「志貴ちゃ〜ん、まって〜。」
6人で下校途中、昼食以来逢っていなかった弓塚が後ろから声をかけてきた。

「先輩、こんにちは。」
「はい、秋葉さんこんにちはです。」
「弓塚さん、わざわざ走ってらっしゃらなくてもー。」
「いえっ、その…、志貴ちゃんと一緒に下校したかったし…。」
「大将、愛されてるな。」
「志貴ちゃん先輩にも手を出してるんだー。」
弓塚の発言を受けて、それぞれ私をジト目で睨んでくる。

「…、羽居ちゃん、とりあえずその『も』ってなんでしょうか…。」
「えー、そのままの意味だよー。」
「いや、それが間違ってるんですけど…。」
「えー、なんでー? 」
「無駄よ、羽居。姉さんはそんな事言っても判らないわ。」
「そうですよ、なんてったって『朴念仁』ですからー。」
笑顔で素敵な事を言ってくる琥珀さん。
横に並ぶ翡翠は。

「志貴さまは愚鈍ですから。」
と、ストレートな追い討ちをかける。

「いやっ、べ、別に愛とかそういうんじゃなくて…。」
顔を赤くして俯く弓塚に
「あら、そうでしたか、先輩。これは失礼いたしました。
ただ、先輩の言動などでそう思っただけですので、勘違いなら結構です。」
と、ちょっとキツめに言う秋葉。
何となくお嬢様が混じっている。

「ど、どういうことかな〜? 秋葉ちゃん…。」
その言葉に笑顔で返す弓塚、ちょっと表情が硬い。

「いえ、言葉通りの意味ですわ。気に障ったのなら謝ります。」
またもやキツめに言う秋葉。ちょっと目が怖いかも…。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
お互い動かず睨み合う。
私の目には彼女達の後ろで威嚇しあっているハブとマングースが見えた。

「ま、まぁまぁ二人とも。なんでいがみ合ってるのかわかんないけど落ち着いて。」
「志貴さん、別にそんな事ないよ〜。ね?『妹』さん。」
「そ、そうですよ姉さん。別に仲が悪い訳ではありません。
そうでしょう?『先輩』」
「うん、そうそう。」
間に入った私を挟み、弓塚と秋葉が笑顔で語り合う。
その笑顔はどことなくぎこちない。
そんななんとなく緊迫する空気を切り裂く声が背後から上がった。

「しーきー。まってー。おいてくなー。」
昼食で私が叩かれる原因となった金髪だった。

「秋葉さま。」
「秋葉さま、やりますか? 」
「当然よ、翡翠っ!! 琥珀っ!! 」
「「かしこまりました。」」
秋葉が合図をすると、アルクェイドの行く手を立ち塞ぐように翡翠と琥珀さんが動く。
翡翠の手にはフライパン。琥珀さんの手には注射器が握られている。

「アルクェイドさま、ここはお通しできません。」
「アルクェイドさん、少々我慢してくださいねー。」
「む、なによ貴方達、私の邪魔する気? 」
三人が臨戦態勢に入る。
場はまたもや緊迫した。

「ふん、姉さんには近づかせないわよこのあーぱー女。」
「むー、妹の差し金かー。二人ともそれでいいの? 」
「はい、目的は同じですから。」
「ここは共同戦線を張ると言う事ですよー。」
「ま、まぁまぁ落ち着いて…。」
「姉さんは黙っていてくださいっ!! 」
「…うぃ。」
秋葉たちの気迫に押され、私は黙るしかなかった。

「そう…、それじゃぁしょうがないわね…。」
そういうと、不敵な笑みを浮かべたアルクェイドが、目でなにかを訴えた。

「さっちんっ!! 」
「あっ!! 三澤さん月姫さんっ!! あそこに鹿がっ!! 」
「へっ? どこだ? 」
「えー、どこどこー? 」
「うわっ…!! 」
蒼香ちゃんと羽居ちゃんが指差された方向を見ている間に、
弓塚はがっしりと私を抱えて飛び上がり、琥珀さんと翡翠の頭を超えてアルクェイドの側へ降り立った。

