「…た、大将…。い、今…。」
「と、遠野、さん…。」
後ろから、二人の声が聞こえてきた。
私は眼鏡をかけて振り返る。

「…ごめん、怖がらせちゃったかな…。」
私は笑顔でそう言って、二人の顔を伺う。
二人は驚きと戸惑いの表情を浮かべていたが、ハッとして立ち上がる。

「い、いやっ!! おまえさんは全然怖くないっ!! だから安心しろ。」
「そ、そうですよっ!! 私達を助けてくれたんですからっ!!」
二人はそう言ってすごい剣幕でこちらへ詰め寄ってくる。

「あ、そ、そうか。よかった、安心した。」
「バ、バカッ!! そんな事気にするんじゃないっ!!」
「そ、そうですよ遠野さんっ!!」
「うん、あ、ありがとう。」
あまりの二人の剣幕に、驚いて返事をしてしまう。

クイッと服の袖を引っ張られる感触を覚え、振り返るとレンがこちらを見ていた。

「レン。ありがとう、二人の側で待っててくれたんだね。」
「・・・・・・(コク)」
レンがそう頷き、私はレンの頭を撫でた。

「しかしなぁ、大将…。」
「ん? なに? 蒼香ちゃん。」
「いや、あのさ、ちょっとやり過ぎたんじゃねぇかなって…。」
蒼香ちゃんの視線の先を見ると、キレイに斬れている木と、その側で失神している男がいた。

「…あぁ、ちょっと驚かせようと思ったんだけど…、やっぱやりすぎかな。」
「いや、まぁそうなんだけどな。でもあの野郎達には良い薬だったんじゃねぇか?
少なくともここら辺にはもうこねぇだろ。」
そう言うと、蒼香ちゃんはこちらへ向き直りにっこり笑った。

「と、遠野さん…、木が倒れたのってやっぱり…。」
そう言うと、晶ちゃんは蒼香ちゃんに聴こえないように言い、心配そうな顔をして私を見る。

「うん、まぁそうなんだけど、大丈夫。身体に負担は全然かかってないから。」
「そ、そうですか。よかった。」
「うん、心配してくれてありがと。」
私はホッと安堵した晶ちゃんの頭を撫でた。

「そうだ、大将。あの木を斬ったのはお前さんなのか?」
怪訝な表情で私を見る蒼香ちゃん。
私がどう答えようか考えていると

「あ、と、遠野さん、あれはあの木が勝手に倒れたんですよね?」
と、晶ちゃんがムリヤリなフォローを入れてくる。
「そうなのか? 大将。」
さらに怪訝な表情をして私を見る蒼香ちゃん。

「…晶ちゃん、ありがとう。でも、私は嘘つきたくないかな。」
「あ、す、すいません…。」
そう言って謝る晶ちゃんの頭をまた撫でる。

「…なんだ、晶はなにか知ってるのか?」
「…うん、まぁ一応話すよ、多分信じられないと思うけど…。」
「あ、あぁ。一応教えてくれよ。」
「うん、判った。じゃぁとりあえず…、コンビニまでいこうか。」
そう言って、私はレンの手を取り当初の目的だったコンビニまで歩いた。
歩き出す私の後ろを二人が付いてくる気配を感じた。




「…で、なんでお前がここにいるんだ、アルクェイド。」
「えー、別にいいじゃんいたって。」
「大将…、なんか余り驚いてないよな。」
「あぁ、こいつの行動はいつも突然だから、こんぐらいでは驚かなくなっちゃってさ…。」
「えっと…、新任の先生ですよね…。」
「うん、そうだよー。よろしくねー。」
そう言ってアルクェイドは笑顔で晶ちゃんに答える。

____はぁ、なんでこうなったんだろ…。


コンビニで自分達のジュースを買って、前のベンチへ三人で腰かけてから、私は蒼香ちゃんに説明をした。
もちろん遠野家の事や、アルクェイド、弓塚の話はしないで、私の『直死の魔眼』の事だけ。
蒼香ちゃんは驚いて聞いていたが、一通り説明し終わると「大将が女になってなかったら信じられなかったな。」と笑顔で答える。
その後で晶ちゃんがどうして知っていたか、という話になって、晶ちゃんは自分の能力___『未来視』について説明した。
その後で『幻視同盟』の一連の騒動の話を説明する。
そうして30分ほどで両方の説明を終えた所で、突然アルクェイドがコンビニへ来たという訳だ。

「…それで、なんでお前はここにいるんだって。」
「むー、わたしがいちゃいけないの?」
「いや、別にいけないわけじゃないんだが、お前が夜出歩いてるとロクな事がないからな。」
「なんかひどい事いってない? 志貴。」
「いや、至極真っ当な事を言ってるぞ、私は。」
「うーん、そっか。志貴が言うならそうなんだねー。」
えへへーと笑いながら頷くアルクェイド。
ちなみに今は蒼香ちゃん、晶ちゃんが右に座り、左にアルクェイド、膝にはレンという『周りに花束』状態である。

