(あれ? こんな夜中に出歩いてる…。)
木々を伝い部屋へと戻る道すがら、その人影を見つけた。

(こっちに向かってくるなぁ…、どうしよ。)
その影がこちら側へ近づいて歩いていると気付き、私は足を止め、枝の上で息を潜めた。

サクッ、サクッ、サクッ

軽い足音を聞きながら、影の様子を伺う。

(あれ…、あの子は…。)
生徒が何者かに気付き、私は声をかけようと地面へ降りようとして…。
(いきなり上から降ってきたら驚くよなぁ…。)
やめた。

サクッ、サクッ、サクッ

軽い足音はどんどんとこちら側へ近づく。
彼女は、誰にも見つからないように辺りを気にしながら歩いているようだ。
だが、真上にいる私にはさすがに気付いていない。

「…レン、ちょっと先に下りてくれる? 」
「・・・・・(コク)」
小声でレンに呟いた。
私の言葉にレンは頷き、私の胸元から彼女の後ろ側の地面へ飛び降りた。

ガサッ

その音に彼女は一瞬驚いて振り返る。

「にゃぁ」
「…、なんだ猫か。全く、驚かせるなよ…。」
彼女が後ろを向いている間に私は音を立てないよう、彼女の進行方向に静かに着地した。

「いいか、猫。こんな林は不気味なんだからいきなり…。」
「蒼香ちゃん、どこいくの? 」
「うわぁっ!! んーっ!! んーっ!! 」
「しーっ!! しーっ!! みつかっちゃうからっ!! 」
私の声に驚いて声を上げてしまった蒼香ちゃんの口を塞ぎ、小さい声で囁く。

「んっ!! ぷはっ!! な、なんだよお前、いつからいたんだっ!! 」
囁くような声で、でもしっかりと非難の色を見せる声で私に聞いてきた。

「えっとね…、さっき。」
「いや、そうじゃなくてな、まぁそうなんだけどな…。
それで、なんでお前ここにいるんだ? 」
「外歩いてる蒼香ちゃんを見つけて、おっかけてきたの。」
「追いかけて、なんで私の進行方向にいるんだよ。」
「それは、秘密。」
ニコッ、と笑ってやり過ごす。

「なっ、ま、まぁそんなんどうでもいいけどな…。」
私の試みは成功したみたいだ。

「で、蒼香ちゃんはどこにいくの? 」
「あぁ、この道をもう少しいくとな、コンビニがあるんだ。
まだ余り眠たくないし、喉も渇いたからジュースでも買おうと思ってな。」
「そっかぁ、じゃぁ私も付いていっていい? 実は私も喉渇いたんだー。」
事実、『日課』を終えた私は汗をかいて喉がカラカラだった。

「あぁ、それじゃぁ付いてこいよ。あ、でも前もって言っとくけど…。」
「うん、見つからないように、だね。」
「あ、あぁ。じゃぁまぁいくか。」
そういって、蒼香ちゃんは私の前を歩き始めた。
私とレン(猫)もそれに続く。



「遠野、その猫はお前さんのペットか? 」
コンビニでミルクを買い、レンにあげている私に蒼香ちゃんは聞いてきた。
私はミルクをあげながら、『うまい玉露』と書いてあるペットボトルを飲む。
蒼香ちゃんは紅茶と一緒に音楽雑誌を二冊ほど買ったみたいだ。

「んー、レンはね、ペットとかじゃくて、私の家族かな? 」
ねー。と言いながら、レンの頭を撫でる。
喉を鳴らして喜んでいるようだ。

「ほぉ、なるほどね。だから寮まで連れてきたって訳か。」
「うん、レンは私の側から離れないんだよ。」
「へぇ、相当なつかれてるんだな。」
「まぁねー。」
事実、私の使い魔である訳だから、好かれているんだろう。
そう思うと、ちょっと嬉しい。

「はぁ、しっかしまぁ…。」
蒼香ちゃんは溜息を付くと、私に冷ややかな視線を送ってくる。

「お前さん、本当は男なんだよなぁ…。」
「うん、そうだよ。この体になる前に蒼香ちゃんには会ってるじゃん。」
「まぁ、そうなんだけどな…。なんていうか、お前、本当に男か? 」
唐突に、蒼香ちゃんから痛い一発を浴びた。

