「それで、カレー先輩。どうしてこうなったかは判りましたから、兄さんを元に戻す方法は?」 「そんなの判りませんよ。」 「はぁっ!?・・・・」 立ち直った俺と秋葉を待ち受けたのは、またシエル先輩から発せられたカウンターパンチだった。 「え、ちょ、ちょっとシエルさん、あんだけ説明しておいて、判っていないんですか?」 さすがに驚いている琥珀さん、いつもの笑顔はどこへやら、目を見開いてシエル先輩へ問いただす。 「えぇ、一応『憶測』ですが、恐らくこういうことだろうな〜、という事は説明させて頂きましたが、 明確な答えは出ていませんし、答えが判らないのであればどうする事もできないでしょう。」 ちょっと胸を張りながら、なぜか自慢気に答えるシエル先輩。 ・・・・やっぱどっかズレてる。 「こ・・・この役立たずっ!!そんなんだったらあんな説明聞いてないわよっ!!!!」 我が妹君はご立腹です。 「いや、説明しろって言ったじゃないですか。だからきちんと『説明』させて頂いただけですよ。 答えが判ったとは一言もいってませんよ?私」 「いや、まぁ、そうなんですけどね・・・・」 きっぱりとした先輩の言い分に、俺はそうとしか答えられなかった。 前では秋葉がなにやらぶつぶつ文句を言っている。 まぁ、先輩はそんなの気にしないだろうけど・・・。 「あ、それじゃぁ、とりあえずお茶をお出ししますね。」 そう言って琥珀さんは翡翠を連れて食堂へ掛けていった。 「それで、一応今日にでも私はバチカンへ戻って資料を探してきますね。」 シエル先輩はその一言へ 「まぁ、多分こんな事例は無いでしょうから、期待しないでくださいね。」 と、爽やかな笑顔で付け加えた。 「はぁ・・・・どうなるんだろ、俺。」 「とりあえず、女の子として生活するんじゃないのー?」 「アルクェイド、おまえはどこまでも気楽だなぁ。」 「そう?私これでもきちんと考えてるよ?たとえば『今日は志貴学校どうするのかなー?このまま遊べるのかなー?』とか。」 ・・・・・・・・・・・・・ 「っ!!!やばいっ!!学校があったんだっ!!」 「えっ?ちょっと、遠野君っ!!」 「先輩っ!!早くいかないと学校っ!!あぁ、あと秋葉もきちんと学校いけよっ!!」 「えっ?あ、はい・・・そうですね。」 ぶつぶつ言っていた秋葉は空返事しか返せない程放心していた。 「あっ、琥珀さんっ!!翡翠っ!!お茶はいいから、俺と秋葉と先輩は学校いってくるよっ!!」 そう食堂へ言うと「は〜い、かしこまりましたー」という返事とパタパタ近づいてくる足音が聞こえた。 だが、見送りを待っている余裕のある時間帯じゃないので 「はいっじゃぁいってきますっ!!」 と言うと俺はシエル先輩の手を引いて玄関まで駆け出した。 「あっ!!ちょっ、ちょっ、遠野君っ!!」 と、先輩の手を無理やり引いて門まで走り出し 「いってらっしゃい志貴ー、でもシエルと手は繋ぐなーっ!!」 というアルクェイドの怒声を聞きながら俺たちは学校へ向かった。 「はぁ、なんとかこのペースだとギリギリですね。」 「はぁ、は、い、そうですね・・・」 先輩が言う中、門を駆け抜ける。 キーコーンカーンコーン・・・・・ 「やばっ!!もうHRかっ!!」 「はい、もう本当にギリギリですねぇ」 やばい、国籐が教室に入るのが見えた。 もう少し、もう少し・・・・・ 「頑張ってください、遠野君。」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・るか〜」 「・・・・・か〜」 「高田〜いるか〜」 「はい」 「じゃぁ、遠野〜」 「遠野いるか〜〜?」 ガラッ!! 「は、い・・・はいっ!!遠野き、まし、た・・・・っ!!」 息も絶え絶えな口調でそう返事すると、教室中の視線が俺に集まった。 が、次の瞬間・・・・ 「と・・・・とお、の・・・?」 