「おはよー諸君、今日も一発はじめるぞー。」
「…、アルクェイド、その喋り方はなんだ。」
「あれ、違った? おかしいなー昨日見たビデオにはこうやって…。」
「…、アルクェイド、一体どんなビデオを見てたんでしょうか…。」
「へ? あぁ、実は志貴の部屋のベットの下から…。」
「先生っ!! 早く授業を始めてくださいっ!!」
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…。
私の七夜の血が私にスクランブルをかけた。






「で、どうして自習なんだ? アルクェイド。」
「うーん、他の教師にプリント作ると簡単だって言われたから。」
「なるほど、そうして教科書の問題をそっくりそのままコピーしてプリントにして配った訳ですか。
やる事が雑ですね。本当に荒っぽい。常識というものを知らない貴女らしいですわ。」
「志貴ー、なんか妹怒ってるんだけどなんでー?」
「『なんでー』じゃないだろ。教師のクセにまともに授業せず、しかも私の机にへばりついている奴に対して怒りたく気持ちは判るぞ。」
「その通りです姉さん。だから貴女の事は教師などと認めないと言ったんです。」
「むー、志貴のいじわるー。」
「いじわるしてる訳じゃない。お前がちゃんとしないからだろうが。」
「でもよ、大将。このプリント要点がよくまとまってるぞ。」
「うん、結構わかりやすいよー。」
「なっ、羽居、蒼香、貴女達正気?」
「あぁ、一応正気のつもりだが、お前きちんと目を通したか?」
「うっ、そ、それは当然…。」
「そうか、じゃぁこのプリントがきちんと要点がまとまっているれっきとした課題だと認識している訳だな?」
蒼香ちゃんの見事な誉めっぷりに、私はもう一度プリントを読み直した。
私につられるようにして秋葉もプリントを眺める。
そこには、必要な要点だけをまとめた文章と、教科書から引用してはいるが、その要点に合った問題が並んでいた。
確かに、これはよく出来ていて、教師らしい、いや、今の日本の英語教師では作れないであろう見事な課題プリントだった。

「なっ、こ、これは…。」
秋葉もそれに気付いたのか、目大きく見開いて愕然とした表情を浮かべている。
確かに、普段のアルクェイドがこのプリントを自分で作ったとは到底思えない。

「…なぁ、アルクェイド。」
「んー? なに?」
「お前さ、このプリントどうやって作った?」
「どうやってって、普通に。あ、ちゃんと自分で書いたんだよ。」
確かに、この字はよく見かけるアルクェイドの字だ。
そこで、私は一つ失念していた事に気付いた。

「あぁ、そうか。お前知識だけは持ってるんだもんな。」
「うん。その時代に見合った知識はちゃんと取り揃えるようにしてるから、頭の中に入ってるよ。
だから、ちゃんとこういう事はできるようになってるんだ。」
「そうか…、お前には『経験』が無いだけだもんな。ある意味教師向きかもしれんな、お前。」
「えへへー、志貴に誉められたー。」
そういって、首に腕を回し抱きついてくるアルクェイド。

「っ!! こらっ!! 前言撤回だっ!! こんな事する教師がいるかバカッ!!」
「えー、別にいいじゃん。減るもんじゃないんだしー。」
「バカッ!! そういう問題じゃないだろっ!! ここは教室なんだからみんな…。」
自分の言葉にハッとして、教室を見回す。
一番隅にあるはずの私の席に教室中の視線が集まっている。
中でも秋葉、翡翠、琥珀さんの視線は殺傷能力のある刃となって私に突き刺さる。
隣の秋葉は肩をいからせながら髪をうならせ、翡翠は無表情で睨み、琥珀さんは手に怪しい注射や薬を持って笑顔を浮かべている。
ヤバイ、とてつもなくヤバイ。
だがそんな事を意に介さず、アルクェイドは爆弾を投げつけてきた。

「ねー志貴、今夜の約束忘れないでねー。」

ブチッ

近くでなにかが切れる音がした。
音がした方を向くと、蒼香ちゃんが「私は知らんよ。」と目で私に訴えてきていた。
その手前には、秋葉…。

「や、約束ってどういう事ですか姉さんっ!!」
「ま、待て、秋葉。頼むから少しまっ…。」
「まぁ秋葉さま、志貴さんが辞世の句を読み終わるまで待ってもいいのではないでしょうか?」
「こ、琥珀さん…。」
「姉さん、それはできかねます。恐らく志貴さまは辞世の句を読む理由がお分かりになっていないと思います。」
「ひ、翡翠…。」
「あはー、確かに翡翠ちゃんの言う通りですねー。志貴さんはとんでもない朴念仁ですからねー。」
「はい、志貴さまは愚鈍ですから。」
「そうね、姉さんは事そういう場面では無頓着ですから…。」
「ちょ、ちょっと落ち着いて三人とも…。」
「じゃぁ自習だから、みんな頑張ってねー。」
そういって、アルクェイドは教室から出て行った。

