「さて、昼飯食ったし、ちょっと帰りに便所いってくる。」
「ねっ、姉さん…、その言葉遣いはやめて下さいと何度言ったら…。」
食堂からの帰り、私は秋葉をまた怒らせたようだ…。

「あ、あぁ、ごめん。でもさぁ、やっぱり長年に渡って染み付いた癖とかはなかなか治らないって。」
「えぇ、そうでしょうね。有馬の家では好き勝手やっていたんですから。そういった悪い癖がつくのもしょうがないかもしれません。
ですが姉さん。女性がそのような話し方をしてはいけないんですよ。これは基本です。」
「でもなぁ…。」
「言い訳は結構ですっ!! 全く、これだから姉さんは…。」
いつもの調子で怒る、というよりはいびる秋葉。
だが今日は私には『武器』があった。

「はぁ、昨日の秋葉は可愛かったのになぁ…。」
「えっ!! ね、姉さん…。」
途端、ボッと顔を真っ赤にさせる秋葉。
これが私の最大の『武器』だった。

「あぁぁ、人の胸で泣いてて、可愛かったなぁ…、『昨日』は。」
昨日、にアクセントを置くのが重要である。

「あ、ね、姉さん、その、話はあまり…。」
「なんで? 別に平気でしょ。ただ秋葉が私に抱き…。」
「ね、姉さんっ!!」
「えー? 秋葉ちゃんが昨日どうかしたのー?」
「あぁ、羽居ちゃん。ただ昨日秋葉が…。」
「姉さんっ!! も、もうやめてください…。」
「んー? 秋葉ちゃん顔真っ赤だよー。ねね、昨日どうしたのー?」
「っ!! 羽居、とりあえず貴女に教える事はないわ。」
「えー、秋葉ちゃんけちー。」
「別にけちと言われようと教える気はありません。」
「んー、まぁしょうがないやー。」
「そ、それと、姉さん。あ、あまりその話はその…。」
「あぁ、わかったよ。他の人の前ではしないよ。あれは私と秋葉二人っきりの…。」
「ね、姉さんっ!! も、もういじわるしないでくださいっ!!」
「あはは、ごめん。ただ秋葉が慌ててるのなんてめずらしいし、可愛かったからさ。」
「っ!! 姉さんっ!! 私で遊ばないで下さいっ!!」
またもや顔を真っ赤にして拗ねる秋葉。
こういう仕草は本当に可愛いと思う。流石は我が妹君。

「それじゃぁ、トイレいってくるから、先教室戻ってて。」
「はい、それではまた後ほど。」
「がんばってねー志貴ちゃん。」
…まぁ、頑張ると言えば頑張るんだけどね。

「羽居ちゃん、表現がストレート過ぎ。」
「へー? なにがー?」
「…あぁ、ごめん、なんでもないよ。それじゃ。」
無駄だと判っているツッコミをして別れ、私は一人トイレへと向かう。



「はぁ、それじゃぁ教室戻るか。」
秋葉から常備を命じられたハンカチで手を拭き、私は一人教室へと戻る。
が、途中

「うわわぁ〜〜〜、み、みんなよけて〜〜〜。」

という声が斜め上から聴こえる。

「ん? …なんだろ。」
そちらのほうを向くと、階段の上に山ほど辞書らしいものを積んだ生徒がいた。
恐らく運んでいるんだろうが、その生徒の顔も見えない程高く積まれていて、おそらく彼女も前を見れないだろう。

「…なんか、嫌な予感が…。」
次の瞬間、その予感は的中した。

ガツッ

「うわっ!! わぁぁ〜〜〜〜っ!!」
「くっ!! やっぱこうなるのかっ!!」
まぁ、お約束と言えばお約束だが、そんな事かまっている余裕はない。
山ほど積まれた辞書が一斉に私向かって襲い掛かってくる

