ガチャ
「遠野、もう就寝じか……………。」
「蒼香ちゃん、おかえり。」
「………随分と幸せそうだな、遠野。」
「とりあえず、帰ってきて助かった。移動させるにさせにくくてね。」
「はぁ、まぁこんな顔されてたら起こす気にもなれんわな。」
「すー、すー、すー。」
秋葉はあれから延々泣き続けて、しまいには泣きつかれて寝てしまった。
私の肩に置かれているその顔は、ひどく心地よさそうな顔をして、起こすのを躊躇ってしまう。
私は蒼香ちゃんと二人でベットまで運び、頭を撫でてから自分の部屋へと戻った。
「あ、お帰りなさい志貴さん。なんだか大変だったみたいですね。」
「ただいま晶ちゃん。まぁ大変だったと言えば大変だったんだけどね…。」
部屋に戻っていた晶ちゃんの言葉に、先ほどの秋葉の顔が思い出されて自然と顔が綻んでしまっていた。
「あれ、なんか嬉しそうですね。なにかいい事あったんですか?」
「え! い、いや、別になんでもないよ。そ、そろそろ就寝時間だから寝ようか。」
「へ? あ、はい。そういえばそうでした。それではおやすみなさい。」
「うん、おやすみ晶ちゃん。」
やはり顔がニヤけていたのか、晶ちゃんに指摘されちょっと恥かしかったので、話を摩り替えた。
晶ちゃんへの挨拶を済ませてから、私はカーテンを閉めて一旦ベットの中へ潜り込んだ。
カチカチカチカチ…。
カチカチカチカチ…。
(…そろそろ出るかな…。)
ベットから身体を起こし、眼鏡をかけて時計を見る。
時間は11時の少し前。
晶ちゃんはカーテン越しから聴こえる寝息を聞くと、熟睡しているようだ。
(それじゃ、出るか…。)
私はベットから降り、クローゼットの前で動きやすい格好へ着替える。
(あ…、そういえば今日レンはアルクェイドの部屋にいるんだっけ…。)
そういえばレンとは昨日コンビニで別れたっきりだった。
(とりあえず、日課を終えてからだな。)
着替え終わり、窓から外で飛び出す。
トン
と軽く木の枝を蹴り、どんどんと奥まで跳んでいく。
(……ここらへんでいっか。)
足を止め、地面へ降りる。
そして、いつもの『日課』を私は始めた。
「さて…、こんぐらいにしとくか。」
私は短刀を終い、一息つく。
「約束に遅刻するとうるさいからなぁあいつは。」
頭をポリポリ掻きながら、コンビニへと続く道を歩く。
トボトボと一人でぼーっとしながら歩いていると、コンビニへと続く一般道へぶつかった。
そのまま一般道を歩いていくと、コンビニが見える。
「………。あいつ、なにやってんだ……。」
コンビニの手前には、店主が備え付けたベンチに座るアルクェイドと、
その前に立つ複数の男がいた。
そのままコンビニへと近づいていくと、こちらに気付いたアルクェイドが手を振ってきた。
「おーい、しきー。」
「はぁ…、夜中にうるさいぞ、アルクェイド。」
「もう、折角待ってたのに、ちょっとそれはないんじゃないの?」
「待ってたって、お前まさかまた3時間とか待ってたんじゃないだろうな?」
「そんな事してないよ。私は30分前に来ただけ。志貴も今日は早く来たよね。まだ12時前だよ。」
アルクェイドが「ほらほら」と店内の時計を指指す。
確かに今はまだ11時台、正確には11時50分頃だった。
「あぁ、時計見て来てないからな。」
「ふーん、そっか。それじゃぁいこっか。」
「へ? …いくって、どこに?」
「うん、私の部屋。ほら、レンも待ってるよ。」
「あぁ、そっか。…泊まらないからな。」
「ぶー、けちー。」
「当たり前だろ。明日だって学校あるんだから。」
「うーん、そっかー。それじゃぁしょうがないねぇ。」
「お、なんとなくお前、一般常識が判ってきたみたいだな。さすがに教師になると常識が必要になってくるって訳か。」
「よぅ、ちょっと、キミタチ。おれら無視して話すんのやめてくれよ。」
横から割って入って来た男の声に、私達は顔を見合わせる。
「…アルクェイド、まさかとは思うけどさ、知り合い?」
「全然、そんな訳ないじゃん。ここで志貴待ってたら勝手に話し掛けてきただけよ。」
