「あー、志貴さんこれなんかお似合いですよー。」 「ちょっと琥珀、そんなフリフリのスカートは似合わないわ。姉さんにはこれぐらいのほうが丁度いいです。」 「あらー、秋葉さまはそういうのが好みですかー。じゃぁこれなんてどうでしょうかー?」 「姉さん、志貴さまにはこれが…。」 「…なんでもいいから人で遊ばないでくれ。」 下着を一通り買い揃え、俺達が次に訪れたのは同じ階にある服飾専門店。 どうやら今流行のブランドが軒を連ねるコーナーの一角で、俺は着せ替え人形にされていた。 「…おい、秋葉。」 「はい? なんでしょうか姉さん。あ、次はこれを着てみてくださいね。」 全然悪びれる事無く、秋葉は俺に洋服を差し出した。 「お前…なんでスーツなんか着せようとするんだよ。」 「あら、いいじゃないですか? いつかは必要なんですし。」 「あのな、『いつか』の話なんかいいから、今着るもんだけ持ってこい。」 「そうですか…? しょうがありませんね、スーツは結構です。」 しぶしぶ引く秋葉。 「あ、志貴さんこれなんかどうでしょうかー?」 すかさず琥珀さんが服を差し出してくる。 「え、まぁ、わかりました…。ちょっとまっててください。」 「はいー、お待ちしますー。」 そうして琥珀さんに渡された服を手に、再び試着室の扉を閉めた。 「・・・・・・・どうでしょうか。」 「・・・・・・・・・・か、かわいいです。」 「・・・・・・・・・・かわいい。」 「・・・・・・・・・・いいです。」 いや、そんなに言われると恥かしいんですけど。 その後、靴や小物__髪留めやリボンなど__を一通り買い揃え、俺達は家路に着く事になった。 「おー、レンただいまぁ。」 「レンちゃんただいまー。大人しくしてましたかー? 」 「レンさま、クッキーがお洋服にこぼれています。」 きた時と同じ座席に座り、車の中で待ちかねていたレン(人型)を膝に乗せ、俺達の車は家に向かう。 ちなみにレンの食べているクッキーは、運転手さんからのプレゼントのようだ。 (…七不思議がまた増えたな。) 「琥珀、今は何時頃かしら? 」 「そうですねー、あ、もうそろそろ7時ですねー。」 「そう。それじゃぁ荷物のほうはもうそろそろ着く頃ね。」 「そういえばそうでしたねー。」 「…なぁ、荷物ってなに? 秋葉。」 「ふふ、志貴さんへの秋葉さまからのプレゼントですよー。」 「そうです。私からのプレゼント。兄さんには嫌でも受け取って頂きますからね、ふふ…。」 ・・・・・・・・・・今度は二人して隠し事か。 「翡翠は? そのプレゼントがなにか知ってる?」 「お答えできません。」 翡翠に聞いてみたが、即答で返されてしまった。 「え、う、そうか…。それは『知ってるけど教えない』ってこと? 」 「お答えできません。」 「あはー、翡翠ちゃんも乗り気ですねー。志貴さんいぢめるのが楽しくなっちゃいましたかー。」 「ね、姉さんっ!! べ、別に私はそういうわけでは…。」 「まぁ、プレゼントなんでしょ? だったら楽しみにしてるよ。」 「はいー、お家までもうすぐですから、楽しみにしててくださいねー。」 前方に遠野家の門が見えた時、丁度横道から業者のような車が出てきた。 「はいー、ご苦労さまでしたー。」 家に着くと琥珀さんは、業者さんから3つのダンボールを受け取り、本当に楽しそうに居間へ向かってくる。 そんな琥珀さんを見ながら、俺は帰宅後の一服を居間でしていた。 「はい、秋葉さま、例のモノですよー。」 「えぇ、ご苦労様琥珀。早速それを兄さんに渡して頂戴。」 「はい、秋葉さま。…志貴さん、秋葉さまからのプレゼントですー。」 そう言われ、ダンボールの中の一つを俺は受け取った。 「あぁ、っと、結構重いな…。ありがとう秋葉、これ、開けていいの? 」 「えぇ、というか念のため今すぐ『使用』して頂きたいんですが。」 「そっか、判った。それじゃ・・・・・・」 「…お気に入りましたか?兄さん。」 クスッという秋葉の笑い声が聞こえる。 「多分、寸法は合っていると思いますから、すぐに着て大丈夫ですよー。」 いたずらするような笑みで、こっちを見つめる琥珀さん。 「・・・・・・・・・・・・」 いつも通り、俺の斜め後ろに無言で立つ翡翠。 