「それじゃ、そろそろ戻ろうか、レン。」
「・・・・・・・」
寮を抜け出して『日課』を終えた私達は、寮へ戻ろうとしていた。

「・・・・・・」
「ん? レン、喉渇いたのか? 」
「・・・・・・・・」
「んー、そっか。それじゃぁコンビニいってから帰ろうか。」
レンが好きなミルクを求めに、私達は手を繋いでコンビニへと向かった。


裏の林を抜けて一般道へ出て数分歩くと、そこにはコンビニがある。
私達は手を繋ぎながらそこへ目指して歩いていた。

「・・・・・っ!! ・・・!! 」
「・・・・ぁ・・!! ・・・・っ」
「ん? なんか揉めてるみたい…。」
コンビニまでもう少しの所で、先になにやら騒がしい一団がいる事に気付いた。

「・・・けって・・っ!! ・・・・だろっ!!」
「あぁっ!! ・・・ですか・・・パイっ!!」
「あれ、蒼香ちゃんと晶ちゃん?」
そのまま近づいていると、そこで揉めている一団の中心に部屋にいなかった晶ちゃんと蒼香ちゃんがいる事に気づいた。

「私達はあんたらに付き合う暇はねぇんだよっ!!」
「で、ですからどいて頂けませんか…。」
「ダ〜メ。付き合ってくれるまでここは通しませ〜ん。」
「いいじゃ〜ん、ちょっとドライブに付き合うぐらいさ〜。」
「そ〜そ〜、ちょっとだけでいいんだよ、ちょっとだけ。」
蒼香ちゃんと晶ちゃんは、どうやらナンパをされているようだ。
確かに控えめに見ても二人は可愛い。
ナンパしたくなる気持ちは判るような気もする。
だか、嫌がっている女の子二人を男が5人も集まって取り囲むのはよくない。
私は目の前の光景に我慢できずに声をかけた。

「蒼香ちゃん、晶ちゃん。大丈夫?」
「えっ? あっ、大将。」
「あっ、と、遠野さん…。」
「ん〜? この子達のお友達かな〜?」
二人が返事をすると、周りを取り囲んでいた男達もこちらを向き、ヘラヘラを笑顔を浮かべる。

「た、大将、私達に構わなくても大丈夫だ。」
「いや、そうもいかないでしょ、困ってるみたいだし。」
「で、でも遠野さん…。」
「まぁまぁ君達、折角お友達がきてくれたんだから、仲良くみんなで遊ぼうぜ〜。」
「へへへ、そうそう、夜は長いんだからさ〜。」
下品な笑顔を浮かべて男達が二人へ話す。
どうやら私もナンパの対象として認識されたようだが、嬉しくない。
そう思いながら私はレンと二人で晶ちゃん達のすぐ隣まで歩いた。

「ば、バカ、大将っ! 大丈夫だっていってんのになんでくるんだよっ!!」
「でもねぇ、やっぱり困ってるみたいだし…。」
「と、遠野さん、それは嬉しいんですけど、その…。」
晶ちゃんは私の横で手を繋いでいるレンに目を留めた。

「あぁ、レンの事なら大丈夫だよ。心配しないで。」
「え、あ、はい…。」
「え、レンって猫の名前じゃなかったか…?」
蒼香ちゃんがそんな疑問を口にした時

「おいおい、こっちを無視して喋ってんじゃねぇよ。」
「どうでもいいから早くいこうぜ、ドライブによ。」
そういいながら、一人の男が私の肩へ手を伸ばす。

「いかねぇっつってだろうがこのバカどもがっ!!」
蒼香ちゃんがそう言いながら一歩前へ出て、私へ手を伸ばす男の脇腹に蹴りを見舞う。
男は一瞬「ぐっ…」とうめくが、いかんせん蒼香ちゃんは女の子。
男の身体は多少よろめきはいたものの、蒼香ちゃんの蹴りは、男の頭に血を昇らせただけだった。

「ってぇなこのクソガキっ!!」
「っきゃぁっ!!」
「セ、センパイっ!!」
「そ、蒼香ちゃんっ!!」
男は蒼香ちゃんに平手をかました。
蒼香ちゃんは隣にいる晶ちゃんを気にして避けられず、後ろへ倒れるしかなかった。
晶ちゃんは平手を受けて倒れる蒼香ちゃんへ近づく。
まさか力で訴えてくるとは思わなかった私は、悔しいかな庇う事ができなかった。

