―――――はぁ、ダルいな…。


―――――身体がなんか重いし…。


―――――あぁ、そういえば貧血起こしたんだっけ…。


「志貴さん? お目覚めですか?」


ふと、琥珀さんの声で目が醒めた。

――――シャァッ


「…おはよう、琥珀さん。翡翠。」
「はい、おはようございます、志貴さま。」
「おはようございます、志貴さん。いきなりお倒れになったのでびっくりしましたよ。」
「あぁ、ごめん…。今何時間目?」
「はい、今はもう放課後です。」
「そうか、放課後……、って、えぇっ!!」
ガバッと勢いよく身体を起こすと、頭に鈍い痛みが走った。

「っ!!……はぁ。」
「もう、志貴さんっ!! いきなり起き上がっちゃだめですよっ!!」
「あぁ、大丈夫。頭痛は治まったから。それより、本当に放課後?」
「はい、確かに放課後です。ちなみに今は学院集会の途中です。」
「…あぁ、そういえば今日の放課後だったっけ…。」
「はい、一緒に選挙の結果発表も行われる予定ですから、まだ続いているんではないでしょうか?」
「そっか…、それじゃぁ、いかないと。」
「はい、そうですね。それでは志貴さん、立てますか?」
「うん、大丈夫。二人ともありがとう。」
そういってベットから降り、立ち上がる。
どうやらここは保健室のようだ。




「あれ、保険教員は?」
「はい、本日はもうお帰りになりました。代わりに私達がお相手させて頂きました。」
「そっか…。本当ごめんね、迷惑かけちゃって。」
「今更なにいってるんですかー。志貴さんの看病はもう慣れっこですよー。」
「あはは、そうだったね。それじゃぁいこうか。」
私達は保健室を出て、集会が行われている講堂へと向かった。





「よっ、大将。貧血はもう大丈夫なのか?」
「あぁ、蒼香ちゃん。うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね。」
「そっか、それなら別にいいんだけどな。」
「あ、志貴ちゃんおかえりー。ぐっすり寝てたねー。」
「羽居ちゃん、ただいま。ごめん、心配かけたみたいだね。」
「まぁな、でも前から遠野に貧血持ちだとは聞いてたからそれほどじゃないよ。」
「そっか。そういえば秋葉は?」
「あー、秋葉ちゃんは今お…。」
「羽居、それ以上言ったらもうクッキーあげないわよ。」
「あ、秋葉ちゃんおかえりー。」
「ふぅ、ただいま。姉さん、具合のほうは大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫。心配かけたな、ごめん秋葉。」
「いえ、礼には及びません。その、姉妹ですから、心配するのは当然です。」
「そっか…、うん。ありがとう秋葉。」
「い、いえ…。」
そう言って黙りこくる秋葉を見ながら、私は講堂に備え付けの椅子に座った。

「それで、選挙の結果は?」
「えぇ、これからです。まぁ最も、今日発表されるのは会長と副会長、それと書記だけですから。」
「へ? 書記も選挙したっけ?」
「えぇ…、選挙した『事になって』いますね。」
「…それって、まさか、さ。」
「…はい、恐らく、そのまさかかと思います。最も、あちらの方は私の為、とかいう訳ではなく、確固とした目的があるようですが…。」
「へぇ…、そうなのか。まぁ、実際に発表が始まれば判るよな。」
「そうですね…。そろそろですから。」
秋葉の声と共に、一人の生徒、恐らく中等部の子が壇上に上がり、選挙結果の報告を開始した。




結果は、秋葉・弓塚の圧倒的勝利だったらしい。
加えて、予想通り書記として名前を呼ばれたのはシエル先輩だった。
その後、当選した者は壇上に上がる事になるらしい。
秋葉、弓塚、シエル先輩が次々と呼ばれて前に出て行く。




