「全く、本当に呆れた。姉さんばかりでなく翡翠や琥珀までこの体たらくなんて…。」
私達は、朝食に遅刻した。
で、例によって校舎へ向かう前に秋葉の部屋へ呼び出されたわけで。


「うん、本当に問題をまた起こしちゃってごめん、秋葉。」
「いえ、今回は姉さんの責任とは言えません。翡翠から報告は聞きました。
兄さんはきちんと朝食に余裕を持って臨める時間に起床した、と。」
「うん、まぁそうなんだけど、ね…。」
「えぇ、姉さんの言いたい事は判ります。判ります、が…。」
秋葉はそこまで言い切ると

ギチギチギチ…

と音が出るように首を動かし、私の横に並んで正座している二人を睨む。

…その、般若のような形相で。

「琥珀っ!! 瀬尾っ!! 貴女達は一体なにをしていたんですかっ!! 」
「いえっ!! その、ごごごごめんなさい遠野先輩っ!! 」
「あ、あは、あはは、も、申し訳ありません秋葉さま。」
横に並ぶ二人は、深深と、それこそ土下座をして秋葉に謝った。

「それで、姉さん。一体なにが起こっていたんですか? 」
その瞬間、今朝起きた『記憶から抹消したい事件』を思い出し

「いや、その、な、なんでもないんだ、なんでも。」
一気に赤面して、そう答えた。


ちなみにあの後私は、厳重な翡翠の警護の元、そそくさと着替えを済まし、四人でもう始まっている朝食を取りにいった。
もちろん途中から入ってきた人間は注目され、先に入って朝食を取っていた秋葉たち三人から視線を浴びながら朝食をとり始めた。
三人の視線といっても、秋葉の視線は『非難』
蒼香ちゃんの視線は、これから起こるであろう秋葉のお説教に対する『同情』
羽居ちゃんの視線は「お寝坊さんなんだなー、志貴ちゃんは。」という感じの視線だった。


「姉さん、なにをしていたのか言えないんですか? 翡翠もその部分だけは口に出さないし…。」
「いや、まぁ、そういうわけでもないんだけど、その…。」
ついどもってしまう私の言葉の後に

「秋葉さま。」
と翡翠が秋葉に進言した。

「どうかした? 翡翠。」
「…はい。実は私も全てを見ていた訳ではないのですが、恐らく全ては『コレ』が収めているでしょう。」
そういうと、__ス__と翡翠はカメラを秋葉の前に差し出した。

「あら、これは…、翡翠。これは…。」
「はい、姉さんが密かに屋敷から持ってきたカメラです。」
「へぇ、カメラか。中になにが映ってるんだ? 」
「わー、面白そうー、みせてみせてー。」
中の映像が気になるのか、蒼香ちゃんや羽居ちゃんも会話に参加してきた。
(ま、まさか・・・・・あれは・・・)

嫌な予感がして、横にいる琥珀さんへ向き直ると

ニヤッ

悪魔がそこにいた。


「あぁっ!! 秋葉っ!! それは、それはマズイっ!! 」
身体から血が引いていくのを感じ、急いで秋葉を止めようとするが

「翡翠っ!! 」
「はい、かしこまりました。」
翡翠に阻まれ、どっから出したのか、ロープで腕と足を封じられた。

「秋葉っ!! 頼むっ!! それだけはやめてっ!! 」
「もう、姉さん大袈裟ですよ。ただ見るだけなんですから。直接姉さんに危害を加えるわけではないでしょう?
だから別に問題はないはずです。」
中に何が映っているのか何も知らない秋葉は平然と言う。

「翡翠、これはどうやって見るの?」
「はい、このカメラだけでも映像の再生はできますが、一応こちらの部屋にもTVがありますから、そちらで見てみましょう。」
「翡翠…、私なにかしたかな…? 」
私の言葉を無視して、翡翠はカメラから出したコードをTVに繋ぎ、再生準備を整える。

「それじゃぁ翡翠、再生して。」
「はい、かしこまりました。」
「わー、たのしみー。」
「どれ、ちょっくらみてやるか。」
私の気も知らないで、四人はTVへと向き直る。

「うぅぅ…、勘弁してくれ…。」
「志貴さん、諦めが肝心ですよー。」
事件の真犯人、割烹着の悪魔がにっこり笑う。




映像が再生されて、映ったのは私の寝顔だった。
「ね…、姉さん…。」
「…志貴ちゃん。」
「うゎ…、これは、反則、だろ…。」
「うわー、志貴ちゃんすごいかわいー。」
四人それぞれ思い思いの言葉を口にする。

「秋葉さま、ここらへんはまだ事件へと入っていませんので、早送りいたします。」
「え…、えぇ、そうね、そうして頂戴。」
そういって翡翠は映像を早送りする。


「あ、再生いたします。」
「翡翠、ここからなの? 」
「はい、事件が起こったのは私が部屋を出て、制服に着替えてまた志貴さまの部屋で戻るまでの間に起こりました。」
「そ、そう…、判ったわ。」
翡翠が妙に探偵モード入っている。

そして映った映像はクローゼット前での私と琥珀さん。

『こ、琥珀、さん? 』
『さぁさ、志貴さん…。』
あぁ、音声が聞こえてくる…。

「こ、これは…。」
「ここからが事件の真相です。」
やはり探偵モードの翡翠が真相を暴く。
そういえば、この時のカメラは晶ちゃんだったっけ…。

「あ、晶ちゃん、もしかして、全部…。」
「あ、は、はいぃ…。ご、ごめんなさいぃ…。」
あぁ、いっそ殺してくれ。


それでも再生は止まらない。
琥珀さんとの押し問答に映り、私のパジャマが脱がされ…。

『はっ!! だ、だめでっ!! んあっ!! やぁっ!! 』
『あらら、志貴さん、気持ちよかったですか? ここがもう起ってきてますよー。』

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!! とめてぇぇぇぇぇっ!! 」
余りの恥かしさに、私は大声で叫んだ。

「こ、こ、こ、こ、こ…。」
私のそんな声を意に介さず、四人は食い入るように映像を見つめる。
その間にも、TVに映し出された私と琥珀さんの行動はエクカレートしていく。

「やめてぇぇぇぇぇっ!! お願いだから見ないでぇぇぇぇっ!! 」
あまりの恥かしさに泣きそうになりながら叫ぶ。

が

またも私の声は無視され、映像は流れ続ける。


そして映像に翡翠が登場するまで、私の痴態はみんなに晒された。



「うぅ…、見ないでって言ったのに…。」
終わった頃には私はもう泣いていた。

「…、ちょっと、琥珀っ!! ちょっときなさいっ!! 」
「はいー、なんでしょうか秋葉さま。」
顔を真っ赤にして秋葉が琥珀さんを呼ぶと、琥珀さんはいつもの笑顔で秋葉へ近寄る。

他のみんなは、顔を赤くして、私を横目にチラチラ観察する。


「(ボソボソ)」
「(ボソボソ)」
秋葉と琥珀さんがこちらをチラチラ見ながら何事かを耳打ちしている。
すると

ニヤッ

琥珀さんの悪魔の笑みが一瞬こちらを向いた後

「・・・・・(グッ! )」
「・・・・・(グッ! )」
秋葉と琥珀さんが親指をお互いに向け立てる。

…、どうやら『取引』は成立したようだ…。
お姉ちゃんは哀しいです。