「で、いいから。早くなんで表にいるのかを説明しろ。」
「えっとね、部屋でのんびりしてたら魔術の気配がしたんだよ、さっき。それで表に出て気配を辿ってたら志貴がいたの。
志貴、もしかして魔眼使ったでしょ?」
「あ、あぁ、さっきちょっとだけ使った。」
「あー、やっぱり。じゃぁさっきの気配は志貴だったんだね。
私はてっきりシエルかブルーでも来たのかと思ったよ。
かなり強い魔術の気配だったから、もしかしたら『死徒』かもとか…。」
「あ、バカっ!! ここでそんな事は…。」
そういって無理やりアルクェイドの口を塞ぐ。
アルクェイドはちょっとムッとしたが、なぜか大人しくなった。

「なぁ大将、そっちの先生も大将の目の事知ってるのか…?」
蒼香ちゃんが当然の事を聞いてくる。

「う、知ってるよー。だって志貴に魔眼の事教えたのは私だもん。」
いつの間にか私の手から逃れたアルクェイドが正直に話す。

「へぇ…、そういや先生、さっき魔術がどうとか言ってたけど、あんたも魔法使いかなんかなのかい?」
「ん? あんな変な奴等と一緒にしないでよ。私はし…。」
そこまで言いかけたアルクェイドの口を急いで塞ぐ。

「そうそう!! 実はこいつも超能力者なんだけど、こいつの場合は体がちょっと頑丈になるっていう力なんだ。」
「んーっ!! んーっ!!」
「うるさいっ!! ちょっと静かにしろっ!!」
いきなり口を塞がれ驚いたアルクェイドが騒ぐが、私の一言でまた静かになった。
嘘はなるべくつきたくないんだが、アルクェイドの事だから正直に『私は吸血鬼のお姫様』なんて言い換ねない。
ここは無難な嘘をついておくに限る。
そう思い、私は蒼香ちゃんに嘘をついた。

「へぇ…、『類は友を呼ぶ』ってやつか…。」
そう呟いてこちらを見る蒼香ちゃん。
アルクェイドと一緒にされたくはないんだが、確かに私の周りは私を含め非現実的な人間ばかりだ…。

「なるほどねぇ…、そうか、じゃぁそっちのレンって子もそうなんだな。
確か一昨日の黒猫もレンだったから、多分その子は変身するんだろう。」
ただの直感なんだろうけど、もの凄く当たっているだけに焦ってしまう私。
その時レンの正体を知る晶ちゃんがフォローに入る。

「あ、そ、そんな訳ないですよねー、志貴さん。」
「そ、そうだよ蒼香ちゃん。さすがにそれは人間じゃないじゃん…。」
「ふーん、そうか。まぁそりゃそうだな。じゃぁその子、どこから連れてきたんだ?」
またしても壷を付く質問をする蒼香ちゃん。

「いや、こ、この子はアルクェイドと一緒に住んでるんだよ。
この子はアルクェイドの妹みたいなもんだからさ、あ? アルクェイド」
私はそう言うと目でアルクェイドに訴え、アルクェイドを頷かせた。
もちろん未だ口は私が塞いだままだ。
ちょっと不機嫌になってきている。

「あぁ、なるほどな。そういう事か。」
「そ、そうだったんですかー。へー。」
そう言って納得する蒼香ちゃんと、話を合わせてくれる晶ちゃん。
二人に私は心の中で謝った。
と、その時。

ギュッと手を抓られた。

「いたっ!! なにすんだよお前っ!!」
「なによ!! いつまでも口を塞ぐ志貴が悪いんでしょ!!」
「う、あ、そうか。すまん、つい忘れてた。」
「ふん! 志貴のいじわる。」
そういって拗ねるアルクェイド。
そんな顔も可愛いとか心の中で思ってしまい、一瞬ぼーっとしてしまった。

「あ、あぁ。本当にごめん、アルクェイド。」
「んー、どうしよっかなぁ。志貴が謝ってくれるのなんて珍しいから、許そうかなぁ。」
「あぁ、頼む、この通りだ。許してくれ。」
「むー、なんか口調に気持ちが込もってないなー。」
「いや、そんな事はないぞ、全然。」
「んー、じゃぁ許してあげる。けど明日の夜に待ちあわせね。」
「いや、待ちあわせって、なに?」
「んー、明日の夜12時にここで待ちあわせ。それで許してあげる。」
「はぁ…、判った判った。待ちあわせしてやるから許してくれ。」
「うん! それじゃぁ許してあげる。」
そう言うとにっこり笑って隣に座っていたアルクェイドが席を立つ。

「…帰るのか?」
「うん。志貴と約束したし、明日学校でまた逢えるしね。」
「そうか、わかった。おやすみアルクェイド。」
「うん、またねー志貴。あ、レンおいでー。」
アルクェイドがそう言うと、レンが膝から降りてアルクェイドへ寄っていく。
どうやら二人とも『一緒に住んでいる』という事にしたのを判ってくれていたようだ。
二人はテクテク歩いて家があるであろう方向へ消えていった。


「それじゃぁ、私達も寮に帰ろうか。」
「あぁ、そうだな。もう夜遅いしな。」
「はい、それじゃぁいきましょう。」
私達三人はそう言って立ち上がり、寮への道程を歩いていった。