-----------そういえば、もう昼過ぎなのか。 そんな事を思いながら、調理場へ入った。 「じゃぁ、やっちゃいましょうか、志貴さん」 「そうだね、早く食べよう。俺もお腹すいたし。琥珀さんはお腹すいてない?」 「いやー、私も実はお腹すきすきなんですよー。だからちゃっちゃと作ってちゃっちゃと食べちゃいましょうー。」 作業が始まると、俺は炒めたり味付け担当。 琥珀さんは包丁と麺の湯で加減担当になった。 作業のほうは順調で、ほぼ全ての工程は終了。 残るは盛り付けや飾り野菜だけとなった。 ただ『斬る』だけなら俺の独壇場だけど、飾り野菜のような細かい作業はとことん苦手だ。 現にさっき琥珀さんの薦めで茹でたにんじんを桜型に切る飾りにチャレンジしたが、 とてもじゃないが見せられない、桜じゃないにんじんが誕生してしまった。 だから琥珀さんに全てお願いした。 別に楽しているわけじゃない。 人には向き、不向きってもんがあるもんだ。 「いたっ」 そんな自己弁護を頭の中で繰り広げていると、琥珀さんから声があがった。 「どうしました?琥珀さん。」 「あ、いえー、ちょっと切っちゃっただけですよー。」 なんでもないですよー、という風に指を振る琥珀さん。 でも、指からはしっかりと血がでている。 「ダメですよ、痛いでしょう。」 「いえいえー、こんぐらいなら日常茶飯事ですからー。」 まだ、へっちゃらですよー、と指を振るしぐさをする。 でも、血が止まっている訳ではない。 「ダメです。見せてください。」 「あ、志貴さん・・・」 とりあえず傷の深さを確認する為に、琥珀さんの指を取る。 「あ、結構深いかも・・・痛いでしょ?琥珀さん」 「あ、はい・・・実は痛いです。」 「ダメだよ・・・ちゃんと消毒しなきゃ・・・」 「いえ、大丈夫ですから・・・」 俺の手から指を離そうとする琥珀さん。 でも、まだ血は流れてる・・・ 「ダメだよ・・・消毒しなきゃ。」 「あ、志貴さ・・・」 琥珀さんが何か言い終わる前に、俺は琥珀さんの血を指に加えた。 「あ・・・志貴さん・・・」 ボソッと呟く琥珀さんの声を聞きながら、(琥珀さんの指、細い・・・血が甘いな・・・翡翠と同じだ・・・)なんて考えていた。 「そういえば、こんな事前にありましたね・・・。前は私が翡翠ちゃんで・・・」 お互い、考えている事が一緒だったらしく、俺は話を聞きながら目で頷き、傷を優しく舐めた。 「あっ・・・それで、こうやっている時に私が・・・」 「姉さん。」 琥珀さんが言い終わる前に、後ろから翡翠の声が挙がった。 「あっ、翡翠ちゃん、えっと、これはですねー・・・」 「あ、えっと、琥珀さんが指切っちゃって、それで・・・」 「はい、わかりました。では食堂のほうで待っていますので、お急ぎ下さい。」 俺達が慌てて言い淀んでいる間に、翡翠はスタスタと食堂のほうへ歩いていった。 「・・・・・プッ、アハハハ」 「あはっ、前の翡翠ちゃんと同じですね、私も。」 「そりゃそうだよ、だって双子なんだからね。」 「えぇ、そうでした。私も改めて判りましたよー。あははっ」 お互いに笑いながら、食堂への準備を進めていく。 その時にはもう琥珀さんの血は止まっていた。 「じゃぁ、これを食堂へ持っていきましょうか、志貴さま。」 「そうだね、俺もお腹減ったし、みんなお腹減ってるだろうしね。」 私もぺこぺこですよー、と言いながら食器の載ったトレーを食堂へ運んでいく琥珀さん。 俺もその後ろへ、ラーメンの載ったトレーを持ってついていく。 食堂へ入ると、三人が「やったー、ご飯がきたー」といった目で俺達を出迎えていた。 「「「「いただきまーす」」」」」 今日は翡翠や琥珀さんも一緒にテーブルを囲みラーメンを食べる。 