「しっかしまぁ、なんだろうな一体…。」
いまいち自分の行動に自信が持てない私は、秋葉の部屋へ向かう途中ずっと自分の行動について考えていた。
そうして記憶を何度も整理している内にいつの間にか秋葉の部屋まで着いていた。
コンコン
「どうぞ、開いています。」
中からの返事を確認して、私は部屋のドアを開けた。
「来たぞー、秋葉。話ってなんだ?」
「はい、とりあえずそちらへおかけ下さい。」
「よっ、大将。」
「こんばんはー、志貴ちゃん。」
「志貴さんこんばんは。」
「・・・・・・・(ペコリ)」
「あれっ、翡翠や琥珀さんもいるんだ。」
「はい、とりあえずお茶をお持ちしますのでおかけ下さい。」
琥珀さんにそう促され、私はクッションの上へと座る。
「それで、姉さん。わざわざお呼びしたのは、今日の放課後の事です。」
「あ、あぁ……、そうか、もう耳に入ったのか。」
「はい、ですが、私も詳しい事情を知りませんので、当事者から直に聴くほうが早いと思いまして。」
「はぁ、まぁ言ってもいいけど、あんま秋葉に関係は……。」
その時、ドンッと机を叩く音が響いた。
「何を言ってるんですか兄さんっ!! 生徒会の関係者の事件なんですから、私に関係ないはずがないでしょうっ!!」
「お、おい遠野、落ち着けっ! お前兄さんって言っちゃってるぞ。」
「あ、と、取り乱して申し訳ありません、にい…、姉さん。」
「いや、まぁ秋葉が怒るのもしょうがないかもしれん。確かに秋葉にも関係ある話だな。スマン。」
「い、いえっ! そんな姉さんが謝る事ではありません…。」
そう言うと、秋葉は顔を赤くして俯いてしまう。
「そ、それじゃぁとりあえずお話を伺ってよろしいでしょうか?」
顔を上げ、普段どおりの凛とした表情に戻った秋葉がそう切り出した。
「うん、それじゃぁとりあえず、私は後から遭遇した訳だから、とりあえず二人の話を先に聞いたほうがいいかな。」
「そうですねー、それでは私のほうからお話させて頂きますが、いいですか? 翡翠ちゃん。」
「はい、姉さんのほうからよろしくお願いします。」
翡翠がそう言うと、琥珀さんがその時の状況について話し出した。
「あれはですね、私と翡翠ちゃんが四条さんと教室で作業を終えて寮へ帰ろうとした時でした。
昇降口を出た所で突然囲まれまして、いきなり『貴女達、七夜姉妹よね?』と聞かれたので『はい、そうですが?』
と答えたんです。
そうしましたら校舎の裏まで連れて行かれまして、まぁ簡潔に言いますと『秋葉さまの弱みを教えなさい』と言われたんですよ。
それを何度か拒否しましたら、今度は『志貴さんの弱みを教えなさい』と言われたんですよ。
それでですね、そこからがちょっと問題なんですが…。」
そう言うと、琥珀さんはなにか翡翠と目で会話をしだした。
「なに? 琥珀、その時の状況はきちんと把握しておきたいの。話したくなければしょうがないけど、出来れば話して頂戴。」
「あぁ、その時の状況だったら私も知ってるから私から話すよ。」
「あっ、そ、そうですか…。そうですね、出来れば志貴さんの口から…。」
そう言うと、琥珀さんは何かモゴモゴと押し黙ってしまう。
「うん、そうだなぁ、そこで何で私の名前が出たのか分からないんだけどね、なんていってたっけなぁ…。
確か『噂は本当なのね』とか『姉妹で仲が良い』とか、そんな事いってたっけ…。」
「えっと、志貴さま、それは断片的に捕らえすぎでは…。しょうがないですね、やはり私から話します。
確かにそのような話なのですが、正確には『やっぱり噂は本当だったのかしら? 遠野秋葉とその姉の関係…。
詳しくは知らないけど、どうやら随分と仲がよろしいようね。』と言っていたんですよっ!!」