(これは、避けるのはマズイな。)
避けてしまうと、落ちてくる生徒を受け止められない。
なにより避けるんだったら一瞬で廊下の端まで移動しなければならないし、そんな動きをしたらさすがに他の生徒に見つかってしまう。
そう考え、私は目の前に迫ってきた辞書を全て手で払う選択をした。

バシッ
バシッ
バシッ
バシッ
バシッ

襲い掛かってきた辞書を全て払いのけ、私は今落下してきているであろう生徒を見上げる。

「えっ?」
「あっ!!」
そこには、弓塚の顔があった。
弓塚だったら大丈夫かと思い、(避けようかな…。)と一瞬酷い事を考えたんだが…。

(きゃ〜〜〜〜〜!! なんでこんな所に遠野くんがいるのっ!!)
(でもでもでもっ!! これはひょっとするとチャンスかもっ!!)
(落下する私、それを受け止めてくれる志貴ちゃん…。)
(志:「大丈夫かい? さっちん。」さ:「うん、貴女のお陰で…。」
志:「そうか、よかった。立てるかい?」さ:「ん…ぁ痛っ!!」
志:「足が痛むのかい? …酷いな、捻ってる。ちょっと我慢して。」さ:「えっ!! そんな、大丈夫だよ志貴ちゃん。」
志:「バカッ、足挫いてるんだから歩けないだろ。ほら、いいから早く捕まって…。」さ:「う、うん…ありがとう。」
志:「お礼なんかいいよ…。さっちんは私にとって大切な…。」さ:「し、志貴ちゃん…。」              )
(なんて、きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!)
(よしっ!! ここが勝負よさっちん!! 私頑張るっ!! 魔女っ娘の前に私は女の子なんだからっ!!)
(だから、志貴ちゃん、うけとめてぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜☆)


パァァァァァァァァァ


…なんで嬉々として落下してるのか判らないけど、あんな顔されたら避けられない。
そう思い、私は受け止める体勢に入ろうと一歩後ろへ下がろうとするが

ドン

「えっ」

何かが後ろに当って、一歩下がれずにそのまま弓塚と頭と頭で接触してしまった。

ドスンッ!!

そのまま二人で廊下に倒れる
(ぐっ!! …た、体勢取ってなかったから、さすがにキツい…。)
胸にのしかかる衝撃に思わず顔を歪める。
そして胸にかかる

ムニュ

とした感触に疑問を抱きつつ、顔をあげる。
すると、弓塚と目が合った。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
まてまてまてまて、落ち着け志貴。
ここで放心してる場合じゃない。
今の状況をよく考えろ。

目の前に弓塚の目がある。
身体の上に弓塚が乗っている。

「…ん……。」
「………ん。」
…口が塞がれている。

「っ!!」
「っぽわぁぁぁっ!!」
なんとなくマヌケな声を出してお互い離れる。
偶然とは言え、弓塚とキスしてる状態になってしまった。
しかも周りには他の生徒も見ている。

(こりゃ…、マズイだろうな…。)
そう思い、弓塚に声をかける。

「あ、あの…、大丈夫? 弓塚…。」
「・・・・・・・」
「あ、えと〜、だ、大丈夫かなぁ?」
「・・・・・・・キス」
「………え?」
「……私………ファーストキス。」
「…………。」
嫌な汗が滝のように流れる。

「ご、ごめん…。その……。」
「……ふ、ふえぇ…。」
「えっ、ちょ、ちょっと弓塚?」
「ふえぇぇ、ふぇぇぇぇぇ〜〜ん。」
「わぁ、えっと弓塚、と、とりあえず落ち着いて…。」
「ふえぇぇぇ、ふえぇぇぇぇぇぇ。」
弓塚が、途端に泣き出してしまった。

(…まいったなぁ………。)

とりあえず私はそこらへんに散らばっている辞書を拾い、偶然通りかかった弓塚のクラスの生徒数人に渡して泣いている弓塚を保健室まで運んだ。