「さぁ、姉さん。約束について詳しくお聞かせ頂けますか?」
「志貴さま、ご無礼をお許しください…。」
「志貴さん、赤と青、どっちがお好みですかー?」
「ひっ、いや、ちょ、まっ…。」
「問答無用ですっ!!」
次の瞬間

「いぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

絶叫が、教室のあるフロア中に轟いた。








「しっかしまー、教室でまさかあそこまでやるとは思わなかったな…。」
「う、そ、それは弁解のしようも無いわ…。」
「秋葉ちゃん達過激だったもんねー。私びっくりしたよー。」
「…二人とも、見てたんだったら助けてよ…。」
「大将、そんな事したら私達の命が無い。」
「三人とも楽しそうだったからさー、止めちゃいけないかなーと思ってー。」
「姉さん、あれは姉さんが悪いんです。蒼香と羽居を責めるのは筋違いですよ。」

今は昼食中、ボロボロになった私は蒼香ちゃんと羽居ちゃんに引きずられてここまで辿り着いた。

「まぁ全てお話になったので、今回の事は大目に見て差し上げましょう、秋葉さま。」
「そうね、初めから正直にお話になってくだされば、わざわざあそこまではしませんでした。」
秋葉はそう言って、プイと顔を背ける。
というか、説明しようにも聞く耳を持たなかったじゃないか、三人とも…。





「はぁ、今日は散々だったな…、授業中に秋葉達はキれるし、昼メシの時も…。」
「姉さん、思っている事を口に出すのは余り得策とは思えませんが?」
今は下校中、いつもの通り寮に向かっている所だ。
そんな中私は思った事を口に出していたらしい。
横から秋葉がジト目で見てくる。

「大将、それって癖か? 授業中とかもよくブツブツいってるよな。」
「あ、それ私も聞いたー。確かさっきは『昼食がなんでこんなに豪華なんだろう』とかいってたよねー。」
「う…、な、なんでだろうねぇ…、あ、はは…。」
こりゃまずい。
私は何かを考えてる事ができないかもしれない。
考えた事が自分の知らない所で筒抜けになっていてはたまらない…。

「それはたまらないでしょう。数少ない姉さんの基本的人権が守られる範囲を自分でぶち壊しにしているんですから。」
「あ、…また、声に出てた?」
「えぇ、それでなければ私が今のような事を口にする理由がありません。」
「いや、ていうかさ、秋葉。」
「はい、なんでしょうか?」
「あの…、私の人権の尊重はそれほど領域侵犯されているのでしょうか…。」
「そうですね、限りなく無いのではないでしょうか? 少なくとも私達の前では、ですけど。」
「…あ、あの、理由を、お聞かせ頂けますでしょうか…。」
どんどんと敬語になってしまう私。
なんていうか…哀しい。

「そうですね、姉さんは監視の目が無いと余りにも利己的な行動に走りますし、第一、あの琥珀が側にいるんですから、
普段の生活の中で見られていない場所はほとんどないのではないでしょうか?
まぁそれも琥珀から私にイロイロと情報が入ってきますから、琥珀に見られている、という事は私に見られている、という事と同意ですね。
まぁそういう事ですから、自由奔放な行動はなるべく謹んで頂ければ幸いです。」
秋葉さん秋葉さん、さらっと凄い事言っていますよ貴女。
ほら、羽居ちゃんや蒼香ちゃんも引いちゃって…。

「確かに、あの琥珀さんならやりかねんな。まぁ大将を見ていれば監視せざるを得ないという気持ちは判る。」
「なんとなく危なっかしいもんねー志貴ちゃんって。」
…君達もですか…。
全く、なにを考えてるんだ秋葉たちは。
そもそも琥珀さんが…。
そう思った所で、琥珀さんと翡翠がいないのに気付いた。

「あれ? 秋葉、琥珀さん達は?」
「あぁ、琥珀と翡翠は校舎に戻っています。なんでも呼び出されたとか…。」
「呼び出されたって、教師に?」
「いえ、クラス委員の…。」
「遠野、クラス委員の四条つかさ、だ。」
「そう、その四条さんが手伝って欲しい事があるとかなんとか…。」
「…遠野、おまえさん名前忘れてたのか…?」
「違うわよ蒼香、私はただ興味が無いので知らなかっただけ。」
「…なおタチ悪いぞお前…。」
秋葉の言葉にハァ、と溜息をこぼす蒼香ちゃん。
それでも凛として表情を崩さない秋葉。
本当に興味が無いんだろうなぁ…。

「あ、そうだ。私も一旦教室戻る。」
私は教室に忘れ物をした事を思い出して秋葉達に告げる。
ちなみに忘れ物とは一枚のプリント。
まぁ明日でもいいのだが、なんとなく翡翠達の様子も見ておきたかったので取りに行く事にした。

「あら、そうですか。 判りました。それでは私達は先に寮へ戻っていますね。」
「あぁ、それじゃぁまた後で。」
「はい、それではまた。」
「また後でな、大将。」
「志貴ちゃんまたねー。」
そう挨拶をして、私は今来た道を逆走した。