その光景を見た瞬間、私は男達への認識を改める事にした。

カチリ

頭の中で回線を繋ぎ合わせる。


「…レン、蒼香ちゃんの所へいっといて。」
「・・・・・(コク)」
「っつー、だ、大丈夫だよ私は。」
「あぁ、蒼香先輩、口から血が…。」
「だ、大丈夫だってアキラ。ちょっと口切っただけだから。」
「…レン、ちょっと蒼香ちゃん達を下がらせて。」
「・・・・・(コク)」
私の言葉に頷き、レンは晶ちゃん達の手を引いて後ろへ下がらせる。

「ったくよ〜、暴力はいけないんじゃないのか〜? お嬢様のクセによ〜。」
「そっちがその気だったらこっちもそうしてヤンよ。」
男達はそう言ってニヤニヤしながら私達へ近づいてくる。


「・・・・・うるせぇよクソ野郎。」
私がそう言うと、男たちは顔色を変え、あからさまな怒りをぶつけてきた。

「なんだとこのクソガキャ…、ナメてんじゃねぇぞ。」
「お嬢様がそんな口の聞き方しちゃいけねぇだろ。お兄さん達がオシオキしてやるよ。」
「・・・・・・・・やってみろよ。」
「っ!! このクソアマがぁっ!!」
私の言葉が癇に障ったらしい男が殴りかかってくる。

私はそれを避け、右手で伸びている男の右手を掴み腕を引く
男の身体が右へ傾いた所で重心の乗っている右足を払い、そのまま投げる。
男はその場で回転し、仰向けに落下した所で鳩尾に蹴りを入れる。

「ぐぇっ!!」
男は蛙のようなうめき声を上げ、気絶した。

「・・・・・どうした、こねぇのかクソ野郎ども。」
私はただ驚いているバカどもを見据えて睨んだ。
戦いにおいて、目の前で圧倒的な実力差を見せられた者は、普通そのまま逃げる。
それは、今までの私の経験による考えだ。
だが、私を『女』だからと軽くみている男達はそんな事はしない。
だからバカなのだ。

「っ!! 調子こんてんじゃねぇぞコラァ!!」
「男四人に勝てると思ってんのかヴォケっ!!」
「痛い目合わせてヤンよ!!」
そう好き勝手鳴きながら、男達は一斉にかかってきた。

「…。」
私はそれに返事もせず、向かってくる男達へ自ら近づいた。

一人目は前蹴りを仕掛けてきたので蹴り足を手で払い、腹を蹴った。
二人目は殴りかかってきたので懐へ入り鳩尾へ肘を入れた。
三人目は掴みかかってきたので身体を沈めて手をかわし、右手で顎を突き上げた。

一瞬で三人を昏倒させた所で、最後の一人を見据える。

「…まだやるのか?」
「っヒッ!!」
男は後ろへ下がり、ズボンのポケットからナイフを取り出す。

「…へ、へ。て、て、てめぇが悪いんだよっ!!」
「・・・・・・」
男はナイフを前へ突き出し、こちらを威嚇するマネをしている。

「…バカが。」
ぼそりと呟き、私はナイフを構えた男へ近づく。

「く、く、くるんじゃねぇよこのガキィ!!」
「・・・・・・・」
後ろへ一歩下がる男の言葉を無視し、男の目前に立つ。

「…おい、刺してみろよ。」
「あ…、こ、このっ!! ナ、ナメてんじゃねぇぞこのガキ!!」
「…いいから、刺してみろっていってんだよこのバカが。」
「ヒッ!! う、うわぁっ!!」
男は狂ったように叫びながらナイフを私に突き出す。
私はそのナイフをかわさずに前へ踏み込み、男の手を払い、ナイフを弾く。

「っ!! ヒィィっ!!」
ナイフを弾かれた男は後ろへ下がり、ただ脅える。

「バカが、お前は殺す気だったんじゃないのか?」
私はそう言いながら、手をポケットの中に入れ『七夜』を取り出す。
刃を出し、逆手に持つ。

「っっ!! ヒ、ヒィィっ!!」
男は座り込み、こちらを見ながら後ろへガサガサを這い、道の端まで行って背中を木にぶつける。
そんな男の前に歩み寄り、眼鏡を外す。

「おい、良い事教えてやろう。これが『殺す』という事だ。」
「っ!!! あ、ああああああっ!!」
ナイフを構え、私は男の後ろへある木の『線』を『視て』、ナイフを振るう。
ナイフは男の顔のすぐ側を走り、木の『線』を引く。
次の瞬間、木が音を立てて後ろへ倒れる。

「あ、あ、あぁぁぁ。」
男は私の顔を見ながら失神し、失禁していた。

「…折角『殺す』という事を教えてやったのに、とことんバカだな。」
そう言いながらナイフをしまう。