「志貴さま、朝です。お目覚め下さい。」
「ん……、あ………さ…。」
私はいつもの翡翠の声で目が醒めた。



「おはようございます、志貴さま。もうそろそろ朝食の時間となっております。」
「ん……、おはよう、翡翠。」
私は目を開け、ベットの脇に置いてある眼鏡を取ろうとして、昨日の話を思い出した。
(…そういえば、力の調節をしなきゃいけないんだったな。)
眼鏡に述びた手を止め、翡翠に向き直る。

「あ…、志貴さま。目が…。」
「ん。いろいろあってね、眼鏡をかけなくてもよくなったみたい。」
「そう、なのですか…。」
「ん…? どうかした? 翡翠。」
「いえ、その…。」
翡翠は胸で手を握りながら私の顔を見ている。

「どうかしたの?」
「いえ、大した事ではないのですが、その、裸眼の時の志貴さまの目は、いつも青かったので、
それが今は黒色をしていまして、不思議というか、なんというか。」
「あぁ、そっか…。確かにいきなり眼鏡外したら普通驚くか。」
「いえ、まぁ、そうなのですが…。志貴さま、眼鏡をおかけになっていないと、その…。
い、いつもより幾分幼く見えるので…。」
「へ? そ、そうだったんだ。私最近人前で眼鏡外してないからわかんないや。」
「はい、私は前に一度拝見しましたが、目が蒼い状態でしたし、それが黒くなっていますので幼く感じられます。」
「へー。まぁ、これも一つの変化って事だね。」
「はい…。そ、それでは着替えて参りますので、また後ほどお伺い致します。」
「うん、またあとで。」
そう言うと、翡翠はふかぶかとお辞儀をして、自分の部屋へと帰っていった。


――――――シャァッ

「あ、おはようございます、遠野さん。」
「おはよう晶ちゃん。」
「あっ、遠野さん…。裸眼なのに黒いですね。」
「うん、まぁね。さっきの会話聞いてた?」
「あ、はい。ちょっとだけ。でも…。」
「うん? なに?」
「さっきの翡翠さんも言ってましたけど、随分と幼く感じますね。」
「へー、まぁわかんないからねぇ、自分じゃ。」
「そうですねぇ、でも本当に幼いです。志貴さんって結構童顔だったんですねぇ。」
「へぇ、そうなんだ…。オヤジ臭いとかはよく言われた事あるけど。」
「いえいえ、それは恐らく物腰とか発言の事ですよ。」
「うっ、そ、そんなにオヤジ臭い事してるかな…。」
「そうですねぇ、お茶飲んでる時とかは、随分と落ち着いてますからねぇ。」
「う…、そ、そうか…。今度から気をつけよう…。」
「気にする事なんてないですよー。それより早く着替えないと、翡翠さん来ちゃいますよ。」
「ん…。そうだね、着替えよう。」
ベットを降りてカーテンを閉め、クローゼットの前で着替える。


着替え終わるとほぼ同時に、扉を叩く音が聞こえた。

コンコン

「失礼いたします。そろそろ食堂へと参りましょう。」
「うん、じゃぁいこっか晶ちゃん。」
「はい、朝ご飯にいきましょう。」
そういって、廊下へと二人で出る。

「あらら、志貴さん本当に眼鏡してませんねー。」
「おはよう琥珀さん。…なんか変かな?」
「いえいえ、全然おかしくないですよ。ただアレですねー。周りのみなさんが困っちゃいますねー。」
「んー、なんで?」
「それはですね、突然の志貴さんの変貌にみなさん驚くんじゃないかと、思うわけですよ。」
「そりゃそうだね。まぁとりあえず会ってみないと分からないし、食堂にいこうか。」
「はい、それでは参りましょう。」
四人で食堂へと向かう。
いつも秋葉たちは先に食堂へ居て、私達が来るのを待っている。


「おはよう秋葉、羽居ちゃん、蒼香ちゃん。」
「はい、おはようございます、ねえさ…。」
秋葉が私の顔を見た瞬間、その表情は驚きへと変わっていった。

「ね、姉さん、め、眼鏡は…。」
「あぁ、しなくても線は見えなくなったんだ。身体が変わったお陰でな。」
「そ、そうなんですか…。で、ですがその…。」
「ん? なに?」
「い、いえっ、な、なんでもありません。さ、着席して下さい。」
「あ、うん。」
秋葉の隣の椅子を引き、腰をかける。
私の前には今日は弓塚が座っていた。

「おはよう弓塚。弓塚も朝強いんだよね。」
「お、おはよう遠野君。うん、私結構早起きなんだ。それでも琥珀さん達には負けるけどね。」
朝早い半分吸血鬼の女の子か…。
世の中不思議だらけだ。

「でも、眼鏡かけてない遠野君て、久しぶりに見た。童顔だったんだねー。」
「うん、まぁそうみたい。」
「本当、眼鏡かけてても少し幼く見えてたのに、かけてないとすっごい幼く見えるよ。」
「んー、そうなのかぁ。やっぱ変?」
「えっ、ぜ、全然変じゃないよっ!!」
「弓塚先輩、朝食前に大声はあまり出さないほうがよろしいかと思います。」
「あっ、ご、ごめんなさい…。」
秋葉は少しムスッとした表情で私達を見る。


「あ、おはようございます、遠野君。」
聞きなれた声に私は返事を返す。

「あぁ、おはようございます。シエルせんぱ………。」
「はい、おはようございます。」
「あら、カレー先輩。おはようございます。こちらの朝食にはカレーは出ませんがよろしいのですか?」
「おはようございます、秋葉さん。朝からカレーは邪道ですから、別に結構ですよ。」
「あら、そうなんですか。それは失礼しました。」
「はい、失礼されました。」
秋葉と先輩は笑顔で会話をしている。
が、お互い目は笑っていない。
何より………。

「せ、センパイっ!! な、な、なんでここに…。」
「あら、姉さん。こちらのカレーさんは昨日から学院にいらっしゃいましたよ?」
「はい、昨日からいました。まぁ実際には昨日転校してきて、昨日荷物をまとめて、昨日の夜中に入寮したんです。」
「えっ…、昨日の夜中ってさ…。」
「はい、あの時には既に荷物を運び終えた後でした。ですが流石に三崎町から走り詰めでしたからちょっと疲れちゃいましたねぇ。」
「あ……、そ、そうだったんだ……。」
「えぇ、昨日いいませんでしたか?『また明日』って。」
「――――あぁ、確かに言ってましたね。あれってこういう事だったんですか。」
「はい、そういう事です。」
「ちょっと姉さん、昨日のあの時ってなんでしょうか……。」
隣にいる秋葉が、もの凄い形相で睨んできた。
朝からその顔はヤバイだろう…。

「いや、昨日夜中にコンビニに行ったら先輩がカレーパン食べてたんだよ。それでバチカンの話とかを、な? センパイ。」
「うっ……、まぁ、事実ですからなにも言いませんが…。遠野君、実は私=カレーとか思ってません?」
恐らく、センパイ以外の全員はそう思っているだろう、なんて事は言えるはずも無い。

「い、いえ…、そ、そんな事はありませんよ…。」
「そうですね、もしそう思われてたらセブンでも受けてもらっちゃおうかと思っちゃいましたよ。」
「い、いやだなぁ、そんな事あるわけないでしょう、ははは…。」
何故か、乾いた笑いしか出てこない。

「姉さん、とりあえず大人しく朝食を頂きましょう。」
秋葉に言われ自分の前を見ると、既に朝食が並んでいた。

「そ、そうだな。それじゃ、いただきます。」

そうして、私の新しい日々が始まった。