「はぁ、またナンパか…。まぁ女子高の寮があるんだから、しょうがないのかもな…。」
「そ〜ゆ〜事だからさぁ、俺達と一緒に出かけない?」
そう言う男の顔はヘラヘラしてて私は不機嫌になる。
その男の後ろには、見覚えのある顔があった。
「…ちょっとアンタさ、昨日もナンパしてたよな。」
「へ? …あ、あぁっ!! テ、テメェ!!」
その男は間違いなく、昨日私が最初にぶん投げた男だった。
「なに? 志貴、知り合い?」
「知り合いって訳でもないんだけど、昨日もナンパしてて、私が懲らしめた一人。
でも懲りてなかったみたいだなぁ。」
「へぇ、じゃぁこの子がアイツのいってたヤツか。」
「くっ!! テメェ!!」
どうやら事情を知っている男はまたヘラヘラ笑い、『懲らしめた』男は怒りを露いいている。
「じゃぁちょっと、俺達に付き合ってくれないかな?」
「…はぁ、わかったよ。アルクェイドはここで…。」
「やだ。私も見物するー。」
「はぁ、まぁわかったよ。それじゃぁここじゃやりにくいだろうから、林までいこう。」
私はそう言って歩き出し、その後ろを男達が歩き出す。
アルクェイドは最後尾だ。
そうして少し歩いて林に入ると、私は後ろから羽交い絞めにされた。
「へへ…、どうも昨日お世話になった彼がお礼をしたいらしくてね。」
「ヘッ!! 昨日のお返しにちょっと痛めつけてやるよ。」
「おい、とりあえずビデオ用意しろよ。いいモノ撮れるかもしれないぜ…。」
「…………。」
男達は私を羽交い絞めにすると、揃って私の前に集まり、一番後ろにいる男はこちらにカメラを向けてきた。
「はー、志貴ー。本気でやっちゃダメだよー。」
状況にそぐわない能天気な声が響く。
「おい、姉ちゃん。あんたも大人しくしてもらうぞ。」
「そいつには触るな。私が相手になってやるから。」
「わお、志貴かっこいー。」
「阿呆、ただお前がキレたら大変だから触るなって言っているだけだ。」
「ぶー、なによそれー。」
「事実だろうが事実。」
「もう、私はちゃんと制御できるもん。普通の人間なんか相手にしないわよ。」
「…なにわけわかんねぇ事いってんだこいつら。」
何も知らない男はそう言うとこちらに近づいてくる。
「とりあえず、一発やらせてもらっちゃおうか。」
後ろの男はそう言うと、私を羽交い絞めにしている手に力を入れた。
「それじゃぁ、オラよぉ!!」
そう言って前にいる男は私を殴る…つもりだったらしい。
彼が殴りかかってきた瞬間、私は羽交い絞めにしている男をただ力だけで前にぶん投げた。
投げられた男は殴りかかってきた男に当り、二人して倒れる。
「なっ!! てめぇコラァっ!!」
私が自由になると男が数人私に飛び掛ってくるが、そいつらを全員殴り、蹴り、投げる。
それぞれの男は地面に倒れるが、今日は気絶はさせなかった。
これから起こる『光景』を目に焼き付けてもらう為に。
だが、それは失敗だったかもしれない。
「て、テメェ!! こいつが…。」
「きゃー、しきー。つかまっちゃったー。」
…私は頭を抱えたくなった。
残っていた一人の男が、よりにもよってアルクェイドの首にナイフを突きつけていた。
「…楽しそうだな、アルクェイド。」
「ぶー、そんな事ないよー。まぁ今日は特別。」
「テ、テメェら、ふざけてんじゃねぇ!! コイツ刺すぞっ!!」
「だってー、しきたすけてー。」
…やはりアルクェイドは楽しんでいた。
「はぁ…自分でやれバカ。」
「ぶー、けちー。わかったよー。」
そう言うと、アルクェイドはナイフの刃に指を近づける。
「うっ、動くんじゃねぇよ!!」
そう言う男の顔は明らかに動揺していた。
そんな言葉も聞かず、アルクェイドはナイフに触れる。
男はナイフを離そうとするが、動かせない。
「あぁ、一つ教えといてあげるよ。」
「あ、ああっ!! ど、どうなってんだっ!!」
全力でナイフを離そうとするが、ナイフはアルクェイドの手から動かない。
「そいつさ…。」
「くっ!! このっ!! なにしてんだてめぇ!!」
男はもがくが、ナイフは離れない。
「…人間じゃないんだよね。」
そう私が言った瞬間、
ベキィッ!!
