_____あれ、額が冷たくて気持ちいい…。


__________なんだろう、これ…。



「…ん、志貴さん、お目覚めですか? 」




目を開けると、そこは私の部屋だった。

「あ…、琥珀、さん? 」
「はい、琥珀ですよ。志貴さん、具合のほうはどうですか? 」
私を起こしてくれた琥珀さんを目に留め、上半身を起こそうとした。

ズキッ

頭に鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめる。

「志貴さん、ダメですよいきなり起きては。もう少し横になっていて下さい。」
「…、うん、判った。ごめんね琥珀さん。」
「なにを言ってるんですか。志貴さんの看病はもう慣れっこですよー。」
「はは、そうだったね。それじゃぁ、もうちょっと甘えさせて貰うよ。」
「はい、じゃんじゃん甘えてくださって結構です。」
琥珀さんは安堵したような笑みで、私の額に置いてあるタオルを取る。

「あ、そういえば琥珀さん。」
「はい、なんでしょうか? 」
「えっと、ここ、私の部屋だよね? 」
「はい、そうですよ? 」
「…、あの、どうしてこういう状況に…。」
「あぁ、それはですねー、実は志貴さんは…。」
琥珀さんが説明を始めようとした時。

コンコン、ガチャ

「失礼いたします。」
翡翠が部屋へと入ってきた。

「志貴さま、お目覚めになりましたか。おはようございます。」
起きている私に目を留め、安堵したのか、翡翠はいつも通りだが、優しい笑顔を向けて挨拶をした。

「うん、おはよう翡翠。なんかまた心配かけちゃったみたいだね。」
「いえ、志貴さま。その様な事お気になさらないでください。」
「その通りです、志貴さん。でもまぁ、今回は翡翠ちゃんも相当心配していましたから、ちょっとは気にしてくださいねー。」
「ねっ、姉さんっ!! 」
「あらら、翡翠ちゃんに怒られちゃいましたー。」
あははー、と笑いながら琥珀さんが冷や汗を垂らす。

「そ、そういう姉さんだって、き、昨日は随分と…。」
「あ、わ、ひ、翡翠ちゃ、お姉ちゃんが悪かったから、言わないでー。」
「いえ、そうはいきません。志貴さま、昨日は姉さんも随分と心配していましたので、私に気をかけて頂けるなら、
姉さんにも気をかけて下さい。」
真っ赤な顔をして俯く琥珀さんと、同じく真っ赤な顔をして私に告げる翡翠。

「うん…、判ってる。心配かけてごめんね、二人とも。ありがとう。」
「いえ…、そんな事は…。」
「あ…、はい…。」
私が笑顔で答えると、二人はそのまま俯いて黙ってしまう。

「え…と、翡翠、なにか用があったんじゃないの? 」
「あ…、はい、そうでした。」
俯いていた翡翠が、ハッとして顔を上げる。

「志貴さま、ご面会の方がいらっしゃっています。」
「ご面会? …まぁいいや、誰? 」
「はい、それではお通しします。」
翡翠が「どうぞ」と扉を開け声をかけると、二人が入ってきた。

「あれ…? 蒼香ちゃんと羽居ちゃん? 」
「あ、あぁ、お、おはよう大将。」
「志貴ちゃんおはようー。よかったー。」
入ってきた二人は、私の顔を見ると同じく安堵して、挨拶を交わす。

「うん、おはよう。でもなんで二人が…。」
「ごめんっ!! 大将っ!! 昨日は調子にのっちまった。」
「ごめんねー、志貴ちゃん。私達が悪かったよー。」
顔の前でパンッ、と手を合わせて二人が謝る。

「えっと、昨日って…。」
未だ寝ぼけているのか、私は二人の言ってる事が判らない。

「えっと、それは、その…。」
「えとねー、昨日お風呂場で志貴ちゃ…。」
「ばかっ!! そんな事大声で言うんじゃないっ!! 」
思わず羽居ちゃんの口を塞ぐ蒼香ちゃん。

「昨日…、お風呂場…? …あ。」
一瞬の間の後、私は浴場での自分の痴態を思い出し、赤面してしまう。

「あ、あの、そういう訳だから…、ごめん。」
「うん、ごめんねー、志貴ちゃん。」
また顔の前で手を合わせ私に謝ってくる二人。

「昨日お二人が私達の部屋で志貴さんを抱えてきたんですよー。志貴さんが裸のまま。」
琥珀さんの言葉に想像を巡らせる。
浴場で倒れた私、頭を足を持って運ぶ二人、私は裸のままで琥珀さん達の部屋へ…。

「なっ!! そ、それは…。」
途中まで想像した所で、さらに顔を赤くしてしまう。

「あ、そ、それで…、この事は秋葉には…。」
「はい、大丈夫ですよ。『浴場で貧血になって倒れた』と説明しておきましたので。」
「あ、そうですか…。」
ホッとして胸を撫で下ろす。

「ですが、お二人には反省の意を込めて部屋で反省文を書いて頂きました。」
「は、反省文…? 」
「はい、反省文です。」
翡翠はその言葉と同時に、原稿用紙の束をこちらに差し出した。
内容を見ると

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
『反省してます反省してます反省してます』
と、同じ言葉が原稿用紙を埋め尽くしていた。

「…、二人とも、寝てないんじゃ…。」
「う、ま、まぁな…。」
「うん、ちょっとねむいよー。」
「あはー、志貴さんにイタズラしたおしおきですよー。」
横にいる琥珀さんが不気味な笑顔を二人に向ける。

「う、は、はい。…は、反省してます。」
「うんー、もう二度としませんー。」
揃って琥珀さんへ頭を下げる二人。
琥珀さんに知られたのが二人の不幸の始まりかもしれない。

「そういえば、今は何時…。」
ベットの脇にある時計を見ると、時刻は6時をちょっと過ぎたあたりだった。

「もうそろそろ朝食の時間ですが、いかが致しますか? 」
翡翠が少し心配そうな声で私に聞く。

「うん…、よっと、もう大丈夫、一緒に食堂に行くよ。」
そう言って起きて、両腕で力こぶを作るマネをする。

「はい、それでしたら私達も一旦お部屋へ戻りますねー。」
「それでは、失礼いたします。」
「それじゃぁ大将、また後で…。」
「またねー志貴ちゃん。」
四人ともそれぞれ挨拶をして、廊下へ出る。
それと入れ替わりで、晶ちゃんと弓塚が部屋へ入ってきた。

「志貴ちゃん、おはよう〜。具合はどう〜? 」
「あ、遠野さんおはようございます。」
「うん、おはよう晶ちゃん、弓塚。」
「よかった、体調はなんともないみたいですね。」
「はは、心配かけてごめん。」
「私は志貴ちゃんの貧血は見慣れてるから大丈夫だけどね〜。」
「そっか、弓塚はそうだよな。」
「うん、それでも、多少は心配しちゃったけど…。」
赤い顔をして返事をする弓塚。

「うん、そっか、ありがとう。心配かけてごめんね。」
「う、ううん、気にしないでいいよ。」
「はい、そんなに気にしないでください。」
二人してはにかんだ笑顔を浮かべる。

「じゃぁ遠野さん、そろそろ食事なんで着替えたほうがいいですよ。」
「うん、私達はもういつでもいけるから、晶ちゃんと二人で待ってるね。」
「了解。それじゃぁカーテン閉めるね。」
ベットから降りてカーテンを閉め、クローゼットの前で着替えをはじめた。