「本日、朝食を終えた後で私達は退席してから街へ出たのは判りますよね?」

ビニールシートに四人で座り込み、どこから持ってきたのかサンドイッチの入った重箱を広げて食べるアルクェイドを尻目に、メレムは静かにコーヒー牛乳を飲みながら私に語る。

横では弓塚が「シュールな光景・・・」とか言ってるけどとりあえず無視。

「それで、先日私達は真夜中に活動している死人を排除しながら死人とロアの繋がっているラインから現在のロアの居所を探ろうとしていたんですが……」

「いつまでやってもこれじゃ成果が出ないってメレムが私に忠告してきたの」

「……その方法が、吸血鬼退治に効果的なんじゃないの?」

アルクェイドからの言葉に私が問い掛けると、メレムは一口コーヒー牛乳を飲んでから答えた。

「確かに、従来ではその方法が最も効果的なんですが……。今代のロアは、どうも気配が不安定で、故意かどうかは判りませんがラインの隠匿が完璧なんですよ」

「死人と親とのラインは『魂』、『精神』と魔力で繋がっているの。でも、志貴の話によると、今代のロアの魂も精神も今は不安定な状態みたいだからね」

「その所為で、気配が掴めないんですよ全く。魔力の痕跡には期待はしてませんでしたが、気配の痕跡まで絶たれると、もうその方法ではお手上げです」

「魔力に関しては文字通り、『腐って』も人間の頃は稀代の魔術師だったって事だけどね。それで、手段を変えたって訳」

目の前の二人は阿吽の呼吸で私達に説明をする。

二人って、実は凄く仲が良いんじゃないか。

ともかく、私が気になるのはその変えた手段と学校に漂うロアの気配『のようなもの』の事なんだけど・・・。

「それで、その手段って?」

思わず急かした私に、メレムはまたコーヒー牛乳を飲みながら応じた。

「えぇ。その手段なんですが、簡単に言うと今まではロアの気配を探っていたんですが、それを止めて今度は不安定な気配を探ったという事です」

「……どう違うのか判らないんだけど、とりあえず先に進めて」

私にはどちらもロアの気配だとしか思えないんだけど。

そんな事考えていると、メレムはほんの少し悩んでから答えてくれた。

「それでは。ともかく、私達はロアの気配では無く、不安定な気配を探すために街を散策していたんです。それで、その気配は簡単に見つかりました」

「志貴がこの間ロアと遭ったって言う、繁華街の路地裏でね」

メレムの説明を引き継ぎ、アルクが答える。

「ロアの気配自体は残って無かったんだけど、その不安定な気配は路地裏に強烈な残留思念を残していたわ。余程の事がそこであったのね」

ロアの気配は路地裏に無く、不安定な気配は残留思念を残していた。

「もしかして、その気配って……」

ううん、その気配は、間違いなく、四季。

「で、その残っていた残留思念の気配を読み取って移動してたらここに来たの」

「ここに来た途端、ぷっつりと途切れてしまったようですが」

「そっか……」

手がかりは、この場で止まった訳か。

いや、もしかしたらそうじゃないかもしれない。

この場所、学校こそが最大の手がかりになる。

気配の消えた地点、気配の漂う地点。

ここが、ロアの、四季の終着地点かもしれない。

「……学校の探索を、してみたほうがいいね」

「それはまた、今日の夜にでもしてみようかと思ってますよ」

やっぱりメレムも同じ事を考えていたみたい。

私の言葉に素早く返事を返すと、メレムはコーヒー牛乳を呷って立ち上がった。


「行きましょうか、姫君」

「どこに?」


なんだか颯爽と言い放ったメレムの言葉に、アルクは思いっきりとぼけた返事を返す。

昔のコントのようにズルッと滑ったメレムを見て、私は思わず苦笑してしまった。

「いっ、いいですから来て下さいっ!!」

「も〜、何よ。んじゃ、メレムが煩いから行くね。またね〜志貴っ!」

