「じゃぁ晶ちゃん、私お風呂入ってくるから。」
「あ、はーい、いってらっしゃい、遠野さん。」
そうして、私は浴場へと向かった。




「ふぅ〜、ここが一番落ち着くんだな〜…。」
湯船に浸かり、独り言を言う。
今この浴場にいるのは私だけだ。
この寮には浴場が3つある。一応学年ごとに時間帯が区切られているんだが、実質高等部の生徒は自由時間の間はいつでも入る事ができる。
私は、女の子になってまだ今日を入れて三日程しか経っていないので、女の子の裸を見るのに慣れていない。
当然、自分の身体でもだ。
そうなると、やはり他の生徒と一緒にお風呂に入る訳にもいかず、自由時間終了ギリギリまで待たなくてはいけなくなる。
少ない自由時間を満喫したい生徒は、我先にと入浴を済ませ、部屋でお茶会を始めるそうだ。
秋葉達もそれに漏れず、基本的にご飯を食べたらすぐ入浴、という行動を取っている。
昨日は「折角ですから一緒に入りますか? 」なんて不気味な笑顔で琥珀さんに誘われたが、もちろん拒否した。
それこそ、なにされるかわかんないから…。

「…秋葉も、琥珀さんと一緒になって言ってたよなぁ、そういえば…。」
あの二人の笑顔は、多分お風呂に入る度、思い出すかもしれない。

「でも、こっちから誘えば恥かしがって…。」
ダメだ。琥珀さんの事だから本当に一緒に入りかねない…。

「はぁ、まぁいいや…。」
とりあえず、ゆっくりと疲れを取ろう。

ガラガラガラ

突然、更衣室から浴場へ続く引き戸が開いた。
ここは、3つの浴場の中でも位置的に不便で、人が普段訪れにくく、人数もそこまで入れない浴場で、
一人で入るならオススメだと蒼香ちゃんに言われ…。

「おっ、なんだ、遠野か。」
…納得。
入ってきたのは教えてくれた本人の蒼香ちゃんだった。

「う、うん…。こんばんは、蒼香ちゃん。」
私は首まで湯船に浸かり、蒼香ちゃんに挨拶をした。


「へぇ、やっぱ他の生徒と一緒に入るのは恥かしいか。」
「そ、そりゃそうだよ…。だって私は元々男なんだし…。」
「…、お前さん、『私』っていうの似合うな。」
「あ、だってこれ、秋葉が『言わないと相応の処罰を』とか言って脅すからさ…。」
「ほう、さすが遠野。やる事が過激だね。でもまぁ、今のあんたには似合ってるからいいんじゃないかな。」
私の隣で湯船に浸かり、蒼香ちゃんが話し掛ける。

「そういえばさ、蒼香ちゃん。」
「ん? なんだ遠野。」
「えっと、その呼び方さ、なんとかなんないかな…。」
「へ? だってお前さん、『遠野』だろ。」
「いや、そうなんだけどね、蒼香ちゃんが『遠野』って言うと、なんか秋葉の事だと思っちゃってね。」
「あぁそっか、そうだな、私も使い分けせんといかんな、これからは。」
「うん。だから、『遠野』っていうのは秋葉で、私は他の呼び方してくれない? 」
「うーん…なんでもいいか? 」
「うん、何でもいいよ。『アホ』とか『ブタ』とかじゃなければ。」
冗談を交えて、にっこりと蒼香ちゃんへ言う。

「あ、あぁ…。じゃぁそうだな、実際男だと忘れない為にも『大将』って事で。」
「大将? なんか昔の邦画みたいだな…。」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか大将。」
そう言って、蒼香ちゃんは私の肩に腕を回した。

「あっ!! ちょ、ちょっと蒼香ちゃん。」
「ん? なに、気にすんなよ大将。今は『女同士』なんだからよ。」
いたずらっぽい笑みをこぼす蒼香ちゃん。
腕に蒼香ちゃんの胸が当たって、なんとなく意識してしまう。

「それに、自分のはちゃんと見てるんだろ? 風呂の時とか。」
「いや…、それが、その、ね。」
「ん? なんだ? …お前さん、もしかしてさ。」
「うん、なに? 」
「…風呂で身体洗う時、目を閉じてるのか? 」
「…うん、そうなんだよね。」
途端、蒼香ちゃんが笑い出した。

「そ、そんなに笑わなくてもいいんじゃないかな…。」
「いや…、悪い、つい、な。でも、自分の身体も見れないようじゃ大変だろう。」
「…まぁ、そうは思うんだけどねぇ。」
「そうだろ、だから早いうちに慣れたほうがいいぞ。」
「うん、努力はしてみるよ。」
「うん、だから…。」
そう言うと、蒼香ちゃんが怪しい笑みを浮かべた。
その顔を見て、嫌な予感がして一歩間を離す…。

「自分の身体に慣れないとな。」
そう言うと蒼香ちゃんは、私の後ろへ回り込み、羽交い絞めにしてくる。

「ちょ、ちょっと蒼香ちゃんっ!! 」
「いやぁ、ほれ、今朝あのビデオ見ただろ? あれを思い出して妙にいぢめたくなってな。」
平然と爆弾発言をしてきた。
私は今朝の一件を思い出して、顔が赤くなってしまった。

「それじゃ、早速…。」
「えっ、ちょっと…。」
次の瞬間、後ろから伸びている手で胸をむんずと捕まれた。

「こらっ!! ちょっと、蒼香ちゃんっ!! 」
「んー、大将、遠野よりちょっとちっちゃいんじゃないか? 」
私の胸で手をわさわさと動かしながら蒼香ちゃんが言う。
この触られ方だったら、感覚はあるけど快感が湧いてこない。

「あ、うん。なんかブラジャー買うときに秋葉と同じサイズを試着したんだけど、ちょっと大きかったんだよね。」
「なるほどな。まぁ大将は遠野よりも背が小さいんだからいいんじゃないか? でも貧乳には変わり無いけどな。」
相変わらずわさわさと手を動かしながら蒼香ちゃんが言う。

「なぁ、そういえばお前さん…。」
手を止めて蒼香ちゃんが耳元で何事かを聞いてきた。

「風呂に入ってるのに、なんで眼鏡してるんだ? 」
「え、いや、まぁそれは、簡単に言うとこれがないとマトモに『視えない』から。」
「へぇ、そっか。なるほどな。」
納得したのか、蒼香ちゃんはまたわさわさと胸を触りだす。

「そ、蒼香ちゃん? もう触んないでもいいんじゃないかな? 」
「んー、まぁ、なんとなくだから気にするな。」
「いや、気になるって…。」
「まぁ大丈夫大丈夫。」
そう言いながら、まだ胸を揉みつづける。

「も、もう。とりあえず私上がるから、ごゆっくり。」
そう言うと、私は思い切って立ち上がり、湯船から上がる。
前はもちろんタオルで隠す。

「お、おい大将。」
有無を言わさず湯船から上がる私に戸惑いながら蒼香ちゃんが声をかけてきた。

が、その時。

ツルッ

思わず私は足を滑らせてしまった。


「うわっ!! 」
「あ、あぶねぇっ!! 」

ビタッ、という音と共に、私は尻餅をついた。
上半身が倒れなかったのは、駆けつけた蒼香ちゃんが支えてくれたお陰だった。