毎日毎日毎日毎日…
ビラ配りや寮内演説なんかを繰り返した。
弓塚に関しては大きなイベントをしなかったが、
会長の座争いの秋葉は空いている時間を使って対抗馬とのディベート大会なんてものまで繰り広げた。
「しっかし、本当大変だったなぁ〜今日まで。」
「あぁ、多分大将が一番忙しかったんじゃないのか? 遠野に付いて回ってさ。」
「そうですねー。今回の戦略では、志貴さんが最大のキーパーソンでしたから。」
「そっかー、志貴ちゃん大変だったんだねー。」
ぐでーっと机に突っ伏してダラけて話を聞いている時、
よしよしと頭を撫でてくる羽居ちゃん。
「んー、とにかく大変だったよ、羽居ちゃん。」
「あら、姉さんより私のほうが大変だったでしょう。」
「遠野、大将はこういった事慣れてないんだから、慣れているお前さんと一緒にするなって。」
「んー、確かにそうだねー。秋葉ちゃんはこういうの好きだもんねー。」
「そうだよ秋葉ー。もう少し姉さんを労われよー。」
「なっ、なによっ。まるで私が無理いって連れまわしてるみたいじゃない。」
「遠野、まぁそうスネるなスネるな。」
「秋葉ちゃんもがんばったねー。よしよし。」
「…羽居、頭を撫でるのやめてくれないかしら?」
「えー、志貴ちゃんは喜んでたよー。」
「いや、別に喜んではないんだけどね…。」
そんな会話をしながら、私達は本日最後のHRを待つ。
HRが終わったら、そのまま立候補者の最終演説と一緒に投票が開始される。
その応援演説にまた私は駆り出されるらしい。
キーンコーンカーンコーン
「さて、それじゃぁ講堂にいくか。」
「そうですね、それでは参りましょう。」
HRも終わり、私達は他の生徒より一足先に演説会場となる講堂へと向かった。
講堂には既に、中等部の生徒会役員がおり、会場の準備をしていた。
「あっ、先輩方お疲れ様です。」
「お疲れ様、瀬尾。」
「晶ちゃん、大変そうだね。」
「いえいえ、元々椅子は備え付けのがありますから、あまり大変ではないんです。」
「そっか、なんかあったら呼んでよ。私手伝うからさ。」
「いいえっ!! そ、それは嬉しいですが、生徒会の仕事ですからっ。」
「そっか、でも別に気にしないでも…。」
「姉さん、姉さんには他にやるべき事があるんですから、他人の手伝いなんかしている暇はないでしょう?」
「う、そういえばそうでした。…まぁ、それじゃぁ頑張って、晶ちゃん。」
「はいっ、遠野さんも頑張ってくださいね、応援演説。」
「あら、瀬尾。私にはねぎらいの言葉はないのかしら?」
「い、いいえっっっっっっっ!! そ、そんな訳、な、ないですよっ!!
と、遠野先輩も最終演説、が、頑張ってくださいっっっ!!」
「えぇ、ありがとう瀬尾。それではまた後でね。」
「は、はいっっっっっっっ!!」
スタスタとステージ脇に歩いていく秋葉。
晶ちゃんは自分の仕事に戻り、あっちこっちに走って頑張っているようだ。
「ふぅ、応援演説か…。なにすりゃいいんだろうなぁ…。」
私も秋葉の後ろへ続き、ステージ脇に設置されている控え室へと向かった。
「それでは、只今を持って、生徒会役員選挙を開始したいと思います。」
恐らく中等部の役員であろう生徒の声を聴き、私達は控え室で順番を待っていた。
「はぁ、私の出番はいつなんだ?」
「えっとですねー。志貴さんの出番は二人まとめての応援演説ですから、一番最後ですねー。」
「こ、琥珀さん。わ、私の出番はいつですかっ?」
「弓塚、今からそんなに緊張してどうするんだよ…。」
「で、でもさっ。だって、みんなの前で演説するんだよっ? き、緊張しちゃうよぉ〜。」
「それもそうか。でももう少し力抜いたほうがいいんじゃないのか?」
「う、うん。そ、そうだね。リラックスリラックス…。」
「弓塚さんは5番目ですねー。秋葉さまは8番目です。」
「そう、ありがとう琥珀。」
「いえいえ、これも戦略家の仕事ですからー。」
本当、こういう時の琥珀さんはいきいきしてるよなぁ…。
「それにしても、大将はこういう時に全然緊張しないんだな…。」
「うーん、別に緊張してない訳じゃないんだけどねぇ。」