去り際に少し格好つけようとしていたメレムは勢いを崩され、顔を真っ赤にしてアルクをつれて帰っていってしまった。

「あっ……重箱忘れていっちゃった」

弓塚の膝に、二人の持ってきた重箱がすっかり空になって置かれていた。












「ただいまぁ〜」

「おっ、お邪魔し……、えっと、た、ただいま帰りましたぁ〜」

あの後学校では何事も無く、まぁあったとしても休み時間毎に有彦が何だか知らないけれど近所の精神科医を進めてきたり煩わしいだけで、無事に帰宅。

屋敷に入るときに、お邪魔しますと言いそうになった弓塚をジト目で睨んでから、私は居間へと足を運んだ。

後ろから何だかソワソワして弓塚がついてくる。

どうも、やっぱり慣れないみたいだ。

ま、私も別に慣れている訳ではないのだけれど。

玄関から居間へ向かう途中、進行方向からパタパタと少し慌てたような足音が近づいてきた。

「しっ、志貴さま。お出迎え出来なく、大変申し訳ございません。弓塚様もお帰りなさいませ」

と、向かいから慌てて駆け寄ってきた翡翠ちゃんがやはり慌ててペコペコと頭を下げてきた。

何だかしきりに頭を下げてくる翡翠ちゃん。

逆にこちらのほうが申し訳なくなってきてしまった。

「いっ、いや、気にしなくていいって翡翠ちゃん。ね、ねぇ、弓塚」

「うっ、うんっ! 普通の家ではお出迎えなんてしてくれる人居ないんだし、べ、別に気にしなくても……」

と、二人でわたわたとフォローを入れると

「いえっ! 私はメイドです。主のお見送り、お出迎えはメイドの役目である基本中の基本、これを蔑ろにしてしまうとはメイドにあるまじき行為なんです」

と、やたらと力の入った事を言われてしまった。

そんな事を言われても、ぶっちゃけ困るんですけど。

「ともかく、今後はこのような事の無いよう、細心の注意を払い職務に励まさせて戴きますので、どうか今回の件はお許し下さい」

「ゆ、許すも何も……」

さっきから、気にしてないって言ってるじゃん……なんて事が言える訳も無く。

「う、うん。そ、そうだね、が、頑張ってね、翡翠ちゃん……」

と、冷や汗交じりに返事を返す事しか出来ませんでした、まる。

「それでは、お部屋までお送り致します」

翡翠ちゃんは私の返事を聞くと、素早く佇まいを但し、自然に私と弓塚の手から鞄を奪い取った。

「それでは、お部屋をお連れします」

ペコリとこちらに頭を下げ、両手に私達の鞄を持ち私達の後ろへ下がった翡翠ちゃん。

「……何だろ、今の行動の決定権て、翡翠さんにあるような気がするんだけど」

「言わないで、弓塚」

私達は翡翠ちゃんの視線に背中を押されるように、居間からロビーへと歩き出す。

それにしても、翡翠ちゃん。

食堂で何をしていたのか判らないけれど、そこまで私達を警戒する事はないんじゃないでしょうか……?












「――では、夕食時に再びお迎えに参ります。何かありましたらどうぞ御呼び下さい」

「じゃぁ志貴君、また晩御飯の時にね」

夕食までの数時間、私は夜の為に軽く休む事を翡翠ちゃんに言って部屋へと入る。

扉の前でペコリと頭を下げる翡翠ちゃんと、にこやかに笑顔を向ける弓塚に手を振って、扉を閉めた。

「――――ふぅ〜〜〜〜」

途端、ドッと気が抜け、ベットの上にドサッとダイブする。

どうやら、思った以上に今日は疲れたみたい。

寝転がった途端眠気指数の折れ線グラフが緩やかなカーブを描き、少しずつ上昇中。

けどその前に、制服を脱がないと……。

…………。

「なんかもぉ、めんどくさいやぁ……」

朝からイロイロあったし、やっぱり疲れているんだろう。

気力というのが底から萎えた気がする。

あ〜、制服皺になっちゃうな〜、とか。

今夜は頑張っちゃうぞ〜、とか。

ぐちゃぐちゃな思考のまま色々と考えて。

私はそのまま眠っちゃったのでした。

…………。

………。

……。

…。




「逢いたいなぁ……、四季」