「…琥珀さん、おはよう。起きてたんだろ?」
秋葉達が部屋を出て学院へ向かった後、私は琥珀さんに声をかける。

「――――本当、こういう時だけ鋭いんですね。」
うっすらと目を開けながら、琥珀さんがバツの悪そうに笑う。


「まぁ、ね…。それで、秋葉達の話、聞いてた?」
「…はい。ダメですね、私。いつまでも秋葉さまや翡翠ちゃん、志貴さんに罪を感じさせて…。
本当はみんなに罪なんかないのに…。」
笑顔を消し、伏し目がちに俯いて琥珀さんは喋る。

「本当に、罪があるのは私なのに…。責められるべきは私なのに、みなさん…。」
琥珀さんの手を握る手に私は力を込める。



「…琥珀さん、出かけようか?」
「えっ?」
キョトンとした顔を私に向ける琥珀さん。

「さっきの秋葉の話聞いてただろ? 私達は今日学校休み。だから、出かけよう。
それに、朝ご飯食べてないからお腹空いちゃったしね。」
琥珀さんは、私の真意を探ろうと顔色を伺ってくる。
そんな琥珀さんに笑顔を向けると、彼女からクスッ、と笑う声が聞こえた。


「…そうですね、私もなんだかお腹空きました。
それに、折角志貴さんとデートできるんですから、断わるわけにはいきません。」
そういって、琥珀さんの顔に笑顔が戻った。
悲しそうな目をしていない、本当の笑顔に。

「うん、それじゃぁ着替えてきて。さすがに制服はマズイし。
私も着替えるから。」
「はい、それじゃぁ一旦部屋へ戻りますね。」
そういってベットから降り、琥珀さんは着替えに一旦自分の部屋へ戻った。

「…さて、どんな服がいいかなっと。」
私は一人になった部屋で、今日着る服を選ぶ。
最も、普通の女の子のように悩まないので、着替えはすぐに終わった。






コンコン

「はい、どうぞー。開いてますよ。」

琥珀さんの声を聴き、私は部屋のドアを開けた。

「琥珀さん、準備できた?」
「はい、大丈夫ですよー。」
そういって、琥珀さんはその場でくるっと回る。
ほんのり黄色のワンピースが、琥珀さんの笑顔によく似合っている。

「そ、それじゃぁいこうか。とりあえず朝食だね。」
「そうですね、では早速参りましょう。」
そういって私は部屋を出て、琥珀さんは部屋の鍵を確認してこちらにくる。

「でも、朝食って、どちらで摂りますか?」
「うーん、そうだねぇ…。琥珀さんは何がいい?」
「わ、私ですか…、うー、私、外食って余りした事ないんですよ。だから志貴さんにお任せです。」
「そっか、それじゃぁ庶民的朝食風景というものを味あわせてあげよう。」
「なんですか? それは。」
「まぁまぁ、とりあえずあのバスに乗ろうか。」
「はい。」
私と琥珀さんは一般道に出て、丁度来た駅終点のバスに乗り込む。
軽い揺れと共に、バスは駅へと走り出した。




「志貴さん、乗り物酔いとか大丈夫ですか?」
「へ? 私は普段乗り物酔いってしないけど。」
「いえ、その…、今日は二日目ですし…。」
「二日目…? っ、あぁ、そうなんだ…。」
「はい、そういう訳なんですよ。ですから、ちょっと気をつけてくださいね。」
「うーん、初めてだから、どう気をつければいいのか…。」
「あはー、それもそうでしたー。」
「うん、そういう事。でも琥珀さんの方こそ乗り物酔いとか大丈夫なの?」
「はい、私は全然大丈夫なんです。翡翠ちゃんも確か大丈夫でしたね。最も、人ごみに酔った事はありますけど。」
「そっか。翡翠は人多いところ苦手だもんな。」
「はい、私は結構平気なんですけどね。まぁ普段そんなに人が多いところ行きませんからわかりませんけど。」
「はは、そっか。今日も平日だし、休みの日ほどは人も居ないんだろうな。」
「そうですねー、そう思うとラッキーです。」
琥珀さんは本当に嬉しそうに笑う。
その笑顔を見てると、今日どこに連れて行けばいいのか困ってしまった…。





