「あ〜、やっと昼飯だ〜。」 「姉さん、はしたない言葉遣いをしないで下さい。貴女は遠野家の長女なんですから。」 やっと前半の授業が終了した。 今は昼休み。食堂へ行って昼食を取る時間だ。 早速私達は食堂へ向かった。 ガヤガヤガヤ 食堂へ近づくと、やはりみんな解放的な気分なのか、中は楽しげな会話などで熱気に包まれている。 「それでは、私達は席を確保しておきますから、三人ともよろしくお願いします。」 「おう、わかった。」 「姉さんっ、『おう』はやめてくださいっ!! 」 「あぁ、うん、すまん。」 「全く、しょうがないですね…。」 「ほれ、遠野、お説教はいいからさっさと行くぞ。」 「ごはんごはんー。」 「えぇ、それではおねがいします。」 そういって、秋葉、蒼香ちゃん、羽居ちゃんの三人は席を確保しにいった。 この食堂の席はきちんと全生徒分あるんだが、いかんせん女子高。 席はよくグループで分けられていて、嫌いなグループとは近づきたくない、という心理があるんだろう。 酷い時は空席があるのに座らせて貰えないなどの嫌がらせが起こるらしい。 まぁ最も、生徒会副会長である我が妹『遠野秋葉』と、その家族や友人には全く関係の無い世界なのである。 秋葉が近づくだけで席が開くなんて事も多々あるらしい。 「遠野はこの学校で一番の羨望の対象だが、同時に畏怖の対象でもあるんだよ。」 とは蒼香ちゃんの言葉である。 「では志貴さん、みなさまに昼食をお持ちいたしましょうか。」 私の横で悪魔が微笑む。 今朝の一件以来、私は琥珀さんとは会話をしていない。 あの一件で、秋葉を言葉巧みに言いくるめ、自身の保身をした琥珀さん。 もう流石としか言い様がなく、あきれるしかない。 だが、それでも琥珀さんを憎めないのが悔しい。 なんて自分で考えてつくづく私は琥珀さんには敵わないんだな、と思った。 でも、敵わないという事だったら、他のみんなにも私は敵わない。 …、私って、有彦にしか敵わないじゃん…。 ちょっと哀しいかな。 「そうだね、じゃぁ、いこうか翡翠。」 「かしこまりました、志貴さま。」 琥珀さん、翡翠と三人で6人分のトレーを持って確保してある席へ向かう。 「お待たせ、ご飯持ってきたよ。」 「姉さん、わざわざ有難う御座います。」 「ありがとうな、三人とも。」 「わーい、ありがとー。ごはんー。」 三人に食事を配り、私達は席に付こうとした時 _____ッ 頭に軽い痛みが走った。 「姉さん? どうかしましたか? 」 「あら、志貴さん。具合悪いんでしょうか? 保健室で休まれますか? 」 「志貴さま、大丈夫ですか…? 」 私がたまに頭痛に悩まされる事を知っている三人は、即座に気付いた。 「…あぁ、大丈夫。別に体調が悪いわけじゃないんだ。ただ…。」 _____魔の気配が、この空間に漂っている。 「…姉さん、それは一体どのような…。」 秋葉が即座に険しい顔になり、私に問い掛ける。 「…そうだな、悪い感じはしないな。それに、なんだか…。」 前に覚えのある気配、と言おうとしたところで座っていた席の背後から声をかけられた。 「あ〜っ!! 志貴くんみ〜つけた〜っ!! 」 聞き覚えのある声に、私は驚いて振り返る。 そこにはやはり、見覚えのある彼女がいた。 「あ、ゆ、ゆ、弓塚っ!! 」 「えへへ〜、やっと見つけたよ〜、志貴くん。屋敷に誰もいなくて心配したんだからね〜。」 怒ってるんだからー。と言う弓塚の顔は、思い切り晴れやかな笑顔だった。 「あ、ゆ、弓塚先輩っ!! 貴女、なんでこんな所に…。」 突然現われた弓塚に、秋葉は驚いて目を見開いた。 「あ、妹さん、こんにちは。私も今日転校してきたんだ〜。」 えへへ〜、と簡単に言ってくれる。 「いや、弓塚、転校って、お前…。」 「うん、転校してきたんだよ。私は戸籍とかいじれないからさ、二年生として転校してきたんだ〜。」 偉いでしょ〜、と胸を張る弓塚。 「いや、でもさ、どうやって私がここに…。」 いるのが判ったの? と聞こうとした所で、別の声が聞こえてくる。 