。
目の前にはパジャマを着て寝転がっている弓塚と翡翠と琥珀さんがいた。
そこで、いつもと明らかに違う異常に気付いた。

「あはっ、朝から元気ですねー志貴さん。」
「おはようございます、志貴さま。」
「…んー、…おはようしきちゃん…。」
「あ、な、な、なんで私はここにいるんでしょうか…?」
当然の疑問をぶつける。
ここは明らかに私の部屋じゃない。
恐らく、いや間違いなくここは翡翠達の部屋だった。

「…志貴さま、覚えていらっしゃらないのですか…?」
「……あぁ、なんでこの部屋に来たんだっけ…。」
翡翠の言葉に気が付く。
恐らく私がここに来たんだろう…。
問題はなんでここに来たか、が一つ。
次はなんでここで寝ているのか、が一つ。
最後は、なんで三人で寝ていたのか、が一つ。
以上の三項目を答えよ。

――――――わっかんねぇ。

「…志貴さん、ひどいです…。」
すると突然、琥珀さんが小さな声でそう呟き、俯き加減で私を見た。

「………え?」
「…昨夜、夜遅くに志貴さんがいらして、私達三人で志貴さんの命ずるままにして差し上げたのに…。
それを全て忘れてしまっているなんて…、酷いです、志貴さん。」
「…えっ? え?」
「そりゃ、私達では志貴さんは満足しなかったかもしれませんが、私達は一生懸命ご奉仕させて頂いたのに…。」
「い、いや、ちょっと…?」
琥珀さんは私の見に覚えのない事をつらつらと並べだす。

「私の力が至らないばかりに、志貴さんが不快になったのなら致し方ありませんが、ですが、それでも…。うぅぅ…。」
「い、いや、琥珀さん、その…。私が何かしたの…?」
覚えが全く無いので直接聞くしかない。

「…志貴さま、恐らく志貴さまの心配しているような事はありませんのでご安心ください。」
いつの間に着替えたのか、私服の翡翠が私の隣に立ち、そう言ってくれた。

「もう、翡翠ちゃん。私は嘘は言ってないですよー。」
「姉さんは嘘は言ってませんが誇張表現をしていますし、重要な部分をわざと言っていません。」
「うぅ…、お姉ちゃんのお茶目を笑って見逃してよー。」
「姉さんのは洒落じゃ済まない事が多すぎますから。」
「うぅ…、ひどい。」
「志貴さま、志貴さまは昨夜生理痛に苦しんでこの部屋へ来たんです。それで姉が処方した薬を飲んで、その、姉に盛られまして、寝てしまったんです。」
「はい、それで志貴さんの取り合いになって三人で寝る事になったんですよー。」
と、二人は事のあらましを説明してくれた。
弓塚はまだまどろんでいる。

「と、取り合いって…。」
「はい、それで私が左、翡翠ちゃんが右、弓塚さんが頭の上、という配置になりました。」
「いや、ていうか…、私の部屋に運んでくれれば。」
「それはダメです。滅多にない添い寝のチャンスだったんですから。」
「姉さんは添い寝というより志貴さまと触れたかっただけのような気がしますが。」
「あら、翡翠ちゃんだって私が志貴さんに抱きついたら一緒に抱きついたじゃない。」
「ね、姉さんっ!!」
琥珀さんと翡翠は顔を真っ赤にしながら言い争いをしている。

「いや、ちょっと待って。とりあえず、今どんな状況なの…。」
「そうですねぇ、志貴さんが私達の部屋へ泊まって今志貴さんの部屋には晶ちゃん一人でしょうか。
それで今まで私達と一緒に寝ていて、今は朝の8時です。」
「…なるほど、それじゃぁもう部屋に戻らないとバレるな。」
「あぁ、そうですねぇ。別に私は秋葉様に知られても問題無いですがー。」
「…いや、どう考えても一番問題あるのは私だろう…。」
「そうですねー、それでは早めに…。」
そう琥珀さんが発言し終わる前に、いきなり扉がこじ開けられた。

――――――バァァンッ

「翡翠っ! 琥珀っ!! 姉さんがまた…。」
いきなり入って来た秋葉が、突然固まった。

「よっ、おはよう秋葉。」
「あっ、はい、おはようございます、姉さん…。」
「秋葉、いきなり人の部屋をノックせずに開けちゃダメだろ。」
「あ、はい。申し訳ありませんでした…。」
「いや、わかってればいいんだけどさ。それじゃ琥珀さん、翡翠、弓塚。お世話になりました。」
「いいえ、おかまいもできずに申し訳ありませんでした。」
「はい、それではまた朝食でー。」
「…またあとでねー、しきちゃん。」
そうフランクな会話をしながら、キョトンとしている秋葉の横を通り過ぎ、廊下へ出る。

「あぁっ!! 遠野君発見しましたっ!!」
「げっ!! しまった!!」
心の中でこのまま逃げきれると思っていた矢先にシエル先輩に見つかってしまった。
すると後ろの秋葉も気付き、勢いよく振り返って私を縛り付ける。
勿論『檻髪』は発動している。

「姉さんっ!! なぜ貴女が琥珀達の部屋にいるんですかっ!!
事と次第によっては姉さんを殺して私も死にますっ!!」
「おっ、おちつけ秋葉っ!! 別になにもしてないってっ!!」
「でしたらっ!! 何をしていたのか素直に白状なさってくださいっ!!」
「ナイスです秋葉さんっ!! もう、遠野君のお陰で朝からいきなり強襲されたんですからねっ!!」
「あ、はは…、ごめん、先輩。」
「そんな事はどうでもいいですっ!! さぁ、なぜ姉さんは朝から琥珀達の部屋にいたんですかっ!!」
「…どういう事ですか? 遠野君。」
まずい、秋葉ばかりかシエル先輩まで本気モードになっている。

「いえ、秋葉さま。別にやましい事など一つもないですよ。」
「…っ、それは本当でしょうね、琥珀。」
「はい、本当です。ただ一緒に寝て、朝起きたら私が抱き締められていたというだけですからー。」
琥珀さんは顔を赤らめながら嬉しそうに言う。




その後、私は『制裁』と言う名の暴力を一身に浴びた。