「なっ!! なによそれはっ!!」
「はい、そうですよねっ!! ですから私と翡翠ちゃんは凄く怒ったんですよっ!!」
そこまで言い切ると、翡翠、琥珀さんは状況を思い出したように顔がみるみる不機嫌になり、秋葉はもう堪忍袋の緒が伸びきっている顔だった。
「そ、それでっ!! その後は?」
「はい、それで私達が怒った後、その囲んでいた方々の一人が私に暴力を振るおうとしたんです。
その時に志貴さんが駆けつけて下さって、その手を受け止めてくれたのですが…。
その彼女は今度は志貴さんに暴力を振るいまして、志貴さんが頬を叩かれてしまったんです。」
「そうだね、それでその現場を見たアルクェイドが出てきて、その生徒達はアルクェイドに捕まったんだ。」
そこまで言うと、秋葉がいきなりスクッと立ち上がる。
「蒼香っ!! 翡翠、琥珀っ!! いくわよっ!!」
「まぁ、しょうがねぇな、今回は付き合うよ。」
「かしこまりました、秋葉さま。」
「さぁ、頑張りましょうねー。」
「がんばってねー、秋葉ちゃん。」
秋葉の一声で、蒼香ちゃん、翡翠、琥珀さんも立ち上がり、扉へと歩いていく。
「ちょ、ちょっと、四人とも? 一体どこに行くのさ?」
「大将、こうなったら遠野は止められないぞ。知ってるだろ?」
蒼香ちゃんにそう言われ、私は急いで秋葉達の後に着いて行く。
「秋葉さま、どちらにいらっしゃるんでしょうか?」
「そうね、あの方達だったら恐らく書記の先輩の部屋でしょう。」
「ちょ、チョット待て秋葉、暴力はいけないぞ、暴力は。」
「姉さん、暴力ではありません。これは制裁です。」
「いや、制裁ってお前…。」
私は秋葉をなんとか止めようと試みるが、ことごとく失敗。
廊下を秋葉が先頭を切って歩いているのでかなり私達は目立っている。
そんな周りの視線を無視して歩きつづけた秋葉は一つの部屋で止まり、ノックもせずにドアを開けた。
「…あら、会長。やはりこちらにいらっしゃったんですか。」
秋葉は笑顔で部屋の中にいる人物に問い掛ける。
部屋の中には顔を引きつらせた生徒が多数いた。
その中には夕方翡翠達に詰め寄っていた子達も何人かいた。
「あら、そちらの方達は、お友達ですか?こんな部屋にこの人数で閉じこもっているなんて、まるで密会でもしているようですね?」
秋葉はそう言うとこちらを向き、翡翠と琥珀さんに目配せをする。
二人が首を降ろすと、秋葉は向こうへ向き直った。
「会長、そちらの方々の中に、私の家族がお世話になった方がいらっしゃるようですが、ご紹介して頂けますか?」
「…………。」
「…そうですか、それではそちらの方々に直接お話を聞かせて頂きます。」
「…な、なんでそんな事…。」
「黙りなさいっ!!」
秋葉がそう一喝すると、その場にいた生徒は全て押し黙った。
「それではお聞きしますが、今日姉さんに暴力を振るった方はこちらにいらっしゃいますか?」
「あ…、秋葉…。」
「申し訳ありません姉さん。いくら姉さんでもこればかりは許せません。
…さぁ、会長。どちらの方なんでしょうか?」
秋葉は私の言葉を途中で静止すると、会長を呼ばれている子に向かってそう言った。
その会長、と呼ばれた子はそこにいる子と何か目配せをすると
「…、こ、この子よ…。」
と、一人の女の子を立ち上がらせた。
確かに、その子は放課後に私を叩いた女の子だった。
「そう、そちらの方なんですか…。少し、歯を食いしばって頂けると痛くありませんから、我慢して頂けます?」
「………。」
秋葉がそう言うと、その子は目を瞑り、歯を食い縛る。
「………。」
秋葉は無言で手を振り上げ、彼女に向かって振り下ろす。
瞬間
バシッ!!