ナイフの刃が音を立てて、粉々に砕けた。
「全く、こんな何の概念も無いオモチャで、私が怖がるわけないでしょ。」
「アホ。普通は怖がるもんなんだよ。」
「あ、そっか。」
あははーと笑いながらアルクェイドは後ろを振り返る。
アルクェイドの後ろにいた男はナイフの柄を握り締めて棒立ちしていた。
「さてと、ただの人間が私に触れた罪、償ってもらおうかな。」
「お前、わざと捕まったんだろうが。」
「まぁそうなんだけどねー。やっぱ志貴以外の人間に触れられるのって、なんとなく嫌なんだよね。」
「ほんと、ワガママだなお前。」
「え−、そうかなー?」
そんな会話をしながらアルクェイドは男へ近づき、
「人間、覚悟はできてるわね…。」
そう言い放ち、
バキィッ!!!!!
男の横にある木を殴った。
「あ……あ、あ…。」
男がわけもわからず口をパクパク動かしていると
ミシミシミシミシ
という音と共に、男の横にある木が真っ二つに折れた。
その折れた木を、アルクェイドと私はまたさらに粉々にする。
さすがに木を真っ二つに折れたままにしておくのはマズいので、アルクェイドは引き裂き、私はナイフで切り裂いた。
「全く、お前ちょっとやりすぎなんだよ。」
「えー、別に木が折れたって大丈夫でしょー。それにそこの人間には触れてないしさ。」
「バカ、そうじゃねぇだろ。普通の人間は木を折るほど怪力じゃねぇんだって。」
「あー、そっかー。うーん、人間の普通って難しいよねー。」
「はぁ、今更気付いたのか。」
「うん、だって志貴とか妹とかシエルとか双子とかさっちんとかは…。」
「あぁ、そりゃそうだな…。お前の側にいる人間は基本的に『普通』じゃないもんな。」
「そうだよ。私が知ってる普通の人間って言ったら、志貴の知り合いの赤い子だけだじゃないかな。」
「…あぁ、有彦か。確かにあいつだけかもしれないな。」
「うん。普通の人間が回りにいないのに普通の人間の尺度で物を考えろなんて、それこそムチャだよ。」
「はぁ…、お前、知識だけはあるんじゃなかったっけ…。」
「うん、知識はあるんだけどさ、考えかたっていうのは知識じゃないでしょ?
知識としてはいくら分かっていても、その状況になってみるとやっぱり知識よりも私元来の物の考えかたが優先されちゃうから、やっぱりそこは経験していくしかないんだよね。」
「あぁ、なるほどなぁ。お前少しは自分に興味持ってきたんだな。」
「うん、やっぱり志貴に一度殺されてからかな。今までの考えかたっていうのがかなり変わってきたよ。
これも志貴のお陰かなー?」
えへへーと笑いながら笑顔で言うアルクェイド。
やっぱりこいつはこうやって笑うと可愛いと思う。
「あ……あ……あぁ……。」
ふと、後ろを見ると男達がこっちを見て驚愕の目をしている。
「……ヤバイな。とりあえず逃げよう。」
「んー、まぁしょうがないか。私は暗示とか苦手だからねぇ。」
そう言うと、私達は飛び上がってその場から退散した。
もちろん男達はそのままそこに放置で。