「全く、何を考えてるんですか貴女がたはっ!! 」 部屋へ呼び出された私達は、こってりと秋葉に絞られている最中だった。 あれから、秋葉の怒声を聞いた他の寮生が驚いて私達の部屋の様子を扉越しで様子を伺っていたようだ。 そんな中、なんとか秋葉を落ち着かせ、私達は食堂へと向かった。 私語厳禁の夕食中、刺すような視線を周囲、というか食堂にいた生徒全体から感じた。 まぁ、入寮初日に問題を起こせば睨まれるのは目に見えているが、実際彼女達の視線が『猜疑心』というよりも『好奇心』のような気がする。 「遠野家長女、入寮初日に問題発生、妹にお説教される。」と学校新聞で流されてもおかしくはない。 それぐらい『遠野』という名前は興味や権威の対象なのだろう。 「ちょっと、聞いてるんですか姉さんっ!! 」 そんなくだらない事を考えていると、秋葉がさらに語尾を強めた口調で怒鳴った。 「あ、あぁ、聞いてるよ、ちゃんと。 今回の事に関しては、ほんと、お…、私が悪いんだ。 入寮初日から問題を起こしちゃって本当にごめん、秋葉。」 秋葉があの有様を見て怒るのは当然の事なので、私は素直に謝った。 私も、もし私の立場が秋葉だったら当然怒っているだろう。 「いえっ、あれは、私も悪かったんです。遠野先輩、本当にすいませんでしたっ!! 遠野さんも、本当にごめんなさいっ!! 」 晶ちゃんが、私にも謝ってきた。 見ると晶ちゃんは、目に輝くものを溜めている。 「瀬尾、貴女は悪くないわ。先ほど姉さんが言った通り、あれは姉さんが悪いんです。 貴女が泣かないでいいのよ。」 秋葉が先ほどよりも口調を和らげて、晶ちゃんに言った。 『可愛がっている後輩』という言葉は秋葉の本心なんだろう。 「晶ちゃん、秋葉の言う通り、さっきのはどう考えても私の不注意だから。 晶ちゃんは謝らないでんだよ、ね? 」 「で、でも、遠野さん…。」 「でも、じゃなくて。迷惑かけたのは私のほうなんだから、謝るのは私だよ。 ごめんね晶ちゃん。ほら、泣かないで…。」 私は晶ちゃんの頬に流れる雫を親指で拭いて、頭を撫でた。 「あ、はい…。わかりました…。」 晶ちゃんは俯き加減でそう言うと、もう一つ雫をこぼした。 「晶ちゃん。ごめんね。余り泣かないで。 晶ちゃんは笑ってるほうが可愛いんだから。だから泣かれると困っちゃうな。」 そう言いながら、私はもう一度親指で俯いている晶ちゃんの目元を拭いた。 「えっ…」 「なっ…」 「ん? 」 晶ちゃんが驚いた顔で顔を跳ね上げる。 秋葉も声を出して驚いたような、そんな顔をしてる。 「うん、晶ちゃんの笑顔、私は好きだから。もう泣かないで、ね? 」 そう言いながら、私は笑顔で頭を撫でる。 「あっ!! は、はいぃ…。」 気持ちよさそうに目を薄くし、晶ちゃんは返事をした。 「…っ!! 」 なぜか秋葉の顔が赤い。 「どうかした? 秋葉。具合悪いのか? 」 「なっ、なんでもありませんっ!! 」 やはり顔を赤くしたまま、秋葉はあらぬ方向を向いてしまった。 コンコン 「おーい、遠野、説教は終わったかー? 」 「あ、えぇ、終わったわよ蒼香。」 「そっか、じゃぁ入るぞ。」 ガチャ、という扉を開ける音と同時に 「なんだ、アキラ泣いちゃったのか。怖い先輩だなー遠野は。」 「ただいまー。秋葉ちゃん暴れなかったー? 」 「おじゃましますー。こんばんは志貴さん、晶ちゃん。」 「失礼いたします。」 という声とともに、蒼香ちゃん、羽居ちゃん、琥珀さん、翡翠が部屋へ入ってきた。 「いえっ、その、大丈夫です。私が勝手に泣いちゃっただけです、蒼香さん。」 「ダメよ、瀬尾。ちゃんと『姉さんに泣かされました。』って本当の事言わないと。」 「あらー、志貴さん泣かせちゃったんですかー。相変わらず女泣かせですねー。」 「志貴ちゃん女泣かせなんだー。凄いねー。」 「流石遠野だな。いろんな意味で怖い。」 なんか、好き放題言われてる気がするんだが。 しかも痛烈に。 「ちょっと琥珀さん、その『女泣かせ』ってなんですか一体。」 「あらー、言葉通りの意味ですよー。ねー? 秋葉さま。」 「なっ!! なんでそこで私に振るのよ琥珀っ!! 」 「いやいやー、秋葉さまも泣かされている内のお一人じゃないですかー。」 