「ふぁ、ねっむいなぁ…。」
「そりゃ、夜中に出歩いていれば眠いかもしれませんね。」
「…秋葉。お前まだスネてるのか…。」
「べ、別に私はスネてなんかいませんよっ!!」
「志貴さん、ダメですよ。秋葉さまは素直じゃないんですから。」
「ちょっと、琥珀。今のは聞き捨てならないわね。」
「そういう所が素直じゃないんだっての。わかったか? 遠野。」
「くっ、蒼香、貴女まで…。」
「いや、恐らく普段の遠野を知っている人間はみんなそう思ってるんじゃないのか?
な? 大将。」
「…………。」

「……志貴さまはお眠りになっているようです。」
「はぁ…、遠野、大変だな…。」
「蒼香、これぐらいで大変なんて言ってたらダメよ。まだこんなものじゃないんだから。」
「はぁ、凄い兄妹だな…。」
「そうね、姉さんとスキンシップをまともに取ろうとすると逆に疲れちゃうから。」
「あら、秋葉さま。いつも志貴さんと会話をした後はご機嫌じゃないですかー。」
「ちょ、琥珀っ!! 余計な事言わないでよっ!!」
「いえいえ、私は素直じゃない秋葉さまの為に…。」
「でもさ、琥珀さん。それは大将が起きてる時に言ったほうがいいと思うぞ。」
「あらー、そういえばそうですねー。」
「全く、これじゃぁ私の立場は…。」
「秋葉様、志貴さまは愚鈍ですから、直接言わないと無駄かと思われます。」
「…そうね、翡翠。それができればいいんだけど…。」
「素直じゃないからな、遠野は。」
「えー、秋葉ちゃんは素直だと思うよー?」
「…羽居、これのどこがだ?」
「えっとねー、すぐ態度に出たりとかするしー。」
「…言われてみれば確かに。」
「でも言葉ではキツイ事いっぱい言っちゃうんだよねー。でもそこが秋葉ちゃんの可愛い所なんだけどー。」
「……羽居、お願いだからこれ以上は言わなくていいわ…。」


なんだか身体が少しダルい。
それに加えて眠気がやけに強いので、私はあっさりと睡魔に陥落していた。
私が眠っている間に、チャイムが鳴ったらしい。
教室に教師がきた頃秋葉に叩き起こされたが、私はまだ机にへばりついたままだった。
が、その時。

――――――ゾクンッ

下の階から凄まじい殺気を感じて、私はガバッと顔をあげた。

「え…、ね、姉さん? どうかなさいました…。」
「クソッ!! ヤバイなっ!!」
私は秋葉の言葉に返事もせず、鞄の中に入れておいた『七夜』を取り出す。

「ねっ、姉さんっ!! 一体なにが…。」
「話は後だっ!! 秋葉、三年の教室はどこにあるっ!!」
「へ? えぇ、二階と一階ですが…。」
「そうか、わかった!!」
それだけ言い、私は『七夜』を持って廊下へ飛び出した。




「クッ! こっちかっ!!」
私は激しい殺気を感じる二階へと走った。
二階の廊下をかけていると、私の前の一つの教室から殺気が漏れているのを感じる。

「ま、まってくれっ!! 二人ともっ!!」
「志貴、貴女は黙ってて。」
「遠野君、今は授業中ですから、静かにしてくださいね。」
やはり、殺気の正体の二人が、教室で睨みあっていた。

「と、とりあえず二人とも落ち着け…。」
「私は落ち着いてるわ。それはそこの教会の犬に言ってよ。」
「遠野君、いくら私でもこればかりは譲れません。」
「いや、ちょっと待って、ここは教室なんだから、他の生徒だって…。」
「大丈夫です。みなさんには寝ていて頂きましたから。」
教室内を見ると、教室にいる生徒は全員虚ろな目をして座っている。
恐らくシエル先輩の暗示だろう。