時刻はかなり遅い昼食となる、2時過ぎだった。 「どうかな、今日は琥珀さんも手伝ってくれたからこの間のよりは手をかけられたし、味付けもいい感じだと思うけど。」 俺を含む弓塚さん、アルク、琥珀さんの4人の味付けはあっさり系の醤油ラーメンにちょっととんこつスープを加えたもの。 翡翠のはオーダー通りとんこつメインのとんこつ醤油、保存庫に入っていた豚の背脂付きだ。 ちなみのその背脂は前にレンが食べた時のラーメンの名残である。 でもそれは誰にも言わない。 琥珀さんは「私は毎日ここに立ってますから、わかりますよー」と言い、秘密にしていてくれた。 アルクェイドと弓塚さんは「うん、おいしい、やっぱり。」と言いながら嬉しそうに食べている。 あんな風に喜んでくれるなら、いつでも作ってあげたくなる気分だ。 琥珀さんと俺も「自分で作っておいておいしい。」という感想を残した。 一方の翡翠は。 「・・・・・・・」 スープをゆっくり啜る 「・・・・・・・・ッ!!」 なにかキたのか、目を見開いてもう一度スープを啜る。 「・・・・・・(コクコク)」 よくわからないが、納得したようだ。 続いて、麺に箸を伸ばす。 「・・・・・・・・」 麺に細切りにしたネギをからませ、ゆっくりと口へ近づける。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!!!!」 1/3ほど挟んだ麺を咀嚼した所で、今度は目が輝いた。 「ズルズルズルズルズル」 目を輝かせたまま、無言でラーメンを食べる翡翠 「ズルズルズルズルズルズル・・・」 勢いに乗ってどんどん食べる。 「ズルズルズルズルズルズル・・・・」 まだまだ食べる・・・・ 「ズルズルズルズルズル・・・・」 「ひ、翡翠ちゃん?呼吸はちゃんとしてる?」 心配になった琥珀さんが声をかけると、箸で挟んでいた麺を一気に啜り、無言で 「・・・・(コクッ)」 と頷き、またラーメンを味わいだした。 「・・・・凄いですね、翡翠さん。」 「翡翠ちゃんはラーメンになるといつもこうなんですよ。ラーメン好きと言うよりは、ラーメン狂なんです。」 「ふーん、シエルみたいだねー、翡翠って。」 (・・・・あぁ、思い出しちゃった・・・・) 某カレーショップへ連れて行った時の、あのカレー教、もといカレー狂な先輩の姿を。 (翡翠とは、ラーメン屋さんへはいけないな・・・) あの時の二の鉄を踏むまいと、今、心に誓った。 「おいしかったよ志貴ー。また作ってねー。」 「うん、おいしかったよ〜。志貴くんと琥珀さん、御馳走様でした〜。」 「いえいえー、おそまつさまでしたー。」 「うん、喜んでくれて良かった。また機会があったら作るよ。」 「うん、よろしくねー。」 みんなで御馳走様の挨拶をして、またお茶をしに居間へ向かう。 (あれ、そういえば翡翠は・・・) 「志貴さま。」 「うわぁっ!!びっくりしたぁ。いきなり後ろは反則だって、翡翠」 「あ・・・申し訳ありません」 頬を赤くして一歩下がる翡翠 「まぁ、別にいいよ。それより、どうかした?」 「はい。ラーメンのほう、大変おいしかったです。」 「そっか、翡翠に喜んでもらってよかったよ。これで今回のラーメンの目標は達成だな。」 「目標・・・ですか?」 「そう、珍しく我が儘を言った翡翠を喜ばそう、っていうのが目標だったんだ。 それがクリアできたから、俺も嬉しいよ。」 「あっ・・・はい、有難う御座いました。」 また顔を赤くしながらお辞儀をする翡翠。 「うん、また作るから、楽しみにしててね。」 「はい・・・それは是非。」 本当に嬉しそうに微笑む翡翠を見て、(あぁ、よかったなぁラーメン作って)と感慨にふける俺だった。