「なっ、なんてこといってるのよ貴女っ!! そ、それに、その泣かされている内には私だけじゃなくて、貴女たちだって、入っているはずでしょうっ!! 」 「いやー、まー、そう言われるとそうなんですけどねー。ねー? 翡翠ちゃん? 」 「姉さん、自分の立場が危うくなると私に話を振るのはやめてください。」 「よよよ、翡翠ちゃん、冷たいわぁ…。」 「えっと、いつも私がいろんな迷惑かけてるのがいけないのかな…。 ごめんね、秋葉、翡翠、琥珀さん。」 事実、いろんな迷惑をかけているだけに、否定できない。 「ね、姉さん。そういう意味じゃなくって…。」 顔をまた赤くして秋葉が言う。 「そういう意味じゃないって、なんだよ。 事実お…、私は三人に今もこうして迷惑かけちゃっているわけだし…。」 「はー、志貴さん。そういう所が『女泣かせ』って言われる原因なんですけどねー。 本人が気付いてないんじゃしょうがないですねー。」 「志貴さまは、やはり愚鈍かと思われます。」 なんか、意味が判らないけど、私の立場が追い込まれているのは確かみたいだ。 事実、翡翠が痛恨の一撃を放ったのが、とっても痛い。 「なぁ、遠野。」 「なに? 蒼香。」 「お前のあに…、姉貴は、いつもあぁなのか…? 」 「…、えぇ、本当に残念ながら。」 「はぁ、凄いな。お前の姉貴は。」 「えぇ、凄いと思うわよ、ある意味。」 向こうで秋葉と蒼香ちゃんが 「なんだよ、二人してこっち見て溜息ついたりして。」 ちょっと二人の態度に不満を漏らす。 「志貴さん、それは志貴さんが朴念仁なのがいけないんですよー。」 「そうです。志貴さまは非常に愚鈍かと思われます。」 「翡翠、琥珀さん…、ちょっと傷つく。」 「事実ですからー。」 「事実ですので。」 うぅ…、私なんかしたかなー? 「あら、もうこんな時間ね。そろそろ就寝時間ですから、今日はこれで解散にしましょう。」 「おっ、もうそんな時間か。それじゃおやすみ、四人とも。」 「おやすみー、みんなー。」 秋葉の号令と共に、蒼香ちゃん、羽居ちゃんがおやすみの挨拶をしてきた。 「それでは、おやすみなさいませー、みなさま。」 「おやすみなさいませ。」 琥珀さんと翡翠が、それぞれ挨拶をして出口へ向かう。 「じゃぁ私達も戻るね。おやすみ三人とも。」 「あ、おやすみなさい、先輩方。」 私と晶もそれぞれ挨拶をして、廊下へと出た。 「それでは、晶ちゃん、志貴さん、おやすみなさいませー。」 「晶さま、志貴さま、おやすみなさいませ。」 『七夜』の二人の相部屋の前で、琥珀さんと翡翠さんは深々とお辞儀をしてきた。 「あ、おやすみなさい。翡翠、琥珀さん。」 「おやすみなさい、翡翠さん、琥珀さん。」 ではー、という琥珀さんの声と共に、二人の部屋の扉は閉まり、私達はもう少し先にある部屋へと向かう。 「遠野さんは、予習などはしないんですか? 」 部屋へ戻ってきて、不意に晶ちゃんは聞いてきた。 「予習? んー、今までそんな事した事ないからなー。」 「そうなんですかー。てっきり遠野先輩の事だから、そこらへんは厳しいんじゃないかと…。」 と言った後で、ハッ!! と息を呑む晶ちゃん。 目が何かを訴えている。 「大丈夫だって、秋葉には今の話言ったりしないよ。」 「うぅ…、おねがいします…。」 晶ちゃんは拝むような目で私を見る。 「あはは、大丈夫だって。でも晶ちゃんの思ってることは正解なんだよ。 確かに秋葉は『勉学に励め』ってうるさいんだけどね。私がただやってないだけ。 お陰で秋葉にはよく小言言われちゃうんだけどね。」 あはは、なんて笑いながら私は晶ちゃんに言った。 「そうなんですかー。やはり遠野先輩は遠野先輩なんですねー。」 「あははは、そうだねー。でも多分、家での秋葉は晶ちゃんの想像よりもっと…。」 今度は私がハッ!! と息を呑んだ。 「あはっ、大丈夫ですよ、先輩に言ったりしませんからー。」 「う…ん、おねがいします。」 「あははっ、と。それじゃぁ、そろそろ寝ましょうかー。」 「そうだね、それじゃぁおやすみ、晶ちゃん。」 「お休みなさい、遠野さん。」 部屋の真中へ通した仕切り代わりのカーテンを閉め、晶ちゃんは床に着いた。