「シエル、貴女がなぜここにいるのよ。」
「それはお互い様です。なぜ貴女がここで教師なんて職に就いているんですか。」
「そんなの私の勝手じゃない。それこそ貴女だってそうでしょう。」
「確かに、私は遠野君の側にいる為にこうしてこの学校に在籍しています。
ですが、貴女はそんな必要ないでしょう。」
「あら、私だって目的は同じよ。ただ、貴女よりも前からこうしてこの学院に教師として在籍してるけどね。
いきなり貴女みたいな生徒が増えるかと思うと虫唾が走るのよ。」
「私だって貴女のような人間をモノとしか思ってないような人から教わりたくありません。」
「そう、それじゃぁしょうがないわね。」
「何を今更。元々そのつもりだったでしょう、貴女は。」
「それは貴女もでしょう、教会の犬。」
「決着をつけましょう、真祖、アルクェイド・ブリュンスタッド。」
飛び掛ろうかと構えるアルクェイド、カソックを身に付け黒鍵を取り出すシエル先輩。
…こうなったら止められない。



瞬間、アルクェイドが動いた。

爆発するような跳躍をして、一気に懐へと飛び込み、拳を振るう。
それを横に交わし、黒鍵を横に薙ぐ先輩。
体勢を低くして黒鍵を交わし、懐に潜り込むアルクェイド。

「そこよっ!!」
「くっ!!」
腹を狙い殴りつける。
シエル先輩は迫る拳と自分の間で黒鍵をクロスさせガードに入る、が、衝撃はそれだけでは逃がせない。

―――――ドスンッ

という鈍い音と共にシエル先輩が吹っ飛ぶ。

―――――ガシャァンッ

というガラスの割れる音と共に、先輩の身体は校庭へと吹き飛ばされた。
その後を追い、校庭へと飛び出すアルクェイド。



「クソッ!! なんでこうなるんだよっ!!」
私もボヤきながら、割れた窓から校庭へと飛び出す。
ここは校舎の二階部分だが、普通の人間が飛び降りれば怪我はする。
だが、そんな事気にしてる状況ではないのですぐに飛び降りる。

―――――タンッ

と着地した後、校庭を見回す。
幸い校庭には生徒は誰もいなかったが、その真中で二人の激戦は続いていた。

「二人とも、もうやめろっ!!」
そう叫びながら急いで二人の方へと走っていく。

「姉さんっ!! なにをやっているんですかっ!!」
高等部の校舎の上階から秋葉の声が聴こえ、振り返る。
すると、高等部の教室の窓全部から生徒がこちらを見ていた。

「あぁっ!! ちょっと秋葉、黙っててくれっ!!」
「なっ!! ちょっと姉さんっ!!」
そうとだけ言って、私は二人に向かって駆け出した。




「ゼロッ!!」
「ちっ!」
「トロワッ!!」
「甘いっ!!」
「セット!!」
「遅いっ!!」
先輩の黒鍵を全て交し、懐に潜り込んだアルクェイドが爪を振るう。
それを交して後ろへ飛んだ先輩が仕掛けた。

「セブンッ!!」
途端、着ていたカソックが第七聖典へと変化した。

「チィッ!! 先輩本気だなっ!!」
私はそれを止めるべく、二人の間へと急ぐ。


「遅いっ!!」
アルクェイドもそれを見て一気に間合いを詰める。

「コードッ!! スクエアッ!!」
「これで終わりよっ!!」
二人が一気に加速する。






――――――ガシィッ!!