「あ、秋葉…、これって、さ…。」 動揺を隠せない俺は、秋葉に目をやり、口をパクパクさせながら聞いた。 「えぇ、兄さんの思っている通りのものですよ。毎日見ているからもう見慣れているでしょう? 」 そう言われ、ふたたびダンボールへ目をやる。 そこには、確かにいつも見慣れた、秋葉の制服___浅上女学院の制服___があった。 「明日から、兄さんには浅上女学院へと転校して頂きます。 もちろん、浅上女学院の寮へと入って頂きますので。それは私も一緒です。」 さらりと、秋葉がとんでもない事をいってきた。 「なっ!! ちょっと待て秋葉っ!! それは一体…。」 「はい、簡単にご説明しますと、今兄さんは『女の子』になってしまいました。 ですから、今のまま、同じ学校へ通うのは到底無理です。 それは今日学校へ行った時、ご自分で判りましたよね? 」 「う…、まぁ、そりゃそうだよな…。」 「ですので、一時的に戸籍を、その、『女の子』へ改竄させて頂きました。 もちろん名前は一緒なので『遠野志貴』という人間はいるんですが、それは今は女性です。 そして、ついで、ですが…、年齢も一年遅らさせて頂きました。」 「一年遅らせたって…、じゃぁ今俺は…。」 「はい、私と同級生、同い年という事になります。」 「…かなりアレだな、そりゃ法律違反だろう。」 「兄さん、今更遠野家に法律なんて問題ではありません。そんな事言っていたら『遠野志貴』という人間が消えてしまいますよ。」 「っ、まぁ、そりゃそうだ。今更だな。」 「えぇ、納得して頂いてありがとうございます。 そして、兄さんの事ですから、転校した先で問題が必ず起きるはずですから、翡翠と琥珀にも協力して頂きます。」 「えっ!! それって…」 「私達も浅上女学園へ転校、という形でいくんですよー。」 「最も、今回は翡翠と琥珀も戸籍をいじらせて貰い、苗字を、兄さんには失礼ですが『七夜』といたしました。」 「あ、これは私からのリクエストなんですよー。志貴さんがお嫌でしたらアレですが…。」 「いや、別にそんな事気にしないけど、大丈夫なのか? それ。」 「えぇ、遠野の親類という事にしておきましたから、問題ありません。それに兄さんの『七夜』は戸籍上はもう存在しませんから、 遠野の親戚の『七夜』としておけば調査などはありません。」 「へぇ…、凄いんだな、遠野は。」 「兄さん…、今更ですよ、そんな事…。」 「まぁ、確かに、な。」 「それで、先ほどの続きなのですが、翡翠と琥珀の正式な年齢な判りませんから、やはり私や兄さんと同い年として、 兄さんの行動に不備がないかをきちんと三人で把握させて頂きます。」 「不備って…たとえば? 」 「同級の方々の前で『俺』などと言ったり、いきなり貧血で倒れたり、などです。」 「まぁ、それは俺の事だから、監視の目があったら極力注意するだろうな、うん。」 「兄さん、そこで自慢気に胸を張らないでくださいっ!!」 「いやぁ、スマン。」 「全く…、これでは先が思い知らされます。 そういう事ですから、明日は朝いつもより早めに起床して、寮に入る準備をしてください。」 「うん、それは判ったんだけどさ…、秋葉、俺の今の学校にはどういう風に申請出したんだ?」 「あら、そちらも問題ありませんよ。遠野が援助している別の高校への転入、という形にしておきましたので。」 「そっか…、まぁそういう事なら判ったよ。」 「それで、志貴さん。」 「ん? 琥珀さんどうしたの?」 「一応制服を着てみて頂けますか? 寸法などは私と翡翠ちゃんで目測したんですが、やはりきちんと測っていないので。」 「あぁそっか。判りました、じゃぁちょっと着替えてきますね。」 そう言い、俺はダンボールから制服を取り出し、風呂場の更衣室へ向かった。 「・・・・・・セーラー服を着るっていうのもなんか変な感じだな。」 「に、兄さん…、お似合いですよ。」 「え、えぇ…、凄く、お似合いです、志貴さん。」 「・・・・・・・・・志貴さま。」 「え、そう? …ありがとう。なんかやっぱ恥かしいな。」 三人の感想を聞き、恥かしくなって俯いてしまう。 (兄さん、とってもかわいい…。) (あぁっ!! 仔猫が、仔猫がこんな所にっ!!! ) (・・・・・志貴ちゃん、かわいい。)