「…今日ってさ、平日だよね…。」
「はい…、そのはずですが…。」
「…人、多いね。」
「…そうですね。」
「…喫茶店にしよっか、朝食。」
「それもいいですねー。」
「いや、ここは人多すぎるから、単に場所を変えるだけなんだけどね…。」
「はい、判ってますよ。それではこちらにくる途中の喫茶店に入りましょう。」
そういって、私達はファーストフード店を後にした。
三崎町だったらこの時間はサラリーマンなんか極わずかしかいないんだが、甘かった…。
駅前という事もあるのか、席はサラリーマンとOLで埋まっていた。
ここのモーニングセットは定評があるだけに残念だが、座れないんじゃしょうがない。
私達は、すぐ近くにあった喫茶店へと入った。





「ふぅ、こう、コーヒーセットだけでお腹一杯になるとは思わなかった。」
「そうですねー。たまに朝にトーストというのもいいかもしれません。
こちらのようにベーコンエッグやサラダを付けて…。
そうですね、後はスクランブルエッグやオムレツなども…。」
「琥珀さん、全部卵だね…。」
「あら、そういえばそうですね。それでは他には何がトーストには合いそうですかね?」
「うーん…、そうだなぁ…。」
「あっ、私が自家製のジャムを作るというのは…。」
「ダメです。というか勘弁してください。」
「…志貴さん、ひどいです。」
上目遣いに潤んだ瞳で見つめる琥珀さん。
そんな顔されたら謝るしかなかった。

「い、いや、ごめん。何かしらないけど妙な寒気が襲ってきて…。」
「寒気、ですか。ジャムが原因ですかね?」
「そ、そうかも。ほら、なんていうか…。」
言えない。
この先を言ったら危険だと私の血が反応している。

「まぁいいです。当分遠野のお屋敷に戻る事はありませんから、私が朝食を作る事もないですし。」
「そ、そういえばそうだね。」
「まぁ、長期休みになったら一度作ってみましょう…。」
そういう琥珀さんの目が怪しく光る。
…どうやら私は妙な地雷を踏んでしまったようだ。

「それじゃぁ、どこにいこうか。」
「そうですねー、とりあえずお買い物なんていかがでしょうか?」
「うん、わかった。駅前だからデパートがあるでしょ。適当に入ろうか。」
「はい、ウィンドウショッピングですね。いきましょう。」
琥珀さんと喫茶店を出て、一路駅前にある大型百貨店へと足を運んだ。






「志貴さん、これはどうですかー?」
「え、えぇ…、に、似合ってるんじゃないでしょうか…。」
「もうっ、志貴さんちゃんと見て言ってますか?」
「う、うん…、ちゃ、ちゃんと見てますよ…。」
横目でチラチラと琥珀さんを見ながら答える。

私達は洋服を見に一角にあるブランドスペースにいた。
そこで琥珀さんはいろいろと試着をしている。
私はくるくると変わる琥珀さんの姿にドキドキしながら感想を求められた。

「ダメです。ちゃんと見て下さいっ!」
「い、いや、見てるって。…うん、琥珀さんは元々可愛いから、何着ても似合うよ。」
私はそう思い、笑顔で琥珀さんにそう言った。

「えっ…、も、もう、志貴さん。私をいじめようったってそうはいきませんからねー。」
「えっ? いや、ただ本当にそう思っただけなんだけどな…。」
「あっ、もう、恥かしいからそんな事言わないで下さい…。まぁ、嬉しいですけどね。ありがとうございます。」
「えっ、いや、はい。どういたしまして。」
「そ、それでは、こちらにしましょう。じゃぁ次は志貴さんのをお選びしましょうか?」
「えぇっ、っわ、私はいいよ。今自分が持ってる洋服だって一杯あるんだから。」
「もう、ダメですよ。女の子の洋服は多すぎるという事はないんですから。」
「ささ、そういう訳ですから。志貴さんのお洋服をお見立ていたしましょう。」
そういって琥珀さんは意気揚揚と私の洋服を選ぶ。



…それから二時間、私は琥珀さん専用の着せ替え人形になった。