「さ、兄さん、着きましたよ」
「あ、あぁ・・・。ここどこ? 」
「兄さん、寝てらしたんですか? ここは○○百貨店の地下駐車場ですよ。」
「秋葉さま、志貴さんは寝てらっしゃいましたから、無理もないですよ。
まぁ、疲れちゃったんでしょうねー。」
「姉さん。あまり志貴さまで御戯れにならないでください。」
「あはー、翡翠ちゃんだって楽しかったでしょー? 」
「それは・・・・・・」
「・・・・・・・・はぁ」
「・・・・・・・・・・」

俺は寝てしまっていたらしい。
秋葉の言い方だと、ここが目的地のようだが・・・
「なぁ、秋葉」
「はい、なんですか? 兄さん」
「ここで、なにを買うんだ? 」
俺は、素直な疑問をぶつけてみた。




「日常に必要なものを買うんですよ。たとえば『コレ』です。」
秋葉に連れられて来たのは、3階にある下着売り場。
・・・もちろん女性用だ。

「えっと、・・・・やっぱ買わなきゃだめ? 」
「ダメにきまってるじゃないですかっ!! 『姉さん』、下着も着けずに日々を過ごすおつもりなんですか? 」
「いや・・・、まぁ、そうなんだけど・・・さ。」
「あっ、志貴さん志貴さんー。」
秋葉との会話に琥珀さんが嬉しそうに飛び込んできた。

「志貴さん、こんなのはいかがですかー? これー。」
そういって差し出してきたのは、黒いフリルのついた下着だった。

「琥珀さん・・・コレって、『隠れてない』ですよね・・・」
「あらー、こんぐらいなら『隠れてる』ほうですよー。
まだまだ志貴さんも子供ですねー。
翡翠ちゃんだってこのぐらいは持ってますよー。」
「姉さんっ!! 」
恐らく事実であろう琥珀さんの言葉を、翡翠が顔を赤くして遮った。

「いや、でもですね・・・」
「まぁまぁ志貴さま、一度着けてみてはいかがですか? ねぇ秋葉さま」
「・・・そうね。私もこれぐらいでしたら持っていますし、まぁこれ以上のものはありませんが・・・。
それに、一枚一枚ゆっくり選んでいては時間が無くなります。サイズが合ったものはどんどん購入していってください。」
秋葉的には、ここらへんがボーダーラインらしい。
・・・俺にとって大事な部分が透けて見えるようなモノはダメだと思うんだが。

「・・・まぁ、しょうがない、わかったよ。
試着室いってきます・・・。」
「あ、志貴さまお待ちください。」
琥珀さんが手渡した下着をもって試着室へ向かう途中、翡翠が声をかけてきた。

「ん?どうかした? 翡翠。」
「その、志貴さま。・・・女性には『上』を隠すものも必要ですから、そちらも選抜してから試着室へ向かってください。」
「あぁ・・・、そっか、そういやそうだ・・・・。」
女の子には当然、胸がある。
だから胸を隠すブラジャーも買うのが必然だ。
・・・それはそうなんだろうが、やっぱり昨日今日『女の子』になった俺としては下着は余り直視できないもので・・・

「・・・えと、三人で選んどいてくれないかな?俺は先に・・・」
「『姉さん』」
「え・・・なに? 秋葉」
「『俺』ではなく『私』でしょう。
女性が自分を『俺』だなんて言ってはいけません。それも姉さんは遠野家の『長女』なんですから、もう少しお気をつけてください。」
「あぁ、そっか・・・。ごめん、秋葉。」
「あ、いえ・・・別にそこまで謝らなくても結構ですから。
・・・そうですね、下着のほうは私達でお選びしますので、に・・・姉さんは先に試着室へ入っていてください。」
「うん、わかった。よろしく頼むよ、三人とも。」
「はい、かしこまりました。」
「まかせてください志貴さん。」
そういって、俺は試着室へと入っていった。

(・・・やっぱこれ、隠れてないよなぁ。・・・しかもスケて逆にエロい・・・)
下着を試着して、俺が思ったのはこんな事だった。

(まぁでも、サイズは合ってるみたいだし、これ一枚だけじゃないんだから、いいか・・・あっ!! )
そんな事を考えていると、奥からなにか零れてくる感触が・・・
(あ、やばっ、これって、どうしよ・・・)

コンコン
「兄さん、どうですか? 」
「えっ!! あぁ、大丈夫。サイズは丁度いいよ。」
突然の秋葉の登場にびっくりしながら、俺は返事を返した。

「そうですか、判りました。サイズはそのくらいでよろしいんですね。
それでは同じサイズのものをこちらで数点選んでおきます。
・・・なにか、お好みのデザインなどはありますか? 」
「そうだな・・・できるだけ派手じゃない、控えめでお願いします・・・。」
「はい、かしこまりました。それでは『上』のほうをお持ちしましたので、受け取って下さい。
下からお通しします。」
そういうと、扉の下にある隙間から、秋葉の手と『上』がでてきた。

「うん、ありがと。…じゃぁ、ちょっと待ってて。」
「はい、ごゆっくり。」
「あ、秋葉、そういえばさ。」
「はい? なんでしょうか? 」
「あの、これってさ、どうやってつけるんでしょうか…。」
「あぁ、それはフロントホックになっていますから、まず、肩にストラップを通して、それから前で止めるんです。
まぁ、サイズのほうは、姉さんは今私より身長が低いですからその…私と同じサイズにしておきました…。」
「あぁ、そっか…秋葉のサイズか。」
「に、姉さん…余計な事はいいですから、早く試着をなさって下さいっ!! 」
「あ、あぁ、わかったよ…え〜っと、肩に通して…よっと。」
自分の肩にヒモを通して、両方通した所で前を止めた。

(フロントホックか、結構楽だな、これ。…でもなぁ。)
「あの、秋葉。いる? 」
「はい? なんですか?姉さん。」
「あのな…サイズが合わないんだけど…。」
瞬間、扉の向こうの空気が凍った…気がした。

「姉さん…『どちらに』サイズが合わないんでしょうか…。」
いつもの話し方なのに、なぜか威圧感を感じる言葉に冷や汗がつーっ、と流れたのを感じる。
「あの…ちょっと、大きい…かな? 前が少しゆるい感じ? 」
瞬間、扉の前の空気が…暖かくなった気がする。

「あ、あら…そうですか、うふふ、申し訳ありません。それではそれより少し『小さい』ものを取ってきますね。」
声だけ聞いても笑顔だと判る秋葉が、離れていく気配を感じながら
(そういえば、秋葉のサイズがこれだから…)
なんて考えていた。



(ふふ、兄さんは私より小さいんですねぇ…それでこそ私の兄さんです。)