カチ、カチ、カチ、カチ… カチ、カチ、カチ、カチ… _____何時だろう、今 ベットの脇に置いてある置時計を見る。 私がいつも起きた時に見る、屋敷の部屋から持ってきた時計だ。 _____もう11時過ぎたんだ…。 その時、ベットの脇で ゴソゴソ という音と共に、黒い物体が私の寝ている上へ跳んできた。 「…やぁ、レン。どこいってたの? 」 猫型になって私の布団の上に座っているレンに話し掛けた。 「…、うん、そっか、裏の林にいたんだ。…へぇ、木が一杯あったのか。」 レンは言葉を発しないかわりに、一種のテレパシーで私と会話を日々取っている。 「うん、えっ? …そっか、昨日やってないもんね。」 レンは、私がこうなる前、みんなに隠れてしていた『日課』をどうするか聞いてきた。 「うん、…そっか。じゃぁレン、ちょっと待っててね。」 ベットからできるだけ静かに降り、洋服の閉まってあるクローゼットへ歩いていく。 (確か、さっき整理した時にここに…) 余り音を立てないように、静かにクローゼットに閉まった服と靴を探す。 (んと…、お、あったあった。) 目当てのものを見つけると、私は今着ているパジャマを脱いだ。 音に注意しながら、袖の少し長めのTシャツと、昨日一緒に買ったデニムのショートパンツを履く。 (んと、ストッキングは…、あったあった。) 昨日秋葉に教えてもらった通りに、黒いストッキングを履く。 (そういえば、靴下とかって買ってないんだよな…。) この女学院では主に黒か肌の色に近いストッキングを履くのが義務付けられている。 他の女生徒の中には、冬に足が冷えるからと、くるぶしソックスなるものを履いている子もいるらしいが、 まだそんな季節ではないから必要無い、と秋葉に言われ、ストッキングだけ何個も買ったのを覚えている。 ちなみにストッキングは簡単に電線、使い物にならなくなってしまうので、常時鞄の中に一つや二つは入れておくものらしい。 (やっぱ靴下のほうがラクだよな…、そういう事考えると。) ストッキングを履き終わり、立ち上がる。 ちなみに今履いているストッキングは太ももの中ほどで止まるタイプだ。 「じゃぁ、おいで、レン。」 レンは呼ぶと、すぐにこちらへ駆けてきた。 そのままレンを抱き上げ、パンツの後ろポケットに、私の、何かの時には必ず使用する『七夜』を閉まった。 (晶ちゃんは、起きてないかな…。) 少し罪悪感を覚えながら、間仕切りしてあるカーテンの隙間から、そ〜っと反対側のベットへ目をやる。 (よかった…、起きてたら大変だもんな…。) 幸い、晶ちゃんは熟睡しているようだ。 スー、スー、と可愛い寝息を立てている。 「じゃぁ、いこうか、レン。」 「にゃぁ」 靴を持って窓へ近づき、窓辺のカウンターに腰を落として靴を履く。 (床に靴をつけちゃまずいからな…、そ〜っと…。) 両足を上げたままお尻の中心を支点に窓へ向き、窓を開けてそこから足をだす。 ちなみに私の部屋は2階にある。 中等部と高等部の生徒は宿舎が違い、その間の境は、階段によって区切られている。 寮の入口と真中、あとは廊下を進んだ一番奥に階段があり、中等部の宿舎へ行く生徒は主に真中と奥の階段を使う。 「じゃぁレン、降りるからちょっと揺れるよ。」 「にゃぁ」 そう胸元に抱えているレンに告げて、2階の窓から飛び降りた。 ストッ できるだけ音を立てずに着地する。 (そういや見回りとかいるんだっけ…。) 女子高の寮に不埒な輩が近づかないように、警備員が常時配備されていると環ちゃんが言っていたのを思い出した。 (安全策を取って、木でいくか…。) 思うやいなや、すぐそばにある木の枝に飛び乗った。 