「先ほど挙げたような『身体的変化』の例には、二つの共通点があるんです。
一つは、魔術回路の力の増大です。これは先ほどの死徒の例が分かりやすいですが、人間の身体にはそれぞれ先天性の魔術回路の強さがあります。
その強さは元々の力なので、強くしよう、と思っても強くできないんです。
ですが、強くしたい魔術師は死徒になり、その力を増大させる、という選択をしたんです。」
「なるほど…。でもそれは死徒だけじゃないの?」
「いえ、今のは死徒を例に挙げただけで、死徒に変化しない、他の例でもそれは起こっています。」
「へぇ、そうなんだ。それで、二つ目は?」
「はい、二つ目は、魔力貯蔵量の増加です。これも先ほどの例と同じなんですが、魔力貯蔵量も先天性のものなんです。
これを増やしたい魔術士はまた死徒になる、という訳です。」
「はぁ、なるほど…。それで、その話と私の目になんの関係が?」
「はい、ここからが重要なんですが、遠野君は先天性の魔術回路が普通よりも元々多いんです。まぁそれは恐らく血筋だと思います。
それで、一度死にかけて『直死の魔眼』を持つようになったんですが、
『直死の魔眼』なんてものは前にも言いましたが一個人が所有するにはいくら魔術回路の素質があっても十分とは言えません。
ですが、遠野君は男性から女性に変わり、数の多い魔術回路の力が増大している状況にあります。
それに加え、長年その『魔眼』と付き合ってきた遠野君自身の『慣れ』もあり、
その魔術回路の力を調整する事ができるようになったんだと思います。」
「はぁ…、なんか、よくわからないけど、とりあえず自分でコントロールできるようになったって事?」
「はい、まぁ簡単に言ってしまうとそうなりますね。
ただ、遠野君の脳自体は変わらないので鉱物の『死』を視ようとすると負担がかかりますが、
魔術回路が増加しているので前のような頭痛に苛まれるという事は減ると思います。」
「へぇ…、なるほどね。」
「はい、そういう事です。ですからまぁ、簡単に言っちゃうとパワーアップしている、
という事ですね。恐らく今ならそこのアーパーも殺せるんじゃないでしょうか。」
「ちょっとシエル、志貴使って私を葬ろうとしてるの? 無理よ。志貴は私のなんだから。」
「はぁ、遠野君がダレのかは置いておきますが、遠野君にそんな事頼んだってそんな事してくれる訳ありませんから。」
「はは、そりゃそうだ。私はそんな事したくないしね。」
「ですから、とりあえず貴女は遠野君の加護のお陰で生存しているという訳ですね。」
「なによ、それはシエルもでしょう。シエルだって志貴が殺さないから生きていられるのよ。」
「二人とも、私はどっちも殺したいなんて思わないぞ。」
「はい、その通りですね。でも、遠野君の力は今やそれほど『脅威』であるという事を覚えておいてください。」
「うーん、いまいち実感わかないなぁ…。」
「今後遠野君は、今よりもその力の調節が巧くならないと身体に逆に負担がかかってしまうので、眼鏡を外して生活するようにしましょうね。」
「はぁ、でも眼鏡かけてたほうが負担かからないんじゃ…。」
「それは以前のような状況ですね。魔術回路が開きっぱなしの状態です。
それは魔術回路の力が今よりも弱いから起こっていたんですが、それを眼鏡でムリヤリ押さえこんでいたんです。
ですが今の遠野君の魔術回路は遥かに力が増大してますから、開きっぱなしの状態では眼鏡だけでは無理なんですよ。」
「んー、でもそうなると、この身体になっても私は眼鏡かけると線が見えなくなってたんだけどさ。」
「それはですね、恐らく遠野君の『意識』のスイッチの役目をしていたんだと思います。
遠野君は無意識に『眼鏡をかければ死は見えない』と意識していて、その意識のON、OFFを眼鏡に託していたんです。」
「…なるほどねぇ…。」
「ですが、今のままだと巧く力の調整ができないので、今は大丈夫でしょうが段々負担が蓄積されていきます。
うまく力の調節できていない状態の無意識下の意識ぐらいではその『魔眼』は押さえ込めないでしょうから。」
「じゃぁ、やっぱり力のコントロールをできるようにしないとダメって事か…。」
「はい、そういう事なので、頑張ってくださいね。まぁ今こうして話をしていても目は黒いままですから、ほぼ完璧でしょう。」
「へ? あ、あぁ、そういえば全然意識してなかったけど線は見えてないよ。」
「それでですね、今度は線を見ようと意識すると見えるようになるはずなんですが、
いきなり魔術回路を全開になってしまうと思うんですよ。そうなると身体に負担がかかりますので、実はそっちの調整のほうが大変なんです。」
「んー、よく分からないけど、普段は線を見ようとしなければいいんだね?」
「はい、ですが必要な時の為に巧く線が見えるように調節の練習をしておいてください。」
「はい、長々と説明ありがとうございました。」
「いえいえ、とんでもないです。」
そういうと、シエル先輩はお茶を一口飲んだ。
しかし、本当に説明長かったなぁ…。
「あー、シエル本当に話長い。よく疲れないよね。」
「えぇ、普段から頭を回転させていますから疲れません。最も貴女のようにいつもポーッとしている方だと疲れるとは思いますけど。」
「む、志貴ー、シエルがまた喧嘩うってきたー。」
「いえいえ、私は事実を述べたまでですよ、あーぱー吸血鬼。」
そう言ってお茶をまた一口含む。
シエル先輩はまた私に向き直り、こう告げた。
「それで、遠野君。もしかしたら今後、訪問者が現われるかもしれませんから、用心してくださいね。」
「へ? 訪問者って?」
「先ほど言いました通り、今の遠野君の力は『脅威』となっています。
最も、元々脅威である存在の『直死の魔眼』の所有者ですから、目は付けられていたんですが、静観されていました。」
「へぇ…、なんか大変だね…。」
「はい、大変なんです。ですから、一刻も早く力の制御をできるようにしといて下さい。
ただでさえ遠野君の周りには真祖や混血がいるんですから、注目されるのは当たり前です。気をつけて下さいね。」
「んー、なにを気をつければいいのか分からないけど、とりあえず力の制御は頑張るよ。」
「はい、それでは私はこの辺で帰りますね。」
「さっさとかえれー。」
「言われなくても帰りますと言ったでしょう!! それでは遠野君、また明日。」
「え、ああ、おやすみシエル先輩。」
そう言って、黒いカソックをはためかせてシエル先輩は帰っていった。
「志貴ー、シエルいなくなったし、遊ぼうよー。」
「バカ、私も帰るよ。明日学校なんだから。」
「あー、そういえばそっか。それじゃぁしょうがないね。」
「おっ、段々物分りが良くなってきたな。」
「そりゃそうよ、慣れてきたからね。それじゃ、おやすみ志貴。」
「あぁ、おやすみ。また学校でな。」
「うん。」
アルクェイドもまた、自宅の方向へと帰っていく。
その背中を見送ってから、私は寮へと帰っていった。