「なっ…!! 」
「…やられました。」
「あらー、思わぬ伏兵ですねー。」
「ふふふ、甘いわよ妹。」
唖然とする三人に、してやったりのアルクェイド。
私は未だ弓塚に抱えられたままだ。

「くっ、なかなか姑息になりましたね、アルクェイドさん。」
「別にそんなんじゃないわよ。ただ私とさっちんは友達だもん。」
「琥珀さん翡翠ちゃんごめんね〜。」
自分の前にいる琥珀さんと翡翠に謝る弓塚。
秋葉には悪いと思っていないようなので謝らない。
それにしても…。

「あの…弓塚? 」
「ん? なに〜? 志貴ちゃん。」
「…そろそろ降ろして頂けませんかね? 」
私は未だ弓塚の胸元で抱きかかえられたままだった。

「先輩、騙したんだな…。」
「弓塚さんひどいよー。」
鹿がいる、と騙された二人は後ろでそう呟く。
一方の弓塚は

「・・・・・・・・・」
なぜか抱いている私を見て固まっている。

「さっちん? どうかした? 」
その様子を不信に思ったアルクェイドは弓塚に声をかける。
が、次の瞬間

「・・・・・・アルクェイドさん、ごめんっ!! 」
「えっ? なに? さっちん。」
そう言うと弓塚は、私を抱えたまま道を外れた林にもの凄いスピードで突っ込む。

「うわっ!! 弓塚っ!! ちょ、ちょっとっ!! 」
「志貴ちゃん、もうちょっと我慢しててねっ!! 」
「にゃにぃ〜!! ちょっと、さっちんまて〜っ!! 」
「なっ!! ちょっとまちなさい、この泥棒猫っ!! 」
余りの突然の行動に、アルクェイド達は私を抱えた弓塚を見失った。







「ちょ、ちょっと弓塚。」
「ん? なに? 志貴くん。」
「あの、そろそろ降ろして…。」
「あ、そ、そうだね〜。ごめんごめん。」
林を激走していた弓塚は足を止め、私を降ろした。
後ろには追っ手は着ていないが、アルクェイドにバレるのは時間の問題だろう。

「まぁ、別にいいけどさ…。こんな所来てどうするの? 」
「う〜ん、どうしよっか? 考えてないや。」
えへへ〜、とにっこり笑う弓塚。
それがいかにも彼女らしくて、思わず顔が綻んでしまう。
周りをよく見ると、ここは寮の裏にある林だった。

「そうだなぁ、今寮に帰ってもあれだから、ちょっとこの先にあるコンビニでもいこうか? 」
「え? あ、そういえばここそうだね。うん、丁度喉渇いたし、いこうか。」
そう言うと、弓塚は「ちょっとまってね。」と言って手を横に薙いだ。
すると弓塚の手から鹿が飛び出してきた。

「うわっ!! 弓塚、これって『ネロ・カオス』の…。」
「うん、この子は『エト君』って言うんだよ。」
そういって、弓塚は出てきた大きな鹿に跨る。

「ほら、志貴くんも乗っていいよ。」
「はぁ、まぁ、じゃぁ乗るよ。」
そういって、私もエトに跨った。

「でもこれ、弓塚の身体の…。」
「うん、私の身体に混ざってる『混沌』がね、『ロア』の知識である程度使えるようになったんだ〜。」
「へぇ、そうだったんだ。でも身体に異常はないの? 」
「うん、大丈夫。私の身体に『混沌』は混ざってるから、身体から出したんじゃなくって『混沌』から出したの。」
「んー、よく判んないけど大丈夫だったらいいや。」
「うん、じゃぁいくよ。エト君、ゆっくり歩いてね〜。」
そう弓塚がエトに向かって話し掛けると、エトはゆっくりと林の中を闊歩しだした。