と音がする。
「えっ!!!」
「へ………。」
振り下ろされた手は私の頬に当り、頬に一瞬衝撃が走った。
「ね、姉さんっ!! な、なんで…。」
「秋葉…、暴力はダメだって言っただろう。」
「で、でも…。」
「でもじゃない。お前が今やろうとした事は正しくない。だから私が止めた。」
「で、でも姉さんっ!!」
「そりゃ、秋葉の気持ちは嬉しいけど、これはダメだ。私が許さないから。」
「………。」
私は秋葉にそう言うと、後ろを向いて立っている子に向き直った。
「ね、暴力を振るわれるのは怖かったでしょ。」
笑顔で彼女へそう言うと、その子は座り込んで泣き出してしまった。
思わずその子の頭を撫でながら、私は会長と呼ばれた子に顔を向けた。
「貴女が命令したんですよね? 自分より力の弱い子に向かって。」
そう言いながら彼女を睨む。
会長、と呼ばれる彼女はこちらを見ずに床をじっと見つめている。
「今回は許します。彼女も反省しているようですから。」
そう言うと、さらにきつく私は彼女を睨んだ。
「ですが、今度私達の『家族』に何かしたら、その時は私が許しませんから。」
私はそこまで言うと、扉の前にいる秋葉達を見て、立ち上がる。
「ほら、それじゃぁ帰るぞ。」
「あ、は、はい…、姉さん…。」
「それじゃ、失礼しました…。」
そう言って扉を閉め、私達は無言で秋葉の部屋まで向かった。
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「ほ、ほらみんな、なんでそんなに暗い顔してるんだよ。黙ってても楽しくないぞ?」
あははは、と私は乾いた笑いを浮かべるが、雰囲気が一向に変わる気配が無い。
「…………、翡翠、琥珀、部屋へ戻って頂けるかしら。できれば蒼香も翡翠達と一緒に…。」
「…あ、あぁ、分かった。」
「…かしこまりました。それでは失礼いたします。」
「…おやすみなさいませ、秋葉さま。」
秋葉がそう言うと、三人は廊下へ出て行った。
部屋を出る時にいた羽居ちゃんも今は居ない。
この部屋には私と秋葉の二人だけになった。
「…兄さん。申し訳ありませんでした…。」
「いや、もういいんだよ、秋葉。」
「…良く、良くなんかありませんっ!! 私は私の事で兄さんを傷つけたのが悔しくて、あんな手段で傷つけられたのが悔しくて…。
それでその悔しさをぶつけに行ったらまた兄さんを傷つけてしまって…。」
秋葉はそう言うと、ポロポロと涙を流しだした。
「お、おい秋葉…。」
「兄さんは…、兄さんは優しすぎるんです…。なんであんな事をされたのに怒らないんですか…。
彼女達の事も……、わ、私の事だって……。」
「いいんだよ、そんな事。それに優しくなんかないよ。今もこうやって秋葉を傷つけるような事しかしてないし…。
はは、これじゃ兄貴失格だよな。」
「そんな事、そんな事あるわけないじゃないですかっ!! 失格なのは私のほうです…。自分の身勝手な行動で兄さんを振り回して、心配させて傷つけて…。」
「バカ、そんな訳ないだろう。遠野秋葉は『遠野志貴』にとって唯一の、可愛い妹なんだから。傷ついたなんて思ったりしてないよ。
だからもう泣くな。これ以上泣かれるとこっちが困っちゃうからさ。」
私は笑顔でそう言うと、泣いている秋葉の頭を撫でる。
「…ふ、ふぇ、に、にぃさぁぁん。」
秋葉はそう言うと、私の肩に顔を埋めて堰を切ったように泣き出した。
私は肩に埋めている顔を見ながら、できるだけ優しく秋葉の頭を撫でていた。