「へ?は、はいそうですけど・・・・」 みんなの目はあり得ないものを見るような目に変わった。 「え・・・・あれ?・・・・あっ!!」 忘れてた・・・・今、女の子なんだ・・・・ 「遠野君・・・どうしたの?それは・・・・」 みんなが目で疑問を投げかける中、弓塚さんがそう声をかけてきた。 「あ、おはよう弓塚さん。えっとこれは・・・」 どもるしかない俺を見て 「仕方がありません。ここはひとつ・・・」 と、シエル先輩が俺の前に出てきた。 そういえば、手を繋いだままここへ連れてきちゃったな。 「みなさんには、忘れてもらいましょう。」 そう先輩が言うと、先輩の暗示が始まった。 「あ、弓塚さん、ちょっと手伝ってくださいね。」 「あ、はい、わかりましたけど・・・・」 そう言われた弓塚さんは、俺に 「後で理由を教えてね〜。」 と笑顔で振り返った。 暗示が一通りかかり、みんなが寝ている時 「さて、じゃぁ私は授業受けますから、遠野君は自宅へ帰ってくださいね。」 「あ、はい・・・わかりました。」 そういうと先輩は自分の教室へ向かった。 「じゃぁ、私も遠野くんについていくねー」 「え、それは・・・まぁ、いいか。」 「うん、じゃぁこれ。」 そう言うと、弓塚さんは鞄からくまのぬいぐるみを一つとりだした。 「へ?なにこれ?」 「私がいつも持ち歩いてる人形。これを私の机に置いといて。」 「いいけど、なんで?」 「えとね、私の魔眼だと、『対象に対して疑問に思わない』とか『対象が自分の中の対象に見える』っていう暗示ぐらいしかできないんだよね〜。」 「あぁ、なるほどねぇ。」 そう言いながら、俺は弓塚さんの席にぬいぐるみを置いた。 「うん、それで大丈夫だね。じゃぁいこ〜」 そう言うと、弓塚さんは嬉しそうに教室を出て行った。 「それで、その体どうしちゃったの?」 坂道の途中、弓塚さんは一番聴きたかったであろう事を聴いてきた。 「ん〜、まぁ、なんか先輩とアルクの魔術のせいでこうなっちゃったみたい。」 俺は文字通り『肩を並べて歩く』弓塚さんに簡単な説明をした。 「ふ〜ん、なんか遠野君も大変だね〜」 「まぁね、あの人たちと関わってからある程度の事は驚かなくなったけど、やっぱコレは驚いた。」 「そうだろうね〜!髪も伸びてるし、なんか、ねぇ・・・」 そういう弓塚さんの頬は、なぜか上気している。 「ん?どうかした?弓塚さん」 「い、いや、えっとね・・・・」 「うん、なに?」 「志貴くんが女の子になって、なんか・・・・」 「なんか、なに?」 笑顔で聴いてみると、さらに弓塚さんの顔は赤くなっていった。 「いやっ!!えっとね、その・・・かわいいな〜、なんてね・・・」 凄く赤い顔でそんな事を言われた。 そんな顔で言われたら 「えっ、あっ、あぁ、ありがとう・・・」 こっちまで赤くなってしまう。 「あ、もう着いちゃったねぇ。」 「うん、弓塚さんと二人で帰ると、いつも何時の間にか家に着いちゃうんだよね〜」 前もそうだったし、と笑顔で弓塚さんに振り向く。 「えっ、あ、その・・・・しいな・・・」 語尾がよく聞き取れなかった 「ん?なに?なんていったの?」 俺が耳を近づけると 「あ、えと、ほらっ、早く入ろうよ〜っ!!」 と弓塚さんにせかされたので、二人で門を潜った。 (嬉しいって言ったの聞こえなかったか〜、ほっとしたような、残念なような・・・) 「あらら、やっぱりお帰りになりましたねー志貴さん」 判っていましたよー、という風に琥珀さんが言ってきた。 「えぇ、まぁしょうがなく、というかなんていうか・・・」 と、どもる俺の横で 「あ、はじめまして、遠野君のクラスメイトの弓塚さつきですっ!! 今日は遠野君に無理いって着いてきちゃいました。」 と、思い切り頭を下げながらはじめましての挨拶をする弓塚さん。 「あらあら、ご丁寧にどうも。