「ぐっ…、それは、結構ショックかも…。」
心の中はきちんとした男なので、今の一言は痛い。

「いや、そういう意味じゃなくてだな。…なんつ〜か、絵になりすぎてるんだよなぁ。」
「へ? なにそれ? 」
「いや、まぁ、アレだ。仔猫の頭を撫でて笑ってたりとか、そういうのがな…。」
「そういうのが? 」
「えっと、その、似合いすぎてるというか、可愛いというか…。」
しどろもどろになりながら、蒼香ちゃんが呟くように言った。

「へぇ、そうなんだ。よかったなー、レン。可愛いってさ。」
「いやいや、その猫じゃなくてだな、お前さんだよお前さん。」
「へ? 私の事? 」
顔を少し赤くして蒼香ちゃんが言うもんだから、こっちも恥かしくなってしまった。

「うーん、そうなんだ。ありがとう、今は女の子だから、『可愛い』って言われて正直嬉しいかもね。」
蒼香ちゃんへの返答に、笑顔で答える。

「う、まぁ、そうだな…。」
「うん、そうだよ。」
「ま、まぁアレだ。寮に帰るぞ。」
「うん、そうだね。じゃぁいこっ、レン。」
歩いていく蒼香ちゃんの後ろに続き、二人と一匹で寮へと戻っていった。



「それじゃ、おやすみ。」
「あぁ、おやすみ。見つかるなよ。」
「うん、大丈夫。まかせといて。」
「そうか、まぁわかった。じゃぁな。」
蒼香ちゃんはそう手をあげ、部屋へと戻っていった。

私も蒼香ちゃんに教えてもらった『秘密の抜け道』から寮内へと入り、自分の部屋へと戻る。

カチャッ

「あ…、おかえりなさい。遠野さん。」
「あ、ただいま晶ちゃん。」
トイレにでも起きていたのだろうか。晶ちゃんが起きていた。

「遠野さん、どこかいってたんですか? 」
「うん、蒼香ちゃんとコンビニまで、ね。」
「あ、蒼香さんと買い物してたんですか。」
「うん。あ、そうだ、晶ちゃんにおみやげ。」
私は隠し持っていたコンビニの袋の中から、レモンティーのペットボトルを晶ちゃんに手渡した。

「あ、どうもすいません。ありがとうございます。」
そう言って受け取り、晶ちゃんは蓋を開け、レモンティーを飲む。

「それじゃぁ、ちょっと着替えるね。うるさかったらごめん。」
そう言いクローゼットまで近づき、着ていたTシャツとパンツを脱ぐ。
ストッキングまで脱ぎ終わると、靴をしまい、パジャマに着替えた。

「ぁ…。」
「えっ? 」
声に気付いて振り返ると、晶ちゃんがカーテンの隙間からこちらを見ていた。

「あっ!! み、みてた…? 」
「え、あ、あぁっ!! す、すいませんっ!! 」
「ぅ…、そ、そっか。まぁ見えちゃったもんはしょうがないね。」
「あ、す、すいません…。」
「うぅん、気にしないで。別に見られたからどうっていう事はないし…。」
でも、裸を見られていたと思うと、やはり恥かしい。

「あ、だ、大丈夫ですよっ!! 遠野さんの身体凄い綺麗でしたしっ!! 」
「えっ…。」
「って、そうじゃなくって、その、なんていうか…。」
「・・・・・・・」
「ぁ・・・・・・・」
裸を『綺麗』と言われ、恥かしくなって俯いてしまう。

「あ、えと、その、ま、また寝ますね、私。」
「う、うん、そうだね。私も寝るよ。」
「あ、じゃぁおやすみなさいっ!! 」
「う、うん。おやすみ、晶ちゃん。」
そう言うと、晶ちゃんはカーテンを閉め、そそくさとベットへ横になった。
私もベットへ上がり、時計を見る。

(そっか、12時半か…。)
この時間は、お姫様の活動時間だなぁ、などと思いながら、意識は深く沈んでいった。