まだ寮の近くで、寮には何箇所か明かりの灯っている部屋があった為、なるべく足早に木から木へ渡り、寮から離れた。 少し離れると、辺りには深々と深い闇が降りていた。 (ここらへんでいいかな…。) 木を渡っていた私は地面に降り、抱きかかえていたレンを下ろした。 「ここなら人型になっても大丈夫だよ。」 そうレンに言うと、レンはすぐに人型に戻った。 「苦しかった? 」 抱えられてて大丈夫だったかを聞くと 「・・・・・(フルフル)」 レンは首を横に振った。 「そっか、わかった。じゃぁこれからちょっと始めるから、大人しくしててね? 」 レンの頭を撫でながらそう言うと、レンは頷いて私から少し離れた。 「さて、と…。」 後ろのポケットから、ナイフを抜き出し、眼鏡を外す。 刃を出し、目前で構え、目を閉じる _____静か、だな。 今私の立つ場所には、風の音、葉の音が聴こえる。 _____こんな体になって、初めての『日課』か。 目を見開き、正面に立つ木に駆けより、跳ぶ。 木に片足をつけ、木を蹴り、反対側の木へ跳び移る。 枝に足をかけずに、幹に足をつけ、また反対側の木へ跳ぶ。 二つの木を揺らしながら、上へと跳んでいく。 木の天辺まで来た時、七夜を構え、そのまま地面へ落ちていく。 瞬間、揺れた木から落ちていく葉を全て七夜で『殺す』。 ストッ 地面に着地し、落ちてくる葉を見ると、一枚残らず『殺す』事が出来ていた。 「…おかしいな…。」 確かにおかしい。 今まで一度も、全てを『殺す』事は出来なかったはずなのに…。 「まぁ、上達したって事なのかな? 」 確かに、初めの頃よりは、格段に上達した。 まぁ、細かい事は気にしない。 『力』が使えるようになれば、みんなを守れるから。 『君の目は、魔を引き寄せる』 先生に言われた言葉を、私は『ロア』の一件でさんざん思い知らされた。 それまで平穏だった日常が、『人に在らざる者』という非常識極まりないヤツの出現で変わった。 突然目の前に吸血鬼のお姫様が現われ、知り合いが実はエクソシストで、実の妹と実は血が繋がってなくて、 自分は一度死んでいて、私を殺した相手が妹の実の兄で、魔と人の混血で、自分が実はその魔を退治する一族の中でも特殊な血族の末裔で、跡取りで…。 数え上げたらキリがないぐらいの非常識と対面した。 それでも、楽しかった。 だから、この楽しい生活を壊したくないから、私は自分から『できる事』をしようと思った。 別に『七夜』の血がどうのとか、そういう問題じゃなくて。 ただ、楽しい日々を『守りたい』から、私は私にできる事をする。 その為にもこの『力』を使えるように鍛錬しているつもりだ。 あの一件の後、琥珀さんが七夜の隠れ里を見つけて、私はその里がある山奥へ行った。 そこは、記憶には無いけど、懐かしい場所。 そして、凄く哀しい場所。 その里で『七夜』を調べて、今はもう居ない誰かへの送り火として、里の全てを燃やした。 私は私。 『遠野志貴』はこれからも遠野志貴として生きる為、『七夜志貴』とのけじめを着けた。 これから、遠野志貴として生きていく為に、 私の『力』が魔を引き寄せるなら、その引き寄せた魔を、自分でどうにかしなきゃダメだ。 私を今取り巻く環境全てが、『遠野志貴』が生きていく上で絶対に必要。 だから、『七夜』の力を『遠野志貴』の力にしようと思い、鍛錬をしだしたんだ。 全ては『私』を取り巻く環境を壊さない為に。 「さて、そろそろ帰ろうか、レン。」 一通り『日課』を済ませる頃には、周りはさらに深い闇が落ちていた。 今までただ黙って私を見ていたレンは、トコトコと私に近寄り、猫型になって私の肩に飛びついてきた。 私はレンを胸元で抱いて、寮の裏側へと向かった。