「お、おい、あんた…、遠野の…。」
「うん、蒼香ちゃん久しぶり。」
それが私と今後クラスメイトとなる彼女達とのファースト・コンタクトだった。


「えー?蒼香ちゃん、会ったことあるのー?」
「アホ、羽居、こいつは遠野の…。」
「蒼香、それは今から説明するからちょっと待って。」
早くも私の正体がバレるが、計算済みという口調で秋葉は蒼香ちゃんに答えた。

「それじゃ、琥珀、よろしく。」
「はい、秋葉さん。」
遠野家使用人だが、使用人ではないという事になっているので、琥珀さんは『さま』ではなく『さん』と口調を変えた。

今は昼食時間、俺や秋葉四人と蒼香ちゃん、羽居ちゃんを合わせた6人で、浅上女学院での昼食の場、簡単に言うと学食『のような場所』へ来ていた。
私達6人は同じテーブルを囲み、これからトンデモナイ暴露話をする事になる。

「実はですね…。」
声を潜め、秘め事を告げるような琥珀さんの口調に
ゴク
と蒼香ちゃんの喉がなる。
一方羽居ちゃんは「わー、これおいしー。」と嬌声を上げながら昼食を取っていた。
「実わですね…、私の作った秘密のお薬の実験に、志貴さんがご協力下さいまして、そのお薬の効果が今の志貴さん、
という事なんですよ。」
…、凄いでっちあげなんだが。
だがそんな意味不明な説明を受けた蒼香ちゃんは
「あんた、使用人の琥珀さんだろ。…その後始末、というか責任を取るために一緒に転校してきた訳か…。」
と、微妙に納得している。
「あははー、そういう事ですよ。」
納得された琥珀さんは、かなり引きつった笑みを湛えていた。
「あー、そっかー。志貴ちゃんは秋葉ちゃんのおに…。」
どこから話を聞いていたのか、羽居ちゃんは「わかったぞー。」という勢いで突然大声で喋りだした。
「羽居、このクッキー差し上げるわ。琥珀の手作りよ。」
「わー、ほんと? ありがとー秋葉ちゃん。」
すかさずそんな爆弾発言をしそうになった同級の友を、賄賂で押さえ込んだ秋葉。
さすがは遠野家当主である。





緊迫した学院での初日を終え、私達は寮へと向かった。
寮までの道程、羽居ちゃんは「秋葉ちゃんのおねーさんて呼べばいいのかなー?」としきりに私に聞いてきた。
「そうね、羽居、私も『姉さん』と呼んでいるし、それでも問題はないんじゃないかしら?」
「うん、そうだねー。じゃぁ『志貴ちゃん』でいいよねー。」
瞬間、この場にいる秋葉含む三人の視線が羽居ちゃんに突き刺さる。
「じゃぁよろしくねー、志貴ちゃん。」
が、そんなことおかまいなしに羽居ちゃんは続ける。
「うん、よろしくね、羽居ちゃん。」
「うーん、羽ピンでいいよー。」
「羽居、『私の』姉さんですから、くれぐれも言動には気を使いなさい。」
「うん、わかってるよー秋葉ちゃん。だから志貴ちゃん、羽ピンでいいよー。」
なんというか、強いんだな、羽居ちゃん…。

寮へ入ると、寮長と呼ばれる女生徒が私達を待っていた。
「お久しぶりね、環。」
「昨日もちゃんと会ったじゃない、遠野さん。」
「えぇ、ほんの冗談よ。」
「相変わらず真顔で冗談か、また寮内が慌しくなるわね。」
「私が寮へ戻っただけで慌しくなるなら、姉さんが入ったら輪をかけて大変な事態になってしまうわよ。」
「そうそう、そのお姉さん、どこにいるの?」
「ちゃんといるわよ、ここに。」
秋葉が斜め後ろで大人しくしている私を指差すと、『環』と呼ばれた子がこちらを見た。

「あ、初めましてお姉さん。私はここの寮長をしている環と申します。よろしくおねがいします。」
ペコリ、と軽く頭を下げる女生徒。
「えっと、初めまして。秋葉の姉の志貴です。よろしくね、えっと、環ちゃん。」
こちらも頭を下げ、笑顔で返事を返した。

「あ、は、はい…。よろしくおねがいします。」
なんとなく赤みがかった顔でまた頭を下げられてしまった。

(兄さん、どうしてそう…。)
(志貴さんは、女性になっても女性キラーなんですねー。)
(志貴さま、本当に愚鈍ですね。)
(ありゃ、環落ちかけてるぞこりゃ…。)
(わー、志貴ちゃん笑顔かわいいなー。)