「おーい、さっちんどこいったー?人多すぎてわかんないよー。」 「あ〜、こっちですよ〜。志貴くんいましたよ〜。」 「ん? あ、ほんとだー。おーい、志貴ー。」 大声で叫びながらこっちへ手を振り駆け寄ってくる、金髪外人女。 「ア、ア、ア、ア、ア…。」 「さっちんごうりゅー。ついでに志貴も発見だー。」 「探しました? ごめんなさいアルクェイドさん。志貴くん見つけちゃったから、こっち来たんですよ〜。」 「こ、こんな所でなにしてんだお前はっ!! 」 ガタンッ と勢い良く立ち上がり、思わず大声で叫ぶ。 「なによ志貴ー、私に逢えたのにそんなに怒鳴る事ないじゃーん。」 「いや、そういう事じゃなくてだな、お前…。」 「な、なんで貴女だめこの場にいるんですかっ!! このあーぱー!! 」 「お、妹もいたんだ。久しぶり。」 「なっ、久しぶりじゃありませんっ!! 一体どういう事ですかっ!! 」 余りの事態に秋葉も立ち上がり、大声でアルクェイドと弓塚に詰め寄る。 だが、その事態を予測していたのか、アルクェイドはにこっと笑いポケットから何かを取り出す。 「ほら、妹。これを良く見なさい、これを。」 笑顔でアルクェイドが突き出したものは、学院への入場許可証だった。 しかも所属の欄には…。 「きょ、教師、ですって…。」 「そ、私は臨時で雇われた英語教師なんだよー。」 許可証を見ると、ちゃんとしたもので、アルクェイドが嘘を言っているとは思えない。 しかし、これは…。 「アルクェイド、お前もしかして…。」 「うん、魔眼で入ったんだー。あ、でもきちんと書類を書いて提出したりしたから、きちんとした教師だよ。」 「あ、志貴くん。私は魔眼とかは使わないでちゃんと申し込んで入ったんだよ? 」 「でも、転入の際のテストとかは…? 」 「あ、その時は、ちょっとごまかしちゃった…。」 結局、二人とも魔眼でシエル先輩みたいに潜り込んだんだな…。 そこまで考えて、最悪の事態を思い出した。 「あ、アルク、そういえば…シエル先輩は? 」 私は思わずアルクェイドに聞いてみた。 「え、シエル? こないだバチカンに帰るっていってなかったっけ? 」 「違いますよアルクさん。シエル先輩は一旦バチカンに行って今の志貴くんの状態を調べるっていったんですよ。」 「あー、そういえばそうだったっけー。よく知ってるねーさっちん。」 「いや、私はアルクさんから聞いたんですけど…。」 …とりあえず、最悪の状況だけは今は免れているようだ。 「み、認めません、こんなのっ!! 」 私がほっと胸を撫で下ろしている時に、秋葉が改めて怒鳴った。 「まぁまぁ秋葉、二人が誰に迷惑をかけているわけでもないんだから…。」 「に、にいさ…」 「秋葉さま。」 秋葉が思わず『兄さん』と叫ぼうとした所を、琥珀さんが諌める。 「う…。」 「秋葉、二人は一応ちゃんと手続き踏んできてるんだから、許してやろうよ…。」 「う、は、はい…。姉さんがそう言うのでしたら。」 「んー、許す許さないの問題はどうでもいいけどー。」 秋葉を落ち着かせた所で、アルクェイドが話す。 「なんだ、どうかしたか? アルクェイド。」 「うん、なんか、周りのみんながこっちを凄い見てるよ? 」 「「「あ…。」」」 今この食堂で立ち上がっているのは私達四人だけ。 他の生徒達はじーっとこちらに注目している。 私と秋葉、弓塚さんはおずおずと席に付いた。 同じ席にいる翡翠、琥珀さんはそ知らぬ顔で食事を取り、蒼香ちゃんは呆れ、羽居ちゃんは何も知らないように楽しそうにご飯を食べている。 「じゃぁ、とりあえず私は一旦職員室ってとこにいってくるねー。」 ばいばーいとこちらに手を振りながら、周りの視線を意に介さずにアルクェイドは食堂を出て行った。 「はぁ、これからさらに大変だな…。」 「…頑張って、志貴くん。」 「弓塚先輩、『くん』ではなくて他の呼び方をして頂きませんと…。」 「あ、そうだね。じゃぁこれからは志貴『ちゃん』だね。じゃぁ志貴ちゃん、よろしくね。」 にっこり笑う弓塚。 …本当に、先が思いやられる。