「遠野志貴さん、壇上にお上がりください。」
そんな声がスピーカーから聴こえた。

「お、おい、大将。お前さん、呼ばれたぞ?」
「ん? あぁ、確かに呼ばれたね。…へ?」
「…へ? じゃないだろ…。呼ばれたんだから、前に出ろよ。」
「いや、でも、なんで…。」
『遠野志貴さん、早く壇上へ上がってきて頂けますでしょうか?』
「ほら、大将。とりあえずいってこいって。」
「う、うん…。なんか知らないけど、わかった…。」
何故私が呼ばれたのか、理由はさっぱりわからないが、とりあえず壇上へと上がる事にした。




横には秋葉、弓塚、シエル先輩の順に並んでいる。
私はシエル先輩の隣に並び、声を潜めて聞いた。

「先輩、なんで私は呼ばれたんでしょうか?」
「さぁ? それは私にはわかりませんね…。」
「はぁ…、そっかぁ…。」
「はい。何かしたんですか? 遠野君。」
「いえ…、別にこれといって何も…。」
そんな会話をしていると、晶ちゃんがマイク片手に壇上へと上がってきた。

「それでは、一人一人当選後の心境と、今後の抱負を聞いていきたいと思います。」
晶ちゃんはそう挨拶すると秋葉に向かってマイクを向けた。

「ねぇ、先輩。やっぱり私が呼ばれた理由がわからないんですけど。」
「そうですね…。私にもわかりません。」
そう切り捨てられ、私は黙って晶ちゃんの様子を伺った。

「それでは、シエル先輩、当選おめでとうございます。」
「はい、ありがとうございます。」
「今の心境はどうですか?」
「はい、別に問題ないです。」
…先輩、それはコメント的に間違ってると思います。

「そ、そうですか。それでは、今後の抱負などは。」
「はい、書記として頑張るだけです。」
「はい、それではありがとうございました。」
そういって、晶ちゃんは先輩に向けて頭を下げ、私の斜め前へと立った。

「それでは、遠野秋葉先輩、弓塚さつき先輩の応援演説をしていた遠野志貴先輩へコメントをして頂きます。」
「へ? あ、あぁ、はい。」
「えっと、と、遠野さん、今の心境は…。」
「いや、晶ちゃん。もう少しリラックスしたほうがいいよ。」
そう私が喋った瞬間、壇上にいる三人が一斉にこちらを向いた。
いや、壇上だけで無く、講堂にいる生徒の目が私に向けられた気がした。

「あっ、あわわわわっっっ!! し、失礼しましたっっっっ!!」
そう言ってマイクに向かって頭を下げる晶ちゃん。
秋葉に睨まれ眼が半泣き状態だ。

「そ、それで、遠野先輩。今の心境は?」
「あ、はい。二人とも当選して良かったです。」
そう言って晶ちゃんに笑顔を向ける。
なんとなく、横からの視線が痛いが、怖いので無視する事にした。

「実は、今回の選挙で無効投票数が約200票もあったんです。それでですね、その票の全てには、遠野志貴先輩の名前が書かれていたんですよ。」
「へ? そうなの? なんで?」
その瞬間、講堂全体から『オオォーーーー』という歓声が聞こえてきた。

「それは、私には判りませんが、今のお話を聞いて、いかがでしょうか?」
「へ? いや、いきなり聞かれても…。そうだなぁ、なんでそんな票が入ったか判らないけど、無事に秋葉達が当選したから問題ないと思うけど。」
「そ、そうですね。それでは、コメントありがとうございました。」
「いえ、どういたしまして。」
そう言ってお互い頭を下げ、晶ちゃんは壇上から降りていった。

「それで、私は今の為に呼ばれたんでしょうか? 先輩。」
「…さぁ、私にはわかりかねます。」
「…先輩、なんか怒ってます?」
「いえ、別に。そんな事はありませんよ。」
「…はぁ、今度カレー御馳走させて下さい、先輩。」
「あら、そうですか? ありがとうございます遠野君。」
先輩とそんなやり取りをしながら、私達は自分達の椅子へと戻っていった。