「・・・・・さ・・・・・き・・・・ま・・・」 「に・・・・・て・・・・」 「・・き・・・・・だ・・・」 _______もうちょっと、だけ… 「・・・きさ・・・じか・・・す」 「・・・さん・・・・きて・・・」 「し・・・さん・・・きて・・・」 _______ほんとに、もうちょっとだから… 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「あはー、どっちのお注射がいいですかー?」 「どっちも嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! 」 布団を蹴り上げ、飛び起き、壁にへばりついた。 「おはようございます、志貴さま。」 「おはようございます、姉さん。」 「あらー、起きちゃいましたかー、志貴さん。残念ですねー。」 「…おはよう、三人とも。」 …酷く目覚めの悪い朝だった。 「もう、昨日あれだけ早めに起きてくださいと言ったのに…。」 「ごめんごめん。俺って寝ちゃうとさ…。」 「姉さん、『俺』は禁止したはずです。」 「…いや、でもさ、まだ屋敷なんだし…。」 「ダメです。姉さんは気を抜くとすぐにボロを出すんですから、前もって心構えをキチンとしとかないといけません。 大体、いつもいつも姉さんは…。」 朝から寝坊という怒られてしかるべき行動をした俺…、私は、やはり朝から不機嫌な秋葉に絞られていた。 「秋葉さま、準備が整いました。」 いつの間にか居間に来ていた翡翠と琥珀さんが秋葉のお説教から俺を解放する一言を発した。 「そう、判りました。でも…、琥珀、ソレはなに? 」 「え?なにかマズイですか? 秋葉さま。」 「えぇ、不味いでしょうね、ソレは。」 秋葉の言葉が気になって琥珀さんが持っている荷物に目を向けた。 「…琥珀さん、そのビデオカメラや怪しい機械類は一体…。」 「いえいえ、こえは全然怪しくなんかないんですよー。 私が常に持ち歩いて、志貴さんの寝顔を取ったり、志貴さんの部屋に仕掛けて声を聞いたりとか、そういう用途に使うものではないです。」 …凄く不安。 というか、あの部屋にはこういったモノが仕掛けられていたのか…。 「置いていきなさい、琥珀。」 「置いていってください、姉さん。」 えー、とは言うものの、二人の言葉と突き刺すような視線に身の危険を感じたのか、琥珀さんはしぶしぶと荷物を自分の部屋へと戻していった。 今日から俺達四人は、浅上女学院の寮で暮らす事になる。 勿論、学校も浅上女学院。秋葉の通う例のお嬢様学校だ。 元いた学校には、この体じゃ通えないし…。 秋葉の荷物は元々学院寮に住んでいたので少ないのだろうが、それでもボストンバック2つ。 翡翠は必要なものだけ、というコンセプトなのだろうか、旅行カバン一つ。 私は昨日買ってきた私服や下着などを「全て持っていけばいいんですっ!! 」という秋葉の強い口調に押されて 全て積め、ボストンバックに4つ。 そして琥珀さんは、先ほど戻した怪しげな荷物を除いてボストンバックに3つ。 制服はみんな既に着ているし、靴も学校指定の革靴。 みんなそんな身なりで、いつもより(かなり)大きい車に乗り込むと、車は静かに発進した。 「これで、当分はこの街ともお別れかぁ…。」 なんとなく感傷に浸っていると 「あら、ちゃんと長期休校の時には戻ってきますから、そんな感慨に耽る事はありませんよ。」 と、横から秋葉が茶々を入れてきた。 「まぁ、そうなんだけどな…。結局みんなに何も言わずにこの街を離れちゃったし。」 転校が決まったのが昨日だったから、みんなに街を離れるなど言う暇もなく、今に至る訳で。 こりゃ、みんなにバレたら怖いだろうなー、という思いも含まれている。 そんな事を言うと秋葉は 「ふんっ!! 元々あの方々のせいで転校する事になったんですっ!! 自業自得ですよっ!! 」 と声を荒上げた。 その時はみんな、後ろからの追跡者二名にも気付くわけもなかった…。 (ふふふ、逃がさないわよー…。) (みんなどこいくのかな〜? どこいくのかな〜? ) 県境を越え、その時時刻は午前8時を少し過ぎた頃、二時間かけて目的地の学校へと車は着いた。 「ふぅ、片道2時間かぁ、よく通ってたなぁ秋葉。」 「当然です。私は兄さんのように遅刻癖などありませんから。決められた時間にはちゃんと起きれるんです。」 「秋葉、禁止語句の『兄さん』が出てるぞ。」 「ぅ…、申し訳ありません、姉さん。」 「うんうん、自分で決めた事はきちんと守らないとな。」 「志貴さん、あまり言いますと後が怖いですよー。」 「ちょっと、琥珀っ!! おれはどういう意味よっ!! 」 「ほらー、ね? 怖いでしょー。」 「っ!! 琥珀っ!! 」 「秋葉さま、髪が赤くなってきてます。」 「あ、う、…気をつけるわ翡翠。」 「朝から元気だなぁみんな。お、私はまだ眠いよ…。」 「寝ぼけた事を言わないで下さい。姉さん、寮の規律はきちんと守って頂きますからね。」 「うぅ…、努力します。」 「努力は必要ありません。結果を見せていただければ結構です。」 そんなやりとりをしながら、私達四人は学校へと入っていった。 「では、教室へと案内いたします。」 私の担任と紹介された教師は、つい、と俺の前へ来て編入先の教室まで先導してくれた。 秋葉は事務室までの案内をすると、自分の教室へと向かった。 私の前には教師、翡翠、琥珀さん…。 (すっげぇ嫌な予感するんだけど、気のせいかな…。) この時点で先行き不安である。 「では、転入生を紹介します。お入りください。」 生徒にもなぜか敬語の担任の教師は、そう俺達を簡単に紹介し、教室へ招き入れた。 入る順番はやはり、翡翠、琥珀さん、私。 (予感的中ですか…。) 教室へと二人はしずしずと入り、最後に入った私の目に映ったのは、衝撃的な事実だった。 (あぁ…、謀られた…。) 私を教室で迎えていたのは、秋葉の妖艶な微笑だった。 (翡翠や琥珀さんが一緒だという時点で、気づくべきだったな…。) チラリと横にいる琥珀さんを見ると、ニヤッ、と怪しげな笑みを称えていた。 翡翠、琥珀さんが自己紹介を一通り済ますと、続いて私の順番になった。 「えっと、遠野志貴です。よろしくお願いします。」 お辞儀をし、頭を上げてまず目に入ったのが、秋葉の嬉しいのか何か企んでるのかわからない笑み。 次に映ったのが秋葉の隣の席にいる、前に屋敷に来た事がある羽居さんの『あれー?』という表情。 秋葉の前の席にいる、同じく前に屋敷で会った蒼香ちゃんの、私を見て離さない驚愕を湛えた表情だった。 私達の席は三人揃って廊下側、一列目の前から3、4、5席だった。 3席目は翡翠。4席目は琥珀さん。最後尾の5席目が私。 その私の隣、廊下側二列目の5席目は 「どうぞよろしくおねがいしますね、姉さん。」 可愛い可愛い我が妹、秋葉さんだった。 こうして『志貴包囲網』は完成したのである。