「…という訳なんだけど、信じられる…? 」
「…はい、まぁ、なんとなくですけど。」
一通りの説明をして、ようやく私と晶ちゃんは腰を落ち着ける事ができた。


「あ、そういえば、秋葉から手紙を預かってたんだ。」
「えっ!! 遠野先輩からですかっ!! 」
「うん、はい、これ。」
私は晶ちゃんに『ルームメイトへ』と書かれた手紙を晶ちゃんへ差し出した。

「えっと、なんだろ…。」
「何て書いてあるの? 」
「えっとですね…。」
「うん…。」
「・・・・・・・・・・」
「ど、どうかした? 晶ちゃん。」
脂汗をダラダラと流す晶ちゃん。
その異変に気付くと俺は、晶ちゃんの肩越しにその手紙を読んだ。

要約するとこうだ。
『何かあったらタダじゃおかない。
漫画のモデルになんか絶対するな。』
だそうだ。
その他にも『浮かれたりするな』やらいろいろと書いてある。

「なんだこりゃ? 秋葉も意味わからない手紙を書くなぁ。」
「あ、あはは、そ、そうですね〜。」
なぜか脂汗を書きながら返事をする晶ちゃん。
なんでだろう? と思ったが、わざわざ聞くのもアレなのでやめておいた。

「あ、それじゃ、私荷物の整理しちゃうから。」
「あ、は、はいっ!! えっと、そっちのクローゼットを使ってください。」
「うん、わかったー。」
そう言うと、晶ちゃんのクローゼットの隣にある、もうひとつのクローゼットに近づいた。
「あぁ、そういえば晶ちゃん。荷物って誰が持ってきたの? 」
恐らくあの運転手さんだと思うんだが、一応聞いてみた。
「え? 私が帰ってきた時にはもうその荷物はありましたから、判らないです。
朝この部屋を出る時にはありませんでしたよ。」
「そっかー、まぁいっか、そんな事。それじゃ、ちょっと部屋散らかしちゃうかもしれないから、ごめんね。」
「あ、いいえ気にしないでください。遠野さんお一人じゃ大変ですから、私も手伝いますよー。」
「え、いや、いいよっ!! 自分のだしっ!! 」
秋葉達が選んだ洋服や下着は余り見られたくないので、そう断ったんだが
「でも遠野さん、下着のしまい方とか、わかります? 」
と言われ、そういえば知らないという事が今判明した。

「…ごめん、晶ちゃん。手伝って貰えるかな? 」
「はいっ!! まかせてくださいっ!! 」
なんだかやる気の晶ちゃん。こっちとしては頼もしい限りだ。

「うわー、遠野さん、こういうのがシュミなんですか? 」
「えっ?あっ!! いやいやっ!! そうじゃないんだけど、秋葉達に選んで貰ったらこういうのが紛れててっ!! 」
私の鞄に入っていた、ピンクの___かなり反対側が見えやすい___下着を手に取り呟いた晶ちゃんの言葉に、私は精一杯の否定をした。

「じゃぁ、最後はこの鞄ですねっ!! 」
「うん、そうだねー。」
荷物の入った鞄も残すところ一つとなり、最後の鞄を私は開けた。

「あ…。」
「あれ?猫ちゃんだー。」
鞄の中にはタオルなどと一緒に、黒猫___つまり、レンが入っていた。

「あぁ〜、レン、こんな所にいたのか〜。今朝探したんだぞー。」
私は胸元へとレンを抱え、頭を撫でた。
「へー、レンちゃんていうんだー。よろしくねー。」
と晶ちゃんが言うと、猫型のレンは晶ちゃんへと目を向け、その眼を鋭くした。
(あ、やばっ!! レンて私の夢の中で晶ちゃんに会ってるんだっ!! )
その時のレンの晶ちゃんに対する態度は決して友好的ではなく、むしろ敵視してた感じだ。

「あっ!! レンっ!! ちょっと、ちょっと落ち着け? な? 」
「えっ? レンちゃんどうかしたんですか? 遠野さん。」
「いや、実はレンはさ…。」
これからレンに対する説明をどうやってしようか考えていた所、レンが突然動き出した。

「わっ!! レンっ!! ここじゃマズイってばっ!! 」
「えっ? なにがですか? ええっ? 」
意味の判っていない晶ちゃんをよそに、レンは私の腕の中で人型になってしまった。

「・・・・・・・・あちゃぁ。」
「えっ・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
レンは人型になると、晶ちゃんを睨んだ。
晶ちゃんは何が起こったのか判らない、という当然の反応をしている。

「えっとね…、この子は私の使い魔のレン。危険はないから安心して、くれると、いいんだけど…。」
どんどんと語尾が細くなっていってしまう私をよそに、私の膝に座っている形のレンは、私の胸へ体重をかけてきた。

「わっ!! こらっ!! レンっ!! ちょ、ちょっと、倒れちゃうからっ!! 」
「・・・・・・・・・・」
晶ちゃんも、私の言葉も無視して、レンは体重をかけてくる。
と、その時。

コンコン
「瀬尾、姉さん、入りますよ。」
最悪のタイミングで秋葉が部屋へやってきた。

「うわっ!! ちょっ!! まっ!! 」
後ろへ倒れこみそうな私は、手近にいた晶ちゃんの肩を掴んでしまった。
「えっ!! わぁぁっ!! 」
急に肩を捕まれ、私の体重がかけられた晶ちゃんは、当然倒れそうになる。
「ちょっと、姉さん、瀬尾、入りますから。」
「わーっ!! 」
「あぁっ!! 」
「・・・・・・」

バッターンッ!!
という音が聞こえそうなほど勢いよく三人で倒れるのと
ガチャ
という扉の開く音はほぼ同時だった。

「ちょっと姉さん、瀬尾、一体なにを…。」
しているんですか…、と言おうとしたであろうその顔は、一瞬にして驚きを表現した。

そこには、
あお向けに倒れている私と
私の上で胸に頬擦りをしているレン(人型)と
半身私にうつ伏せに覆い被さっている晶ちゃんが映っていたんだろう。


「な、な、な、な、な…。」
肩をいからせプルプルと震える秋葉。
「・・・・・・・・・・・」
本当に嬉しそうに頬擦りしているレン。
「こ、こらっ!! レ、レンっ!! やめなさいっ!! 」

「いたたっ、あ、すいません遠野さんっ!! 」
起き上がろうとした晶ちゃんは、手に軽く力を入れた。

「あぁっ!! あ、晶ちゃん、そこ、胸。」
「えぇっ!!! ご、ごめんなさいっ!! 」
「うぁっ わ、わかったから、も、揉まないでっ」
「あぁっ!! す、すいませんっ!! すいませんっ!! 」
「い、いやっ!! わかった、わかったから、晶ちゃん、落ち着いて起き上がってっ!!! 」
「あぁっ、はいっ! わ、わかってますっ!! 」
「いやっ!! だ、だからっ!! て、手に力いれな、んぁっ!! 」
「あぁぁっ、す、すいません、すいません、本当ごめんなさいっ!! 」

「な、なにをやってるんですか貴女がたはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」

その瞬間、私は本当の鬼を見た。