「蒼香、姉さんに人並みの感情を求めてはダメよ。」
「む、なんだよ秋葉。ちゃんと私だって人並みの感情はあるぞ。」
「あら、そうだったんですか。でもねぇ、翡翠、琥珀。」
「はい、志貴さまは他の方より遥かに愚鈍かと思われます。」
「そうですねー。平均よりかなりの鈍感さんなんじゃないでしょうかー。」
「だそうですよ? 姉さん。」
「む……、そんなつもりはないんだけどな…。」
「ですから、志貴さまは愚鈍かと思われるんです。」
「ひ、翡翠…、ちょっとキツイなー、それ…。」
「申し訳ありません、が、私は真実を述べたまでですので、ご了承ください。」
ふかぶかと頭を下げる翡翠。
でも頭を下げられてるのになんで私はこんなにへこんでいるんだろう…。
「まー、そういう訳ですよ、志貴さん。」
「そうか…。それじゃぁ、今までより気を配らないとダメって事か。」
「姉さん。今までより気を配っても『遥かに愚鈍』から『愚鈍』に変わるだけだと思いますよ?」
「む…、もしかしてさ、みんなそう思ってるの?」
途端、場がシーンと静まり返る。
私、そんなにダメかなぁ…。
「さて、それではそろそろ会場に向かいましょうか、弓塚先輩。」
「そうだね、志貴ちゃん見てたら緊張も解けたし、頑張ろうね。」
「えぇ、それではいってきますね、姉さん。」
「うぅ……いってらっしゃい………。」
さっきの事でちょっとへこみがちな返事を返す。
そんな私を見て弓塚と秋葉は楽しそうに控え室を後にした。
「それじゃ、私達も傍聴席にいってくるよ。」
「それじゃぁ、頑張ってねー志貴ちゃん。」
「うん、また後でね。」
蒼香ちゃんと羽居ちゃんも控え室を出て行って、残ったのは参謀の琥珀さんと翡翠だけだった。
「それでは、志貴さん。最後の打ち合わせをしましょうか?
といってもやる事は一つなんですけどね。」
「うん、わかった。それで私はなにをすればいいの?」
「それはですね、この台本に書いてある事をすればいいんですよ。
あ、でも今は読まないで下さいね。演説する直前に読んで下さい。」
「へ? まぁ、わかった。じゃぁやる事ないんだったら少し寝ようかな。」
「そうですね。それでは私は少しやる事がありますので、翡翠ちゃん。」
「はい、なんでしょうか姉さん。」
「志貴さんに膝枕は譲ってあげますよー。お姉ちゃんに感謝してね。」
「えっ!! いや、そんなのいいから。」
「……………志貴さま。」
翡翠は、少し顔を赤くしてこちらを見ていた。
「な、なに? 翡翠。」
「あの、もし志貴さまがお嫌でなければ、ですが……。」
「う……うん。」
「その、僭越ながら、膝枕をさせて頂きたいのですが……。」
さらに顔を赤くして私に言う翡翠。
私としては膝枕が嫌な訳ないんだけど、でも恥かしいし……。
「いや、気持ちはありがたいんだけどさ、その……。」
「…そう、ですか……。」
「う……。」
途端、翡翠の顔が暗くなってしまった。
「あらあら志貴さん。ダメですよー折角翡翠ちゃんが言っているのに無碍に断わるなんて…。」
「いや、でもさ……。」
「ほら、志貴さん。翡翠ちゃんが悲しんでるんですから、労わってあげてください。
それでは私は秋葉さま達の所へいってきますのでー。」
「あ、ちょっと……。」
言うだけ言って部屋から出て行ってしまった琥珀さん。
横では翡翠がまだ暗い表情を浮かべている。
「あのさ…、翡翠。」
「…はい、なんでしょうか。」
「その、膝枕、お願いしてもいいかな…。」
「えっ、よ、よろしいのですか?」
「いや、翡翠がいいって言うんだったらして欲しいんだけどさ…。」
「あ…、はい。私がお断りするはずありません。」
頬を染めて笑顔で言ってくる翡翠。
膝枕して欲しいと言っただけでこれだけ喜んでくれるんなら、今後も頼もうかと思ってしまう。
「それじゃぁ、お願い。」
「はい…、どうぞ。」
翡翠が畳の上に正座をして、私はゴロンと寝転がりその膝に頭を乗せる。
翡翠は私の髪を撫でながら、嬉しそうにやわらかい微笑みを浮かべている。
やっぱり笑顔も可愛いなぁ、と思いながら私の意識は底へと沈んでいった。