なんとなく視線を感じた。…勘違いだな、うん。


自分達の部屋へ向かう途中、環ちゃんと秋葉から寮内の原則を教えて貰った。
元々全寮制のこの学校では、家から通っている人はほとんど居らず、集団生活をする上での規則がきちんと整っていた。
まず門限の時間厳守。
部活動をしていない者は夕方5時、している者でも6時には帰ってこないといけないらしい。
6時半になると、寮生全員で一斉に食堂へ向かい、夕食を取る。
その際、私語は厳禁らしい。
慎ましく夕食が終わると、学年ごとに浴場が解放され、他学年の先輩後輩の交流の場、交友室が解放されるらしい。
私物のお菓子やお茶は持ち込み禁止。
交友室が空いてから三時間後、夜の10時までは自由時間で、その後はすぐに就寝のようだ。
最も、あくまでそれは『きまり』であり、慣れてくると寮を抜け出し、コンビニで買い物をして自分達の部屋でお茶をしたりなどしているらしい。
それと寮内にはグループというか、派閥があるらしいが、蒼香ちゃん曰く、私達には全く関係の無い話だそうだ。

「あと、寮には中等部の生徒も一緒に生活しているので、騒がしいかもしれませんが、そこらへんはまぁ慣れです。」
「はぁ、そういうもんなんだ…。」
一通りの説明を終え、秋葉たちルームメイト三人は
「それでは三人とも、夕食の時にお会いしましょう。」
「じゃ、三人ともまたな。」
「じゃーねー。」
と言い残し、自分達の部屋へと入っていった。

「それでは、翡翠さんと琥珀さんはこちらです。」
環さんがそう言いながら部屋を開ける。
ここは翡翠さんと琥珀さんの二人部屋のようだ。
「それでは、志貴さんまた後ほど。」
「志貴さん、それでは。」
「うん、また夕食の時にね。」
そう言い、私は二人と別れ、引き続き環ちゃんに部屋へと案内して貰った。

「あぁ、そうそう遠野さん。」
環ちゃんはそう言うと、二通の茶封筒を取り出した。
「ん?なんですか? これ。」
「えぇ、遠野さんから預かっていたものなんですよ。『姉さんを部屋へ案内する時に姉さんへ渡してください。』って言われてて。」
「あぁ、そうなんだ。ありがとう。なんだろ? 用だったらさっき言えばいいのに。」
「ふふっ、きっと二人だけで秘密にしたい事が書いてあるんですよ。」
二つの茶封筒を見ると、『姉さんへ』『ルームメイトへ』と書かれていた。
早速私は『姉さんへ』と書いてある封筒を開け、中に入っていた手紙を読む。

『姉さんへ。
姉さんの部屋には私の信頼の置いている、可愛い後輩と相部屋とあっています。
少し騒がしいかも知れませんが姉さんほど「愚鈍」な方でしたら大丈夫かと思います。
ありえないとは思いますが、もし、万が一間違いが起こった場合は、それ相応の処分をさせて頂きますので、ご了承下さい。』

…、妹よ、こんな手紙読まされたら怖くて寝れないよ、お姉ちゃん。
「でも、『可愛い後輩』って事は、中等部だよな…。」
まさかな…、とは思いつつ、彼女の事を考えていると
「はい、着きましたよ遠野さん。」
「あ、どうもありがとうございます。後、私の事は『志貴』でいいですよ。」
「あ、はい、わ、わかりました。…えと、志貴さん。」
「はい、案内ありがとうございました。それじゃぁまた、夕食の時に。」
「あ、はい、それではまた夕食の時に。」
そう挨拶を交わし、環ちゃんは自分の部屋へと帰っていった。

「ルームメイトか…。緊張するなぁ…。」

少し緊張した面持ちで、自分の部屋への入口となるドアをノックする。
すると中から「は〜い」という返事が返ってきた。
少し聞き覚えのある声に一抹の疑問を抱きつつ、私は返事を返した。

「あ、えっと、今日から相部屋をさせて頂く者なんですけどー。」
「あ、は〜い。鍵は開いてますからどうぞ〜。」
と、やはり聞き覚えのある声で中の生徒が返事をした。
(まさかな…、ありえないだろう。)
と思いながら「それじゃ、失礼しま〜す。」
と、扉を開け、部屋へと入る。

「あ、はじめまして〜。私は中等部二年生の…。」
「あ…、晶、ちゃ、ん…? 」
「へ? …お知り会いでした、え…。」
お互いの顔を見ながら、呆然と立ち尽くす。

先に口火を切ったのは晶ちゃんのほうだった。
「え、あの…。本当に失礼なんですけど、私の知り合いの先輩に雰囲気とかそっくりで…、あの、
その人は男性の方なんですけど、あ、でも先輩が男性みたいだとかそういう意味ではなくてですね…。」
「あ、…うん。」
「えと…、お名前を…、教えて頂けますか…?」
「あ、えと…、し、きだよ。」
「え…、あの…。」
「志貴、遠野志貴だよ、晶ちゃん…。」
「へ・・・・・・・・・・・・・」
「うん・・・・・・・・・・・・」
「えと、と、遠野、さん…?」
「う、うん…。俺、女の子になっちゃってさ…。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「えと、晶ちゃん…? 」
「え、え、え、え、え、え、」
「もしもし? 晶ちゃん? 」
「ええええええええええええええええええっ!!!!! 」
「わーっ!! 声でかい、声でかいっ!! 」
「んーっ!!! んんーっ!! 」

晶ちゃんの余りの声の大きさに、思わず口を塞いでしまった。