私はその間に入り、まず左から来た第七聖典の釘を『七夜』の切っ先で止めて受け流し、
同時に右から降りかかってくるアルクェイドの腕を掴み加速をつけ放り投げる。

「なっ!!」
「えぇっ!!」
力を逸らされた二人はすれ違いながらそんな声をあげ、地面へと倒れた。



「はぁっ!! はぁっ、はぁっ、はぁ……。」
「し、志貴…。」
「と、遠野君、なぜ…。」
「はぁ…、はぁ…、よ、良かった、間に合って…。」
「な、なんで止めるのよ志貴っ!!」
「遠野君っ!! なぜ止めたんですかっ!!」
「だ、だって…、はぁ…、はぁ…、ふ、二人とも、本気っぽかったし…。」
「そりゃそうでしょ!!」
「あ、当たり前ですよっ!!」
「だ、だから…、止めた。はぁ…、喧嘩…、して、欲しくないし…、それに…。」
「それに、なによ?」
「なんですか?」
「はぁ、はぁ、ふぅ…。それに、ほら。みんな見てる。」
「えっ?」
「…あ」
私が校舎を指差すと、二人は同時に声をあげた。
教室の窓からは生徒全員がこちらを見ていた。



「みんな見てるからさ…。どちらかが大怪我したらそれこそ大騒ぎだろ…。」
「………迂闊でした。」
「…そっか。ごめん、志貴。」
「いや、わかってくれればいいんだけどさ、事後処理をどうするか…。」
「それは、暗示をかけるしかありませんね…。」
「それしかないか…。シエル、貴女だけでできるかしら。」
「いえ、無理でしょうね…。弓塚さーーーーんっ!!」
先輩が校舎に向かって大声をあげると、一つの教室の窓から弓塚が飛んできた。

――――――ストッ

「っ! もう、二人とも場所を考えてくださいよっ!!」
「ごめんごめんさっちん。」
「すいませんね、弓塚さん、わざわざ。」
「…弓塚、見てたんだったら手伝えよ…。というかさ…。」
「ん? …なに?」
「あのさ、お前の教室、大変な事になってる。」
「…あ。」



弓塚が飛び出してきたのは四階からだった。
当然その教室にいた生徒は大混乱の状況に陥っている。

「まぁ、ついでに忘れてもらいましょう。」
「そ、そうですねっ!! というかそうしないと困りますっ!!」
「それでは、お願いします。」
「はいっ!」
二人はそう言うと、校舎に向かって暗示をかける。



「さっちん、私も手伝おうか?」
「バカですか貴女はっ!! 貴女の魔眼なんか普通の人が見たら精神が壊れてしまうでしょう!!」
「ぶー、それはそうだけどさー。」
「判ってるならやめてください!!」
「もー、シエルのけちー。」
「ケチで結構です!!」
校舎に向かって暗示をかけながらアルクェイドと口論している先輩。
相変わらず変な所で器用だ。



「はい、これで一応大丈夫ですね…。」
掛け終わったらしく、シエル先輩と弓塚がこちらへ振り向く。

「あれ? でも先輩、あそこの教室…。」
「あぁ、あそこは秋葉さん達の教室ですね。遠野家の方は普通じゃないので暗示にはかかりません。
同様に翡翠さん達もそうですね。」
「あ…、そう、か…。」
自分の教室の窓からこちらを見ている三人に手を振ると、秋葉がみるみる髪を赤く染めていった。

「げっ!! 秋葉、怒ってる…。」
秋葉は窓に手をかけ、こちらに向かって跳んでくる。
それにしがみつき、翡翠と琥珀さんもこちらに向かって跳んできた。

―――――スタッ、ドスッ

「貴女達っ!! ここは学校なんですからいつもみたいに暴れないでくださいっ!!」
「うぅ…、翡翠ちゃん、腰うったー。」
「姉さん、少し運動不足ではないでしょうか。」
「うぅ、ひどい…。」
「ま、まぁ秋葉。そんなに怒る…。」
そう言いながら立ち上がると

―――――クラッ

強い眩暈に襲われた。




「――――――あ。」
「志貴さん、大丈夫ですかっ!?」
私の異変に気付き、琥珀さんが駆け寄ってくる。
私の身体に手が伸びてくるが、自分の身体に力が入らず、その手を掴む事ができない。
視界が黒く染まり、何かが倒れる音が聞こえた後、私の意識は沈んでいった。