私はこちらでお世話になっている琥珀といいます。 どうぞ、よろしくおねがいしますねー。」 と琥珀さんも頭を下げる。 「姉さんと同じくお世話になっている翡翠です。よろしくお願いいたします。」 何時の間にか横にいた翡翠も深々と頭を下げる。 相変わらず、気配が読めない。 「おっ、さっちんじゃん、やっほー」 「あ、アルクェイドさん、お久しぶりです。」 居間でくつろいでいたアルクェイドが弓塚さんに気付くと、手を振ってきた。 「そういえば、秋葉は?」 この屋敷で一番怒らせたら怖い人間の所在を琥珀さんに聞いてみた。 「大丈夫ですよ、秋葉様はちゃんと学校のほうへ向かいました。 よかったですねー、ご学友の方でも女性を連れてきちゃいましたし、危機一髪ってやつですね。」 シャレにならない事をさらりと言う琥珀さんに、俺は乾いた笑いしかできなかった。 「でー、なんでさっちんと帰ってきたの?私としては志貴がこのまま暇なら嬉しいけどさ」 「あ、ご、ごめんなさい、私お邪魔ですよね・・・」 「んー?そういう事じゃなくってさ、なんで学校から帰ってきたのかなーって。」 「あ、そ、そっかぁ、よかった。それはですね、志貴くんが『女の子』だからです。」 「ん?なんで女の子だといけないの?」 「えっとですね、例えば、シエル先輩が明日いきなり男の子になってたら驚きますよね?」 「あー、そっかそうだねー。それはいくら私でも驚くよ。私は昨日変わっちゃった時を見てたからさ、別に驚かなかったけど。 そっか、昨日の事知らなかったら誰だって驚くね。」 「そういう事なんですよ、私驚きましたもん。」 一通りの説明をした後、弓塚さんとアルクェイドが居間で談笑している。 琥珀さんや翡翠も一通り仕事を終え、居間でお茶を飲んでいる。 ちなみに今日のお茶は俺のリクエストで玄米茶、茶菓子はカステラというラインナップだ。 「はぁ、今日起きて一番落ち着いたかも・・・」 「あらー、そういえば志貴さん今日は朝から大変でしたもんねー。」 「・・・・・・・・(ポッ)」 今朝の事を思い出したのか、翡翠の頬が赤くなる。 「そういえば翡翠、今日はなんで扉の前でぽ〜っとしてたの?」 その時の事を思い出し、翡翠に聞いてみると、さらに翡翠の顔が赤くなった。 「あららー、翡翠ちゃん、お姉さんにも言えないのかなー?」 と、笑顔で詰め寄る琥珀さん。 微笑ましいのか、怖いのか、半分半分。 そうすると、とつとつと翡翠が話しだした。 「・・・あの時は、いつものように志貴さまを起こしにお部屋に入ったのですが、 志貴さまのベットの隣にいらっしゃるアルクェイドさまが目に入りまして、 『あぁ、志貴さまはもう起きてらっしゃるのかな』と思って志貴さまのお顔を見たんです。 すると志貴さまはいつものように寝ていたのですが、いつもとは違ったんです。 なんて言いましょうか、『綺麗』とか『可愛い』とか、そういうものではなく、 とにかく『美しい』寝顔でして、その寝顔を眺めていたら、 『起こすのがとても勿体無い』と思ってしまって、気付いたらずっと扉の前で眺めていたんです。 そのうち、ご自分で起きられる時も、白く彫像のようだった頬に赤みがかかって、 『あぁ、お起きになられるんだな』とは思ったのですが、やはりいつもとは違い とても『可愛らしい』表情になり、気付いたらまた扉の前でずっと眺めていたんです・・・。」 ・・・・・・・・ 今回のは前のよりも恥かしかった。 自分の寝顔を『可愛い』とか『美しい』なんて言われたら、俺じゃなくても思わず赤面してしまうはずだ。 一緒に話を聞いていた琥珀さんも頬を染め、伏し目がちに俺をチラチラ見てるし。 談笑してたはずのアルクと弓塚さんも顔を赤くして中庭を見つめている。 今回はダレも助けてはくれない。 ・・・重苦しい雰囲気に俺は耐えかね。 「・・・・琥珀さん、お茶、おかわりください。」 と口火を切った。